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6.
「ねぇ、さっき言ってた次の街までここからどのくらい離れているの?」
ブレザーの制服に着替え終わった由佳が次の予定について確認する。
「う〜ん、そうだな…川山市から大浜市まで特急電車で、
一時間くらいのかかる距離に設定したから、60キロぐらいはあるかな」
「60キロ!?そんなに歩かないとイケないの?」
「ゆ〜か、今の自分の大きさ分かってる?」
「えーっと、148セン…じゃなくてメートル?」
「そう、今、由佳は身長148メートルのとっても大きな女の子なんだから、小人さんの60キロは…」
「私にとっては、600メートル?」
「正解。そんなに遠くないでしょ?」
「そうだね、自分の大きさ忘れちゃってたから勘違いしちゃった。
ところでさっき、智之が言ってた川山市が私が津波で沈めた街?
それで、大浜って都市が最終目的地?」
「当たり〜。大浜は国内有数の大都市で、高層ビルも高速道路も国際空港もあるからね。
川山市にはないモノがたくさん。きっと、壊しがいがあると思うよ、ニヒヒヒヒ。
やっぱり、巨大娘は大都市で暴れてもらわないと…な?
後、それから大浜へ行くには…そうだ由佳、ちょっと下の方向いて欲しいな」
由佳が下を向くと足元には畑とその中にちらほらと点在してる住宅があった。
思わず、踏み潰してみたくなったが、ここはガマンガマン。
そして右足の50センチ横には鉄道が、
左足の30センチ横には道幅のある国道がそれぞれ走っていた。
由佳の左足は国道沿いの大型パチンコ店を踏み潰していた。
「由佳の足元の道路と線路はそれぞれ、大浜まで繋がっているから、この二つを目印に歩いていけばいいよ。
これでわかったかな?」
*
国道には津波で甚大な被害を受けた川山市から一刻も早く逃げようとする車で溢れているが、
早くも、逃げ切る前に津波を引き起こした張本人に追い付かれてしまっていた。
渋滞で動かなった車からは小さな小さな人間が飛び出して、
なんとしてでも必死に真上にそびえ立つ巨大娘から逃れようとしていた。
「さてと、俺はこのあたりでおさらばしてただの見物人に戻るな。また何かあったら呼び出していいからさ」
智之は言い残しておきたいことを伝え終えると、「ゲーム」が始まったときと同じようにそそくさとどこかに消えてしまった。
自分の性欲のために、由佳を巨大化させて街を破壊させ、
この世界の小人たちを恐怖のどん底に陥れた一連の出来事の首謀者はのん気なものだった。
(もう、しょうがないな〜、私のご主人様は。私にしてほしいことだけ言って、後は、放置プレイだもん。
とは言え、これをやってあげるとその分すごく喜んでくれるわけだから、
またやってあげたくなるような気にもなっちゃうのよね。
だ・か・ら、私のご奉仕ちゃんと見ててね、ご主人さま♪。
見てなかったら踏み潰してやるんだから)
早速、由佳は「ご主人さま」に喜んでもらうための行動を始めた。
とは言っても、今の由佳ならほんの少し手足を動かすだけで、
結果的には、小人さんの世界に対する破壊活動になってしまうのだ。
たったそれだけで、智之は強烈な興奮を覚えるらしい。
また足元の国道を見下ろしてみると、小人たちが乗り捨てた大量の車があった。
(なら最初は、これで遊んであげようっと…)
由佳は左足を国道まで持ってきて、車の進行方向に垂直になるようにした。
巨大なローファーは片側三車線の国道には収まりきらずに、
中央分離帯を乗り越えた対抗車線と歩道部分まで及んでいた。
「小人さんが車を乗り捨てたから邪魔だね〜。でもね、私が撤去してあげるから安心して見ててね」
そう言って由佳は、巨大な左足を地面に沿わせて動かし始めた。
道路上に放置されていた車がどんどん「黒の動く壁」によって寄せ集められて、
積み重なっていき車種に関係なく全て圧縮されていく。
車だけではない。歩道橋や中央分離帯の植え込みや街路樹、
交差点の信号機、さらには路面のアスファルトまでもが、
「黒の動く壁」によって道路上にある全てが抉り取られて寄せ集められていく。
「ダメだよ〜、こんなとこ小人さんの車放置したら。私が歩くのに邪魔じゃないの」
「黒の動く壁」が停止した時には、道路上にあった物の残骸が山のようになっていた。
由佳はこれを国道の両方向に約1キロメートルに渡って実行した。
「う〜ん、道路上は大体お掃除出来たけど、これでもまだ大きな私が歩くには狭いな〜。ってことは…」
由佳は右足をおもいっきり高く上げて真下のファミレス目掛けて振り下ろした。
