「ねぇねぇ、今晩ステーキ、食べきれないほどいっぱぁ〜い食べてみたくない?」 と友美はベッドに寝そべっていた慎一に尋ねた。 「ん?ステーキ腹いっぱい食えんのか?でもそれすごく金掛かるんじゃないの?  オレ、今懐具合がめちゃくちゃさびしいし」 「別に、お金の心配はしなくていいよ。全部あたしが払うから」 この言葉を聞いて慎一はベッドから起き上がった。 「おいおい、全部払ってくれるってどういうわけ?もしかして何か企んでるのか?」 流石に、女性側におごってもらうとなると男の沽券にも関わってくるし 何かしらの魂胆があるのではないかと疑いたくもなる。 「えへへ、やっぱり見破られちゃった。」 「で、何を企んでるだ?」 「それは、ステーキレストランに着いてからのお楽しみ〜」 と友美にはぐらかされてしまった。 「まぁ、そんな大したことじゃなさそうだし騙されたと思って、食べに行くよ」 慎一は、友美の提案を受け入れた。 夕方、二人はレストランに到着した。 店の名前は「Brobdingnag」という名前で 「コレはブロディグナグって読むのか?  なんだがやけにごつごつした名前だな」などと慎一が考えてる間に 友美は先に店の中に入っていった。 「お客様は何名様で御座いますか?」とウェイターが尋ね 「二人です。あとブロブディンナグコースをお願いします」 「かしこまりました。ブロブディンナグコースのお客様は  どちらの方でしょうか?」 「あっ、彼の方です」 となんだがよくわからないコースに慎一は受けることになった。 「なぁ、ブロブディンナグコースってなんだよ?  そんなの聞いたこともないぞ」 「昼間言ったこの店自慢のステーキ食べ放題コースのことよ」 「あれ?それじゃ友美はステーキ食べ放題にしないのか?」 「うん。このごろ少しばかり体重の方が‥‥‥」 「そうなんだ。じゃオレだけたらふく食ってやるからな」 そんな風に会話していると、別のウェイターが出てきて 「ブロブディンナグコースのお客様は、こちらの部屋に来てください」 と慎一は別室に案内されて 「この部屋でしばらくお待ちください。準備が出来次第またご案内させていただきます」 ウェイターはこう言った後に、彼がいる小部屋に鍵を掛けて去っていった。 「一体、どうなってるんだこの店は」 そうこうしている間に、 部屋のあちこちからシュワーという音とともにガスが充満してきて慎一は意識を失った。 慎一が気が付くと、いつの間にか椅子に座っていて 目の前にテーブルが置かれその上にナイフやフォーク そして普通にある皿の2倍近くもある皿があった。 足元を見ると一面に真っ白い布が敷かれていてその上に テーブルや椅子があることがわかった。 そして視線を正面に向けるとそこには 巨大な友美の上半身があった。 友美の前にあるのは巨大な友美のサイズにあった皿があり、 皿には、巨大なステーキ肉に数種類の付け合せ野菜が載っていた。 「な、なんだよ、これはっ」 巨大な友美と料理を前にして、慎一は引きつった顔でこう叫んだ。 「ふふふ、慎一を小さくしてあげたのよ。  食べきれないくらいステーキを食べさせてあげるために。  でも、今の慎一の大きさじゃ、あたしの一口分も食べきれるか怪しいわね。  とりあえず、あたしの分の肉のかけらを分けてあげる」 友美は巨大なナイフとフォークで肉を小さく切り取り、慎一の皿に盛った。 「あらあら、こんなに小さな肉のかけらでも、  慎一のお皿にはちょうどいい大きさだね」 確かに、慎一の皿にはどーんと「肉の塊」が置かれていた。 友美にしてみればかけらにしかならないのかも知れないが 慎一にしてみれば、塊にしか見えない大きさだった。 「なにがしたいんだよ。オレを小さくしてついでに食べてしまおうってのか?」 「一応あたしは慎一の彼女なんだからそんなわけないじゃない  その点は、安心してね。食事が終わったら元の大きさに戻してあげるし」 と友美が言ったものの、いつ何時捕まえられて食われるかどうかわからない というのが慎一の本音であった。 「さぁ、どうぞ満足のいくまでステーキを食べてちょうだい」 と言われ、ここはおとなしくしてたほうが無難だと 判断した慎一は再びテーブルに着いた。 慎一が、なんとか気を取り直してステーキを食べようにも食が進まない。 ステーキがまずいからと言うわけでもない。 原因は、慎一の目の前でステーキをおいしそうに食べている友美だった。 友美は、慎一視点から見れば何十人分もの肉を一口で次々に食べていくのである。 そんなあまりにも豪快すぎる巨人の食べっぷりを目の当たりにして 慎一は面食らっていた。 「あんだけの量の肉が、あんだけでかい友美の口に次々と運ばれていく‥‥」 慎一はステーキを食べるどころの話ではなかった。 「君のだーいすきなステーキが山のようにあるのにどうして食べないの?こびとの慎一君?」 二通りの意味でものすごく上から視点で慎一に友美は話しかけてきた。 どうやら、小さくした慎一を前にして友美は少しばかり調子にのっているようだ。 ここらへんで説教をしないで放って置くと後々面倒なことになる。 「あのな、いいかちょっとオレの話を聞け。  何の前触れもなし勝手に小さくされて、自分の彼女が巨人になっていて  その食事風景を見せつけられたら食欲なんてなくなっちまう。  腹いっぱいステーキを食べさせてくれようとしたのはうれし‥‥」 と言おうとしたところで友美にさっきまでの笑顔が見られなくなっていた。 「ごめんなさい」と意外なことに友美はやけに素直に謝罪した。 「コレくらいのことなら、慎一なら前もって言わなくても大丈夫かな  なんて思ってたのがいけなかったね」 こんなにあっさりと素直になられては、責める要素がなくなってしまった。 それでも怒り気味の表情で 「まぁ、わかってもらえたし謝ってもらったからそれでいいんだけど‥  ただ、最初はマジで食われるかと思ったんだぞ。  ナイフとフォークがばっちり揃ってて、今にも食われるんじゃないかと  ずっと冷や汗掻いていたんだからな  その分の埋め合わせとしてだな‥‥」 「埋め合わせ?あたしになんかして欲しいの?」 慎一が怒ってることに気付いた友美は少し気落ちしていた。 二人の間に沈黙がしばらく続いた後 「いっただきまーす」 と言った同時に慎一は肉の塊に噛り付いた。 さっきあれほど食欲がなくげんなりしてた奴がむしゃむしゃと ステーキを食べているところ見て友美はぽか〜んとなっていた。 「ん?なに豆が鳩鉄砲くらったような顔してんの?  さっき言った埋め合わせはこれで勘弁していてやるから‥」 全部言い終わらないところで慎一は友美にその巨大な指で捕まえられていた。 <完>