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4-5-1.



 「由佳、またリクエストしてもいいか?」
「何よ?」
「そんなプリプリ怒らないでくれ……」
「怒ってる訳じゃないから気にしなくていいよ」
「あーいやーなんていうか……その足とか靴とかとビルを並べて、大きさ比べなんかしてくれたらオレとしてはすごくうれしいな〜というわけで……」
ジロリ……
またしても智之は由佳の巨大な瞳でにらまれてしまった。
「はぁ……」
それとお腹の底から出したような大きなため息。




 すると無言のまましゃがんでいた由佳が靴を脱ぐために地面に腰を下ろした。
(おっ……由佳が地面に座った。ということはやっぱりオレの言うとおりにしてくれるのかな?)
足をV字型に開き、両手を腰の横に置いて姿勢を安定させた。
由佳の巨大な脚が街に投げ出され、またしてもその下にあるすべてを押し潰した。
スカートから肌が露出してる膝付近、白い靴下に包まれた脛、その先のローファーまで……
どこをとって見ても山のようで、その巨大な連なりはまるで小さな山脈のようであった。
(なっ…….こ、この脚の開き方は……)
智之は重大な事実に気がつくと即座に視点を変えた。
やってきたのは由佳の脚で囲まれた部分。
ここから海田駅跡地周辺に鎮座している由佳を見上げると……
(おぉ……)
思わず智之は心の中で感嘆の声をあげていた。





 智之の視界に飛び込んできたのは建物の向こう側に見えるスカートの中の理想郷であった。
その奥には健全な男子であれば、誰もが思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう光景が確認できた。
それも都市を跨ぐという壮大なスケールで……
(これはやっぱり由佳のサービスか……はぁはぁ……)
由佳も智之がスカートの中をまたしても覗き見ている(むしろ不可抗力で見える)ことには気付いていないのか、
彼女の視線は別の方向に向けられていた。
その間にも智之は目に焼き付けるかのように由佳のスカートの中を見ていた。







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 「由佳は休憩中なのか?」
「いいでしょ、別に。休憩するくらい。
 どこかの巨大な女の子が好きなんていうどヘンタイのご主人様のせいで疲れたもん」
確かに考えて見れば、由佳は巨大化してる間はほとんど歩いているか立ちぱなっしな上に、
街を踏み潰しまくって足を酷使しているために疲れていても不思議ではない。
それに、元々体力があるほうでもない。
そうなると座って休憩をしたくなってもおかしくはない。
(でも、今座ろうとしたときに建物が潰れるなんてまったく気にすることもなく座ったよな..
 もうこんな小さな街なんてどうでもいいって思えるようになってるのか……はぁはぁ……)
ちょうどいい機会だし、このまま由佳の気が済むまで休憩してもらおう。
その間、手持ち無沙汰な由佳の手は届く範囲でビルを壊し続けていた。
表情を見る限りはつまらなさそうにしているわけではなく、むしろ微かに笑みが見える。
意外とそんなにも機嫌は悪くないようだ。




 「あ、忘れてた。智之が何を見たいのか知らないけれど、3つ目の理由言ってくれないと続きはやってあげないよ?」
「そ、そうだったな……ええっと…….」
自分で決めた約束なので、ここはきちんと守らねばならない。
「もうネタ切れ?智之は2つの理由でしか私を好きでいてくれないのかしら?」
「ちょ……待ってくれ物事には順番ってのがあって……どれを言おうかと考えてるところだって……」
「ふ〜ん……どうせさっきからずぅぅっと私のパンツ見て、うつつを抜かしてたりするんでしょ」
「げっ、バレてたのか……」
「とーぜんよ。智之がどれだけ変態は私がいっちばん知ってるんだから……
 私が気付いてないとでも思ったら大間違いよ」
(褒めてんだか貶されてんだかわかんねー言い草だな……
 あーどうしようどうしよう……なんて言えばいいか……)
「ほら、早く〜」
由佳は智之をせかすと同時にまた脚を伸ばして地上のビル群を一掃していた。






 「よし決めた。3番目はコレにしよう。そうそう由佳はコレだったもんな〜。
 オレとしたことがこんな大事な要素をすっかり忘れていたとは……」
「コレって何よ……一体……」
「それじゃ、三つ目。由佳が意外とMなこと」
「え、Mって言うけど……べ、別にそんなにMじゃないもん..」
「ほらほら、そうやってすぐに否定する〜。
それじゃ、この前えっちした時に『智之ぃ……もっといじめていいよ……』とかさ、
それに付き合い始めた頃には『どっちかって言うとMかな……』って言ったのは何処の誰だろうなー..?」
「い、言ってないって。そんなこと絶対に言ってない!!智之の聞き間違い!」
由佳はやけに必死になって自分がMであることを否定してみせる。
が、智之にはその訴えの効果は全くない。
今のいじられキャラは由佳なのだから……



