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8.「襲来 -下-」



 先程から何度も小さな地震-震度で言えば2か3くらい-と同じような揺れが続いている。
この揺れは全て、夏姫が歩くことによって発生している。
数秒ごとに夏姫の巨大な足が地面に達する度に揺れる。
夏姫のように「小人」になったことのない人間にはわからないだろうが、
「巨人」が歩くだけで本当に地面が小さな地震と同じくらい揺れるのだ。



 夏姫の姿は、彼女が歩いているところから「小人」の感覚からして数?離れた、
司がいるこの場所からでも十分に確認できた。
視界を遮るような高い建物がないのでよく見える。
それ以前に、夏姫の大きさがこの「箱庭」の世界で異質だからだとも言える。



 しかしながら、自分自身が歩く姿がこんなにも壮大なものだと、夏姫は気づいていないだろう。
今のこの光景をカメラの録画して映像として見せればきっと驚くだろう。
一度、「小人」の視点に立って目撃しなければ想像しがたい。
今ごろ、夏姫はきっと大怪獣気分を味わってることだろう。
確かに模型の街並みを上から見下ろしてみたり、
「巨人」になって「箱庭」の小さな街並みの中を歩りたりすると、
言葉では表しにくい優越感を感じるのは司も同意できる。
問題は、その優越感が度を過ぎると色々と厄介なことが巻き起こることだ。
そのことを証明する前例は、真美の一件だ。
あの時は、何とか真美を説得できて事無きを得た。
説得できてなければ真美との仲も取り返しの付かないものになっていたはずだ。



 「箱庭」に慣れていない人間が長い時間いると元の世界に戻ったとき、物の大きさが変に感じられる。
特に関係はないが実際に物の大きさの感覚が異常に感じられる病気があると聞いたことがある。
確か、「不思議の国のアリス症候群」とか言う中々洒落た名前だった。
この調子だと夏姫も後で感覚の不一致に襲われることになるだろう。
通常の感覚を取り戻すまで割りと時間が掛かる。
医薬品のCMのように『「箱庭」は使用上の注意をよく読み、用法、用量を守って正しくお使いください』
とでも言ってあげたほうがよかったのか。



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 それにしても、夏姫は中々戻ってこない。
さっきはすぐに戻ってくると言っておきながら、
もう既に15分以上は過ぎている。
いかんせん、縮小機を夏姫に奪われた上に、
一人ぼっちでいると何もすることがなくて退屈なのだ。
それに夏姫が小さな街並みの中で何かやらかしてしまわないかと心配でならない。
服の裾が引っ掛かっただけで、沿道の建物が倒れたりすることもあるのでヒヤヒヤする。
だから「箱庭」に慣れていない夏姫には、本当に、本当に注意して歩いて欲しかった。
仕方なく、夏姫の姿を目で追っているのだ。
最も、夏姫が何かをやらかしてしまった時に、
この大きさだと司が夏姫の行動を制限できるはずがなかったので
無意味と言えば無意味だった。



 何か夏姫を呼び戻す方法がないか、司は考えを巡らせ始めた。
携帯で彼女を呼び出すことをまず最初に思いついたが、ここ「箱庭」は地下なので電波が届かないので、これは不可。
だからと言って、他にトランシーバーのような特別な通信機器を持ってるわけではなかった。
なんとなくポケットの中に何か使えそうなものがないかと探り始める。
するとポケットの中で手が何かを探り当てた。
「おっ、これは...フムフム...となると...いいこと思いついたぜ〜」
司は、ポケットの中から「ある物」を取り出して操作し始めた。



  それは、ラジコンのヘリコプターのリモコンだった。
このラジコンは元々、屋外で飛ばすために買ったものだが、
最近では公園でラジコンを飛ばすことが、禁止されたりして使う機会が減っていた。
ただ部屋に置いておくのは、実にもったいないと思っていた。
そこで何か有効な使い方はないかと考えた末に、「箱庭」の中に置くことにした。
そのままの大きさだと、「箱庭」の世界との縮尺が合わなかったので、その点は縮小機を使って調節した。
プラモデルの戦車と一緒に並べておいてみると、ちょっとした軍隊の基地っぽくなって気に入っていた。




