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8.


 そもそも川山市と大浜とを結ぶ主要な交通網は3つあった。
海側から国道、JR浜川線、そして一番山側を通っているのが高速道路であった。
しかしながら、国道と鉄道は巨大娘によって完膚なきまでに破壊されてしまい、流れが完全に遮断されてしまっている。
そして現在まで交通網としての機能が生き残っているのが、この浜川高速道だ。
地元の有力な国会議員の力添えもあって、15年ほど前に川山市まで開通し、今では川山の先の街まで延伸している。




 時は現在、川山市が巨大な津波によって壊滅したという一報を受けて、
大浜県南部の各都市から、救助に向かうためにレスキュー隊員を乗せた緊急車両の一団が、
国道ルートと高速道路ルートの二手に別れて急行していた。
情報が錯綜し、正確な情報を得ることが困難だったので、
すでに国道が破壊されていることがレスキュー隊には伝わっていなかった。



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 こちらは、高速道路を経由して川山市に救助に向かうレスキュー隊員たち。
彼らの皆が、不思議に思っていたことがあった。
「川山県の県庁所在地である川山市というそれなりの規模の街を壊滅させる程の津波が発生したというのに、
大きな地震があったような連絡が一切ない…」ということだ。
現に、数十キロメートル離れた地元の消防署で待機していた隊員たちの中に、揺れを感じた者は一人も居なかった。
尤も、巨大地震が遠く離れた地で発生し、それほど揺れを感じなくとも海から巨大な津波が押し寄せ、
津波の襲来を知らずして大きな被害を被ったという過去の事例もあることにはある。
が、それは昔の話であり、正確な地震感知システムが全世界規模で構築されている現代では考えられないことなのだ。
大規模な災害現場を幾度なく体験してきたレスキュー隊員たちとは言え、
津波の原因がはっきりとしていない今回ばかりは言い知れぬ不安と恐怖が生じはじめていた。



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 一方、こちらは、川山市とは山一つ挟んで反対側にある街から出動指令を受け、国道を通り川山市に急行している救助隊の車列。
サイレンを鳴らしながら大浜と川山の県境にある峠を登っていく。
片側二車線の峠道の国道も上下線共に車で埋まってしまってるために中々、車が思うように進まない。
車の隙間を縫ってやっとのことで、救助隊の車が川山市を一望に見渡すことの出来る峠のてっぺんに着いた時、
隊員たちは夢にも思っていなかった光景を目の当たりすることになった。
日光を反射し銀色に光る海が、川山の市街地をほとんど飲み込んでしまっているのだった…
隊員たちは、この変わり果てた都市の様に言葉を失い立ち尽くしてしまった。
(なんということだ…あれだけ大きい街の多くが水に浸かってしまっている…)
だが、プロである彼らはすぐに気持ちを切り替えた。





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 由佳はマンションを破壊した後、先程と同じように川山市郊外を歩いていた。
その光景を、智之は「田舎に住む女子高生が遠く離れた高校まで巨大化して通学している」という風に見立てて眺めていた。
由佳は通学時に必須のカバンこそ持っていなかったが、彼女は今、制服姿のためこのような設定を勝手に作り出すのは簡単だった。
(建物が少ない郊外をのっしのっしと歩いていく巨大女子高生由佳…
 コレ、結構新鮮な感じがしていいな…
 あっ、でも『都会に住む女子高生が遠く離れた高校まで巨大化して通学している』っていう設定もいいかも。
 建物がひしめく中を出来る限り、壊さずに歩いていく巨大女子高生由佳…
 でも、スカートの裾が引っ掛かって壁を壊してしまったり…
 いや、『こびとさんの建物なんかどーなってもいいじゃん』とか考えてずんずんと建物を巨大ローファーで踏み潰していく方がいいかも…
 あー、ほのぼのか残酷か、どっちも良さそうだからすげー悩むなー、このシュチエーション形成は…)
智之はまた勝手に新たな妄想を作り出して萌えていた。