 「そうは言っても、オレは由佳がMだって言ってるのをしっかりと聞いた覚えがあるし……ゆかはえむ〜ゆかはえむ〜♪」
「変な歌歌わないでよ!」
由佳は意地になって自分がMっ気を持ってることを否定した。
「まぁまぁ、オレがSで由佳がMだったら、相性的にもいいじゃん♪
 というわけで、Mな由佳にはやって欲しいことがまだまだあるからな」
「ううう……欲張り……ヘンタイ……このサディスト……」
「由佳がかわいいから苛めたくなるんだよ〜」
普段からプライベートで二人っきりの時は、こんな感じのやり取りがほぼいつも交わされている。
それは仮想空間の中で巨大化してるなんていう恐ろしく奇妙な状況でも変わりはなかった。




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 それから智之が色々と説得やら慰めやら拝み倒したりで、結局のところ、由佳の機嫌は元に戻っていた。
それに智之が曲がりなりにも三つ目の理由を言ったので、新たなリクエストが実行される運びになった。



 「えーっとさ、次は靴を脱いで踏み潰して欲しいんだけど……いいかな?」
「靴、脱ぐの?何で?智之はローファーが大好きだったんじゃないの?」
「そ、それはというとだな、確かにオレはローファーでの踏み潰しは大好きだけど……
 『全日本ソックス踏み潰し大好きクラブ』、略してJSCLCという組織があって……」
「全日本なんちゃらって……よーするに智之が見たいだけなんでしょ?」
「うっ……まぁ……そうとも言えないこともない。何せJSCLCの現在の会員数は1名だからな」
「わざわざ遠まわしに言っても意味ないんだから……そんな風に言わずに素直に言えばいいのに……」
「様式美って奴ですよ。エロくない由佳にはわからないのかな?」
「そうそう。私はエロくないからそんなこと分からないもん。とりあえず大人しく見てればいいの」
「それじゃやってくれるの?」
「靴脱ぐくらい大したことじゃないし……智之の好きなことやってあげるのが約束でもあるから……やってあげる……」
由佳は智之に押される形でリクエストを承諾した。
「それじゃ、お願いしまーす♪」
「まったく……何でそんなに元気いっぱいになるのよ……」





 そして由佳は靴を脱ぐために伸ばしていた脚を体の方に寄せた。
立ち上がって脱ぐにはここでは場所が悪い。
よって、座ったまま脱いだ方がいい。
「おっとローファーを脱ぐ時にもやって欲しいことが……」
「ほんっとーにリクエストが多いわね……」
逐一智之が注文を付けてくるので由佳が文句を言うのも仕方がない。
が、智之も智之でせっかくの機会なので妥協はしたくない。
(由佳には理解出来ないだろうけどちょっとした動作が萌えるからな)
少ない機会の中で惜しみなく自分の希望を伝えていく。




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 由佳が片足ずつ靴を脱いでいき、白いソックスが白日のもとに晒された。
智之はしっかりと由佳の脚の白い肌とソックスのコントラストが織りなす美しさに魅入っていた。
そして足から離れたローファーは由佳が摘まんで持っていた。

 由佳が鎮座している一帯の建物はみな押し潰され、ある一定の距離を置いた場所から先は一応、街並みが残っていた。
その巨大さは周りをビルで囲まれているはずなのに由佳の体がほとんど隠されてないことからも分かる。
下半分が三割ほど、上半分は全くと言っていいほど隠されていない。



 「それで、そのローファーをどこかまだ壊れてない場所に置いて欲しいんだ」
由佳は言われたままにしようとした。
が、置く場所がなかった。なにせ周囲は建物が密集している。
そんなところに240メートルというあまりにも巨大な靴を置ける場所などなかった。
となると方法は一つしかない。
建物など気にせずに置けばいいのだ。
一瞬のためらいが消え去った時にまた智之のリクエストが届いた。



 「そのまま建物を潰すように置いてもらえるとうれしいなぁ……」
ズズーン……
由佳がローファーを地面に落とす形で置いた。
ローファーの自重でしたにあった建物は当然のごとく押し潰されてしまった。
「はい、置いたよ」
「おぉ……でけぇ……」
由佳の行動一つ一つが智之に歓喜と驚嘆の声を上げさしている。


 「靴ばっかり見てたらダメだよ?ヘンタイさん♪」
智之のヘンタイフェチは聞かされてはいるが、あまり重症になられると困る。
なので、程々にしておくため由佳はちゃんと釘を差しておいた。



 それから由佳は座ったまま、足の伸ばして近くにあった建物を壊し始めた。
(ほらほら……早く逃げないと潰しちゃうゾ……まっ、逃げれるはずがないけどね……)

街の一区画をまるごと踏み潰せるほど巨大な足が1回……2回……3回……4回……と振り下ろされ、
その度に下にあった街並みが消えていった。
由佳は足を伸ばした状態での体操をするかのごとく、器用に脚を移動させて大浜の街を壊し続けていた。