 その後、鉄道模型に同じようにヘリコプターに超小型カメラとスピーカーを付けたら、
なんだか色々と面白そうだということになって、
機体にカメラとスピーカーを取り付ける改造を施すことにしたのだ。
ただし、取り付ける場所は機体の下部にした。
機内に取り付けてみても、ヘリコプターの機内から見える映像はおそらく「箱庭」の壁しか映らないと考えたからだ。
機体の下部なら、真下に広がる街並みが綺麗に撮影できるはず...
というわけで、改造したヘリコプターに搭載したカメラで模型の町並みを撮影した映像を実際に見てみると
まるで本当に街を空中撮影したかのような映像だった。
それからは、「箱庭」の中で鉄道模型だけではなくヘリコプターも操縦するようになった。




 「確かヘリコプターの機体はいつもの場所に停めていたはずだから、うまいこと操作して,,,,」
今いる場所からでは目視確認はできないので、
とりあえずヘリコプターを高く上昇させてから位置を確認することにした。
しばらくすると司の視線の先にヘリコプターが見えてきた。
「あとは、これを夏姉ぇのいる方に気づかれないように低空飛行で操縦して....」
司が計画した悪戯は徐々に進行していく。
低空飛行でヘリコプターが夏姫に気づかれないまま近づいていった...


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 無事に夏姫に気付かれずに接近させることができた司は、ヘリコプターをその場で急上昇させた。


 夏姫が突然急上昇してきたヘリコプターを避けようとして足元への注意が一瞬、疎かになった。
すると、見事なことに夏姫が足元にあった何かにつまづいた。
「き、きゃーーー」
夏姫が悲鳴を上げるが、一度崩れた体勢をそこから立て直すことはもはや不可能だった。
ヘリコプターを操作していた司の目には、その光景がスローモーションで目に映った。
人がこける瞬間をあんなにもはっきりと見たことはなかった。



 次の瞬間には、夏姫の十数万トンもの巨体が、地面に叩きつけられていた。
腕が近くのビルに直撃して倒していき、
道路上にあった何台もの自動車が夏姫の下敷きになった。


 それから、凄まじく鈍い轟音と震動が順を追って司がいた場所に到達した。
夏姫はただ歩くだけで地震を起こしていたのだから、
全体重によって引き起こされたこの揺れは、
さっきまでの揺れとは比べ物にならない。
その場に立っていられなくなった司は思わず地面にへばり付いて、この揺れをやり過ごした。




 「痛たたた...車が下敷きになって体のあちこちに食い込んじゃって痛いし〜」
夏姫が地面に打ちつけたところに手を当てて起き上がる。
「つ〜か〜さ〜、ヘリコプターなんかを近づけていきなりビックリさせないでよ。危ないでしょ〜が」
「巨大女が当機に気付いた際、驚いて勝手に転んだ模様。
 なお、巨大女が転倒したことにより付近一帯に甚大な被害が出た恐れあり」
堅苦しいように見えて、半分ちゃかした感じのする口調で現在の状況が実況された。
「へっ?」
夏姫は一瞬、今流れている音声が何について言っていることだか判らなかった。
「繰り返す、巨大女が道路上で転倒した模様。
 転倒時の衝撃で付近に甚大な被害が出た恐れあり」
当然ながら、この実況は「巨大女」こと夏姫の耳にも入るわけで...
夏姫はヘリコプターのスピーカーから流されてる実況の意味をようやく理解した。
ブチッ、ぶちっ、ブチッ。
何かがキレた音がした。
それも一つだけではなく、複数。
実にいやな予感を催す音だ。
「ふ〜ん、司ってばこんなことしちゃうんだ〜」
一見すると優しげにも聞こえる口調ではあったが、
実際の夏姫の心の中は、司に対する怒りで煮えたぎっていた。


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 キレた夏姫の行動は非常に素早かった。
夏姫がすくっと立ち上がり、そして高度を下げていたヘリコプターを見つけるや否や
逃げる時間を与えることなくヘリの胴体をガシッと鷲づかみにした。
「ふ〜ん、これね。さっきから何やらいろいろと私の悪口を垂れ流ししているのは。
 わざわざ、スピーカーを使ってまでやるとわね...」




