########################## 4-5-2. (ねぇ...智之) (なぁ...由佳) お互い同時に声を出してしまった。 そのシンクロ性は二人の仲の良さの現れだろうか。 「あのね...考え事してたらこんなところ来ちゃった...」 「みたいだな」 幸か不幸か由佳が周囲をよく見ずに歩いてきたルート上には都心にあるような大きな建物がなく、 仮にあったとしても無視出来るほど小さく、そのため、進路を妨害されること無くここまで歩いてこれた。 その分、由佳に踏み潰された箇所は大浜の郊外にまで広がっていた。 はるか上空から見下ろすとおよそ1キロごとに局地的に街が壊滅している箇所が直線上にあった。 そこだけ空爆を受けたかのような惨状が広がっている。 もちろん、それは由佳がここまで歩いてきた時にぺっちゃんこに踏み潰された箇所である。 「あのね、予定大丈夫?」 由佳は心配そうに智之に尋ねた。 些細なこととは言え、自分のミスで予定を狂わせてしまい、智之を困らせたのではないかと心配になってしまった。 「全然、大丈夫。これくらいの予定変更なら全く問題なし」 「よかった」 が、その心配は杞憂だったようだ。 「由佳の踏み潰しが長く見れたからうれしいからな」 「もう...」 「まぁ、ここからは普通にやって来た方向に戻ればいいだけだから。 それで一応軌道修正完了っと」 「そう、よかった...」 そう言うと由佳は少しばかり安堵の表情を浮かべた。 * 智之はすかさず次なるリクエストをしてみた。 「それでさ、今度は靴下も脱いで、裸足で踏み潰して欲しいんだけど...いいかな?」 「何でよ?靴下での踏み潰しが見たかったんじゃないの?」 この由佳の疑問はさっきの智之のリクエストを考慮するともっともだった。 「そ、それはというとだな、『全国裸足踏み潰し愛好者連盟』、略してJBCLFという組織もまたあってだな...」 「よーするに智之が見たいだけなんでしょ。て、言うかさっきと同じネタを繰り返さないの!」 さすがに二度も同じネタを使うと怒られてしまった。 「オレ、どっちも主催してるわけだから...兼職っていうのか?よーするに靴下足も素足もどっちも好きで...」 ジロリ... 「ふ〜ん」 由佳はまるで興味が無さそうにつぶやいた。 また由佳がジト目になっている。 少しばかり由佳の機嫌を損ねてしまった。 あるいは欲望は自分に素直に言えということなのかもしれない。 元々、由佳は隠し事をされるのを嫌がる性質だ。 だから、彼女に嫌われないためにもすべてにおいて正直であることが大事だ。 「そんなに私の素足で踏みつぶして欲しいんだ。」 「うんうん」 「ふ〜ん」 由佳はまたしても素っ気ない反応を見せたが... 「...お願いします」 「ん、よろしい♪」 どうやら人にモノを頼むときは言い方を愛する彼女相手でもきちんとしないといけないようだ。 親しき仲にも礼儀あり。 そもそもの今日の二人の関係設定を振り返ってみれば、何か引っかかる点もあるけれども。 それに由佳の機嫌もなんだかんだ言いつつすぐにもとに戻ったことだし... 智之の願いはちゃんと叶いそうである。 * 「こほん。気を取り直して...裸足になって歩く前に付け加えると履いてた靴下は...」 「はいはい、てきとーに落とせばいいんでしょ?言わなくても分かってるもん」 智之が皆まで言う前に由佳はそれを遮って、答えを言った。 「よくわかってるじゃん♪その反応はうれしいな〜」 「私もバカじゃないから学習能力はあるから、もう覚えたもん。 ヘンタイの智之がして欲しいことくらい、大体は予測がつくし...」 智之が巨大な女の子だけでなく、その持ち物も巨大であれば萌えるということまで、由佳は知っている。 例えば、この場合、自分が履いていた靴下を街の上に落として、押し潰れていく光景... こんなのも智之の好物と聞いている。 