「ねぇ、ねぇ、智之ってば〜」
智之が妄想でハァハァしている間に由佳が話しかけてきたのだが、応答することが出来なかった。
「おっと、由佳か…ゴメンゴメン。少し考え事してたんだ」
「考え事って言ういい方してるけどどうせろくなこと考えてないんでしょ?」
「さぁ、どうかな?」
智之はうまく言葉を濁した。
「それより、ちょっと聞きたいことがあるの。
 あ、あのね、あそこにあるあの青いヤツ、アレって何なの?」
由佳は、前方に見える下半分は青く、上半分は灰色の橋が連続してる構造物を指差していた。
「ん、あれか…えーっとあれは…」
「アレは…?」
ここまで来て、智之は大事なことをすっかり忘れていたことにようやく気がついた。
「あっごめん、小人さんが逃げれるルートがもう一つあること完全に忘れてたよ…
 アレは、確か大浜と川山を結ぶ高速道路だけど…ん、どうかした?」
「あっ、えーっと…その…」
「ん?」
「だから…」
どういうわけか、由佳はモジモジしだして言葉に詰まっていた。
何か言いたそうだが恥ずかしくて言い出せないように見える。


 智之には由佳が何を言い出したいかが、すぐに理解できた。
(はは〜ん、そうかそうか。わかったぞ…
さっき、マンションを「ご主人様」の許可なく壊した巨大メイドさん兼巨大女子高生の割りには、ミョーに慎重になってるな…
由佳が破壊活動するのにオレの許可なんて無くて全然問題ないんだけど…
んでもって、恥ずかしがる必要なんて全くないのに…
それにしても、「ご主人様にお伺いを立てる」なんてかわいらしい仕草してくれるじゃねーか、コンチクショー)



 「ん〜…なるほど…な。
 時間は、気にしなくてもいいから由佳の好きなようにしていいよ。
 多分、その方が由佳にとってもオレにとっても都合がよさそうだし。
 この世界は由佳のオモチャだから、由佳がどうしようと小人さんはヤラレるだけだし、オレは別に怒ったりしないからさ」
智之は、言葉をオブラートに包んで答えた。
由佳の心の中をストレートに言い切って、恥ずかしがる由佳を鑑賞するというのも、
面白そうだったが、ここは由佳のことを思って控えた。
直接、言葉に出して言わなくても由佳ならわかってくれるとも期待している。
「あっ…うん。ありがと」
返事は短かったが、表情を見る限り智之が言いたいことは伝わったようである。



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 (さっきまで、人目を気にせず楽しそうにマンションを押し潰してたのに…
突然、オレの「命令」を仰ごうなんてな…
急に自分のやってることが恥ずかしくなったとか…?
自分で進んで破壊するより、「ご主人様」に命令されたから仕方なく壊しちゃった♪
というシュチエーションの方が恥ずかしくなくてやりやすいとか…?
真相は、本人に聞くのが一番手っ取り早いけど、まぁ、無理でしょう。






 それはさておき。
無敵の巨大娘を意のままに操り、小人の世界を破壊・蹂躙させることが、
こんなにもゾクゾクするものだったなんてな…
今まで頭の中で考えていたのと、仮想空間内とはいえ、自分の目で見るのとでは大違い。
豪華客船も艦隊も街もビルも電車もみんな巨大な由佳に潰されてサヨウナラ。


 よく漫画とかテレビゲームの悪役が言う世界を支配する「力」ってこういうモノなんだな…


 しっかし、まぁ、オレもかなりの悪趣味だな、おい。
「ゲーム」というバーチャルリアリティの世界の中で、現実と変わりないパラレルワールドを構築し、
自分のカワイイ彼女を巨大化させてコスプレもさせて小人たちを弄べって命令して、
全てを支配するような独善的な快感に浸ってるんだから….

