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1.
「ゲーム」を始めた時とは逆に、意識が現実に戻ってきたことが分かる。
まるで夢が不意に終わり、眠りから醒めるような感じだ。
意識がはっきりしてきたところで、由佳がヘッドレストを取り外そうとしたら、それが勝手に持ち上がった。
「由佳、お疲れ様〜」
先に終わってた智之が取ってくれたみたいだった。
「はぁ〜、巨大な女の子になりきるのに疲れちゃった〜」
「そうはいいつつ、由佳もだんだんと開放的になって楽しそうだったけどね。
楽しいことは疲れるっていうし、間違ってはいないか…」
「うぅ〜、そういう風に言われたら恥ずかしいの〜」
「ニヤニヤ」
「もうわざわざ声に出して言わなくてもいいじゃない!!」
「いや〜ほんとよかった〜。言葉で説明できないくらいコーフンしたよ。
その証拠にほら…」
智之が由佳の腕を掴み、ある場所まで誘導した。
「えっ…!?」
由佳は一瞬戸惑った。
「『ゲーム』終わって少ししたけど…まだこんなんになったままだぜ」
智之は由佳にテントが張られている場所を触らせていた。
「なっ…なにしてんのよ!?」
あわてて、由佳は智之の手を振りほどいた。
「ここがこうなったのは由佳のせいだからな。
自分がしたことの影響がどんなものかを知ってもらいたくってね♪」
智之の下ネタ「口撃」に、由佳は恥ずかしさのあまり押し黙ってしまった。
その様子を見て、智之はニヤニヤしている。
この二人にはよくあるやり取りだ。
智之は、由佳が下ネタに対して怒ったりするのではなく、
顔を赤らめて恥ずかしがるのを見るのが好きだった。
周囲に他人がいる時は、平然と受け流すのに、
智之に直接されるとまるで反応が違ってくる。
そして、そこに付込んで、智之は由佳と二人っきりでいるときは、
コレをついついやってしまうのだ。
「由佳〜♪」
「え、何?」
智之は振り返った由佳をそのまま抱き寄せた。
逃げられないように力強くぎゅっと抱き締める。
さらさらとした髪の毛から出る女の子特有の甘い香りが智之の鼻腔をくすぐり、柔らかな身体の感触が心地よい。
「あっ…」
「とりあえず感謝のキモチ♪」
「もう…ゴーインなんだから…」
由佳は上目使いで智之を見上げた。
気を良くした智之は由佳の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「うん。かわいいかわいい」
「ちょっと!!髪の毛乱れちゃうじゃない!!」
「大丈夫。そうならない程度にしておいたから…」
「ほんと…しょーがないわね…そんなのだから…」
「だから…?」
「…だぁ〜い好き♪」
「オレもだ♪」
智之が腕の輪を解き、由佳が背伸びする…
そして、そのまま二人はキスをした…
「なんか飲み物取ってこようか?」
由佳を弄りを楽しんだところで、智之が提案した。
「ゲーム」を設置してる店舗はカラオケ屋やマンガ喫茶と同様の形態が多い。
中でも今、二人がいるこの店は、ドリンクバー形式を採っている。
「ううん、私も一緒に行く」
二人は手を繋いで部屋を出ていった…
*
智之がコーラを、由佳は紅茶をそれぞれ持って個室に戻ってきた。
「これ飲み終わったら、また始めよっか?」
「うん…」
「今度はさっきの続きからだから…ギガサイズ由佳の攻撃が見れる!!やったー!!」
「ぎが…さいず?何それ?」
「ギガサイズっていうのは、さっきの最後みたいに1000倍くらいの大きさのことだよ。ニヒヒヒ」
「ふ〜んそういう言い方あるんだ…」
「ささ、ある程度休憩もしたことだし、そろそろ再開しよっか?
