#################### 4.  ふぅ〜と一つ深呼吸してから横島は「ゲーム」を開始した。 意識が電脳世界に取り込まれていくような感覚がしていく。 そして、目を開けると眼前にある光景は現実と瓜二つの「仮想現実」だ。 前持って用意した設定通りに自宅のリビングにやってくることが出来た。 (ふぅ...ここまで予定通りだな) 念のため、何か異常がないか確認した。  異常は特に何もなかった。 横島はすぐに立ち上がり外へ出掛けていった。 これからやるべきことは決まっている。 余計な行動はせずに己の抱いた目的だけを遂行するのだ。 仮想現実内の時刻は普段の横島の出勤時間である朝の7時半だった... *  玄関の鍵を掛けたことを確認してエレベーター前まで歩く。 仮想現実の中なんだから空き巣が入っても何も影響はない。 なので、家の鍵を掛ける意味などほとんどない だが、日頃の癖として身についてしまっている以上、どうしようもない。 横島がふと気がついたのは、しっかりと鍵を掛けた後だった。 ▽スイッチを押し、エレベーターがやってくるのを待つ。 これから自分が実行しようとすることを頭の中で思い描いていく。 たったそれだけで、興奮してきて早くも横島のジーパンにテントが張ってきた。  上の階からエレベーターが到着した。 中に一つだけ人影が見えた。 例の桐島玲香だ。 普段と同じように、彼女は横島の方に軽く会釈してきた。 このマンションの中で、横島とあっただけで軽く挨拶をしてくる人間は少ない。 彼女は横島の筋書き通りに「配置」されていた。 玲香にはこの後、いろいろやってもらうことになっている。 が、現在のところは普段通り。 現実とと何一つとして変わらない朝の日常... 横島が手掛けるシナリオで彼自身が満足する、そのためにも「主演女優」の彼女には、ちゃんと頑張ってもらわないと困る...  今日の玲香は白の上下のスーツに黒のハイヒール... 現実の玲香が着てた中で横島が一番好きな服装だ。 だから、この服装を着せたのだ。 彼女が何の職業に就いているかは知らないが、これ以外にもいつも通勤の際は必ずといっていいほどきっちりとスーツを着ている。 彼女の職業は、フォーマルな服装が要求されるものだと理解していた。 例えば-秘書とか... そう、秘書という職業は彼女が放つイメージ的には合っている。 玲香はその美貌に加えて、知性も醸し出ている。 そして横島にとっては露出の多い服装よりもどちらかと言うとこういうきっちりとした服装がそそるのだ。  駅に向かって歩く玲香。 歩くスピードは割と早い。 その後ろをある程度の距離を保って、横島が歩く。 なんだか玲香に付き纏う卑劣なストーカーになった気分だ。 普通なら気付かれないかどうか心配しながら後を追うものだが、この仮想空間においては無用の心配だ。 「では、そろそろ第一段階にいきますか...」 そうして横島は前を歩く玲香に向かって、「魔法」を掛けたのだ。 *  今、「魔法」を掛けたことは確かなのだが、効き目が薄い第一段階だ。 なので、その効果は遠くから目に見える形ではまだ分からない。 横島も前を歩く彼女を背後からずっと観察している。 だが、依然として、はっきりとした身体の変化を確認出来ていない。 一応、彼女の肉体に変化が現れているはずなので、何か比較対象になるようなものがあれば確認できるのだが...  玲香は交差点に差し掛かり信号が青に変わるのを待っていた。 と、思っていたところに、丁度いい具合いに白髪交じりのサラリーマン風の男性がやってきて、玲香の真横に並んだ。 その光景を見て横島は安堵した。 先ほど玲香に掛けた魔法の効果が現れていたからだ。 (おお...やっぱりちゃんとデカくなってるな..順調だな.)  その白髪交じりの男性は隣に並んで立っている玲香を思わず見上げていた。 そう...今の玲香はその男性よりも頭一つ分背が高かったのだ。 仮にこのサラリーマン氏が成人男性の平均身長と同じくらいの身長だとするならば、 玲香の身長はヒールを含めて、優に180センチを越えている計算になる。 これほどの長身を誇る女性は日本においては、一部のバスケットボールかバレーの選手以外では非常に稀だ。 