 これが自己満足よりもっと程度の低いオナニーと変わらないモノだって少しくらいは自覚はしてるけど、
そんなくだらない程度論なんかに興じるよりは、程度が低くても自分の思い通りに世界を動かしてみたいんだよな…
誰だって心の奥底ではオレと同じことをやってみたいっていう欲望はあると思うよ、正直言って。



 これでも、まだあと一つやり残してることがあるけど…
これももうすぐ…




 こんなこと他人に知られたら、完全に引かれる(オレの同志には魅かれる)な…



 現実世界で、こんなことをやろうとしたらこりゃマジでシャレにならないし…
結局、「ゲーム」だから可能だって結論に戻ってくるだけか…
いづれにせよ、オレは願いが叶う幸せ者だ…ハハハ)



 智之が頭の中で由佳の心情をあれこれと思索している間に、
いつの間にか事はやはり彼の思惑通りになっていて、
由佳は高速道路に襲い掛かろうとしていた。



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 今、由佳は高速道路を跨ぐようにそびえ立っている。
手を腰の横に添えて、少し偉そうな感じで、両足に挟んだ高速道路を見下ろしている。
いかにも巨大娘がやりそうな仕草が自然と出来ている。
由佳も経験を積むうちに巨大娘が板に付いてきたようだ。
智之は視点を由佳の真下の高速道路上を走っていた乗用車の中に移動させた。
しばらくの間、この車の運転手の身体を借りるのだ。


 ここから見上げる由佳の姿は迫力があり、智之は由佳の蔑む様な視線にゾクゾクした。
何せ普段お目に掛かることのない代物だ。
由佳には、小人に擬態した智之の姿が見えていないだろうから、視線は小さな車や小人たちに向けられた物だろう。
(巨大化してる時の由佳の視線って、かなりサドっ気があるよな…
 この顔を見てると、今すぐにでも由佳を「女王様」として崇め奉りたくなるような…
 ある意味、男の本能的Mっ気を活性化させるような視線だな…
 小人の街に君臨する巨大女王様も、恋人の前では少しツンツンしてるけど基本的には素直でかわいい女の子…ついでにMっ気あり
 このギャップが堪らないんだよな〜…)


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 それはさておき、高速道路というのは、巨大娘の「オモチャ」に適している。
第一の利点は、多種多様な車が数多く高速道路を走行していることだ。
高速道路には、乗用車、大型バス、トラック、タンクローリー、ダンプカーなどいろんな種類の「小物」があり、巨大娘に喜ばれている。
聞くところによると車好きの彼氏のために何台も高級スポーツカーを捕まえてプレゼントした巨大彼女とか、
これまた車好きの幼い弟のためにカッコイイ車を捕まえて、プレゼントしてあげた巨大ブラコンお姉ちゃんとかがいたとかいないとか。



 第二の利点は、破壊のしやすさとそれに伴う快感だ。
元々、高速道路は大量の積み荷を積載したトラックやタンクローリーの重量に耐えるように建設されている。
それに加え、最近では耐震化が進み、高架を支える橋脚やその他の強度も大幅に強化されている。


 とは言え、だ。


 大型トラックだのタンクローリーだのこれらは、所詮、数十トンしかない。
100倍サイズの巨大娘の体重の何百分の一だ。
それに耐震化工事を施しても、巨大娘が起こす地震には一定の効果があるかも知れない。
が、巨大娘が高速道路にほんの少し体重を乗せただけでジ・エンド。
巨大娘にとっては、砂場に足を踏み入れるようなもので、
高架になっている高速道路なんていとも簡単に粉砕出来る。