女子高生の制服を着たギガサイズ巨大メイドさんの侵略再開♪」
智之は小柄な由佳の体を押して、「ゲーム」の座席に座らせた。
「またよろしくおねがいな、由佳」
そう言って、智之は由佳の分のヘッドレストを下げた。
「ククク、これでまた『ゲーム』が再開できるぜ。
まだちょっとツンツンしてるけど、だんだんと由佳もハマってきてるみたいだしな…
これから先も楽しみだな…」
智之は「ゲーム」の操作画面が表示されているタッチパネルを操作し、「コンティニュー」を選択した。
*
(さてと…予定通りのポイントにやってこれたな…)
「ゲーム」の世界に戻ってきた智之は周囲を見渡して確認した。
彼がいる場所の周囲は、緑の木々で囲まれている。
智之がやってきたのは、大浜と川山の県境にある山の尾根だ。
このプレイは先程の中断したプレイの続きなので、当然この山の上空にあるのは…
(うへへ、由佳のスカートの中、覗き放題だ…)
ということになる。
今、由佳は智之好みの女子高生のコスプレをした上で、1000倍サイズに巨大化しており、
足と足の間にこの山を挟んでそびえ立っている。
山の尾根にいる智之が真上を見上げればそこにあるのは、
当然、由佳のスカートの内側の空間だ。
智之の横には由佳の巨体を支える脚がそびえ立ち、脚を包む白いソックスが智之の欲情をそそる。
一番奥に見える由佳のぱんつのシワが、さらに智之を興奮させた。
(由佳はオレが真下からスカートの中を覗き込んでいるってことをわかってるのかな…?)
「ねぇ〜、智之〜。今度は、何をしてあげたらいいの?
ただ立っているだけってのもつまらないでしょ?」
そうこうしているうちに、由佳の方からこれからの事を聞いてきた。
「あっ、わりぃ。言うの忘れてたな」
(どうやら、オレがここにいることは気付かれてないようだな…)
「あ、あのね、その前にちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「うん、何だ?」
「智之は私のこと残酷な女の子だとか思ってる?」
「へっ?」
「だからその…おっきな私が街とか小人を踏み潰したりするのが好きだとしたら、
智之がそういう風に思ったりするんじゃないかって…」
「それはないね」と智之が言い切った。
「だって、そもそもオレが無理言って由佳に巨大化してもらってるワケだから、
残酷とか思ったりすることはまずありえないな」
「それなら、目一杯私の好きなように壊しちゃっていいんだよね?」
「どうぞどうぞ」
「じゃ、早速いくね…」
*
由佳は、智之のリクエストを聞く前におもむろに左足を高く上げ始めていた。狙いはただ一つ。
「ゲーム」を再開して、いきなりアクションを起こせばかなりのインパクトが期待できる。
智之のリクエストを聞く前に実行するのは、「自分は、簡単に言いなりにはならないよ」というメッセージを含ませるため…
持ち上がっていく由佳の巨大なローファーの底から次々に、
押し潰されたがために判別不可能な物体が落下していく。
小人たちから見れば、高速で上昇していく靴に伴い、上昇気流が地上に吹き荒れる。
高度数百メートルまで上昇して動きが止まった。
その時、由佳は自分では気付いていなかったが、彼女の顔に自然と笑みが浮かんでいた。
当然、由佳はこのまま足を振り下ろせばどうなるか分かっていた。
その時の光景を容易に頭に浮かべることも出来る。
だからこそ、実行するのだ。
ここが「ゲーム」というヴァーチャルリアリティーの世界で、リスクもない。
なおさら、実行しやすい。
由佳は230メートルもある巨大な足を高度300メートルから、
川山市の中心部から少し離れた地点に向けて振り下ろした。
*
1000倍サイズの由佳が足を振り下ろす少し前。
まだ、由佳が100倍サイズだった頃。
川山市周辺にいて、奇跡的に生き残ってた小人たちは巨大女子高生の行方を見守っていた。
市街地は巨大女子高生が起こした津波と、直にこの街にやってきた時の攻撃とで壊滅的な被害を受けた。
瓦礫の下に閉じ込められていたり、怪我をした人の救助作業もままならない。
救助作業に必要な知識も道具も人手もない中、小人たちは絶望に打ちひしがれていた。
そして、憾みの感情が篭った目で、遠くにかすかに見える巨大女子高生を見つめていた。
しかし、その時はやってきた。
巨大女子高生がこの街から去ったことにより、これ以上の被害が出なくて済むとわずかな希望を胸に宿した小人たち。