 巨大な女の手がヘリコプターの胴体を鷲掴みにしている。
司が、ヘリコプターの操作をしようにもがっちりと掴まれていて動かせなかった。
まるで、どこぞのB級ハリウッド映画のような光景になっていた。
「わっ、夏姉ぇ〜ラジコン離せー」
「さっきからこの私に向かって、ずいぶんと生意気なことをベラベラしゃべるのは、どの口かしら〜?
一度、しっかりとお仕置きしてあげないといけないとね〜」
夏姫は、ヘリコプターの胴体の腹側に
付いてある小型スピーカーを取り外そうとする。
「ちょっ、スピーカー外すな、夏姉ぇ!
また取り付けるのメンドーなんだから!」
「私に生意気な口を聞いた罰よっ!」
夏姫がスピーカーを取り外そうと悪戦苦闘するも、
スピーカーは機体にしっかりと固定されているので中々上手くいかない。
「マジで壊そうとすんな、とにもかくにもやめてくれー」
「うるさいうるさーい。
アンタが全部悪いんだからさっさと謝りなさいよー
早く謝らないと、このラジコンを下に落とすわよ」
二人は距離と体の大きさを超越して口喧嘩をしていた。


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  「ねぇ、お兄ちゃん達はさっきから何してるの?」
そこに、たまたま奈央がやってきた。
いや、「たまたま」と言うよりむしろ司と夏姫の間に割って入るタイミングを覗っていたと言う方が正しい。
どうやら塾の夏季講習が終わって、家に帰ってきていたようだ。
「ウチに帰ってきてみたら夏姫お姉ちゃんが、今日、遊びに来てるってお母さんから聞いて、
それでお兄ちゃんと二人『箱庭』にいるから気になって来てみたけど...」
奈央はラジコンのヘリコプターを片手に大人げない行動を取っている従姉と、
姿は見えないものの何処からともなく声だけは聞こえる兄に困惑気味だった。
「あっ、奈央ちゃん、久しぶり〜。元気してた〜?」
夏姫はヘリコプターを鷲掴みしたままで、奈央に声を掛けた。
「えっ、うん」
自分の出した質問の答えが得られないまま、
夏姫につられて返事をする。
「奈央ちゃん、また身長伸びた?」
今度は、邪魔になったのか手に持っていたヘリコプターを無造作にビルの屋上に置いた。
夏姫の膝より下の位置にあるビルの屋上にはしゃがまないと手が届かず、
彼女がヘリコプターを乱暴に扱ったために、置いた後に機体が右に傾いてしまった。
「夏姉ぇ〜、ラジコンを乱暴に扱うなー」
スピーカーを通じて司の声が届いたが、夏姫に完全無視されて虚しく響き渡るだけだった。



「えっと、春に測った時で...170.5センチだったかな...」
「じゃ、私よりも17センチも高いね。いいな〜」
「それより、お兄ちゃんはどこにいるの?
さっきから声だけは聞こえるんだけど...」
「司ならあっちの方にある学校の校庭にいるはずよ」
「夏姫お姉ちゃんありがとう。
 それじゃ、お兄ちゃんを回収してくるね」
「どういたしまして♪
あっ、気をつけてよ、さっきの私みたいに何かに躓いてコケたら危ないんだから...
って、奈央ちゃんはここに慣れているからそんなドジは踏まないか、ハハハ」




 夏姫が後ろから見守る中、学校に置き去りされた司を回収するために奈央は、
「巨人用歩道」から自分の靴よりも小さな建物がひしめき合って立ち並ぶ一画に入っていった。
本来なら、現在の奈央の大きさであれば、
こういった混み入った場所には侵入禁止なのであるが、
今回は司を救出するという大義名分があるので、問題はなかった。
高い部類に入るビルでも奈央の膝より、
かなり下の位置ぐらいの高さしかない。
うっかり足を置いたら潰れてしまいそうだ。
その中を、建物にぶつからないように器用に足を動かして、
司が取り残されている学校に少しずつ近付いていく。
こうやって小さな建物の間を縫って歩いていくのは、
自分の巨大さをひしひしと感じられるので奈央は好きなのだ。


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 しばらくして学校のある場所が見えてきた。
三階建ての校舎を真上から見下ろしてみる。
奈央の巨大な影が校舎全体を覆う。
屋上に小さな人影を見つけた。
こっちに気づいたのか、司が見上げ返してきた。
「ちび兄ちゃん。今から校庭に足を降ろすから、10秒以内に校舎の中に避難してね」
「小人」の兄のために、注意を促す。
司が避難し始めたのを確認してから足を移動させる。
ほんの少し足を持ち上げるだけで校舎のよりかなり高い位置にくる。
着地の衝撃で地震を起こさないように、
ゆっくりゆっくりと上から足を降ろしていく。
そして、奈央の巨大な足は静かに地面に達した。

