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3-2


 高速道路を覆うように真上にしゃがみこんでいる由佳。
この姿勢でも手をちょっと伸ばすだけで、天戸川に架かる高速道路の橋に十分に届く。
そして由佳はその通りに腕を伸ばした。
橋と空の間に由佳の腕が伸びてきて、影が下を覆い隠す。
いくら小柄な由佳の細腕とはいえ、1000倍だと言うことを忘れてはいけない。
この小さな世界では何よりも巨大な存在であることは確かだ。

 

 さっきの体勢からやや前屈み気味になって橋を上から掴んだ。
(あっ...感触がさっきと違う)
由佳は強度の変化に気が付いた。
まだ硬いとは到底いえるレベルではないが、さっきの触れただけで崩壊してしまうという事態にはならなかった。
しかし、徐々に力が加えられていき、強化金属の柱がゆがみ始めた。
なんとか歪みは止まり、形は保っている状態で崩壊は免れている状況だ。





 そして、その歪みは最後まで元に戻ることはなく、
ついに橋梁と橋脚の接合部が崩壊しないように想定されていた以上の強大な力で破壊された。
それとともにゾクりとする破壊音が周囲に響き渡る。
震度7の激震にも耐えられるように建設された橋も、
まさか身長1500メートルの巨大女が襲撃してくるなんてことは想定していなかった。
橋全体を一掴みにされて、地上から引き剥がされるなんて有り得ないのだ。
だが、現実に小人たちの眼前では巨大女の襲撃が進行しているのだ。




  智之の操作で強度が増した橋は由佳の巨大な手に掴まれても、
今度は橋梁本体自体が大きく壊れることはなかった。
地上からもぎ取られたのは天戸川の川幅とほぼ同じ、600メートル程の区間だ。



 由佳が橋を手に持って眺めていると気付かぬ内に、橋に傾斜が生まれていた。
橋の路上に放置されていた車が重力に引かれてじりじりと動き出した。
その変化に由佳も気づいて、観察するかのようにじっと見つめる。




 小さな砂粒のような車が一台一台と真下に向けて落下していく。
橋の切れ端から空中を自由落下していく車...
地上に達する頃には時速数百キロまで加速している。
一つ一つが質量爆弾となって地上に降り注いでいた。
爆発によって生じた真っ赤な炎が地上に点々と広がる。
濛々と黒煙が立ち上ってきた。
(うわぁ...真っ黒な煙が出てきちゃった...)

いくら小さいとはいえ、吸い込んでしまったら何だか体に悪い気がする。
あまりにも現実にそっくりなため、由佳は混同してしまった。
(煙いやぁ....)
由佳の口元まで煙が立ち上ってくることなどなかったのだが、
それでも煙自体が嫌だったので燃え残りの花火を消すように
巨大なローファーで車が落下した区画を踏み躙って消していった。





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 (ところで...この橋ってどうしたらいいの?)
由佳はまだ橋を両手に抱えていた。
(あっ...そういえば壊すことだけ考えてたから剥ぎ取った後のこと忘れてた!)
(もう...ちゃんとストーリー作るなら作っておいてよ!)
(じゃ、今考える!)
智之の行き当たりばったりな進行に由佳は途惑っていた。
(ねぇ...早く決めてよ...コレ、持ってるのしんどいよ...)
いくら小さいものとは言え、由佳の細い腕で持ち続けるのは辛かった。
(よし、それじゃその橋を投げてみようか!これだけ大きな橋が投げられたら...)




 ポイッ...
智之が由佳に投げてみよっかという提案をした段階で投げてしまった。
(もう知らない...しんどかったもん)
(あっ!)
智之は思わず声を上げたまま固まってしまい、
空中を移動していく大きな物体をただ目で追っていく...






 「城壁」の内部は一応、まだ大きな被害は被っていなかったのだが、
由佳が橋を放り投げたために、また新たな惨事が引き起こされた。
長さ600メートルにも及ぶ橋は空中を移動している最中に2つに割れた。
やや大きめのと小さめの「破片」だ。
放物線を描いて飛んでいく先にあるのは..またしても住宅密集地だった。
地上に到達した橋がドーンという音を立て、周囲からもくもくと土煙が舞い上がった。



 被害を受けた地域はやはり橋と同じように細長くなっていた。
だが、よくよく計算してみれば由佳が数歩歩けばこれより2、3倍の被害は出るだろう。
(これくらい巨大になると直接踏み潰した方がより大きな被害をもたらすのか...)
智之の脳内の巨大娘知識にまた一つデータが加わった。
ふと、由佳を見上げてみると何かいらない物を捨てた後のように手をパンパンと叩いて付いた埃を落としていた...