だが、彼らは再度、地獄の底に突き落とされるような光景を見せつけられる。
あの巨大女子高生がさらに巨大化しはじめたのだ。
遠く微かにしか見えていなかったその姿が徐々に大きくなっている。
川山市の北に位置する県境の山の稜線をあっという間に越しても、巨大化は止まらない。
稜線と並ぶ巨大女子高生の体の部位が頭、肩、胸、腰とだんだん下がってくる。
それでも巨大化が止まることはなく、
ついにスカートの裾よりも山の方が小さくなってしまった…
川山市をはるか上空から見下ろす巨大な女子高生…
黒のローファー、白いソックスを履いた脚、チェック柄のスカート、ブレザーの上着、首回りのリボン…
全てが既存の言葉では表せないくらい巨大だ。
あれらの小物でさえ、この街にあるどの建物よりも大きい。
しかし、一部の小人は巨大女子高生の表情が曇っていることに気付いていた…
*
巨大な女子高生がさらに巨大化して超巨大女子高生になって数分。
意外なことに、彼女は何も動きを見せなかった。
小人たちには一体何が何だか分からなくなっていた。
目の前に、そびえ立つ大巨人を幻想だと思いたかった…
叫び、嘆き、悲しみ、絶望にくれる…
小人たちに出来ることは所詮、この程度だった。
巨大女子高生が活動を停止している貴重な時間を浪費してしまっていた。
しかし、この猶予時間はやはり長くはなかった。
そして、ついに終末の時がやってきたのだ…
今まで何の動きを見せなかった超巨大女子高生の足が、徐々に上空へと持ち上がり始める。
スローモーションのように見える動きだが、
それは巨大さ故の錯覚であり、真のスピードは尋常ではなかった。
ローファーの底からは張り付いていた地表が次々と落下していく。
おそらく、一つ一つのかけらがトン単位の重量を持つだろう。
そして、何より一番の脅威はあの巨大な足が、
地上に振り下ろされた際の衝撃…
もう小人たちが逃れられないのは、明らかだ。
*
由佳は、ためらうことなく足を振り下ろした。
足の近くの地上にある何もかもすべてが踏み潰され、ぐちゃぐちゃになった。
ただし、もはやこの大きさだと、建物を破壊しているというはっきりとした感覚は由佳自身にはない。
どちらかというと、やわらかい土を踏み固めるような感触だ。
(ふ〜ん、こんな感じなんだ…私が大きすぎて感触はあまりないけど…
それはそうと、街がこんなに小さくなっちゃったら…
何だかちょっと踏み潰してみたくてたまらない気がするのは…気のせいじゃないよね…
やるからには、智之のためにやってあげたってことにして…)
*
上空で静止していた超巨大女子高生の足が急速に地上に向けて動き出した。
その速度は地上に到達するころには、音速近くに達していた。
着地時の衝撃は凄まじいという言葉で片付けられるものでは、当然なかった。
まず、直下にあったものは瞬時に、すべて吹き飛ばされていった…
生み出された衝撃波は猛烈な風と地震となって、
そのまま川山市に襲い掛かった。
80年前に川山市を襲い、甚大な被害を与えた大地震があった。
それに匹敵する大きな揺れが、市全体を襲う。
揺れで建物が軋み、アスファルトの道路に小規模の地割れが走る。
脆い建物は崩れかける箇所もあった。
*
由佳が二歩目を踏み出した。
また一歩、由佳が川山の街に近付いた。
街を見下ろす視線が斜め前ではなく、次第に真下へと推移する。
(街には、いっぱい小人さんがいるんでしょうけど…
この世界は「ゲーム」だもの… 街ごと踏み潰しちゃえ♪)
由佳が三歩目を踏み出す。
今の一歩で、住宅地を踏み潰した。
中心部まではもう1kmを切っている。
由佳が次の一歩を踏み出せば、この川山の街は終わりだ。
(あと一歩でおしまいね…でもその前に…周りはどうなってるのかな?)
由佳は地上の様子を見ようとしてしゃがみ込んだ…
(ふふふ…みんな慌てる…そりゃ、こんなにも大きな女の子がこんなにちっぽけな街に襲い掛かってるだもの…)
由佳の視線の先には、何とか肉眼で判別可能な程の大きさの人間たちがうようよとうごめいていた。
由佳にしてみれば、彼らは普通のアリよりも小さく見える…
(こんなにも小さいから…余計に、いじめたくなっちゃう…)
由佳が大きく息を吸い込み始めた。
そして、溜め込んだ大量の空気を街に向けて一気に吹き付けた!
吹き付けられた膨大な量の空気は、激しい竜巻のように地上の人間も自動車も簡単に吹き飛ばしていく。
コンクリート製の建物以外の物は全部吹き飛ばされてしまった!!!