 こんな楽しい「オモチャ」を巨大娘が見逃すはずがない。
また、巨大娘がか弱い小人たちを相手に残酷な遊びを始めようとしていた…



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 由佳が現場に現れた直後に、高速道路を走っていた車は皆その場で急停止していた。
それぞれの車がブレーキを掛け始めたタイミングは当然、バラバラだったので、お互いに追突したり、衝突する事故が起こった。
「あらら、私がやってきたぐらいでびっくりしないでよね。
 私は、怪獣じゃなくて普通の女の子なんだからね…
 せっかく小人さんの車でまた遊んであげようかと思ったのに…壊れちゃったらダメじゃないの…」
由佳は無傷の車がないか、玉突き事故の現場の真上から覗き込んで、
衝突をうまく避けて停車していた一台のシルバーのトラックを指先で摘み上げた。
後部に搭載されているコンテナには「横山運送」と書かれていた。
このトラックの重量など、今の由佳には無いにも等しかった。
まだ運転手は避難できずに中に取り残されているはずだ。



 由佳はトラックを顔の前まで持ってきて中を覗き込んだ。
「ふふふ、小人さんが乗ってるね。
 ここを走ってたってことは川山市に荷物を運ぼうとしてたのかな?この小人さんは。
 でも、ごめんね。川山市は私が作った津波で全部破壊しちゃったの。
 だから、もうあなたは用済みなのよ…」
そう言って、由佳は指に少しの力を入れてトラックのコンテナ部分を潰した。
積み荷のダンボールが真下にパラパラと落下していった。
「んーどうしよかっなー、この車。もう他の使い道なんてないね…」
由佳もとりあえずこのトラックを捕まえたはいいが、特に面白いこともなかったためかつまらなさそうな表情を浮かべている。



 その間にも、小人たちは車を乗り捨てて、高速道路上をひたすら由佳がいる方向とは反対に逃げていた。
さっきも由佳は地上を走る国道を襲撃したが、その時は小人たちは国道から離れたところに避難することが出来た。
しかし、高架になっている高速道路においては、それが不可能であり彼らの逃げ道は高速道路の反対側、唯一つだけしかなかった。
放置された車の間を通るしか道は無く、それが避難の障害となり、彼らの避難はスムーズに進んでいなかった。




 「こうなったら、こんな小さな車なんてポイって捨てるだけだよね…」
由佳はトラックを空中で、指からパッと離して、真下に落下させた。
落下してきたトラックは放置された車に衝突し、それらを巻き込んで炎上した。
幸いなことに、車に乗っていた人たちは車から逃げ出しており、爆発に巻き込まれた人はいなかった。
上空に、ガソリンが引火したとき特有のどす黒い煙が立ち昇る。
「ん〜、ガソリン臭いよ〜。早くここから離れた方がいいね…」
漂う悪臭に由佳は露骨に嫌な顔をした。
これが自分のせいだとは考えたくはなかった。
由佳は、自分にも被害が及んだことを後悔した。



 そんな中、由佳は高速道路上を必死になって逃げていく小人たちを見つけた。

 (ホント、こうしてみると人間が小さな虫にしか見えないね…クスクス…笑っちゃうよね…)
炎上している部分を避けて由佳は、小人たちの後を追いかけることにした。
(小人さんを直接じわじわと追い詰めていってあげるんだから…)
由佳のサディスティックな欲望は、この時までにさらに増幅していた。
もっともっと小人さんを恐怖にどん底に陥れて、苛めてあげたい…
もう彼女は巨大化したときの快感の虜になっていた。

 由佳の巨体が再び、動き始めた。
今度は、由佳が一歩一歩高速道路の高架を踏み潰していく。
一度に破壊される幅こそ大きくは無いが、その度に、コンクリートが粉砕され土煙が立ち込める。
そして、放置された車で埋め尽くされた道路を必死になって逃げ惑う小人たちに巨大な女子高生がじりじりと迫っていく。
小人たちには直接攻撃することなく、足を伸ばせばすぐにでも踏み潰せそうな距離を保ちつつ、
わざとゆっくりと、時間を掛けて背後から迫っていき彼らの恐怖を煽っていく。
真上から小人たちが逃げ惑う様子を見下ろすとその様子はあまりにも滑稽だった。
「ほらほら、早く逃げないと巨大な女の子に踏み潰されちゃうぞ〜」
一つの方向にしか逃げ場がない高速道路という舞台においては、これほど残酷な遊びはなかった。