 校舎の中に避難していた司には,着地の衝撃はほとんど感じられなかった。
「危ないからもう少し待っててね」
再度、注意を促す。
奈央は気配りがよく出来る妹だと、司はつくづく思う。
それに、中学生になっても、まだ「お兄ちゃん」と呼んでくれる。
ここがよく出来た妹の証だ。
でも、未だに「ちび兄ちゃん」と呼ぶのはやめて欲しいとも思うのであった。
ここが珠にキズなのだ。



 それとなぜだか、奈央は学校用のローファーを履いてきていた。
外行きでもないのに、履き間違えてそのままに履き替えずにきたのかも知れない。
さて、本来なら制服と合間って年頃の女の子を
より魅力的に見せる黒いローファーも30メートルもの大きさともなると、
もはや要塞かとも思えてくる程の存在感がある。
加えて黒の単一色なので、重厚感、威圧感が抜群にある。
このくらいの大きさ、革の厚さがあれば、戦車からの攻撃ぐらいではキズ一つ付きそうにもなさそうだ。



 「ちび兄ちゃん、もう出て来ても大丈夫だよ」
奈央に呼ばれて、司が避難先の校舎から外に出る。
奈央は、さっきより小さくなってしゃがみ込んで待っていた。
司からしておよそ25倍程の大きさだろうか。
一応、奈央の身体は校庭の中に収まっている。
「今から私と同じくらいの大きさに戻してあげるから」
それから「縮小機」のスイッチをリバースに変えて、
司を自分と同じサイズまで大きくした。
「サンキュー、奈央」
自分を助け出してくれた妹に感謝する。
いいタイミングで奈央がやってきていなかったら、
ここで少なくとも、数時間は過ごさなければならなかっただろう。
助けを呼ぶにも、ここは地下なのでケータイの電波はまったく届かないのだ。
「じゃ、とりあえず夏姫お姉ちゃんがいるところまで戻るね」
「あぁ、そうだな。まずは、ここから出ないとダメだな」
そこから近くの「巨人」用歩道まで狭い路地を通り抜けて、
この場所で、司は本来の大きさに戻ろうとした。



 「ねぇねぇ、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。今のままの大きさで、夏姫お姉ちゃんのところに行ってみない?」
「なんでそんなことするんだ?
 俺達は見ての通り、まだ通常の6分の1の大きさなんだぞ。
 奈央だって見えるだろう?
 俺達の6倍はある夏姉ぇがど〜んとあそこにそびえ立っているのがさ」
司と奈央は、今、「箱庭」の人間のおよそ25倍の大きさだ-ウル○ラマンと同じくらいだと考えればいいだろう。



 「だからこそ、面白そうじゃない?
 今、私とお兄ちゃんは『小人』からすると、
 もちろん今は誰もいないけどね、いるとすればの話ね。
 そうすると私達は 『巨人』と同じでしょ?
 でも、夏姫お姉ちゃんからしてみると、えっーと、大体2,30センチの小人になるわけでしょ?
 こういうのって面白いなぁ〜って思うんだけど...」
「ん、まぁな。でも、俺にしてみれば面白いというよりか変な感じがするな。やっぱり。
あっ、それとも何だ?夏姉ぇと同じ大きさに戻って人形サイズの俺を見てみたいとか?」
「別に、お兄ちゃんじゃなくてもいいんだけど、それはやってみたいの」
「相手はおれじゃなくてもいいって言っても、
 夏姉ぇが今から俺と同じ大きさになるわけにもいかないんだから、
 結局は俺がやってやるしかないんだろ?」
「....うん」
「しょーがねーな、付き合ってやるよ。
 奈央がこういうことが好きなのはよく分かってるからさ。
 但し、今は無理だから後でな。それでいいか?」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
「ちょっと〜二人とも、おそ〜い」
夏姫が待ちくたびれて、シビレを切らしていた。



 司の目には夏姫の黒ストッキングに包まれた脚しか見えなかった。
足元にあるのは、長さが1メートル以上はあるパンプス。
さっきは危うくこれにぶつかって仕舞うところだった。
そこから首が痛くなるほどの角度まで曲げないと、
夏姫の顔を眺めることはできなかった。
そして今の夏姫の顔には優越感から来る笑みがこぼれていた。