直に聞かされて、知ってはいるのだが、理解というにはまだ及んでいなかった。 智之がこういう事を好むのは知っているが、どうして好むのかまでは分からない。 由佳が生来のサイズフェチではないからかなのか。 由佳が女の子で男の欲望を理解できる感情構造でないからなのかは不明だ。 (フェチってこういうものなのかなぁ...) こんな曖昧な認識に基づいての行動だ。 智之の頼みでなければ、まず絶対こんなことはしない。 何せ巨大化していること自体、ケッコー恥ずかしさだってある。 (普段ならこんな行儀の悪いことなんてしないんだけど...) そう言うと由佳はソックスを手に取り、小さく丸めるとそれを下手投げで軽く放り投げた。 緩やかな二つの放物線を描いて、由佳が履いていた靴下は落下していった。 もっともただ普通に落下して行ったわけではなく、智之が期待するに見合った、その大きさ相当の結果をもたらしていた。 * ただ丸めただけの靴下もその大きさが1000倍もあるとなると話は当然、恐ろしいことになる。 由佳の手を離れた巨大な白い布の塊は数秒間、滞空した後、近くの市街地に轟音を立てて落下した。 ズドゴゴーン...ズドゴゴーン... それはまるで隕石が地表に衝突したかのような破壊を生じさせた。 由佳が履いていた靴下によって何百戸もの家屋が一瞬で押し潰された。 元の素材がいくら軽量な布とは言え、巨大さ故の圧倒的な質量は何物にも勝っていた。 そして少しの時間差を置いて、連続して猛烈な衝撃波が周囲を襲った。 この衝撃波によって、直接押し潰された分の何倍にも及ぶ数の建物が吹き飛ばされてしまった。 さらに巨大な靴下は地上に落下した後も慣性の法則により、地上を転がり、行く手にあるものすべてを押し潰していった。 これだけの破壊を引き起こしたのが女の子が履いていた靴下とは誰が想像出来るだろうか。 「こ、これでいいんだよね?」 「うんうん♪」 由佳には未だに智之がどうしてそこまでこんなことで喜ぶのか分からなかったが、 兎にも角にも喜んでくれたみたいなのでよしとする。 (と、智之のためにやってあげてるんだから、喜んでくれたらそれでいいのよ...それで...) 由佳は自分に言い聞かせるようにしていた。 * 「あ、そうだそうだ。大事なことを忘れてた。由佳の今いるところから海って見える?」 「どこ?」 「えーっと、左に90度回ってみて。そっちの方向にあるから」 「え...海?う〜ん...やっぱり見えないよ」 その場で立っているだけでは海まで見えないのか、由佳は背伸びをして少しでも高い視点を求めているみたいだった。 が、それでもまだ見えなかったようで... 「むっ...ねぇ、ジャンプしたら見えるかな...」 「えっ...?」 智之が由佳を見たときにはもうすでに由佳の巨体が空にあった。 となると、取るべき行動は一つ。 より高いところから見ればいい。 そしてまた、あの恐怖が繰り返されるのだ。 大地を大きく揺るがし、破滅をもたらす惨劇... 由佳はほんの少し膝を曲げて、少し力を溜めて、地面を蹴り上げ空に向かってジャンプした。 * 彼女は現実の世界と同じようにジャンプしただけだが、この世界で由佳がジャンプするのは破滅を招く行為だ。 まず飛び上がる際に由佳が地面を蹴る膨大なエネルギーにより、巨大地震と同等、いやそれ以上の衝撃が地上を駆け巡る。 だが、これはこの後に起こる厄災からすれば序の口だった。 上昇から落下までは由佳にしてみると一瞬の出来事であるが、小人からすればその体感時間は何倍にも引き伸ばされる。 超巨大な由佳の肉体が地面を蹴り、空高く浮かび上がり、そして落下してくる瞬間まではっきりと目の当たりにすることになった。 1500メートルにも達する驚異的な大きさを誇る物体がこれだけ大きく動くという事自体が人智を超えたものである 「あっ...