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4-8-2.


 智之は手乗りインコのようにして、由佳の手のひらにちょこんと乗せられていた。
「こうやって巨大化してくれる女の子なら、私じゃなくて誰でもいいとか考えてない?」
「全然。全く。一遍足りともそんなことは考えてない」
「ホントに?」
「ホントに。マジで」
「私以外の女の子に気持ちが傾いたりしない?」
「それはないな」
由佳の問に対して、智之が胸を張ってそう答えた。



 「う〜、なんか信用できない……」
「なにせ『身長が低めで顔はやや童顔っぽくてかわいくてつんつんデレデレデレしてくれて、んでもって、さらにオレのリクエストに応えて制服とかメイド服とか着てくれて、
 あまつさえ巨大化までしてくれるようなかわいい女の子』なんていうのは、少なくとも俺の周りでは由佳以外はいないからさ」
「何、その長ったらしい修飾語は?」
「オレが彼女にしたい女の子の条件♪」
「………………ヘンタイ。贅沢者。それにそんな子、智之の周りだけじゃなくて世界中探しても、一人しかいないって……」
「ですよねー。じゃ、その一人で充分かな」
「そうそう、智之は私だけ見てればいーの。だから、電車の中とかで制服姿の女の子をチラ見したり、視線で追っかけたりするのも禁止ね」
「えっ……」
智之は一瞬、言葉を失った。
「『えっ』じゃないの。何言ってんのよ、当たり前でしょ〜」
「あ、あれは眼の保養として、というか、男としての心身の健康を保つために必要不可欠な行為で……」
智之が苦し紛れに言い訳をした。
「で、言い訳はそれだけかしら、小人さん?」
由佳が空いているもう一方の手を伸ばしてきた。
智之に対する軽い牽制。
それに、顔は笑っているが目は笑っていない。
これ以上、由佳に逆らったら不幸が待ち構えているのは目に見えていたので、ここは大人しく引き下がる。
(や、やっぱ怒ってるし……)



 「そこは出来る限り見ないように努めるという所謂、努力義務で勘弁して欲しいんだけど……」
「はいはい、わかってますよーだ。どうせ私が禁止って言ったところで、エッチな智之には無理なのは分かってたし。
 なんでこう男の子ってこう浮気性なのかなー」
由佳はため息混じりに愚痴をこぼした。
由佳からしてみれば、普段から智之は糸の切れた凧のようにあっちへふらふら、こっちへふらふらしていきそうで、気が気でないのだ。
二人でいる時に智之が制服姿の女の子を見るたび視線がそっちのほうへ行ったり、
それを見かねた由佳が智之をつねったりするのは、ごくごく日常的なのである。
「それが男という生き物なんだよ。ある意味、人類の歴史でもある。いや、太古の昔から連なる生命の歴史の名残か……」
「何、自慢気に語ってるのよ……」
「えへへ」
「でも、とにかく禁止は禁止だからね。あまりに厳しくするのも何だかかわいそうだと思って、
 私が寛大な心で少しくらいは大目に見てあげようかなーって、思ってるだけなんだから」
「ということは、つまり実質的には現状維持……」
ジロリ……
由佳がコワーい目付きで睨んできた。
蛇に睨まれたネズミのように智之は体を震わせた。
「り、了解しました……」
(今日の由佳は一段と怖い……)
一睨みするだけで智之を萎縮させる力。
それを由佳は持っていたのだ。
「分かればよろしい」
そういう由佳の目は笑ってはいなかった。


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 「それに大体、今日のも最初っから全部、記録してるんでしょ?」
「まぁ、一応……」
事前に「ゲーム」で巨大化してもらっている時の映像は、後で智之が「おかず」にするために記録しているということは由佳にちゃんと言ってある。
つまるところ、今日の由佳による一連の大破壊は智之の欲望を満たすためだけに行われたと言っていい。
もっとも、由佳が巨大化して都市を破壊していく行為自体に快感を覚えて、楽しんでいなければ、の話になるのだが。
「こうやって、智之が浮気しないように協力してあげてんだから。分かってる?」
「浮気防止のためだったのか……へぇー」
智之が惚けてみせた。
「前にも言ったでしょ!智之が他の娘で頭の中でヘンなこととか考えたりするのが嫌なの!
 智之のことだから私がこうしてあげないと、他の娘を頭の中で大きくさせて、はぁはぁするに決まってるもん」
先程の発言からも分かるように、由佳は浮気にはかなり厳しい。
智之は普段から由佳に「浮気禁止、浮気禁止」と口酸っぱく言われている。