隣に並ばれた男性が思わず見上げたのも頷ける。  信号が青に変わり、玲香が再び歩き始めた。 件のサラリーマン氏をあっさりと置き去りにしていた。 玲香の身体が大きくなった分、脚が長くなり歩くスピードも速くなっているようだ。 横島も玲香から離されないように、早歩きになってあわてて追い掛けていった。  例のサラリーマン氏を抜く時に変な視線を感じたが、今はそれを気にしてる余裕はなかった。 おそらくストーカーだと勘違いされたのだろう... この世界の人々の行動や反応は現実世界のものと何ら変わりはないように設定してある。 より一層、リアリティーを高める効果があるのだ。 *  ずんずんと歩いていく玲香ばっかり目で追っていて気づかなかったが、いつのまにか駅前広場に着いていた。 玲香はそのまま駅の改札口に繋がっている駅ビルに向かう。 「現実」の玲香も恐らくこの駅から都心に向かう電車に乗って、通勤しているのだろう。 朝の通勤ラッシュの人混みの中でも、玲香は頭一つ分抜け出ていたので、非常に目立っていた。 (リアルGTSも実際に目の当たりにすると...そそられるものだな) 横島がそう感じたとおり、今の玲香は大女と言っても問題なかった。 玲香ほどの美人でかつこの長身となると、まず滅多なことでは遭遇することすら出来ないだろう。 横島の心のなかで何かがゾクゾクし始めた。  そして駅の改札内に入って、さらに人混みのひどさは増していた。 1日に10万人以上の乗降客を誇るこの駅では、朝のラッシュ時には電車に乗るのも一苦労だ。 電車を待つ列に並ぶのが最後の方だと到着した列車に乗れず、積み残しの目に遭うこともあるくらいだ。 人混みの合間を縫って、すっと玲香の背後に近付ていく横島。 人混みに紛れ込んでいる分、さっきよりも接近することが出来た。 何だか長身の玲香を眺めているうちに彼女に見下ろされて、罵られたいという マゾヒスティックな欲望が芽生えてきたが、それはそれ。 今日の本来の目的とは180度異なる。 (一応、今度やってみるかどうか検討しておくか...) 横島の脳内予定リストに書き込まれた。 横島はサディストでもありマゾヒストでもあった。  その間にも玲香はホームへと続くエスカレーターに移動していた。 右側に立ち止まっている玲香の横を横島が追い越していった。 今後の展開を考えると、どうしても先回りしておきたかったのだ。 ホームに先回りした横島は玲香の動向を注視していた。 左側の線路には各駅停車が止まっているが、そちらには目もくれず乗らないようだ。 どうやら、玲香はこの後反対側の線路に到着する快速電車の方に乗るつもりらしい。 快速電車を待つ乗客の列に加わる玲香... 列の中では、少し前に並んでいる大学生とおぼしき若い男一人以外は明らかに男女関係なく皆、玲香より背丈が小さい。 そうこうしている間にも、先発の各駅停車が先発していった。 電光掲示板によると、快速電車は次の次にやってくるらしい。  (くそぅ...やっぱり我慢できないな...) 身長180センチを超えるリアルGTSと化した玲香を見ているうちに横島は欲望を抑えきれなくなりそうだった。 日頃、そこまで長身女性に対してリビドーを感じたことがなかったのだが、どうやらそれは実物を見たことがなかったためだったようだ。 (仕方がない...今度はアレを使おう...) 「DESIRE」の世界では何事もプレイヤーの都合で操作できる。 欲望の実現にとっては素晴らしいことだ。 *  ここで横島はさっきとはまた別の「魔法」を使った。 今度はこの世界の時の流れを停止させたのだ。 この世界の「神」に等しい存在の横島にはたやすいことだった。 すべてが一瞬で凍りついたかのように、横島以外のありとあらゆる物がピクリとも動かなくなっている。 (時間の流れが止まった世界も体験することになるとはな...) 誰もが一度は妄想したことのある「自分以外の時の流れが停止したら」という状態だ。 本来の目的ではないが、これもまた非現実的な状態で中々興味深いものだ。 時間が止まれば、やってみたいことは?なんて人々に質問してみると多種多様な回答が出てくるのだろうが、    大多数の男よりも背の高い女... サイズフェチシスト、特にリアルGTS愛好家なら、必ず反応するであろうシチュエーションだ。 