#################### 5.  「箱庭世界」の四方に聳える高く険しい壁。 その中の一つに外界に繋がる巨大な扉がある。 それは「巨人」の世界と「小人」の世界を繋ぐゲート。 このゲートを通じてのみ、「巨人」はこの世界に足を踏み入れることが出来る。 小人の世界に於いて、「巨人」はあらゆるものより大きく、速く、強い存在だ。 はるか高い天まで達する「軌道エレベーター」以外のどんな構造物よりも大きく、新幹線よりも速く。 巨人が一歩、歩くごとに地上を大きな揺れと轟音が襲ってくる。 そんな大いなる力を持つ存在が「巨人」なのだ  そしてそんな巨人が美しい女性だったら....? *  想像して欲しい。 自分が小人になって「箱庭」のどこかの建物にある部屋の中にいる。 出来ればその建物は周りの建物より高い方がいい。 その方が「箱庭」を見渡すことが出来るからだ。 大きな窓からは「箱庭」全体がよく見える。 ぱっと見ると本物の街並みと間違えるほど精巧に出来た模型の街が窓の外に広がっている。 さすがに自分の他に人は誰もいないけれども、閑静な住宅地の一通りの少ない昼間と考えれば自然な状態だ。  そこにだ。 「箱庭」世界の端っこにある巨大な壁が開かれて、巨人が内部にやってくる。 その巨人は身長250メートルを超えるような大きさでしかも女性だ。 巨大な彼女と比べるとそこらへんの雑多な建造物はまさに「足元にも及ばない」大きさだ。 地上からまっすぐ空に向かって伸びる巨大女性の美脚を見るだけで心が満たされると言っても過言ではない。 何も身につけていない素脚でもパンストを履いた脚でも黒ストを履いた脚でもとにかく巨大に見えるとその美しさに圧倒される。 建築の叡智を結集して作られた高層ビルやタワーのような巨大な建築物に人々が魅了されるのと同じく、 摩天楼のように巨大で美しい脚に魅了されるのだ。 * それとこれもまた、個人的趣向をまた暴露することになるが、 オレはビルのように巨大な女(結婚してからは奈央のみ)を下から見上げて崇め奉ったり、 巨大な女(先程と同様、今では奈央のみ)に蔑むような視線で見下ろされたり、 簡単に弄ばれるとゾクゾクしてしまうクチなのだ。 まぁ、要するにはっきり言ってマゾである。 ただし、ドMまではいかない。 が、逆に自分が巨人になって小さな建物なんかを見下ろすのも好きだったりする。 もっともこっちは、単なるオレの自己満足に過ぎないが。 (オレが巨人になっても奈央と美央以外の誰にも喜ばれないことぐらい、巨大女スキーのオレも十分承知してる。 けれども、構造上と展開上、仕方ないんだよな...こればっかりは、ハハハ) *  「ねぇ、そこの『小人』さん?それとも、今の大きさを考えると『巨人』って呼んであげればいいのかしら?」 いきなり背後から声をかけられた。 振り返ると巨大な美しい女性がにっこりと微笑んで自分を見下ろしていた。  今、彼女はしゃがんではいるが、それでも目の前にいるオレよりも圧倒的に大きかった。 巨人と巨人が向かい合っていることは事実なのだが、オレと彼女の大きさの差はあまりにも歴然としている。 おそらく自分の10倍、「箱庭」の基本サイズを基準にすると150倍ほどはあるだろうか... さしずめオレは「巨人」で彼女は「大巨人」ということだろうか...  「今度、娘の学校の保護者会があって、それにこの靴を履いていこうと思ってるんだけど... ほら、ここ見て、少し汚れちゃってるの...あなた、靴を磨いて下さらない?」 口調は丁寧だったが、実質、女王様の命令と同じようなものだった。 (女王様の割にはその要求内容がえらく家庭的ということにつっこんではならない そもそもこの巨大女王様を目の前にしてツッコミを入れられる勇気のある小人さんは果たしているのだろうか...) その体の巨大さから自分に降りかかってくる威圧感。 でも、嫌な感じは全くしない。 理由は言わずもがな。  ただし。 このまま、素直に彼女の要求を受け入れるのは面白くない。 せっかくの「プレイ」が単調で味気ないものになってしまう。 味気ないモノで終わらせないためにちょっとしたスパイスを投入しよう。 だから、オレは盛り上げるために愚かなる反逆者になりきって、この目の前にそびえ立つ「巨大女王様」に無謀にも逆らってみることにした。 *  「奈央、なんてことをオレにさせるんだ。靴なら自分で磨け」 俺は、わざとぞんざいな口調で抗議する。 