3.「亀裂」



 あの「箱庭海水浴」から、一週間。只今、夏真っ盛り。
真美は、再び中条家を訪れていた。門の横のインターホンを押す。ピンポーン。
「はい」応答したのは、妹の奈央の方だった。
「黒川でーす。今日、お邪魔してもいいかな?」
「いいですよ。玄関の鍵を開けに行くので、少し待ってて下さい」
30秒ほど経ってから、ガチャと鍵が開く音がして、ドアが開き、奈央が姿を見せる。
「司は、『箱庭』の中にいるの?」
「うん、お兄ちゃんは今、『箱庭』にいるんだけど、中で何か作業してるみたいで
『作業してる間は、中に入ってくるな』って言ってし…
今から、お兄ちゃんに、真美さんが来たってことを、伝えに行きますから、待ってて下さい」
「ありがとうね」奈央は、地下へと続く階段を降りていった。
数分後、奈央が戻ってきた。
司によると、自分の部屋に上がって、待っててほしいということだそうだ。
奈央に司の部屋の場所を聞くと、二階の一番奥にある部屋らしい。
二階に上がり、言われた場所に「TSUKASA」とローマ字で書かれたプレートが掛けられていた。
ドアを開けて中に入る。真美が、司の部屋に入るのは、今日が初めてだった。
部屋に入り、全体を見回す。ベッドに箪笥、パソコン机に大量のマンガが並べられている本棚。
いかにも、十代の男の子の部屋と言った感じだ。
ただ、ここは男の子の部屋なので、女の子の部屋とは違う微かなにおいがした。
そのにおいが真美には、新鮮に感じる。
というのも、真美には男兄弟が一人もおらず、加えてここ数年、同年代の異性の部屋に、入ったことがないからだ。
「案外、普通の部屋なんだ」特に、何かを期待してたわけではなかったが、そう思ってしまう。
立ちっぱなしでいるのも、辛いので、ベッドに座る。
ふと、向かいにある本棚に目をやる。
「あっ、『ロスコン』があるじゃん。しかも、最新巻の9巻。へぇ〜、司も読んでるんだ」
真美は、話題作の漫画を、勝手に本棚から取り出して、ベッドに寝転がって読み始める。
漫画を読み終えたところで、ベッドの横の平らな部分に、模型の線路と駅が置いてあることに、気がついた。
線路は、ベッドと同じくらいの長さがあり、一方の端には車止めがあり、
もう一方の端の線路は、なんと壁を突き抜け、部屋の外に延びていた。
部屋の外の部分は、トンネルと思われる構造になっている。
覗き込んでも、暗闇のせいで中の様子は全く分からない。
ずっと見ていても仕方がないので、目を離そうとしたところ、
トンネルの奥のほうで、光が見え始めた。
真美が、トンネルに耳を近づけると、モーター音が伝わってきた。
どうも、このトンネルの中を模型の電車が走っているようだ。
真美は、トンネルの出口付近に、顔を置いて待ち伏せる。

 いよいよ列車が、トンネルの出口に差し掛かる。
先頭に機関車を二両連ねた列車の姿が、見え始めた。
機関車の後ろには、多数の貨車が、連結されている。
やって来たのは、どうやら貨物列車に見立てた列車のようだ。
列車が徐々に、減速し始め、車止めの手前で完全に停まった。
先頭の機関車の運転室のドアが開き、中から小さな人間が、ホームに降りてきた。
降りてきたのは、真美の予想通り、司だった。
「悪い、少し待たせたな。今から元の大きさに戻るよ」
小さな司が、真美に向かってこう言って、すぐに真美と同じ大きさになった。
「今日は『箱庭』のレイアウトを変えるために、作業してるんだよ」と司が説明した。
「ねぇ、この線路って『箱庭』に繋がってるの?」
「あぁ、俺の部屋と『箱庭』とを直接結んでる。今日みたいに、何か作業する時には、
道具や荷物を乗せて運べるから便利だぜ」
「へぇー、『箱庭』には、まだまだ仕掛けがあるみたいだね」
「仕掛けってほどのもんでもないけどな。で、わざわざ学校帰りに何しに来たんだ?」
「久しぶりに『箱庭』に入ってみたかったけど、今日は、改装工事中みたいだし、遠慮しとくよ」
 「別に、入るだけなら問題ないが、入ってきたら作業手伝わせるぞ。手伝いたいなら話は別だが…」
「作業手伝ってもいいの?」
「真美は、手伝いたいのか?手伝ってくれるなら、うれしい限りなんだけど」
「どんな風にして、司が『箱庭』を改造しているのか気になるし、一緒に手伝ってあげる」
「わかった。準備整えて、ここから出発しよう」
それから司は、あわただしく準備をし始めた。
先程、司が乗って来た二両の機関車を付け替え、作業に必要なものを、貨車に乗せた。
「ふぅー。準備完了っと。じゃ、『小人』になってから、列車に乗るぞ」「うん」
それから、司と真美は、ベッドの上で小さくなり、
横にある駅のホームに行き、先頭の機関車に乗った。
「出発進行!」と司が掛け声をして、列車を加速させていった。