男を見下ろせるほどの大女にイジめられたいか、はたまたその女をイジめたいかはそれぞれ異なるが。 その光景を見ていると横島の股間が反応し出した。 我慢しようと思っていたが、耐え切れなかった。 (オレが今の玲香の横に並んだらどうなるんだ...?) 結果は簡単に予想出来たが、長身の玲香を眺めているうちに本当に試してみたくなった。  男の平均より少し背の低い横島は自分より背の高い女性と並ぶ時には、いつも他人の視線が気になっていた。 (この世界の人間はオレ以外はみんなデータ上の存在に過ぎないのだから、他人の視線なんて気にしなくていいよな...) 心の中でそう再確認してから、横島は徐々に玲香に近付いていった...  身長180センチ超の大女である玲香の横に並ぶと自分がまるで小男になったように感じられた。 腰の位置は圧倒的に彼女の方が高く、脚の長さも段違いだ。 玲香自体は厳つい体格をしているわけではなかったが、この身長のせいかそこらへんの並の男の肉体よりもがっしりしている印象を受ける。 仮に一対一で戦うことがあったら、勝てるかどうか怪しいと思える。 そしてそのまま視線を下に落として足元を見ると、 横島の靴より玲香の黒いハイヒールの方がやや大きい。 (なるほど...靴の大きさでも負けるのか...) 同じことを現実世界でやろうとしても背の低い自分が見せ物になったような気分がして、彼のプライドが許さないだろう。 ここでなら他人の視線を気にすることなく、自分の劣情を満たすことが出来た。  玲香の前に並んでいる中年男性をやや強引めに押しのけて、彼女の正面に立った。 正面から改めて玲香を見上げてみる。 (やっぱり間近で見るとデカい....見下ろされているわけではないのに威圧感を感じるな...) そして横島はそのままバッと玲香に抱きついた。 胸のあたりに顔を埋めて、玲香のデカさを堪能する。 現実世界で同じことをやったら、おそらく迷惑防止条例違反で即刻警察に逮捕されるはずだ。 さすが「DESIRE」様々。  今は時間を止めているので、玲香の反応がないのがさびしい限りだが、 180センチを越える大女の抱き心地は意外とよかった。 (自分より年上の女が大女ってのも十分いいんだが.... 反対に年下の女に身長で負けるとかも....よさそうだな...) 今日は玲香一本に集中するつもりだったが、妄想が膨らみ始めて、思わぬ誘惑に駆られそうになった。 (大女に抱きつかれるのも選択肢に入れておくか...)  玲香の大女っぷりをある程度堪能したところで、他の誘惑を断ち切り本来の目的に戻ることにした。 (またやりたくなったらやれば同じようにいいだけだしな...) 横島が凍結していた時間の流れを元に戻した。 *  次の瞬間には、朝のラッシュの喧騒が甦っていた。 電車が到着する旨のアナウンスが流れて、ホームに電車が滑り込んできた。 ドアが開きわぁっーと乗客が降りてくる。 次からへ次へと車内がかなり空いたのではないかと思うほどの客が降りてきた。 この駅の近辺には高校が二校あり、そこに通学する生徒たちなのか、降りてくるのは特に制服姿の高校生が多かった。 そしてそれが終わると一気に待っていた乗客が乗り込んだ。 ドア付近まで乗客がすし詰めとなり、押し込み要員の駅員がやってきて、やっと収まるほどの混雑だ。 「まもなく各駅停車鷲田行き発車しまーす。 東京方面には次に参ります快速電車が先に到着します。 東京方面にお急ぎの方は後の快速をご利用ください〜。 各駅停車、ドアが閉まります。ご注意下さい〜」 駅員のアナウンスに続けて普通電車のドアが閉まった。 わずかな停車時間で慌ただしく普通電車が発車していった。 駅の手前にはもう後続の快速電車が迫っている。 都市部の鉄道の朝のラッシュ時のダイヤに余裕はほとんどない。 ホームには依然として多くの乗客が残っていた。 彼らはみな後続の快速電車に乗る予定の乗客だ。 玲香もその内の一人だった。 しかし、快速電車を待つ人々の中に横島の姿はなかった。  なぜなら玲香が乗る予定の後続の快速電車ではなく、 横島はあえて先発の普通電車に乗っていたからだ。 だが、これも彼のプラン通りだったのだ... <つづく>