                                                            *



 数字の上では、夏姫は司の約6倍の大きさでしかないが、
こうして見上げると数字以上に大きく感じる。
司が感じている威圧感はさっきとさほど変わらない。
これでもウルト○マンとほぼ同じ大きさなのに、まるで自分は「小人」のように感じるのだ。
夏姫がもし地球を侵略しようとする宇宙人なら
ウル○ラマンでも逃げ出すかもしれない。
そう考えると、ウル○ラマンと同じ大きさで地球を侵略しにくる怪獣たちは意外とフェアだ。
司の妄想が妙な結論に至った
奈央にとっては今の状態が楽しいものなのかもしれないが、
司はこの大きさのまま留まったことを後悔した。
この小ささだとどうせあの巨大怪獣女-夏姫にまた弄られるのは目に見えている。
そうだ、これから心の中で夏姫のことを
巨大怪獣女と呼んでやろうと司はひそかに決めた。
口から破壊光線は出したり、目に見えた破壊行為はしないけど
「箱庭」の住人を脅かしていることは確かだ。
実にかわいらしくない呼称。
しかしながら、今の夏姫には相応しい。
本人にこの呼び方が知られたら、何をされるかわからない。
バレたら、ただじゃ済まないだろう。
それでも司は「まっ、心の中で呼ぶだけだし夏姉ぇにバレるわけないよな」
と甘く考えていた。

 それから司と奈央は元のサイズに戻った。
そばに居た夏姫を見下ろして、
「へぇ〜、案外夏姉ぇって身長低かったんだな〜」
と夏姫の頭に手を置いてポンポンと軽く叩いていた。
元の身長では司のほうが性別の差もあってか夏姫と比べて圧倒的に高かった。
今までとは反対に司の顔に優越感から来る笑みがこぼれていた。
「むぅ〜司の癖に生意気なことするなんて...絶対に許さないんだから」
「これで形勢逆転だな、ニヤニヤ」
さっきから夏姫の威勢がなくなっている。

久しぶりに3人が揃ったことで話が盛り上がる。
さっき奈央がここに来るまでの話やら
普段司と奈央で「箱庭」でどうやって遊んでいるとか他愛もない話をした。





 「奈央ちゃん、ちょっとこっちこっち」
と夏姫が手招きをしている。
奈央が夏姫に呼ばれて傍に近付いていき、
なにやら女同士でヒソヒソ話をし始めた。
奈央が夏姫の言うことにコクコクと頷いている。




 少ししてから「司もこっちに来て」と、
夏姫が先程と同じように手招きしながら司を呼んだ。
「なんだ俺にも関係ある話なのか」と司は油断してしまった。
その油断が命取りに繋がるのだ。
相手が、策士でいじめっ子で司に対してはドSの夏姫だということを忘れていた。
司が二人がいる方に歩み寄っていく。



 夏姫ではなく、隣にいた奈央が縮小機を司に向けてスイッチを押した。
「ヘッ?」
司の体がゆっくりと小さくなっていく。
なんだか前にもこんなことがあったような気がする。
「あわわわわww」
「何驚いてんのよ。いつも小さくなって遊んでるんじゃないの?
そんなに小さくしたわけじゃないから心配しなくていいわよ、フフフ」
司は身長130センチくらいにまで、小さくなったところで縮小化が止まった。
これは、司が小学校3,4年生だった頃の身長だ。
モデル並みの170センチという長身の奈央は当然として、
女性としても低身長の夏姫よりも頭一つ分くらいは小さい。
「これなら誤って踏み潰すこともなく、
チビな司を思う存分可愛がってあげられるわね〜」
にんまりとした夏姫の顔には、悪意がたっぷりと含まれた笑みが溢れていた。
またまた形勢逆転だ。



 「さてと、さっきからずーっとお姉ちゃんに向かって生意気な口を聞いている
悪い男の子はごめんなさいをしないといけないよね?」
体格面で優位に立った夏姫。
司は冷や汗を掻きながら、夏姫を見上げている。
二人がこんな感じで向き合うのは何年ぶりだろうか。
司は、小学生の時の夏姫におもちゃにされて弄ばれたトラウマが甦ってきた。
「あわわっわぁ」
言葉にならない叫びを上げつつ逃げだそうにも、
夏姫に腕をしっかりと掴まれているので逃げ出すのは不可能だった。
「逃げようなんて思ったらダメよ。
お姉ちゃんが満足するまでしっかりと可愛がってあげるんだから♪」
やけに夏姫がお姉さんぶった振る舞いをする。
「な、奈央ー助けてくれ〜。
このままだと命とか貞操の危機だか(ry...」
「お兄ちゃんがんばってー」
奈央は無邪気な笑顔でこう返した。


                                                            *


中条司。彼の女難の人生はまだ始まったばかりかもしれない。

<つづく>

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