 列車は、走り出すとすぐにトンネルに入った。
トンネルの中は、急な下り勾配が続いているので、
列車は、ブレーキを掛けて、ゆっくりとした速度を保っていた。
「このトンネルって、どれくらいの長さがあるの?」と真美が質問してきた。
「今の俺達のサイズからすれば、10km弱ぐらいかな」
「結構、長いんだね」
トンネルに入って、およそ15分。ようやく、出口が見えてきた。
「もうすぐ、トンネルの出口だ」と言い、列車はトンネルを抜けた。
「トンネルを抜けると、そこは『箱庭』だった...なーんてな」
ある有名な文学作品の冒頭をもじって、司が言った。
トンネルを抜けても、下りの急勾配は続いていた。
「ところで、箱庭のどこに出たの?」
「左側の車窓を見れば、大体分かると思うな」
真美は、言われた通りに、左側の景色を見てみる。
車窓からは、眼下に広がる「箱庭」の小さな街並みが見えた。
「ここからの眺めも綺麗ね」
「この線路は、『箱庭』の壁伝いに走っていてるんだよ。
ここぐらいしか、走らせられる場所がなかったんだけど、
副産物で、物凄く眺めがいい路線になったんだ」と司は、自慢げに語る。 
「それにしても、司の部屋を出てから、ずっと急な下り坂が続いてるね」
「何せ、俺の部屋と『箱庭』との900mもある計算だからな。トンネル内で10km、
『箱庭』に入ってからも10km。併せて、20kmも『横軽』もびっくりな急勾配が続くんだ」
「ヨコヤマ・カルロスさん?」
「勝手に日系人を作り出さないの。
『横軽』って言うのはだな、軽井沢は知ってるだろ」
「うん、避暑地で有名な場所だよね」
「その軽井沢と、隣の横川駅との間に、ここと同じくらいの急な峠があって、
鉄道ファンの間では馴染み深い場所だったんだよ」
「だったってことは…もうないの?」
「長野新幹線が開通して、軽井沢横川間の鉄道は廃止されたんだ」
「ふーん。無くなっちゃったんだ」
「で、ここに再現したってわけ」
「『箱庭』って羨ましいな。自分の好きなように、世界を創り出せるんだから」
会話の間にも、二人が乗った列車はどんどん下っていく。
「ところで、どこに向かってるの?さっきまで、司が作業してた場所?」
「そこは、後で行く。でも、作業を手伝ってもらう前に、
真美には模型の扱い方を知ってもらいたいだ。そんなに難しいことじゃないけど」
「そういえば、模型の扱い方、教えてもらってなかったね」
「ちなみに、さっきまで俺が作業していた場所はー」
真美は、司の指差す場所を見た。
その一角だけ、模型の「地」が剥きだしになっていて、やけに巨大なトンカチが置かれていた。