自分が吐いた息に巻き上げられたものを由佳はじっと眺めていた。
(やっぱり…私が息を吹き付けるだけでこんなことも出来ちゃう…
智之視点だときっとすごいことになってるんだろうなぁ…
今のもサービスってことにしておこっと…)
足を上げて軽く大地震を引き起こした超巨大女子高生…
この小さすぎる街を見下ろす彼女の視線には侮蔑の意思が読み取れた。
「こんなちっぽけな街なんか一瞬で踏み潰してあげるんだから…」と。
超巨大女子高生の一つ一つの動作が着実に小人たちと街を破滅に導く…
その気になれば文字通り、一瞬でこの街を葬りさることができるのに、
わざと時間を掛けて破壊する。
大きすぎる立場の違いが超巨大女子高生をじわじわと小人といたぶるサディストに豹変させていた…
*
第一撃の地震攻撃を放ち、第二波として息を吹き掛けた。
次から次へと、由佳は波状攻撃を仕掛ける。
自分のちょっとしたことでちっぽけな街を目茶苦茶にできてしまうことが楽しくて仕方ない。
当然、こんなことは「ゲーム」をやるまで体験したことがなかった。
流石に初めての時は、自分のやってることと感じてることが信じられなかった。
でも、もう「ゲーム」に慣れてしまった。
何も気にする必要がないとわかってからは気がラクになった。
最後の締めに思いっきり足を高く振りかざして、川山市の中心部を一気に踏み潰すことにした。
これで本当に最後のお別れだ。
もうためらう必要はどこにもない。
230メートルもの巨大な足を一気に上空から振り下ろす…
足元にあった建物は微かな感触だけ残して、一瞬で潰れてしまった。
地面に突き立てた足はそのまま地面に這わせるような形で横に移動させていく…
靴の高さの半分にも満たない建物を次々と薙ぎ払っていく。
薙ぎ払った箇所は更地となり、作業の進捗状況が一目で分かる。
一々踏み潰すよりもこうする方が簡単に破壊していくことが出来た。
前の由佳が起こした津波によって機能停止していた街とはいえ、
取り残されて救助待つ人々がまだたくさん残っていた。
そんなことはお構い無しに、巨大な黒のローファーがこの街を消滅させるべく動いていたのだった。
そこに降り注ぐのは由佳の全てを蔑むようなあの視線だったのだ….
結局、川山市を完膚なきまでに壊滅させたところで、由佳は大きく息を吐いた。
(これだけすればもう十分でしょ….)
まともに踏み潰されずにすんだ建物は一軒もない。
足全体で踏み潰し、すり潰し…
あっという間に瓦礫の山も細かく粉砕されてしまった。
今の由佳に対して、川山市が小さすぎるのだ。
破壊された街の中心部に由佳は巨大な魔塔のようにそびえ立っていた。
(ふぅ…終わっちゃった….)
それが一つの街を地図の上から消し終わった後の感想だった。
*
「どう?すっきりした?」
由佳の動向をずっと見守っていた智之がテレパスで由佳の脳内に直接話しかけてきた。
「まぁ…それなりにね…」
(ちょっと私が大きすぎたのか、街が小さすぎたのか不完全燃焼なの….)
「それだけ?初心者にしては、中々の破壊っぷりだったと思うけど?」
「き、気のせいよ…いいじゃない、そんなのは!!」
「次は、もっといっぱい楽しめるようにしてあるから楽しみにしてて欲しいな」
「もう…」
「大浜へは、さっき言った通り、あの山を越えて60メートルくらい歩いたら着くからな」
「60メートルね…あっという間に着きそうだね…」
「単純に言って、時速4000キロで歩く訳だからね。オレも、イメージするのは難しいな。
それともう一つ。
当たり前だけど、その途中にも小人さんの街は広がっている。
そこらへんをどうするかも…由佳に任せる♪
あまりに小さすぎて分からないかも」
「はいはい。わかりました♪」
こうして、川山市を何度もオモチャとして弄んだ巨大女子高生は、ここを後にして大浜に歩いていった。
結局、川山市中心部は何もかも由佳に潰されてしまった。
わずかに粉砕されずに残っている瓦礫だけが、今までそこに街があったことを示していた…
惨劇は、より規模を大きくして続いていく…
<つづく>
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