いつものこのプレイなら、絶対にこんな言い方はしない。 こうなると自ずと今後の展開が決まってくる。 「あらあら、この小人さんは自分が置かれている立場がまだわかっていないようね...」 彼女の反応は、オレの予想通りだった。 まだ笑っているがさっきまでの笑みとは異なる。 愚か者を見下すような含みが入っている。 目が合った瞬間、正直言って、ゾクッとした感情が頭のてっぺんから爪先まで一気に体中を駆け巡った。  すると、彼女の巨大な手がこっちに伸びてきて、オレはあっさりと捕らえられてしまった。 巨大な割にすばやい動きにオレは逃げる間もなかった。 そして、そのまま顔のある高さまでいとも簡単に持ち上げられる。 ジタバタして、抵抗してみるががっちりと全身を掴まれて身動きすら取れない始末。 一応、今のオレは身長27メートル、体重270トンの巨人と同じようなものだが、 そんなちんけな大きさでは超巨大女王様の前では全く歯が立たなかった。 まるでおもちゃの人形のように扱われる。  「まったく、小人さんの癖に私の名前を気安く呼び捨てにするなんて...」 「お、お前は、オレの妻じゃないか!!!妻を呼び捨てにして何が悪い!!!」 オレが普段は、奈央に対してはまず使わない「お前」という言葉を使ってまで反逆してみた。 ここまですれば、きっと奈央もオレの本意は汲み取っているはずだ。 以心伝心。オレ達、夫婦の絆は強固だ。 ここからは精神的SMプレイだ。  「ふふふ、あなたはまだ何もわかってないのね。 今の私は、あなたの妻である以前にこの世界を支配する女王なのよ? 一方、あなたはただの平民の小人さん。 その証拠に、体の大きさだって、ほらこんなにも違う。 私の手の中に収まる小ささのあなたと私が、対等な関係にあるはずがないじゃない。 それがわかったなら、素直に私に謝罪しなさい。 その方があなたのためになるわ...」 一段とオレを掴んでいる巨大な手の力が強まった。 「誰が謝罪なんかするか!!!」 「本当にわかってないのね...どうしようかしら...小人さんに立場の違いを教えてあげなきゃいけないんだけど...あら?」 オレの全身を包む「女王様」の指先が、体のある部分に触れた。 反逆精神溢れるはずのオレの肉体には女王様に抗えない従順すぎる部分があったのだ。  「ぐわっ...」 下半身の大事な部分を指でぐりぐりと刺激されて、思わず声を上げてしまった。 「ねぇ、小人さん。ここはどうしてこうなっているのかしら?ちゃんとした説明が欲しいわ...」 「ぐっ...」 「ねぇ、小人さん。もしかしてあなた、今私に散々なじられて興奮しているの?本当にいやらしいわね」 女王様の大きな指で興奮しきっているオレの「息子」をぐりぐりと、しかしどこか優しく弄られる。 痛みは全く感じない。 やはり何度も繰り返してきたせいか、女王様の力加減は絶妙だ。 その手つきがオレにベストな快感を与えてくる。  「早く謝った方が身のためよ...」 女王様は指の動きを止めることはなく、刺激を与え続けていた。 正直言って、我慢をやめてしまえば息子が暴発しそうだった。 だがしかし、こんなところで、しかも朝っぱらからイクわけにはいかない... オレに残されていた道は一つしかなかった。 「くっ、申し訳ありませんでした、女王様」 「ふふふ、随分素直になったわね。始めからそうしてればよかったのに... さぁ、早く私の靴を磨きなさい。 ちゃんと磨き終わったら、さっきのあなたの不徳を許してあげるわ...」 すると鷲掴みにされたまま、地上に下ろされた。 そして靴磨きのための巨大な布も一緒に目の前に落とされた。 もうオレには、素直に「女王様」の靴を磨くことしか道は残されていなかった。  そして、オレは女王様の監視下のもと、巨大な黒のパンプスを磨き始めた。 *  我が家のミニバンより大きいと思われるパンプスを磨いている。 その間、ずっと中から染み付いた女王様の薫りが漂ってくる。 (やっぱ、この匂い...オレの中でクセになってるな... 女王様の靴についてる匂いをいい匂いだなんて...変態紳士もいいとこだ。 それに、なんとなく懐かしい気がするのは気のせいか、ハハハ) 甲斐甲斐しく靴を磨き上げるオレを女王様は随分と冷めた目で見下ろしていた。  結局、オレは一足に30分、二足併せて一時間掛けて「女王様」の巨大パンプスを磨き上げた。 大きさが大きさだけに家の車を洗うより大変だった気がする。 「あ、あの...