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 (由佳も結構残酷になってきたよな〜
 由佳が今、橋を投げたせいでいっぱい小人さんの街が壊れたんだからな〜)
(命令した方がよく言えるね。ふ〜んだ)
(オレはただ橋を壊して欲しいって言っただけなのにな)
(でも、テレパスで智之が投げて欲しそうにしたもん!だからやったんだから!)
(でも、最終的に住宅地に向かって投げたのは由佳じゃん。
 壊したいって思わないと出来ないんじゃないの?)
(.........フンだ、智之のイジワル)
由佳が拗ねてしまった。
弄られ度の限界値を超えてしまうと、由佳はいつもこうして拗ねてしまうのだ。
拗ねたら機嫌を元に戻してあげないと、後々面倒なことになる。
一部には、この拗ねてる間の言動がかわいいという見方もあるが、それは置いておいて...



 由佳が何をしているかというと、まだ破壊されずに残っている部分をゲシゲシと攻撃して被害を拡大させていた。




 (あーっ!もうしょうがねえな...)
智之はおもむろにアクションを起こした。
この段階で由佳と同じ大きさになって「ゲーム」の世界に戻るのは予定では考えていなかった。
由佳の機嫌が悪くなっては元も子もないのだ。


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 由佳の目の前に智之が現れた。
それも由佳と同じサイズ、1000倍の大巨人となって...
当然ながら智之の足の下にあった街並みは押し潰されている。



 「.....や〜っと来てくれたね...ふん!」
「あっ、もしかして怒ってるのか?」
「別に...怒ってないけど...」
怒ってないという言葉とは裏腹にずいぶんとご機嫌斜めのご様子である。
この状態から由佳の機嫌を直すのは一苦労だ。
「んーでも、さっきさびしそうな顔はしてたけどなー
オレに会いたくてたまらないみたいな感じの表情でさ」
「別にしてないもん...」
由佳はつんとして智之から顔を背けた。
さっきと同じようにまた足元の小さな街並みをゲシゲシと攻撃している。




 いつになったら由佳がデレになるのか...
それは智之の行い次第だ。
「ったく、しょうがない奴だな〜」
智之が由佳の腕をつかんで自分のほうに振り向かせた。
「何よ...」
そして智之は人差し指で由佳のほっぺたを突っついた。
「機嫌直せよ〜。由佳の希望通りにオレが会いに来たんだぜ〜」
由佳の色白のほっぺたを指先でくりくりと弄っている。






 さすがに由佳の方もムカッときたのか、
「うぅぅ〜うりゃ!!」と謎の声を上げ、手を伸ばして反撃に転じた。
「おっと...」
しかし残念ながら、彼女の反撃は智之が一歩下がってあっさりとかわされてしまった。
彼の今の動きで、またもや数十戸の家々が踏み潰されてしまった。
「残念だったな」
智之は勝ち誇った表情で由佳の頭を撫でていた。
こうしてなでなでするのはツンとしている由佳をデレ状態に戻すことの出来る特効薬だ。
「むぅぅぅ〜」
まだ何か不満があるのか文句を言っている。
が、そのまましばらく由佳は無言のまま、おとなしく撫でられていた。
さらさらの髪の毛の感触が心地よかった。






 しばらくすると由佳がゆっくりと智之の方へと近づいていき、体に抱きついた。
「なんだやっぱりさびしかったんじゃん♪」
智之は段々といつも通りの素直さに戻ってきた由佳がかわいくて仕方なかった。
「....うっさい...」
言葉にすこし棘があるものの由佳の方も段々と機嫌が戻ってきたようだ。
もう一段階、体を寄せてきた。
両者の体が密着し、由佳のDカップのおっぱいが智之の体にむにむにっと押し付けられる。
「機嫌直ったか?」
「私にいろいろコスプレさせておいて、なおかつ巨大化させておきながら見てるだけの放置プレイするんだもん...
 そりゃ誰でも不機嫌にもなるって...」
「それでもオレのことを嫌いにはならないんだよなー。そうだろ?」
「うっ.....」
智之はやけに含みのある笑顔で由佳を見下ろしていた。





 「そうじゃなきゃ、抱きついてきたりしないからな。
それにだってな〜、この前のエッチした時に〜アレだけオレのこと好き好き言ってたもんな〜」
「あ、あれはその....智之のばかっ!」
自分でも思い出してきたのか、由佳のほっぺたはピンクになっていた。
それから由佳がぎゅっとさっきよりも力強く抱きついてきた。
「アレだけ弄られて攻められている時に、好き好き言えるんだから...相当、オレのこと好きなんだ〜」
「うぅ...ともゆきのばかぁ〜」
「それからもう一つ」
「何?」
「今さ、オレ達がどうゆう状況下にあるか忘れてないか?」
智之に言われて、由佳はふと平常心に戻り周囲と足元を見回した。
当たり前のことだが、そこは二人の家でもホテルでもなく、1000分の1の極々小さなサイズの街の上なのだ。
真下はもちろん、この超巨大カップルを見上げられるありとあらゆる場所からは
恐らく今の智之と由佳のいちゃいちゃは全て観察できたであろう。
もっともそれは、そこにまだ被害を被らずに生き残っている生命体がいたとしたらの話ではあるが。
由佳の恥ずかしさの段階はもう一段ランクアップした。