周りにいる小人たちとどこからか見ているはずの智之に、見せ付けるためにわざとこうしたのだ。
小人たちには恐怖を与えて、智之には喜んでもらいたい。
ファミレスが呆気なく粉砕された…だけでは当然収まらない。
あれだけ大きな足が悪意をもって振り下ろされたのだから、相当大きな衝撃が周囲一帯を襲う。
地面には大きな地割れが走り、少し離れた場所に位置していた建物も震動に耐え切れず次々に倒壊していく…
小人たちは巨大娘が起こした地震の恐怖を噛み締めさせられた。
車から降りて国道の脇に避難していた人々は、突如として現れた巨大女子高生の力に圧倒されていた。
乗用車もトラックも散らばったゴミを集めるように軽くまとめて扱い、
国道沿いの商業施設を一瞬のうちに瓦礫の山に変えていった。
一歩につき一店舗が踏み潰されていく。
その度に、地震が発生し広範囲に渡って被害が及ぶ。
もはや彼らは、巨大娘のなすがままする様を呆然と見届けるしかなかった。
しかし、彼らはまだ比較的幸運だった。
巨大娘は車や建物を楽しそうな表情で破壊していったが、周りにいる小人たちを直接弄ぶことはしなかった。
巨大娘が建物を踏み踏みして遊んでる間に、より安全な場所に逃げることも容易だった。
この時点では、小人たちは自分たちが後の被害者と比較して、
「幸運な人間」になるとは気付かなかった。
(これくらいで十分だよね?あまりここで遊び過ぎると時間もなくなるし…)
大浜市までは、ちょっと距離がある。ここで長居をし過ぎるのもよくない。
由佳は、別のモノに興味を移した…
*
大浜南部のターミナル駅と川山市を結ぶJR浜川線。
やたらと電車が遅れることで利用客から苦情の多い路線で、ゲフンゴフ(ry。
それはさておき、目下、川山駅に向かって時速100キロで走行中の4両編成の快速電車。
終点の川山駅まで、後5分ほどだ。
今日は、ダイヤの乱れもなく平常通りの運行である。
しかし、その目的地の川山市が巨大娘が起こした巨大津波によって、
甚大な被害を受けていることを、運転士も車掌も乗客も誰一人として知らずにいたのだった…
それともう一つ、この電車をその巨大娘がオモチャにしようとしていることに、気付いている者も当然居なかった。
運転士は電車の進む先の線路上しか視界に入っておらず、人数がまばらな乗客も列車に揺られて、眠っていたりしていた。
だが、実際には、進行方向の右前方にそびえ立っていたブレザー制服を着た巨大娘に気付いた者がいた。
しかし、彼は驚きのあまり、声をあげることすら出来なかった。
彼は、どうすることも出来ず巨大娘を呆然と見続けることしか出来ず、
巨大娘の進む先と電車の進む先が交差していることには気付けなかった…
*
線路の側までやって来た由佳は走ってくる電車を止めるために、まず最初に線路の路盤を崩すことにした。
盛り土工法で敷設されている部分なので、線路がある所だけ、
大きな川の土手のように周りの土地より数メートル高くなっている。
雑草の緑に覆われている盛り土部分を、ローファーのつま先で突き崩してみた。
すると、線路を支えるためにしっかりと固められているはずの盛り土の一部がいとも簡単に崩れてしまった。
(やっぱりこの世界は、全てが脆くて壊れやすいんだ。
ここをこうやってチョンチョンって靴で突いちゃうだけで、ほら、崩れちゃうんだもん)
由佳の言葉通り、盛り土路盤が崩されてしまい、線路は宙吊りに、架線柱も歪んでしまい、
とてもじゃないが、もはや電車が走れるような状態ではなかった。
これで、国道に続いて、大浜市と川山市を結ぶ鉄路も分断されたことになる。
(そうだ、せっかくだし、前に智之がやって欲しがっていたあれをやってあげようっと…
ここなら場所も丁度よさそうだし、もう電車が来ても大丈夫だから…)
一旦、線路の破壊活動を止めて、由佳は線路の上で足を開いて仁王立ちになった。
もちろん両手を腰に当てて、足元に広がる小さな世界を見下ろし、
その哀れなほどの小ささを蔑むような視線を送ることも忘れずに。
このポーズは智之のお気に入りだ。
これはそれほど恥ずかしいものでもなく、また難しいものでもないので由佳も抵抗なく出来る。
ただ少し足を広げて、腰に手を添え、小さな小人の世界を蔑む視線を、はるかな高みから送るだけでいい。
ついでに、普段味わうことの出来ない優越感もある。
下に向けていた視線の先を、線路に沿って移していくと、ちょうどいいタイミングで電車がこちらに向かってくるのが見えた。
(あっ、電車がこっちにやってくる…え〜っと、1,2,3,4…全部で4両なんて短いな〜。
それにこの電車、止まらないってことは、もしかして私に気付いてないのかな?
