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1.

 ここは、首都圏近郊の白川市。
都心のターミナル駅から市の中心駅である白川駅まではJRの快速電車で35分。
人口27万人の典型的なベッドタウンである。
智之は、JR白川駅前広場にやってきた。



今は日曜日の午後とあって、駅前広場には親子連れやカップルなど、たくさんの人で溢れかえっている。
だが、あと10分もすればこの平和な光景は地獄絵図と化すことを彼にはわかっていた。
そして、それは彼が望んだことによって引き起こされることの結果である。
(アイツにとっては初めてのプレイだけどちゃんと出来るかな...?
 ちょっとくらいおかしなところがあっても大目にみてあげないとかわいそうだし...
 さて、高見の見物といきますか)とつぶやき、駅前広場から立ち去った。





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 それから数分後、突然「ズシーン、ズシーン」という重低音が街に響き渡り、地面が規則正しく揺れ始める。
揺れはそんなに大きなものではなかったものの街を歩く人々は、
不安そうな表情を浮かべ「地震か?」と思いつつ危険な場所から離れるなどした。
そうこうしている間にこの揺れがただの地震ではないことに気が付くが、不安は拭い去れない。
次第に、地面が揺れる間隔が短くなっていき、この重低音と震動を発生させる元凶がついに人々の前に姿を現した。
その「元凶」は、全九階建て、高さ30mの駅ビルを優に超える大きさの少女だった。
彼女の大きさも尋常ならぬものであったが、彼女の服装もこれまた普通ではなかった。





 そう、人々の前に現れた「元凶」はなぜかかわいらしいメイド服を着ていた。
最近、メディア各社が競って「萌え」やら「アキハバラ」をブームとして
報道した影響でメイド服が世間一般でもわりと知名度があるようになってきた。
しかし、いくらメイド服の知名度が上がったとは言え、
メイド服を街中で普通に着てるような人をアキハバラやその他それに似た地域以外で見ることはほとんどない。
そしてメイド服に合わせる格好でこれまたかわいらしい靴と白いニーソックスを履いていた。
さらにかわいらしい顔つきをしていた。
だけれども、そのかわいらしさとは大きくかけ離れた身長150m、体重40000トンにもなるとても巨大な少女であった。






 恐らく先程の重低音と震動は彼女がこの駅前広場とは,
反対側にあるバスロータリーから伸びる道路を歩いてきたことで発生したのだろう。
彼女はその巨大な白い塔のような足をロータリーに突き刺したまま駅ビルを挟んで
向かい側の駅前広場にいる人々に向かってこう言った。 
「おもちゃの街に住む小人の皆さん、こんにちは。
 私は,この前ご主人様との待ち合わせの時に遅刻してしまい,
 その罰としてこの街をめちゃくちゃにしろといいつけられました。
 なので、,この街の皆さんにはお気の毒ですが、,めちゃくちゃに壊させて頂きます」




 駅ビル越しに巨大メイドの姿を見るやいなや、その場に居合わせた人々は「巨人だー」やら「に,逃げろー」などと叫びながら、
駅前広場から蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。 
彼らがパニックに陥っている様子に巨大メイドは少し満足したのか、彼女の表情には笑みが浮かんでいた。
「では、早速ですがこのおもちゃの街を壊させていただきます」と言い放つと
彼女は駅ビルを貫通して走っているJRの高架橋と平行に100mほど歩いた後、
立ち止まり足を高く上げ高架線路の上に振り下ろしたのだ。 
彼女が履いていた黒いストラップシューズは高架下に設けられた駐車場ごと高架線路を粉砕した。
そして、振り下ろした足の両側の高架橋もぐちゃぐちゃにして、高架橋には長さ50mほどの穴が出来てしまった。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
丁度、その時運の悪いことに高架線路の上り線にはこの駅を通過しようとしていた
12両編成の快速が走っており、さらに下り線にも駅を通過中の26両編成の
石油を満タンに積んだタンク車を連ねた貨物列車が走っていた。