 ローファーを履いていたさっきまでとは違い、足と地面の間には布一枚しか無い。
そのため、地面を踏みしめる感触、建物を踏みつぶす感触がより強く感じられた。
(あっ……潰れちゃう……)
あえてゆっくりと慎重に足を地上に下ろしても、そこにある建物は抵抗なく押し潰される。
逆に勢い良く足を振り降ろせば、地面に足型のクレーターが出来てしまう程だった。
由佳は実感してないはずだったが、局地的な範囲に限定すれば彼女の一歩一歩が巨大地震さえも超える被害を生み出していた。




 純白の白い靴下は脚の真裏以外の部分は汚れていなかった。
智之を萌えさせる純白さが保たれている。
地上を直に踏みつぶしていく真裏の部分だけが小人たちが築きあげてきた都市の残骸で茶色く汚れていた。
(とりあえずはこんなくらいで智之は満足したかな……?)
「智之〜、こんな感じでいい〜?」
「文句なしです」
(そりゃ、智之の言うとおりにやってあげてるんだから……
 そして絶対、ニヤニヤしてるはず……)
由佳は直接見たわけではなかったが、そう確信し、それは結果として的中していたのであった。



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 そして由佳はおもむろに立ち上がった。
上空から見下ろすと普通の街並みと自分が踏み潰して破壊してきた部分とがはっきりと見分けられた。
コンクリートが崩壊して立ち上る砂色の煙とそれから遅れて発生する火災の黒煙。
由佳が踏み潰してきたあちらこちらからいくつも見える。
大浜の街が大震災にあったかのような光景である。
だが、その原因は大いなる自然の力ではなく、一人の巨大な人間……
由佳とこの世界の小人との違いはたった一つ、大きさだ。
だが、その圧倒的な差が由佳に神にも匹敵する力を与えていたのだ。




 ここまで智之の言うとおり(と少しだけ自分の欲望に従って)壊してきたが……
ただ、それでもはっきり言って破壊し尽くしているとは言えなかった。
(都市って結構、大きいのね……なんか中途半端な気もするけど……
 別に小人さんの全滅を目指してるわけじゃないからね……
 私はまぁ……その……それなりに楽しんで……あぅ……)
由佳は自分が破壊活動を楽しんでいることを自覚して気恥ずかしくなった。




 超巨大化して遥か上空から見下ろして、都市という人類の文明の偉大さの一端を知った。
そして、その高度な文明の象徴を神のごとく、足で踏みにじってきた。
破壊欲望の解放、絶対的な力の行使、優越感の快感。
これらはどれをとっても現実世界では決して味わうことを許されない。




 「今は分からないかも知れないけど、その内、巨大化して街を壊すのが楽しくなってくるよ」
初めて「ゲーム」の中で巨大化してあげてから、智之にそんなことをずっと言われ続けていた。
「そんなワケないでしょ」
と由佳はその時は否定していた。
が、もうそろそろ限界だ。
もはや自分が巨大化するのが嫌いではない、いや、好きだということを智之に隠し通せ無くなってきている。



 少なくともこの「ゲーム」そして仮想空間に関しては智之の方が知識は多いし、色々な経験値もあるはずだ。
由佳の知らないところで、あれやこれやと怪しげな「実験」をしていてもおかしくはない。
だから、あんなことを言ったのだろう。
いずれ由佳もこの快感の渦に飲み込まれることを見越して。
その時は智之が調子に乗って言っただけだとあまり気に止めなかった。
(ま・さ・か。こうなるとは思ってなかったんだけど〜どうしよっかな〜
正直に言っちゃうのもアリかもしれないけれど……
智之がさらに調子乗ると困るし……
かと言って、隠してると隠してるで智之にからかわれそうだし……
ん、なんかどうやっても智之の都合のイイようになりそうで怖いわね……)


 頭の中でそんなことを考えていると周囲への意識が消え去っていた。
ほんの少しの時間、小さな世界の中を無意識のまま歩いていた。
(って……考え事してたら変なところまで来ちゃった……)



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 その頃、智之も大浜の街が巨大な白いソックスで押し潰されていく光景を見ながら思案を巡らせていた。
(大浜の街を破壊するのに思ったより時間が掛かったな……
 1000倍でもジャンプして地震でも起こさない限り広範囲をババーっと破壊するのは無理だったか……
 こりゃ、今度の課題だな……)
彼の方はと言うとさらなる欲望のレベルアップに余念がなかった。
欲望のレベル上げればちょっとやそっとじゃ満たせなくなってくるのである。



 時同じくして。
由佳の動作に合わせて視点移動させていた智之ははたと気付いた。
(あれ……ここどこだ……?)
智之もまた由佳の所在地を見失っていた。




<つづく>