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9.

やっと由佳が川山と大浜の県境に聳える山の手前までやって来た。
この山は標高500メートルはあるやや高めの山だが、巨大な由佳にしてみれば5メートル程しかない。


 ここに来るまで、寄り道をしてしまったせいで智之の予定以上に被害が拡大していた。
当然、思ってた以上に「ゲーム」のプレイ料金も時間も多く掛かっている。
「でも、巨大化中の由佳の映像には代えられないよな…
 多少、金と時間が掛かっても絶対に優先するべきモノだって」


「ふぅ〜、やっと着いたね。で、ここからどうするの?目の前は山だし〜」
「どうするかって?そりゃ、山があったらそこに登っていくのが流儀でしょ」
「ちょ、ちょっと何で私がこんなところで山登りをすんのよ〜。
 しかも、こんな制服なんか着てるから動きにくいんだし…」
「まぁまぁ、今日一日はガマンして欲しいな〜。
『ゲーム』の中だから、制服汚しちゃっても全然問題ないしさ。」
「本当にしょーがないわね…」
「だってさ、巨大な女の子が山を登っていく様子を見てみたかたんだからさ〜」
智之はまたうれしそうな声になった由佳に告げた。
「智之のヘンな夢で苦労するのは、いっつも私なんだからねっ!!もう…」
文句を言いつつ、由佳は意を決して山に足を踏み入れた。



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 巨大なローファーが深い緑の山の木々を踏み荒らしていく。
メキメキ、バキバキと踏み付けられた木々が、次々に悲鳴を挙げていく。
巨大なローファーで踏み付けられたところは、緑のベールが剥がされて、黄茶色の地肌が無惨にも現わになっている。
由佳の巨大なローファーで削り取られた大量の土砂が山の麓に向けて落ちていく。
土砂は、そのまま山際の住宅や道路に流れ込んでいった。
(由佳が足を動かしていくたびに、災害が起こってる…こりゃ、萌える萌えるぞ!!うけけ)
智之の興奮が収まることはなかった。


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 山の緑豊かな森を潰していくなど環境破壊もいいとこだが、ここは「ゲーム」の世界なので、特に問題はない。
それに巨大娘が山の木々を破壊していく光景というのは中々、いい具合に味がある。
本人はまるで気がついていないが、実は、とんでもないことをしでかしている。
巨大娘ってのはそんなものである。
全然おかしいことではない。
地震を起こし、津波を作り出し、山を崩壊させる…
人間が敵わない大自然ですら、いとも簡単に征服していく巨大娘…
実に素晴らしい!!!巨大娘サイコー!!巨大娘マンセー!!
…
……
………


少し熱くなってしまったようだ、失礼。
でも、熱くならざる得ないと思うよ、正直。


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 「きゃっ」
また由佳の足が滑ってしまった。
どうにもこの山の斜面をうまく登ることが出来ない。
さっきから何度か試しているが、やはりどうしても登り切れない。
「うぅ…なによ、この山…めちゃくちゃ滑りやすいじゃないの…最悪ぅ…」
それと、由佳の足が滑るとズリズリと巨大な足が山の表面をが削りとっていき、同時に大規模な土砂崩れが起きる。
そのために、何度も大量の土砂が山の下にある民家を直撃したり、
浜川線や高速道路のトンネルが押し潰されたりと、由佳が知らない間に大きな被害があった。
「ふむ、やっぱり今の由佳だとこの山を登りきるのは難しそうだな…」
由佳をずっと眺めていた智之がテレパシーで口を挟んできた。
「最初から難しいってわかってるんならやらせないでよ…もう…
服だって、ほら、土で汚れちゃったんだからね」
息遣いが少し荒くなった由佳がスカートやブレザーに付いた土や木をパンパンと払い落とす。


 「しょうがないな〜。なら、由佳が楽にこの山を登れるようにしてやるよ」
「えっ?」
驚く由佳を尻目に、すぐに彼女の体に変化が始まった。


 なんと由佳の体が、、再び大きくなり始めたのだ。
じわりじわりと由佳がより巨大化していく。
「ちょっと、智之!!また巨大化させる気なのっ!?」
慌てふためく由佳を尻目に、彼女の巨大化は続く。
10秒で約2倍、20秒で約4倍、30秒で約8倍…
と、ここまで大きくなったところでようやく巨大化がストップした。


 由佳は、たった数十秒の間にさっきまでの10倍、
この世界の基準でなんと1000倍の大きさになってしまった。



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 川山市の郊外に身長1480メートルという凄まじいまでに、巨大な由佳は聳え立っている。
今まででも十分巨大だったローファーも、今は、230メートルという途方もない大きさで鎮座している。
もちろん由佳が巨大化していく過程ですり潰されてしまった家や建物は数知れずある。
この巨大な黒の物体が合わせて二つ。
そして、それらのみではなく、そこから上空に向かって真っ白なソックスを履いた足が高層ビルよりも高く伸びている。
さらに上空には、オーロラのように舞っているプリーツスカートの裾があった。
靴でさえ、小人の街にあるどんなものよりも高いというのに…
スカートの下からではこの超巨大女子高生の全身を見上げることは、もはや不可能だ。
まさに、「超巨大女子高生由佳出現!!」とタイトルを付けたくなるような光景だ。