 巨大メイドが足を振り下ろして高架橋を破壊している光景を
両列車の運転手は運転席から呆然と眺めてしまい、ブレーキをかけるのが遅れてしまった。
この事が更なる惨事のを引き起こすことになった。
まず高架橋の「陥没」に快速が墜落し、前7両が重なり合うようにぐちゃぐちゃに潰れ、
反対側からは、石油を満タンに積んだ貨物列車が同じように「陥没」に墜落し
その瞬間、とてつもない音量の爆発音が辺りに響き、その音と共に「陥没」からはドス黒いキノコ雲が巻き起こり、
側に居た巨大メイドの背丈よりも高く舞い上がった。
また、爆発と同時に高架上に残っていた20両近くのタンク車にも次々と誘爆した。
貨物列車の最後尾は、まだ駅の途中にあり駅のホームにいた人や
駅で両列車の退避待ちをしていた普通列車の乗客はなす術もなく爆発に巻き込まれていった。
駅のホームで爆発があって1分後には九階建て駅ビルが完全に瓦礫の山と化してしまった。
巨大メイドが出現して5分も経たずして、一連の爆発、駅ビル崩壊による死者数は1000人も上った。


 巨大メイドは、一連の爆発の惨事を見届けた後、満足げな表情で
「どう?見たでしょ、私の力。」と言い放ち、その後は駅までいったん戻り
駅から伸びる大通りを乗り捨てられた車を踏み潰し、アスファルトを軽く陥没させながら
市中心部へと歩いていった。




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 この事態は、すぐに政府首脳に伝わり、首相は即座に自衛隊の出動命令を下した。
この巨大メイドによる被害を一刻でも早くまた最小限にくいとめるには
この怪物を多少のリスクを被ってでも倒さねばらないないという判断が即座になされ
街から10km離れたところにあった駐屯地には全隊出撃命令が下り、
そのた後方支援用として関東一円の精鋭部隊にも出撃命令が下った。




 巨大メイドは大通りを歩きしばらくすると、向きを変えて通りの東側に広がっていた住宅街に足を踏み入れた。
この住宅街は、極々普通の住宅街で縦横に一車線程度の道が走っていた。
が、幅10m近くもある彼女の靴が狭い路地に入るはずもなく路地の両側の住宅を踏み潰しつつ巨大メイドは歩いていった。
巨大メイドは、住宅街に入って改めてこの世界の小ささに驚き、そして
自らの持つ力の強大さ、自らの身体の大きさを感じ取っていた。
普通の一戸建て住宅は彼女の足のサイズと比べものにならないほど小さく、むしろ手のひらに乗りそうなくらいのサイズであった。






 彼女が一歩踏み出すたびに数戸の住宅が木造も鉄筋も無関係にまとめて踏み潰され
数十mごとに20mを超える大きさの足跡が残され、その跡には無残な瓦礫の山だけが
残され一部からは出火していた。
彼女にとって、この住宅街を踏み潰す感触は新雪の上の歩く感触によく似ていた。
新雪の上を歩くたびにするあのザクッザクッという気持ちいい音。
あの音を楽しむかのように、巨大メイドは住宅を踏み潰していった。






 彼女が「住宅潰し」を満喫している間に2機の戦闘機が彼女に近づきつつあった。
戦闘機のパイロットは、出撃命令を受けたときには
「巨大生物が駅周辺に出現し、破壊行動を行い甚大な被害が出ている」
としか聞いておらず、巨大生物といえば巨大な爬虫類を思い浮かべるのが、
日本人の常ということでパイロットもまた巨大生物と聞き巨大爬虫類を思い浮かべていた。
しかし彼らの目の前に現れた巨大生物は巨大爬虫類ではなかった。
件の巨大生物はごつごつした面構えでもなく、巨大な尻尾もない
巨大な人間、それもかわいらしい服を着た巨大な少女であることをパイロット達は認めざるを得なかった。







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 とりあえずパイロットは司令官の指示を仰ぐことにした。
相手が人間の姿をしているとあって、即座に攻撃をすることにはためらいがあったのだ。
「司令官、まずは様子見ですか?」
「いや、即時攻撃せよ。こちらがもたもたしている間にもどんどん被害が拡大している。
 それぞれミサイル2発を目標の背部に撃ち込め」
「了解。ミサイル発射!!」