 ただその代わり、自分だけ見ててくれれば、多少なりの変態行為は許してくれるというスタンスだ。
リアルでも、智之好みのコスプレをしてくれるのもその現れ。
(ただし普通のコスプレでさえも、由佳の中では変態嗜好に含まれるようだが……そこらへんはすべて特別に許してもらっている)
またこうして、「DESIRE」の中で智之の望みどおり巨大化してくれるのもその一例。
自分以外の女の子のことを考えられたくないからそうしているのだ。
(こういう所もつんデレさんなんだよなー)
なかなか素直には言ってこないが、智之は由佳の気持ちをよく理解していた。



 とは言え、こうして由佳が仮想現実の中で巨大化してくれなかったら、彼女の言葉通り、「浮気」してたかもしれない。
残念ながら、智之の性癖は驚くほど根深い。
由佳がこうして自分のことを完全ではないものの、理解をしてくれて、さらに協力までしてくれていることは大いに感謝しなければならない。
「由佳はつんデレさんで普段はあまり素直じゃないけれど、オレのことが大好きっていうのはよーく分かっておりますとも。
 んでもって、どっちかっていうと『尽くすタイプ』だから、こうしてオレのワガママにも付き合って……グエッ」
巨大な指が勢い良く降りてきて、智之の体を手のひらに抑えつけた。
指一本で呆気無く倒されてしまう智之。
「小人のくせに、さっきからうるさい」
由佳が巨大なときは言動に気をつけなければ、身体に危険が及ぶということを今日一日を通じて、智之は文字通り身を持って知ることとなった。




 「それに、さっきの着替えの時だって、こっそり記録されてるの分かってて着替えてたんだから……
 それなのに智之ってば、黙ってこっそり覗き見してくるんだから、ほんと最っ低ー」
やはり、着替え中は女の子の一番無防備な瞬間とも言えるので、それを覗き見た代わりに失った代償は計り知れないほど重いようだ。
「その件につきましては、ふかーく反省しております」
「謝ってるにしても全然、誠意が見られないんだけど」
「そう言われても……」
本気で怒っているわけではなさそうなのだが、由佳はただ謝るだけでは許してくれないようだ。
ただ謝り続けるだけでは足りず、完全に許してもらうためには由佳の言うことに大人しく従うほかない。
(誠意って何だよ……一体)
「あのね、これとはぜ〜んぜん関係ないんだけどねー、もうすぐバーゲンの季節だし、買いたい服とかい〜っぱいあるのよね〜」
わざとらしい言い方に加え、ちらっちらっと由佳が目配せをしてきた。
これはもう由佳が何を求めているか、それは明らかだった。
「ぜひ荷物持ちとしてお供させていただきたいと思います……」
「ん、よろしい」
こういう時、男はこうするしかない。
これが誠意なのだ。



 
 結局のところ、着替え覗き見の罰として、由佳の買い物に付き添い、1日荷物持ち係の刑に処せられることとなった。
幸い、覚悟していたものよりは軽く済んだ。
(これで機嫌が元通りになってくれればいいんだけど……)
今の由佳はすごく怒っているのではない。
ツンデレさんで今はツンツンしちゃってるけれども、ただ不機嫌なだけなのだ。
そのうち、想像できないほどデレデレになってくる。
このギャップがまた堪らないのである。
(由佳のワガママを聞いてあげるのも、それはそれで楽しいもんだしな)
智之はその機嫌を直す方法はすでに心得ていたのだった。