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 由佳が高速道路上の小人を追いかけ始めてから暫くした頃。
時間が経つにつれ、由佳に追いかけられる小人たちの人数も増えていた。
後から巻き込まれた人ほど、目の前に居る巨大な女子高生を見上げて、
今、現在何が起こっているのかさっぱりわからないまま、車を放置して逃げ惑う人並みに飲まれていく。



 そして、大浜から高速道路経由で川山市に向かっていた方のレスキュー隊が現場付近に差し掛かりつつあった。



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 「先輩、トンネルを抜けるとそろそろ川山に着きます。この先のインターチェンジで高速降りて街の中心部に行きますか?」
ハンドルを握る若手隊員が隊長に尋ねた。
彼らの車は今、県境の山の下を貫くトンネルの中を走行している。
「いや、今、何が起こってどんな被害があるのかも全くと言っていいほど把握できていないから、要救助対象者を発見次第救助活動に当たることにする。
 この状況からして、俺たちが助けられるものから助けていくしかないだろう」
「了解ですっ」
若手隊員は、前方を走行する車がないことを確認して、アクセルを強めた。


 「もうすぐ、トンネルから出ます。
 トンネルの.出口は、高台にあるので川山市に何が起こってるかが、自分達の目で確認できますね…」
「あぁ、普段と変わりない街並みが広がっていることを祈ろう…」
そうは言うものの、ある程度の被害は覚悟していた。
当然、ただその被害が小さいものであることを本心では願っていた。

そして、レスキュー隊の車がトンネルを抜けて待ち受けていたのはとんでもないものだった。


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 「た、隊長!!!!あ、あれは何で…す…か!!!?」
「何なんだ!!!アレは!!!」
トンネルを抜けた彼らの目に飛び込んできたのは、尋常ではない大きさの女の子だった。
身長は100・・・いや150メートル近くはあるだろう。
服装はブレザーの上着にチェック柄のスカート…
どうやら彼女は女子高生のようである。
その塔のような巨大な脚で高速道路を跨ぎ、踏み潰している。
そして、恐ろしいことに彼女は笑いながら、高速道路に足を振り下ろしていたのだった…
隊員たちは皆、この異常な光景に言葉を失っていた…


 茫然自失のまま、とにかく車を走らせていると、前方から沢山の人々が走ってこっちにやってきた。
車を停止させて彼らに話を聞いたところ、突然、あの巨大な女子高生が出現し、自分達に襲い掛かってきたのだと言う。


 隊員たちは車で行けるところまで行き、その後は向かってくる避難民の流れに逆らいながら、巨大女子高生の方へと前進して行った。
近づいてくる勇気あるレスキュー隊員たちに巨大娘の方も気が付いたようである。


 (あら、私に近づいてくるなんて中々勇気があるこびとさんじゃないの…クス)
由佳は、彼らに興味を持った。


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 隊員たちは道路が崩落している部分の一歩手前までやってきた。
ここまで近付いて改めて、この女子高生の巨大さを実感した。
一人の女の子を高層ビルのように見上げるなんてことは誰しもが未体験である。
武装している軍人ではなく、武器を持たないレスキュー隊員なので到底、敵う相手ではない。
だが、この状況下ではなんとしてでも彼女を止めなければならないと隊長は考えた…



 「一体、なんで街を壊したりするんだ!?多くの人が巻き込まれてるんだぞ!!」
隊長が食いかからんとばかりに声を大きく荒げて巨大女子高生に、破壊の理由を尋ねた。
「私が壊したいって思ってるからに決まってるでしょ?そ、それに智之が見てみたいって言うから…」
由佳は智之が直接見えないことでつい油断してしまい、今まで必死に隠してきた本心をばらしてしまった。
今の由佳の発言を智之が聞き逃すはずが無かった。
智之は、今度は若手レスキュー隊員の中に意識を潜り込ませていた。
だが、今すぐの目立った行動は自重した。
あとでゆっくりと由佳を言葉攻め出来る時間があるのだから。
 「と、とにかく、小人さんのくせに今の私に口答えするなんて…アンタ達まとめて踏み潰すわよっ!!!」
由佳が足を持ち上げてレスキュー隊員達(と智之)の上に移動させた。