 ゴォォォーという音ともにミサイルが戦闘機から発射されて、巨大メイドのお尻と背中の境目付近に命中し爆音を立てた。
「よし。」とパイロットが思った瞬間、音に気付いた彼女が後ろを振り返り、彼女の腕に戦闘機が衝突してしまった。
彼女の腕の大きさからして、戦闘機の方が負けるのは明らかであった。
その衝突で、戦闘機に乗っていたパイロットは即死し、機体の残骸は住宅街に落下し大きな爆発音を立てた。
ミサイルと戦闘機が衝突したにも関わらず、巨大メイドの方はケロッとしている。
彼女の巨大な腕にはかすり傷一つなく、またメイド服にも何のほつれさえ生じていない有様だった。
そして、何事もなかったかのようにまた、彼女は「住宅潰し」に戻ろうとしていた。




 生き残ったもう一機の戦闘機のパイロットは司令官に
「司令官、ミサイルが全く効きません。戦闘機と衝突しても全くの無傷です。」
「なんだと、もう一回ミサイルを撃て。今度は前から回り込んで怪物の顔面に撃ちこめ!!」
「了解。」
(これだけかわいい女の子の顔にミサイルを撃ち込むとはな...
 だが、街を破壊され、盟友を失った以上、見ているだけにはいかないんだ!!!)
女の子の顔面狙いは男として最低とは思いつつも他になす術がないので、パイロットは巨大メイドの左目に照準を合わせ、ミサイルを発射した。





 しかしまた奇妙なことに今度は、巨大メイドの顔の約10m手前でミサイルはいきなり爆発した。
無論、命中していないので彼女は無傷である。
「司令官、今度も全くミサイルの効果がありません。一時離脱します。」
パイロットの報告の声が指令部に虚しく響きわたった。
「ミサイルをもってしても、奴に傷一つ与えられないとは… 
 奴は宇宙人かそれとも異次元人なのか…」
司令官はうなだれていた。
「もしかすると、爆発力がまだまだダメージを与えるには足りないのかも知れん。
全隊一斉攻撃をやるしか方法はない。それでもダメなら…核しかない…
しかしこの現状を見る限り核さえも奴には効かない可能性が高い…
その時は、世界終末人類滅亡かもな」と司令官は思った。





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 ミサイル攻撃が効かないことがわかり司令部が暗い雰囲気に包まれていたその頃、
巨大メイドの方はというと住宅街の中で突然四つん這いに姿勢を変えて、住宅潰しを続けていた。
地面に手を置く度に数戸の住宅が潰され、
足が擦り動かされたことであっという間に瓦礫の山にされてしまったマンション。
彼女の「ハイハイ」したあとは全ての建物が跡形もなく、潰されていた。
途方もない破壊活動を彼女は楽しそうに笑顔を浮かべやってのけている。




 もはやこの街に対する蹂躙は彼女にとって、
娯楽若しくははストレス発散の場でしかないのかもしれない。
こんな光景が目の前で繰り広げられることで小人達は自らの無力さ、小ささを感じていたのだった。
四つん這いの姿勢で「住宅潰し」を堪能していた巨大メイドが、ふと顔を上げると少し先にあるやや大きめの幅の道路
(とはいえ、彼女の巨大な両足がその道路の幅に収まるかは怪しい)に数十台もの戦車が集結してるのが見えた。




 「小人の軍隊が、おもちゃの戦車でわたしに攻撃しようとしてるんだわ。
 でも戦車とは言え、所詮、小人の戦車でしかないのだし、わたしにとっては
 おもちゃにしかならないの。きれいさっぱり潰してあげて力の差を教えてあげなきゃ。」
と思って、巨大メイドは一旦、「住宅潰し」を止めて四つん這いのまま住宅街から身をのりだして、戦車が集結している道路に現れた。


 予定通り、道路に巨大メイドを誘きよせた小人の軍隊は、
彼女が道路上に出現した瞬間に、彼女の顔に向けて一斉砲撃を敢行した。
攻撃が数十秒間続いた後、あたりには煙がもくもくと立ち込めていた。



 そして煙が途切れたとき、にわかに信じられない光景が広がっていたのだ。なんと
そこにはなにくわぬ表情をした巨大メイドが笑みを浮かべていた。
「小人の軍隊の皆さん。お疲れ様でした。
 皆さんの攻撃では、私に傷一つつけることは絶対に出来ません。
 それは、私のご主人様が決めたルールですので仕方ありません。
 ですが、皆さんはがんばったので、ごほうびをあげたいと思います。」
ごほうびって何だよと戦車部隊の兵士が思うなか、彼女は続けて
「皆さんを戦車ごと、私のおっぱいで潰してあげます。残念ながらメイド服越しですが我慢してください。」と言った。