 司の部屋を出発してから、30分は経っただろうか。
長かった下り勾配が、ようやく終わり、平坦な場所を走っている。
左手から本線と思われる高架線路が近付き、合流した。
司によると「あの本線の先が、改造中の区画に繋がってる」らしい。
後程、またここを通過することになるのだろう。
10分程本線を走行した後、列車が支線に入った。
「もうすぐ最初の目的地に着くぞ。そこで一時間位掛けて模型の扱い方を教えるからな。
まっ、丁寧にさえ扱えば、特に問題ないから」
目的地へと延びる単線の支線に入った列車は、いつの間にか、家々の軒先をかすめるように走っていた。
「随分、狭いところを走ってるね。何もこんな狭い隙間みたいなところに線路を通さなくてもいいんじゃないの?」
真美は、運転手兼「箱庭」の創造主に言った。
「何を言うか、貴様!!それがよいではないか」
やけに熱のこもった言い方で自分の好みを述べる司。
「それに、この先道路の上を走る区間があってだな…」
「そんな風に、めちゃくちゃに線路を引いたから、着くのに時間がかかるのよ」
「うるさいな〜、男のロマンが分からん奴だな」
何か今日は、二人の意見がうまく合わない。
そんな日もたまにはあるのかも知れない。
二人が口喧嘩をしてる間に、列車は道路(に引かれた線路)の上を走行していた。
路面電車でもないのに、道路を走っているのは変な感じだ。
路面走行区間を抜け、やっと列車は目的地に着いた。
司の部屋を出発してから一時間近く経過していた。
周囲にある、停車中の大量の貨車、工場の煙突や大きな倉庫などから察するに、ここは工場地帯の貨物駅を模した場所のようだ。
機関車から、まず真美が降りて、続いて司も線路に降りた。
「早速だが、巨大化してくれ。お前が『巨人』にならなきゃ、何も出来ないしな」
真美は、言われた通りに巨大化し始めた。
真美の体は、瞬く間に近くにあった工場の煙突より高くなり、
ついには、真美の膝より高い建物は見当たらなくなっていた。
ブレザーの制服を着た身長225mの巨大女の姿が、そこにはあった。
本人が気に入るかは別として、今の真美には、
さしずめ「臨海工業地帯に出現した巨大女子高生」という言葉が、よく似合うだろう。
真美が、「箱庭」に「巨人」として出現したのは、今回で二回目である。
前回、「巨人」だった時間はごくわずかだったので、実質初めてと言ってもよい。
それゆえ、司は巨大な真美の姿を見て、奈央が巨大化してる時とは違った感じを受けた。
いつもは身長150cm弱の真美が、今は身長225mの巨大な少女になっているからであろう。
とても同じ人間とは思えない迫力がある。

 「これから、どうすればいいの?」
「うまいこと場所を見つけて、俯せに寝てくれ」
「オッケー」
「巨人」の真美は、周囲の小さな建物に、気をつけながら広大な貨物駅の線路の上に、俯せに寝そべった。
いくらここが、広大な場所とは言え、今の真美にとっては広くはない。
「これで、いいの?」と言って真美が轟音を立てて寝そべる。
ブラウスの隙間から、ピンクのブラジャーに包まれた巨大な胸の谷間が、はっきりと司の目に飛び込んできた。
「真美の胸って、こんなに大きかったか?いくら巨人とは言え、あの大きさは犯罪...いや災害レベルだ。
あのガスタンクのような大きさの巨大なおっぱいは、『箱庭』を襲う脅威でしかない。
にしても、巨大奈央は見慣れてるけど...言葉では表しにくいけど...
巨大真美を見てるとなんかこうムラムラしてくるんだよな...なんでだろ?」
そんな考えが独りでに浮かんできた。
「それにしても今の司、すっごくちっちゃっくてかわいい〜」
「むっ、それ、誉めてるのか?」
「うん、誉めてるよ。さっきまで、私に向かってあんなに憎たらしいことを、言ってた男の子が、
こんなに小さくてかわいい『小人』さんに、なってるんだもん。
お姉さん、さっきの君の悪態、そのかわいさに免じて許しちゃう♪」
「勝手に、年上のお姉さん気取りになるな、この巨大女めっ」
「あらあら、『小人』の司くんは、どうやら自分の立場がよくわかってないみたいね。立場の違いを、お姉さんが、教えてあげる」
そういって、真美は、司にしてみれば巨大な指の先っちよで、ちょんちょんっと彼の体を軽く弄んでやった。
司にとっては弄ばれるとかいうレベルではなかったが。
「巨大女」の指先で、軽く弄ばれた司は、あまりの力の差に恐怖を感じたのか、急に卑屈になって
「真美女王様、ごめんなさい。ごめんなさい」と一心不乱に謝り始めた。
司の態度の急激な変化に、真美は戸惑った。
それにしても「真美女王様って…」一週間前の海水浴の時を思い出した。
あの時、悪戯をした司は、妹の奈央に「奈央様、ごめんなさい」と言って謝罪させられた。
もしかしたら、この時に、司は妙な快感を知ってしまったのかも知れない。
にしても、「真美女王様」には真美自身、苦笑する。
「奈央様」よりも一層、卑屈になってる。
 真美は、サディストではないので「真美様」とか「真美女王様」と呼ばれても、
全然嬉しくないし、司がドMの変態野郎になっても困る。
司には、普通の男の子であってほしい、そう思う真美だった。
「あれっ、なんで私、司が普通の男の子であってほしいなんて思ったんだろう…」
ここまで考えて、自分の司に対する感情に気付く。
「私が、司のことが…まさか、ね。気のせい、気のせい」と否定しようとするとともに、
司が自分のことを、どう思ってるのかも気になり始めたのだった。