 由佳が呼吸する度に顔の近くにある雲が吹き飛ばされていく。



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 「というわけで、由佳を1000倍まで大きくしてみました〜。
どう?高さ1500メートルから見下ろす小人さんの街並みは?」
と、智之が由佳に話しかけても返事がない。
「お〜い、どうした?聞こえてないのか〜」

次の瞬間、由佳の口から出てきた言葉は智之を震撼させたのだった。



 「私、もう『ゲーム』やめるから…」
「へっ!?」
「だーかーら、『ゲーム』やめたいって言ってるの!!!!」
「ちょ、何でだよ!?」
「私を勝手に巨大化させたり、街を破壊させたり無神経もいいところなのよっ!!!」
由佳の突然の激怒に智之は慌てる。
「さっきは楽しそうに街を壊してたじゃないか!?」
「アレが私の本心じゃなかったとしたら?」
「うっ…」
智之は、言い返すことが出来なかった。
確かに、さっきから智之は「ご主人さま」という架空の立場を利用して、由佳に無茶苦茶と言ってもおかしくない要求を受け入れさせてきた。
いくらヴァーチャルリアリティの世界だからって、普通の女の子を自分の好みである巨大娘に仕立て上げた上、
自分で構築したストーリー通りに街を破壊させたことは身勝手と感じられても仕方がない。



 しかし、だからと言って智之も簡単に引き下がるわけにはいかない。
長年の夢がようやく叶ってついつい調子に乗ってしまっただけとも言えるからだ。



 「たとえバーチャルリアリティーの世界の中でも、
こんなド変態な俺の願望を聞いてくれて、それでなおかつ、実現してくれるのは、由佳、お前しかいないんだ…
頼む、『ゲーム』を止めるなんて言わないでくれ…」
智之は、態度を急に変えて由佳に懇願した。


 だが、由佳からの返事はすぐには返ってこなかった….


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 数秒の沈黙の後、さっきからずっと口を閉ざしていた由佳が、再び口を開いた。
「ふ〜ん、やっぱり智之は自分がド変態だってゆう自覚はあるんだ…」
「ん!?」
「智之が私のこと、どう思っているかちょっと気になったから、
 わざと私が怒ったふりをして、何も答えてあげなかったけど…
 もしかして…私に嫌われちゃったとか考えちゃった?」
「えっ?」
「あはは、そんな風に考えるなんて智之ってっば、意外とかわいいね〜」
由佳はさっきまでの怒った表情ではなく、いつもの可愛らしい笑顔で智之を見下ろしていた。
「だ、騙したなっ!?オレが本気で心配したのに…」
「うりうり〜♪」
「由佳にまんまと嵌められたぜ…お前がこんな策士だったとは…」
思ってた以上に、智之は落ち込んでいる。



 「こんな程度のことで、いきなりばったりと智之のことを嫌いになるわけないでしょ?
智之のちょっと強引なところは、もう慣れちゃってるもん…」
「あっ…」
「それに私が『ゲーム』を途中で止めるわけないもん…」
「何故に?」
「だって…おっきな女の子になって、いっ〜ぱい街とか建物を壊していったりするのが、ただのストレス発散になるだけじゃなくて、
 壊しているうちになんだか興奮してきて、気持ちよくなってきちゃうのが好きになっちゃったから…
 やっぱりね、智之にはずっと隠し通せないと思ったから今、こうやってバラしちゃってるんだけど…すんごく恥ずかしいんだからねっ!!」
と由佳が頬を紅潮させて打ち明けた。




 「ということは、アレですか?『ゲーム』の中でS的な快感がわかるようになってきたと?」
「うん… それと、この前のビデオも本当は智之のためにやってあげたの…
 いつか、いきなり見せて驚かせてあげようと思ってたのに…
 勝手に、見ちゃうんだから、もう。ダメじゃない…」
「俺はてっきりあまり乗り気じゃなくて、俺のために楽しい振りをしてるのかなって思ってたけど…」
「この鈍感♪私が本気で楽しんでいることが見抜けないなんて、彼氏失格だよ?」
「うっ、ゴメン、由佳」
「よしよし、わかった。許してあげるねっ。
 智之のそういう素直なところがかわいいんだから♪
 ところでこの後、ちゃーんと続きやってあげるつもりなんだけど、コレ中断とか出来ないの?
 私、少し疲れちゃったから、少し休憩したいの…」
「そうだな、いつもならもうとっくに終了してる頃だし…
 オレも由佳の提案に賛成♪
 でも、、その前に、一つの区切りとしてこの山だけは越えてみよっか。
 休憩終わったら次のステージが控えてるんだし…」
「うん。そうだね」


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 由佳は、高く足を振り上げた。
1000倍にまで巨大化した由佳にとっては、こんな山など大したことはない。
たった一歩で跨ぎ越えることが出来る。
振り上がった足は、猛スピードで振り下ろされて地面に叩きつけられる。
着地時の凄まじいまでの衝撃!!!


 大浜南部に由佳が侵略の一歩を踏み出した!

 「これが記念の第一歩ね。
 じゃ、一時的に現実に戻るよ〜」
「りょーかい♪」



 由佳が大浜を襲撃しにいく前の段階で、一旦「ゲーム」は中断した。
この時、すでにもう「ゲーム」をプレイし始めてから2時間以上は過ぎていたのだった。









<つづく>

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