 彼女は、四つん這いの姿勢のまま、前進して胸が戦車部隊の直上に来たところで止まった。
そして二つのガスタンクほどの大きさのおっぱいを戦車の上に降ろした。
降ろされたおっぱいが地面につくと、むにょ〜んと横に広がり
おっぱいの自重だけで、戦車を押し潰した。
「女の子のおっぱいの重さだけで戦車が潰れちゃうなんて
 ホント、おもちゃの世界は、弱くて脆いわね。」
と巨大メイドは言って胸で戦車を潰し続けた。





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 ほとんどの戦車を潰し終えたところで巨大メイドは何かいいことを思いついたのか突然、その巨体を起き上がらせた。
「そうだっ!このおもちゃの街の中で私が跳び跳ねたら、もっと街が派手に壊れるのかな?
ご主人様のいいつけにはなかったけど、街をめちゃくちゃにすることには、
変わらないしやってみよーっと」と巨大メイドは言い、そして、彼女はその場で"軽く"ジャンプしてみた。
巨大メイドが引き起こす震度5クラスの揺れに対し備える間もなく、小人達は巻き込まれていった。
この「地震」では、幸いにも揺れが震度5程度と小さくて、ビルの窓ガラスが割れて落下する程度の被害で済んだ。
しかし、当然ながらこの程度の被害を与えるだけでは、巨大メイドは満足するはずもなく
「今のは、ほんの予行演習。今から本気でジャンプするから、覚悟しなさいね。こびとさん」と言った。
そして、前回よりも力をこめて4,5回高くジャンプした。
今度は震度7クラスの激震が街全体を襲った。
今の「地震」 によって、鉄道のの高架線路は次々と落下し、
白川市を東西に貫いていた高速道路の橋脚が根元から折れ、
自動車で白川市を脱出しようとしていた多くの人々が犠牲となった。






 この「地震」で、文字通り白川市は地獄絵図と化していた。
地震前でさえ、死者数は2000人程度であったがこの地震で
死者数は1万人を軽く超え、建物の損壊数は一万二千にも上った。
たった一人の「女の子」がやったとは思えない惨状である。



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 そして、とあるビルの屋上で避難もせずのんきに高見の見物をしていた智之はこの想定外の地震で死にそうな思いをした。
本来のシナリオにはなかったことだった。
彼女が智之のシナリオ通りの「おっぱいプレス」を終えた後、
本来のシナリオでは、白川市北部にあるダムを破壊してダムを決壊させ、街を水没させて、今回のプレイは終了の予定であった。
「最後の最後でこうなるとは...仮想現実の中とは言え、やっぱり地震は怖いな....ふぅ...」
智之は何とか立ち上がって、改めて周囲の風景を確認した。
何もかもが巨大な地震によって破壊された白川市の街並み...
あちこちから黒煙が立ち上っていた。
そんな焦土と化した街の中。
さっきまでと何の変化のないものがあった。
身長150メートルもあろうかというメイド服を着た巨大な女の子...
今は腰に手を当て、勝ち誇ったかのような表情で足元に広がる「街」であった場所を見下ろしていた...
そんな「恋人」の姿に智之の股間は激しく反応していた....




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 そうこうしている間に智之の視界が真っ暗になり、
「『DIVE』が終了しました。ヘルメットを外して下さい。
 録画ディスクとメモリーカードを忘れずにお取り下さい。」
と機械のシステムボイスが告げる。
彼が座っていたシートとは反対側のシートでは、プレイ中、数々の破壊活動を行っていた巨大メイド...
それを演じていた智之の彼女である由佳がヘルメットを取り外していた。



 「お疲れさん♪どう,楽しかった?身長150mの巨大メイドさんになってみるのは?」
「楽しかったって...巨大化するなんて初めてだったから...」
「浮かない顔してる割には、さっきまで笑顔でビルとか壊してたくせにー。
 楽しくなかったとは言わせないぞ?」
と智之は由佳を小突きながら言う。
「だって、あの『おっぱいプレス』っていうの?
 あれ、実際にやってみたら、すごく恥ずかしかったんだから...
 だから、仕返しに智之を少し怖がらせてみようと思って、最後だけはシナリオと変えて
 ジャンプして地震を起こしてみたの…」
「へぇー、あの時、わりと恥ずかしかったんだ〜」
「もう、その話は終わりっ」
由佳はぷいっとそっぽを向いてしまった。