女王様。靴を磨き終わりました」 「ふふふ、それじゃちゃんと出来たかチェックするわね」 女王様はあの巨大なパンプスを片手でひょいと持ち上げて、磨き具合をチェックする。 女王様のご機嫌を損ねることが、もしもあったら... あるはずがないけれども最悪の事態を想像したオレは...少しばかり体が震えた。 体の大きさが違うというだけでとんでもない威圧感があった。 *  そしていよいよ運命の審判が下されるときがやってきた。 女王様は一呼吸置いて、こう言った。  「合格よ。どうやら貴方は私に対して高い忠誠心を持っているみたいね... 約束通り、元の大きさに戻してあげましょう... あと、それと...その前に...ご褒美をあげなくちゃね...くす」 女王様の手がまたオレの方に伸びてきた。 「心配しないで...今度は優しく扱うから...」  女王様はオレを摘み上げると、そのまま体の方に持っていき、胸とブラジャーの間の空間に挿入した。 首から下は女王様のおっぱいと淡い紫色のブラジャーに挟まれてしまい、抜け出すことが出来ない。 (随分と積極的じゃないか...) 「こ〜ら、暴れないの♪」 奈央は「女王様モード」から「えっちな奥さんモード」に切り替わっていた。 右からも左からも非常に柔らかな壁が押し迫ってきて、思わず下半身が刺激された。 (こりゃ...たまんねーな...) 「どう?私の胸に挟まれている感触は?」 「あぁ、すごく気持ちいいよ...」  「私のおっぱいに触っていいのは二人だけ。一人は娘の美央。 でも、もうあの子はずっと前におっぱいから卒業しちゃったから、今となっては実質一人ね... それが誰だか分かる、小人さん?」 「いえ...わからないです」 「もう、ダメじゃない...当の本人がわからないだなんて... 今、私のおっぱいとブラジャーに挟まれている小人さん...つまり、こ〜くんは触っていいの♪ こ〜くんは私の旦那さまだから私のカラダを自由にしていいんだよ?知ってた?」 悪戯っぽく笑って、真上を見上げていたオレを見つめる奈央。 奈央の巨大な顔のせいで終わりかけていた興奮がまた復活した。  「はい、女王様ごっこはこれで終わり。こ〜くん、ありがとうね。それと靴磨きどうだった?楽しかった?」 「巨大女王様の逆鱗に触れないように一生懸命しました」 「あぅ...ごめんね、こ〜くん。私また調子に乗っちゃて...」 「いいって、いいって。気にすんな。 何せオレがこの『プレイ』が好きで好きでたまらないんだからな! 最近、奈央にいじめられてないからちょっといつもとは趣向を変えてみたが...」 「だろうと思った♪だからね、ちょっとイジワルしてあげたの。ゾクゾクした?」 「あぁ、ゾクゾクしたさ。それもかなりな」 「よかった♪」 奈央は満足そうににっこりと笑みを浮かべていた。 もうさっきまでの女王様の凛とした威圧感を纏った雰囲気は完全に消え失せていた。 * 奈央の素の素とも言える部分が意外と子供っぽいと気が付いたのはいつの頃だっただろうか... 少なくとも奈央と付き合いだしてしばらく経ってからのはずだ。 知りあって当初はその長身かつスタイルのいい容姿の通り、大人びた娘だと思っていた。 性格もしっかりして、年下だけど頼りになる娘だと思っていた。 だが、付き合いが親密になり、お互いがサイズフェチ同士であることが分かってから初めて ごく親しい者にしか見せない素性をオレに見せるようになった。 それがこの子どもっぽい一面だったのだ。 元々、兄弟構成が兄一人という家庭環境で育ってきた奈央。 兄に甘えられる環境で育った妹ということを考えるとそういった要素があるのは、格別おかしい話ではなかった。 幸い、オレも奈央に甘えられるのは気分が悪くなかったし、 恋人同士でいるときにたまに見せてくれるそうしたちょっとわがままな妹のような一面は魅力的にすら感じられた。 結婚した後もそれは変わらず。 その表と裏のギャップがいいのだ。  「な〜んかね、『箱庭』にいるときとか、そういう巨大化している感じがするときはその間、 ずぅぅっと小さな子どもが持っているような純粋なうれしい気持ちがして、無意識のうちに精神年齢が下がっちゃうのかな?」 なんてことをかつて奈央は自分を振り返って言っていたことがある。 奈央が巨大化したがるのは、心の底からそれが好きだからだと感じているからで他に理由はない。 奈央にとって、巨大化するのは趣味でありストレス発散であり心の安定剤なのだ。 *  「ねぇ、こ〜くんはこの後、ここで仕事するつもり?」 「あぁ、そうしようかと思ってる」 「なら、結局は元の大きさに戻さなくてもいいのね?」 「初めっから、そう言っておけばよかったな」 「ん〜それじゃ、私はもう少しの間、ここにいて散歩してこようかな〜って。巨大女王様のお散歩♪」 「なら、オレはここから奈央を眺めることにしよう」 「でも、一人で『する』」のはだめよ?」 「おいおい...何も言ってないのにそれかよ...」 奈央から図らずもオナニー禁止令が出てしまった。 そりゃ、箱庭の中を歩く奈央の姿を眺めるのは大好物ですよ。 そうしてたらどうしても息子が元気になってくきて.... こうなるのは不可抗力です、はっきりいって。 「今は見るだけで我慢しててね。続きはまた夜に♪」 奈央は手を振りながら去っていった。  おあずけを食らってしまったオレ。 (奈央が「箱庭」の中を歩きまわるのはいいんだけど、その間、執筆が手に付かなくなるのだが...はて、どうしようか...)  とりあえず、今いるところから一番近い執筆部屋まで今の10倍の大きさで歩いていく。 そこで「箱庭」の標準サイズまでさらに小さくなるのが好都合だ。 そこから260メートルを超える巨大な奈央の姿を見ながら... って、ダメだダメだ。 (と、とにかく仕事仕事。今のところ、手掛けている原稿は順調に進んでいるとは言え、 また締め切り前になって慌てるなんていう作家としてあまりにもベタ過ぎる状況に嵌ってしまってはダメだ) それに奈央に禁止令を出された以上、勝手に「して」はならない。 昼間にしたところでバレるはずがないだろうと高をくくっても、ほぼ確実にバレてしまう。 なにせ奈央の奴はオレの体を知り尽くしている。 一日単位ならオレが隠れてオナニーをしたかどうか、簡単に見破ってしまうからだ。 貯まった性欲を発散するためには少なくとも夜まで我慢しなければならない。  なに、もしもバレたらどうなるかって? その場合、「罰として」、ベッドの上で奈央に縮小化されてしまうのだ。 そしてその後、哀れな小人のオレをおもちゃのようにして弄ぶのだ。 どうだ、けしからん嫁であろう。 こんな経験のするのはオレだけでいいはずだ。 うん、間違いない。 *  オレは悶々とするまま、「箱庭」の中の小さな家にたどり着いて、執筆を始めた。 中から奈央の姿を追っていた。 家の中からだと、顔を外に出さない限り、奈央の巨大な下半身しか見えない。 窓から見える外の景色の枠に奈央の姿は収まらないのだ。  そして、奈央が歩く足音はかなり離れているここまで伝わってくる。 その一歩一歩の足音だけでオレの息子は反応してしまう。 巨大な奈央の姿を見ないように意識して、原稿に向かっても、奈央が歩くときの轟音と振動は伝わってくる。 視覚的、聴覚的に刺激されトランクスの中で息子が殻を破ろうと必死になっていて痛い。 こうなってしまうともはや原稿など手に付くはずがない。 哀しいかな、これが男の性、巨大女好きの性なのだ。 オレはただ息子が鎮まるのを待つか、あるいは奈央の命令を破ってまでも息子の苦しみを和らげてあげるかの二択を迫られる。 (いや、ほんと。どうしよう。何だかこんなことで悩むのもものすごく情けないんだけど...) *  奈央はこの「箱庭」の中を小さくならずに歩き回るのが好きだ。 巨人になった気分が気持ちイイのだと言っている。 それは快感と同じ感情で、彼女が幼い頃からずっと変わってないのだと言う。 もっともそれの感情が何なのかちゃんと理解できたのは高校生の時だったらしいが。  一方でオレは高層ビルのように巨大な女性が大好きだ。本気で好きだ。 身長170cmの奈央と身長170mの奈央のどっちかを選べなんていう選択を突き付けられたら、三日三晩悶え苦しんでしまうくらいだ。 巨大な女性が街中を歩く光景を頭に思い浮かべるだけで股間が膨らんでくる。 オレのこれもまた幼い頃からずっと変わっていない。  毎日、奈央は小さな「箱庭」の世界に入って巨人となり、オレは奈央が巨人となっている姿を見る。 これだけでお互いの欲求がある程度、満たされる。 それに加えてもう一つ。奈央としては巨大な自分の姿を見てくれる存在があるともう一段階、良いのだ。 だから、奈央を眺めていたいというオレの存在がなおさら好都合。 この「箱庭」を通じてお互いの性癖を満足させ合うことが我が家の夫婦円満の秘訣なのだ。 <つづくはず>