 「そうだ、司を元の状態に戻しあげなきゃ。あのドMモードでいられるとこっちが困るしね」
司を正気に戻してあげる真美。
「はっ」っと、司の精神は正常に戻った。
「あれっ、俺なんでこんなところで寝ちゃったんだろ。真美の指先で弄ばれてからの記憶がない」
「今まで、司は気絶してたよ」真美は、あえて司の話に合わせて、司の「真美女王様」発言や「ドMモード」のことは黙っておいた。
言っちゃうとかわいそうだしね。
「気絶なんかしてないで、早く模型の扱い方を教えてよ」
「そうだったな。では、まず車両の持ち方から。車両の胴体の真ん中あたりを、親指と人差し指で摘まんで持つのが、正しい持ち方だ。
あと持つのは、一両ずつな。試しに、さっき俺が言った通りに、列車の最後尾の貨車を持ってみてくれ」
司は寝そべっている真美の顔を見上げて、言った。
慎重に、真美は最後尾の貨車を持ち上げる。というよりかは、摘み上げるかっこうだ。
それくらい真美にとって、貨車は小さいのだ。
「うん、ちゃんと持ち方はできてるな」
「ねぇ、この貨車、ずっと持ったままにするの?」
「次に、車両を線路に乗せるやり方を教えるけど、持ってるのしんどかったら、ゆっくり下ろして置けばいい」
真美は、持つのに疲れたのか、すぐに貨車を置いた。
「車両を、上手く線路に乗せるには、あそこに置いてある緑色の道具を使うんだ」
真美は、司が言ってた道具を見つけた。先程、手元に置いた貨車を再び手に取り、傾斜のついた緑色の道具に乗せた。
貨車は、スーッと滑るようにして線路に乗った。
「真美は手先が器用だし、模型の扱うにしても要領がいいな」司が真美を誉める。
「えへへ」と真美は照れ笑いした。
「これで、模型の扱い方の講習は終わり。後は、練習を兼ねた実戦で慣れればよし。
では、この後使う材料を積んだ貨車が、ここに何両か置いてあるから、
乗ってきた列車の後ろに、連結する作業を『巨大女子高生』の黒川真美さんに、手伝って貰おうかな?」
「そこまでして、小人さんに頼まれると断るわけにもいかないから手伝ってあげる♪」
「まずは...」
次々に、司は真美に指示していく。
真美の方も、指示通りに、貨車を指先で軽く摘み上げては、線路に下ろしていく。
女の子の色白の細い腕が、軽々と貨車を摘み上げる様は圧巻だ。