見える見える!!」 由佳の体が一番高く上がったところで彼女の視界に遥か遠くで煌めく海が入った。 そして、上空に持ち上がっていた由佳の巨体が再び地上に落下してきたときにはさっきとは比較にならないほどの衝撃が周囲一帯を襲った。 衝撃波は一瞬で通り過ぎたが、そのごくわずかな時間で地上にあった何もかもを無に返す強烈なまでの威力があった。 もちろん当の本人は自分の足元の地上でそのような事態になっているとは、智之に指摘されるまでは気付くこともなかった。 (今の由佳のジャンプが今までのゲームの中で一番、破壊の被害が大きかったような気がする...) 「で、ちゃんと海は見えた?その海の沖合いに空港があるからさ... んで、後は言わなくもいいかな?」 「まぁ、智之が何をして欲しいかはよ〜く分かったけど... その前に智之が私のことを好きな四つ目の理由は?もちろん言ってくれるのよね?」 * 「四つ目か〜、う〜ん何があるかな〜。ところで、今までは何を挙げてきたっけ?」 「何で自分で言っておきながら忘れるのよ...」 「えーっと背がちっちゃくて、きょぬーで、割とMでつんデレで...って、最後のはまだ言ってない!」 「つ、ツンデレ...?」 「いや、由佳はつんデレだよ。オレ的にはそう思うし」 「カタカナと平仮名でどう違うのよ...」 「『つん』の方が『ツン』より柔らかいんだ」 「柔らかいって...」 「由佳の『つん』はツンツンしているけれども、どこか優しさがあってかわいらしいから『つんつん』だと思う」 「好きでつんつんしてるわけじゃないんだけど...」 「んでも、付き合い始めた頃はそんなにつんつんもデレデレもしてなかったよな。 確かに普通は仲が深まるに連れ、デレデレしてくるもんだけど、由佳の場合、つんつんがくっついてきたわけで...」 「だからぁ、それは智之がヘンタイだから...」 「まぁ、つんデレしてきてからの方がかわいいと思うよ。マジで」 「うっ....」 智之がこういう性癖だと告白したのは、当たり前ではあるが、二人が付き合い始めてからである。 このサイズフェチ性癖だけでなく、年頃の男子と同じ性的興味を持っている。 その欲求を叶えようと由佳に頼むと、由佳は恥ずかしがってつんつんするのだ。 ヘンタイという言葉が出たらつんつんしている証拠。 でも、つんつんの後には必ずといっていいほど、デレが付いてくるのだ。 「スイカに塩を振ったら、甘く感じるのと同じで、つんつんの後にデレデレがくると一層、可愛く見えるんだよな」 「とか言う割には、割とデレデレしてる方が多い気がすんだけど。 起承転結に喩えて言うならばデレデレつんデレと『転』だけ、ツンみたいな?」 「....イイじゃない、デレデレしたって...好きなんだし...」 と、こんな感じでデレてくる。 「オレだって、由佳が甘えてくるのは可愛く見えてうれしいぞ」 それに由佳の性格からして... 「それだけ由佳のことが好きという証拠だってば。だから、頼む、最後までオレの理想の巨大娘でいてほしいんだ」 「証拠としてあやしぃ...けど、智之にそんな風にお願いされたら仕方ないわね... やってあげる代わりに、今度の土日は私がしたい普通のデートにしてくれる?」 やはり由佳は押しに弱い。 こちらの頼みごとを断れない性格でいらっしゃる。 引き換え条件を持ち出してきたが、由佳と普通にデートをするくらいは余裕で幸せの範疇に入るからなんてことはない。 (こういう所も含めてかわいいんだよなー、この彼女さんは) 「いつも感謝してます。由佳かわいいよ由佳...」 「うっ...またそーやって私を褒めて話題を逸らすんだから...」 由佳は褒められるのも弱いし、照れたその反応もかわいい。 「褒め言葉は素直に受け取ってくださいな」 「うっ...