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 (おぉ、ここからだと由佳のスカートの中がもろ見えてる。
 見ようと思えば、普段でも見るのは可能だけど…
 やっぱりこう、こっそりと気付かれずに眺めるのが王道だよな〜
 それにスカートの中だけじゃなく巨大女子高生姿の由佳も100点満点。
 相変わらずのツンデレさんだし…単に素直じゃないだけかもしれないけど。
 それとやっぱり、小人さんを蔑むこの視線が堪らない…
 現実世界ではいっつも、オレが見上げられてるからな〜)

この逼迫した状況の中、智之は一人、悦に入っていた。

(おっと、由佳が俺たちを踏み潰そうとしてるな…
 オレが擬態してるのがバレないように逃げないとな…)



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 由佳が足を振り下ろそうとするとほとんどの隊員が逃げた。
しかし、そんな中、隊長だけはその場に踏みとどまっていた。彼は「漢」だった。

 「とにかく街や建物、道路を壊すのやめんか!!!!どれだけの人の命が失われたと思ってるんだっ!!!!」
「そんなこと言われても知らないわよっ。だってコレは『ゲーム』だから、小人が死んでも私には何も関係ないんだからっ」
由佳が言った「ゲーム」の意味は、もちろん智之と由佳が絶賛プレイ中のヴァーチャルリアリティゲームの二人だけに分かる通称のことである。
が、しかし。一応、この世界の住人であるレスキュー隊員達は、「お遊び」という意味の「ゲーム」だと受け取った。

 「この野郎!!!人間の命を何だと思ってやがる!!!コイツを喰らいやがれ!!!!!!!」
隊長は足元に落ちていたアスファルトの欠片を巨大女子高生目掛けてぶん投げた。
放り投げられた欠片は思いの外、高く上がって由佳に当たった。
当たり前ではあるが、こんな小さな欠片が命中したところで由佳にとっては痛くも痒くもない。
何せ海上で海軍の大規模艦隊と一戦を交えて傷一つ付かなかったのだから…
「そんなので私に何か対抗できるとでも思ったのかな、この小人さんは?」
「くそっ、何なんだよコイツはっ!!!」
「ふ〜ん、まぁいいわ。あなたの命は助けてあげる。
 でも、このまま私の邪魔になるものを放って置く訳にもいかないから…」

 由佳は、膝を曲げて腕をコチラに伸ばしてきた。
由佳の目的はただ一つだ。
しかし、隊長は微動だにせず、仁王立ちして構えていた。
「こんなにも小さな小人さんが今の私に立ち向かうなんて…すごいすごい。
 でも、邪魔だからここで大人しくしておいてね…」
由佳は指先で隊長を摘まみ上げるとそのままブレザーのポケットの中に放り込んだ。
これでもう隊長が由佳の行く手に立ちはだかることはなくなった。
「私に逆らおうとするからこうなるのよ…」
由佳は勝利の笑みを顔に出していた。



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 由佳はいつのまにか小人をあしらう方法を身に付けていた。
智之は、「巨大娘」として着実にレベルアップを遂げていく由佳に感心していた。
由佳のSっ気が引き出せた成果は予想以上だ。
(このまま経験を積んでいけば…もっともっと楽しいことになりそうだ…
 由佳が楽しそうなのが何よりうれしいんだけど…
 それから、もうすぐで由佳が山の手前まで到達するから、また次の段階に移らないとな。
 山を越えたらいよいよ舞台が大浜に…
 オレが手塩に掛けて創り上げた街だ…
 思う存分、由佳には暴れまわってもらわないと…)
まだ智之の野望は終わっていなかった。






<つづく>

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