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 「はい。もう、元の大きさに戻っていいよ。なんか智之を尋問し続けるのも疲れちゃった……」
ここにきてようやく由佳のお許しが得られた。
「じゃ、オレを下に降ろして欲しい」
「はいはい」
由佳が智之の要請に応じて、地上に智之を降ろした。
智之の視界に飛び込んでくるのは大木のような由佳の脚と小型自動車くらいの大きさはありそうな巨大な黒革のストラップシューズ。
サイズフェチの人間にとっては恍惚の光景だ。
「由佳の足元に立ってるだけでも、なんかこうむらむらと興奮してくる」
「どこまで変態なのよ……」
由佳はいつものように呆れ返っている。
「それ、褒めてくれてる?」
「全然、褒めてないから。ほら、そんなとこでチョロチョロしてないで、早く元の大きさに戻りなさいよ。
 なんかそんなにちっちゃいと間違って踏み潰しちゃいそうになるから……」
「オレは由佳になら踏まれてもいいよ」
「って、何また変なコト言ってるのよ……そ、それにさすがに靴履いたまま智之踏むのはちょっと……」
「じゃ、靴脱いでたら踏んでもいいの?」
「べ、別にそういう意味じゃないけど、その智之が私に踏まれたいっていうのなら、軽く踏むくらいならやってあげてもいいけど……」
「え、マジで!?」
「そ、そんなに喜ばないでよ……って、コラ、そんな期待するような目で見ないの!」
「そう言われましても、もう期待しまくりで……」
「でも、ほらこんなとこでやるのも危ないしね、ねっ?どうせやるなら部屋の中でやるほうがいいと思うんだけど……」
由佳の言うことは一理ある。
いくら大きいとは言え、屋外でしかも瓦礫の山の上で寝転がった上で踏み踏みするというのは、由佳にためらいを生じさせた。
「って、ことは踏んでくれるのは決まりでいいの?」
「……うん。智之が喜んでくれるならそれでいいもん……」
「それじゃ、今度、由佳に心置きなく踏んでもらえるように準備しておくから、ヨロシクな♪」
「……わかった」
由佳から許可と踏み踏みプレイ実施の言質を取ったところで、再び智之が由佳と同じ大きさに戻ったのだった。



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 「で、ちょっと、智之。踏んであげるのはいいけど、一つ、忘れてるでしょ」
「え、オレ何か忘れてる?」
「あー、もう忘れてるなんて……」
「あーそうだった、そうだった。そういえばまだ途中だったな」
「む〜〜」
由佳がふくれっ面になって怒っているが大した事はない。



 改めて由佳と向き合う。
真正面に視線を向けるのではなく、やや斜めに下に向け、可愛らしく愛おしい恋人の顔を見つめる。
「そうだな、最後はやっぱり、由佳がオレのこと好きなところかな」
「なんで……そう言えるの?」
「そりゃ、だって由佳がオレが由佳のこと好きだって分かってるのと一緒で、オレも由佳がオレのことが好きだってことぐらいはわかる。
 それもすっげー好きだってのもわかってる。だから、オレも好き」
「ねぇ、智之。こっちに来て……」
「って、いきなり何事……」
「いいから来てよ……バカ……」
由佳が智之に抱き着いてきた。
そして智之の胸元に飛び込んだ由佳は上目遣いで智之を見ていた。




 「わ、私は智之のたった一人の彼女だから……
 智之が彼女にして欲しいなって妄想してることは全部、私に隠さずに言ってほしいの……
 そうしてくれたら、出来るかぎり私も頑張ってみるから……ね?」
今までずっと強気だった由佳が少し弱気な部分を見せた。
むしろこっちが甘えん坊で寂しがり屋な由佳の本当の姿と言ってもいいかもしれない。
「それに、私はちゃ〜んと智之がしてほしいことは分かってるから……
 よーするに、智之は私に制服とかメイド服とか着せた上で、おっきくして、建物とか色々壊させたいだけなんだよね?」
「な、なんか色々とおざなりにされてしまった言い方だけど、うん、まぁ、由佳の言うとおりで合ってる」
「そりゃ、智之の言うとおりにするのはすっごく恥ずかしいけど、智之がしてほしいって言うならちゃんとやってあげるし……
 そんなに心配しなくても、智之の言うことはちゃんと聞いてあげるから……ただし、エッチなこと以外だけど」
「由佳……」
「私、体はちっちゃいけど心はすごくおっきいんだよ……自分で言うのもなんだけどね♪
 私じゃなきゃ、ヘンタイの智之なんかとっくフラれちゃってるんだから……
 それに、私が本当に嫌なことは嫌って言うから、とにかく言うだけ言って……」
「ありがとう、由佳」
智之は思わず由佳を両手で抱き締めた。
うれしさのあまり思わず力を強くしてしまった。



 「と、智之。ぎゅってされて、く、苦しい〜」
「ごめんごめん。でも、由佳がオレのことを、そこまで考えてくれてたのは、すごくうれしい。」
「だって、私、智之の彼女だもん……」
「なら、これからもずっとかわいがってやる。由佳はオレの彼女だしな」
「ちゃんとかわいがってくれないと智之なんか踏み潰してやるんだから♪」
「おー怖い怖い〜」
まるで世界に見せつけるかのように二人だけの世界でいちゃいちゃし始める。
こうなってしまうとこの二人。
ただのイチャイチャラブラブバカップルである。