ふふふ、智之の好みからしてアレも踏み付けちゃってもいいはずよね…)
由佳は、破壊し尽くした線路周辺を後にして、たった今、決定した次なるターゲットに体の向きを変えた。
*
由佳がだんだん近付いていっても、電車は一向に止まる気配を見せなかった。
本当は電車が止まったところを捕まえて、あれこれと遊んでみたいと思っていたが、予定が狂ってしまった。
(でもそっちが止まらないなら、代わりに、私が止めてあげるだけだよね…)
由佳はある程度歩いたところで立ち止まり、履いていたローファーを片足だけ脱いで線路上に放置してみた。
小柄な由佳に合わせて、靴のサイズも小さめだが、100倍は100倍だ。
電車一両よりも大きい。
二十数メートルの真っ黒な物体が置かれて、
線路に突如として要塞が築かれたような光景になっていた。
由佳が靴を置いた後は、線路のそばでしゃがんで見てるだけだった。
自分の靴と他の物の大小関係のアンバランスさに思わず笑ってしまいそうになった。
電車は線路を塞ぐ巨大なローファーに向かって突き進んでいる。
スピードは、依然として速い。
そして、数秒後にそのままスピードを落とさずに電車がローファーに衝突した。
衝突の瞬間、わずかにローファーが動かされたが、電車が出来たことはそれだけだった。
先頭車両の前半分は衝撃で完全に押し潰されて、二両目は脱線し車体が斜めに大きく傾いた。
だが、さらに悲惨なのは後ろの三、四両目だった。
衝撃で線路から大きく外れてしまい、そのまま線路沿いの空き地に、
車両の中に乗客を閉じ込めたまま、転落していった。
車両は車体に傷が付いたものの大破することはなかった。
*
対照的にローファーは、ほとんど傷も付かずに美しい黒い光沢を保っている。
結果的に、電車は由佳のローファーにさえ負けてしまった。
この「事故」の一連の流れを見終わった由佳は立ち上がって、
靴下のみ履いている片足を転落した車両の上に持ってきた。
ゆっくりゆっくりと降ろして、車両をすぐに潰してしまわないようにする。
(電車も靴にぶつかっただけで簡単に潰れちゃう…やっぱり、今の私ってこんなに強いんだ…)
白いソックスで包まれたつま先で車体を揺らしたり、転がしたりして遊んでみる。
動かすのに、力はほとんど要らなかった。
中に乗客がいることは当然分かっていたが、何のためらいもなく弄ぶ。
右へ左へ、上へ下へ。
360度の回転運動で閉じ込められた小人たちは嬲られる。
彼らの三半器官はもはや機能を失っていた。
座席や窓ガラスに全身を強打し、骨折や重度の内臓損傷を負った。
しばらく由佳は電車で遊び続けていたが、うっかり力加減を誤って踏み潰してしまった。
(あっ、潰れちゃった…でも、これは割と持った方ね…他のは、大体一瞬で潰れちゃったから…
もうここに居ても仕方ないかな?早く大浜に行ってあげないと…)
由佳は顔を上げて、大浜へと続く線路を眺めた。
大きな街へ行くには線路沿って歩いて行けばいいということは、前回の「ゲーム」で知っている。
しかし、平野ばっかりの前回とは違って、今回は高さ五メートル(由佳にしてみれば)程の山が前方に控えている。
あれを越えていかないといけないのだろう。
けれども、智之から何の話も聞いていない。
由佳が通れる程、幅の広い山道があそこにあるのかどうか分からなかった、とりあえず山の手前まで行くことにした。
線路上に置いていた靴を履き直して、それから、力いっぱい足を振り上げて、最後まで残っていた車両を踏み潰した。
(バイバイ、電車さん…楽しかったよ♪)
こうして、由佳はめちゃくちゃにされた電車の残骸を残してここを立ち去った。
<つづく>
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