せっかくやってあげるんだから、よそ見したら許さないから...」 「分かっておりますとも、ばっちりと鑑賞します」 「それとね...痛くないよね?何も履かないでちっちゃなビル、踏み潰しても...」 「その点は大丈夫。元々、この『ゲーム』の中では由佳が痛みを感じないように設定してあるし... 今の由佳なら、たとえナパーム弾を食らおうが核ミサイルを食らおうが、何にも感じないくらいだから」 基本的に巨大化しても由佳は普通の女の子なので、痛いことは絶対に嫌がるだろう。 智之も由佳が痛がる姿なんて見たくなかったし、むしろ小人軍のミサイルを喰らっても平然としている姿の方が見たかった。 そこで「ゲーム」の中では由佳の痛覚をほとんど「切った」ことで、一気に解決することが出来た。 「そういえばそうだったね、今までずっと痛くなかったから忘れてた。 ん、わかった。それじゃ全部脱いで踏み潰してみるね」 由佳は靴下を詰め込んだローファーを手に持ったまま立ち上がり、まだ踏み潰していない地域に足を踏み入れた。 (あっ...足の下でいっぱい潰れちゃった...) 由佳の巨大な足に踏み潰されていく、建物の感触はごくわずかながらも由佳にも感じ取ることが出来た。 少しばかり心配していた痛みは智之が「魔法」を掛けてくれたおかげで、全くない。 柔らかい小さな砂の城を潰していくような感じで、由佳は一歩一歩地上にある建物を素足で踏み潰していった。 建物を一つ一つピンポイントの「点」ではなく、足の裏全体で町の区画ごと「面」で捉えて潰していく。 まさにこのサイズならではの芸当だ。 「もしよろしければその辺を歩いて、全部メチャクチャにして頂ければこちらとしては幸いで...」 「う、うるさいわね...もうこうなったら...こんなとこ、全部踏み潰してやるんだから!!!」 (あっ、半分キレちゃった...しかもまーたつんつんだなー) 由佳は大股でズンズンと再び大浜都心部に向かって勢い良く歩き始めた。 * (本当に簡単に潰れちゃう...) 由佳は足の裏で潰れていく小さな小さな建物の感触は新鮮だった。 今までは、巨大化しても靴を履いていて、直に感じたことがほとんどなかったからだ。 足元に広がる小さな街並みの中で、人々が大パニックになって逃げ惑っていること。 そこを由佳が見境なく近くにあった建物などと一緒に踏み潰していっていること。 少し考えを巡らせれば、気付いたかも知れなかったが、彼女がその事態に気付くことはなかった。 建物を踏み潰していってる感触はあっても、アリよりも小さな小人を踏み潰している感触は1000倍の由佳には感じられなかった。 こうして、またしても智之に誘導される形で、由佳は海岸の方へと向かっていた。 * 結果的に、1000倍の由佳があっちこっち大浜周辺地域も歩き回ったせいで、 何とか今まで踏み潰されずに残っていた地区も最後には由佳の魔の手... いや足から逃れることは出来ずに他の部分と同じようにぺちゃんこに押し潰されてしまった。 しかも特に都心の中でも一際、目立つような大きな高層ビルのような建物は集中的にピンポイントで狙われて、もうすでに一つも残っていない。 高層ビルを潰すにしても、ただ普通に上から踏み潰すだけではなく、足の裏を垂直気味にしてビルを押し倒すような感じで壊したり、 なぎ払うようにいくつものビルをまとめて吹き飛ばしたりと智之の期待にこたえるかのごとく、由佳の破壊の仕方のバリエーションが増えていた。 そして由佳が歩く度に、足の裏に引っ付いていた圧縮された大量の瓦礫が雨のようにバラバラと地上へ降り注ぐ。 破壊によって生じた火災の黒煙と空に舞上げられた粉塵が、空を灰色に染め上げていた。 この世界の創造主から直々に「破壊の女神」と称された彼女は、その名に相応しい破壊を地上にもたらしていた。 <つづく>