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 「ところでなんだけど。さっきからオレ達がいちゃついてるところ、かなーり広範囲から見えてるけどいいの?
 ほら、これだけデカイとさ、この地方一円の小人さんから見られてると思うんだけど」
今となっては瓦礫の山と化した元・空港島にそびえ立つ由佳は148……もとい1510メートルの大巨人。
さらに、智之に至っては由佳より更に大きく1700メートルはある大巨人となっている。
これだけ大きいと智之が言うとおり、かなり広範囲の地域から二人の姿を捉えることができる。
確かこの地方には主だって標高が高い山はなく、おそらくこの周囲100km圏内……もしかするとそれ以上の範囲内で一番大きいのはこの二人なのだ。
他に視界を遮るものがなければ、険しい高山ごとく空高く天に向かって、聳え立つ由佳の姿はここから遠く離れた地からでも容易に確認することができるだろう。
「別に今さら気にしてる場合じゃないでしょ……もう、いっぱい見られちゃってるし。
 それに、前に『ここは仮想空間だから、色々気にすんな』って言ったのはどこの誰よ、まったく」
「あっ、ちゃんと分かってくれたのか。だろ〜、アドヴァイスした甲斐があったな」
「まぁ、前に比べたら、その慣れたせいか、あまり恥ずかしくなくなってきたんだけど……」
「巨大化してても恥ずかしくなくなった?」
「うん……でも、やっぱりまだ恥ずかしい……」



 由佳が感じているであろう気恥ずかしさは智之にも理解できた。
智之も初めて仮想空間内で巨大化してみた時もそうだった。
世界の大きさががらりと変わって、すべてを見下ろしている不思議な感覚に囚われたのだった。
そして、巨大化を何回か経験するうちに恥ずかしさは消え失せ、足元の小さな世界に対して堂々とした態度を取るようになる。
今日一日、由佳の行動を見る限りは、巨大化して破壊活動を行うことにも大分慣れているようだった。
小さな世界での歩き方もそびえ方も充分に様になっている。
とは言うものの、なんだけどどこか恥ずかしさは完全に消えてはいない、智之の目にはそんな風に映っていた。
元々、かなりの恥ずかしがり屋の由佳の場合は、もうしばらくは恥ずかしいと思う期間が続くんじゃないかと考えられる。



 「だって、周りが何もかも小さいのは慣れたんだけど……その代わり、智之がすんごくガン見してくる分が恥ずかしいの」
由佳が顔を赤らめて反論してきた。
なるほど。
思いの外、由佳が恥ずかしさを感じている原因は智之にあったようだ。
常に見られている、見られていると意識をすればするほど、恥ずかしくなってくるものだ。
由佳はリアルでもエッチしようとしたりするとものすごく恥ずかしがる。
例えば、無防備な裸を見られたりとか、おっぱい触られたりした時とか。
どうも自分自身が智之の視線にさらされたりするのは未だに慣れないらしい。
(そういう恥じらいって、ホント大事大事)
「そうでしたか、えへへ」
「とにかく、あ、あんまりジロジロ見ないでよね……」
「見るなと言う方が無理だよ、それは」
「うぅ〜」
由佳がかわいく唸っていた。
(それに恥ずかしがる由佳もすっげーかわいいし……)
智之が由佳に対して、思わずいたずらとかしてしまうのは、由佳が「いじっていじってオーラ」を醸し出しているからだ。
しかも、面白いことにそれは智之と由佳が二人っきりでいるときにしか出ない。
それはまるで由佳が「わ、私をイジっていいのは、智之だけなんだからねっ」と無意識に表明しているかのようだ。
だから、本人たち以外は誰も彼らの本当の関係性を知る者はいないのだ。




 が、いずれにせよだ。
こっちの世界では、由佳は立派な巨大娘だ。
とてつもなく大きく、そしてこの世界の何者も逆らうことなぞ不可能な神にも等しい力を持つ存在であることに変わりはない。
(いや、もうすでに「破壊の女神様」と名付けてしまっているから、そうか……)
世界のすべてを見下ろし、その気になれば自分の思い通りに世界のすべてを従わせることができる。
この世界での由佳はそういう存在だ。



 そして、いずれは自らが持つ強大な力に酔いしれるようになる。
それは普通の人間には未知の快楽だ。
その気持良さを知ってしまえば、もう後戻りはできない。
由佳は今、まさにその快楽にどっぷりと嵌ろうとしている途中段階なのだ。
「いずれ」と記したが由佳にだって、その兆候はすでに見られている。
智之の目は誤魔化せない。
ほぼ智之の計画通りに事は進んでいるのだ。
(後は、本当の最後まで由佳が付き合ってくれるかどうか……
 もう少しだけ、強引に行く必要もあるかな……?)


<つづく>