 あっという間に、貨車の組み替え作業が終わった。
「作業終わったよ、司」
「じゃ、次は...」
また司は、真美に貨車の組み換え作業を命じた。
「また、同じことするの?」
「練習だよ、練習」
「練習って言って、雑用押し付けてるんじゃないよね?」
「うっせーな、やれっつたらやれよ,この巨大女」
嫌味ったらしく言い放つ司。
真美は、そんな司の言い方にカチンときた。
「なによその言い方!めんどくさい作業を、全部私に命令して、押し付けたってわけ?」
「別に、押し付けてるわけじゃねーよ。練習のついでにやってもらっただけなのに」
お互い虫の居所が悪かったのか、さらに不毛な言い争いはヒートアップ。
お互いを詰り合う言葉が飛び交った。
この二人、普段はなんだかんだで仲がよく、二人一緒にいるとクラスメートから「夫婦仲がいいね〜」などと茶化されるのだが、
たま〜に今みたいに大喧嘩をすることがあって、そんな時は「おっ、夫婦喧嘩が始まった、始まった」などと揶揄される。
さっきから言い争ってるうちに、だんだん互いに自分が悪かったかなと思いはじめるも、引くに引けぬ口喧嘩。
ここまでは司の方が分が悪かったのだが、真美が「箱庭」の中では、絶対に口にしてはならない言葉を言ってしまったのだ。
「そこまで、司が私の方が悪いって言うんだったらね、こうしてやる」
そういうと、真美は、止まっていた貨車に片足を軽く押し当てた。
「アンタが先に謝らないならね、コレ、踏み潰すわ。今の私は、身長225M、体重13万トンの巨人なのよ。
こんなに小さなおもちゃの貨車なんてすぐに踏み潰せるんだから。
それに踏み潰されるのは、この貨車だけじゃ、済まないかもね。
今の私なら、こんなおもちゃの街は徹底的に踏み潰して壊せるのよ。
ねぇ、わかった?わかったんなら、早く謝んなさいよ。
そうよ、さっきみたいに土下座しながら『真美女王様、ごめんなさい。僕が全部悪いです』って言えたら許してあげるわ」
そこまで、一気に真美は言い切ってから自分が言ってしまったことの重大さに気付いた。
「『踏み潰す』なんて、ちょっと司を困らせようとして、軽く言っちゃったけど…
でも、実際にそんなことしたら…一両のおもちゃの貨車とは言え、取り返しのつかないことになっちゃう…
それに『箱庭』のほとんどは司のお父さんが創ったものだから…だから…」
自らの発言の重大さに、真美の足が軽く震えだした。と、同時になぜか真美の体が小さくなりはじめた。

 「緊急避難用のスイッチで縮小化させてもらったよ。
真美、お前が貨車を踏み潰そうとする直前まで、俺は自分のせいで喧嘩になってしまったのだからお前に謝ろうと思ってた。
でも、先に謝りたくないなんて意地を張ってしまった。一番初めの発言に関しては、
『真美女王様、ごめんなさい。僕が全部悪いです』と俺が謝罪してお前の気が済むのならそうしよう。
でもな、その後の真美の言葉を聞いて、正直耳を疑ったよ。
なにせ『こんなおもちゃの街壊してやる』だもんな。
俺が、どれだけこの『箱庭』を大切にしてるか、真美は分かってくれてると思ってたんだけどな。
俺自身を詰ったり、蔑んだりするぶんには全然構わないが、
『箱庭』を俺への嫌がらせで壊そうとするって言うなんてひどくないか?
そんな発言は、許せない。
あっ、そうそうそんなに踏み潰してみたかったら、この辺り一帯は俺が創った場所だから別に壊したきゃ、壊せばいいよ。
でも、もしこの後お前がここを破壊しつくしてて、奈央がその理由を聞いてきたら、俺は正直に言うつもりだ。
奈央も、この『箱庭』が大好きだからな。
『箱庭』を壊そうとする奴は、たとえ姉のように慕ってる人間でも嫌いになるだろうな。
さっきも言った通り、壊したければ壊せばいい。
この『箱庭』を壊してもいいおもちゃだと考えてる奴には、『箱庭』に入る資格はない。
今日のところは、早くここから出ていってくれ」
その時、真美の体が再び「巨人」サイズになった。
「緊急避難用だから、元に戻ったようだな。『巨人』に戻ったことだし、踏み潰すなり帰るなり好きにしろ。
俺は、これからさっきのルートで帰るから。じぁな」
司は機関車に乗り込み、一人で帰っていった。
貨物駅に一人取り残された制服姿の巨大な女の子。
彼女は、立ち上がり、少し離れた場所にある『箱庭』の出口に向かった。
出口に向かって歩いていく巨大な少女の目には、大粒の涙が溢れていた。


<つづく>

TOPに戻る