                                                            *



 「さてと...オレは戻るな」
「あっ、戻るんだ...」
「まだまだ由佳の破壊を小人さん視点から見てみたいし〜
 大浜都心部を徹底的に破壊するという一大イベントが残ってるから、ガンバレよ。メイドさん♪」
「女子高生なのか、メイドさんなのかはっきりさせないの?」
「そりゃだって、オレがどっちも好きだから。
 仮にブレザーのコスプレかメイド服のコスプレのどっちかを選べなんて言われた選べないなー」
「私が呆れるくらい好きだもんね♪」
「後それから...」
「ん、なに〜?」
「さっきは悪かった。調子に乗ってた。
 ついカッとなってやった。今は反省してる」
「本当は反省してないでしょ?その言い方だと」
「あっ、バレたか...」
「バレバレ。別にいいよ。あれくらいは。
 智之が会いに来てくれたから許してあげる♪」
予定を変更してまで会いに行ってやったのが功を奏したことになる。
由佳の機嫌が直って何よりである。




 「それと...大浜都心部を壊して欲しいということは、あっちに行ってもいいよね?」
由佳が指で指し示すのは川を挟んだ対岸-大浜市中心部-だ。
人口350万人、一つの市としては国内第二位の巨大都市。





 「もちろん!ここからが本当のお楽しみ。いよいよ大浜中心部に侵略だー、やっほっい!
これから超高層ビルとかも由佳のおっきな足で一気に...」
「あ〜、また変な想像してる〜。へんた〜い...」
「し、仕方ねーだろ...コレは生まれつきなんだから...」
「言い訳してもダメ!智之はヘンタイなんだから♪」
「そういう由佳だってさっきから随分と楽しそうに街を壊してるように見えるんだけどな〜」
「そ、それはヘンタイって言わないもん...ヘンタイの智之とは違うの!」
由佳は必死に否定していたが、智之はその反応を満足げに眺めていた....






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(よいしょっと...)



 由佳はあの大きな天戸川をたったの一歩で渡ってしまった。
ちょっと大股で歩けば大したことはなかった。
対岸に踏み出した長さ230メートルの右足は、同時に「城壁」の一部も踏み潰してしまった。
「城壁」に備えられていた巨大な侵入者に対して自動防衛設備も一応の抵抗は試みたが、
空が降ってくるかのような由佳の踏み潰し攻撃に対して何のダメージを与えることもなくただただ無力であった。
そして、あえなく巨大ローファーの下敷きとなった。
100倍サイズの由佳では越えられない壁を1000倍サイズで踏み潰す。




 築かれてからおよそ数百年。
これまで一度たりもほんの一部でも崩されたことのなかった、「城壁」を由佳は上から完膚なきまでに潰した。
「城壁」が破壊されたことで発生した土煙が辺り一帯の空間を覆いつくした。




 すべての破壊が規格外の行為だった。





 こうして天戸川に架かる三本の大きな橋梁が破壊され、
同時に由佳の侵攻を全く防ぐことが出来なかった「南壁」も役に立たず、あっさりと打ち破られるという結果に終わった。
橋を落とされたことで、小人たちが大浜市から南に向けて脱出することはほぼ不可能になった。
逃げれたとしても、由佳は南の方から襲来してきたのだ。
大浜より南はどこもかしこも巨大な由佳に踏みにじられた惨劇の跡地と化しているだけだった....




 当然ながら反対側の北側はこれから由佳が襲撃するのだ....
もはや小人たちが逃れる場所などないのだ....




                                                            *





 由佳は1500メートルの高みから大浜の街並みを見下ろしていた。
この大都市を今から自分が壊滅させるのだ。
由佳の脳裏に午前中見た過去の「ゲーム」の記録映像が甦った。
圧倒的な力で都市を蹂躙していく自分の姿。
智之には隠しておきたかったが、事実、その光景に由佳は今まで感じたことのなかった種類の感覚を覚えていた。
破壊の快感、蹂躙の快感、優越の快感、支配の快感...
一度、快感を知ってしまえば、再び快感を求めようとする欲望が心の奥底から蠢いてくる。
欲望を満たせば、心は満足する。
だが、それは一時的なものに過ぎない。
また快感を欲する欲望が心の底で疼き始めるのだ。
そして今も...




<つづく>