 「終わりといっても、さっきのプレイは、このディスクにしっかり記録されてるんだけどな〜
 これさえあればいつでも好きなときに、街を破壊する巨大メイドさんを見れるんだし〜」
「智之一人で勝手に見てればいいじゃない!」
「ごめんごめん。でもさ、正直言ってすっげーうれしかった。
 仮想現実の中とは言え、由佳が巨大化してくれるなんてさ。
 思い出しただけで興奮してくる...」
「なんで、あれで興奮できるのよ...まったく...ほんと智之は変態なんだから...」
そう言って由佳は呆れて見せた。
ただ彼女の顔には笑みがこぼれていた。
由佳は智之の性癖を変態だとは思っていたが、そう悪くは思っていなかった。
だからこうして今では彼の性癖を多少なりとも受け入れて、理解しているのであった。



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 彼らが先程までプレイしていたアーケードゲームのような機械の正式名称は、「DESIRE」。
「DEvice of SImulated REality」の頭文字を取って名付けられた。
日本語に訳してみると「現実性を仮想体験する装置」
正式名称の意味を理解するとなるほどとなる。





 日本の大手ゲームメーカーであるSEVENTH HAVEN社が初代DESIREを世に送り出してから約5年。
改良を重ね、ついに完成版とも言える第三世代の「DESIREV」が登場し、今まで以上の人気を博している。







 「DESIRE」は普通のゲームとは大きく異なる特徴を持つ。
それは一人一人のプレイヤーが個々の仮想世界を創造しその中に潜入 -DIVE- し、仮想空間内の世界を自分の思うがままにして楽しむことだ。
仮想現実の一人の単なる登場人物ではなく、世界を自由に操れる創造主として世界に入ることが出来るのだ。
だから、その仮想世界の中で何をするのかは、全てプレイヤーにゆだねられていると言っても過言ではない。
なので「DESIRE」は、普通のゲームのように何かしらの勝負をして勝つことが目的ではない。
そういった狭い範囲の目的には縛られていない。




 もちろん「クリエーター側」として自分の世界に関わるだけではなく、「プレイヤー側」としても世界に入り込むことが可能だ。
仮想空間のベースとなる世界観やストーリーも用意されている。
剣と魔法のファンタッジクワールド、第三次世界大戦後を仮定した荒廃した地球、惑星間航行が盛んなSF的な未来世界等...
ただそれは単なる舞台でしかなく、その世界の中で何をするかはプレイヤーの完全な自由だ。



 SFの小説、映画、漫画あるいはゲームなどでよく仮想空間や仮想現実をテーマとされることがある。
こういった作品に出てくるのはある一つの巨大な仮想空間であることが多いが、
「DESIRE」はプレイヤー毎に個々の世界を持てるので、これらとは全く異なったタイプの仮想空間だ。
なので、開発元であるSH社も含めて他者からの干渉も基本的にはない。
SHは舞台の提供者でしかなく、個々の仮想世界を管理することは出来ないからだ。




 そしてもう一つ忘れてはならない特徴が、プレイの記録機能だ。
各プレイ終了後に、プレイデータを記録したメモリーカードとプレイ自体の映像を記録したディスクが受け取れる。
ディスクの方は一般的な市販の再生機で再生可能だ。
人に見せるもよし、自分だけの秘密を記録したものとして持っておくのもよし。
今後のプレイの参考にするなんていう使い方もある。





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 そして智之は先ほどまでいたあの世界の「創造主」だ。
自分の恋人である由佳にメイド服を着せ、100倍に巨大化させて、あの仮想現実の世界に降臨させた。
一方、智之はその光景をただ眺めているだけだった。



 由佳が降臨した後に起こった出来事はさっきの通りだ。
白川市周辺は巨大メイドの襲撃で甚大な被害を被り、壊滅。
でもそれは仮想空間の話だ。
現実の白川市には何の影響もない。
だから、先程の惨劇はすべて仮想の出来事だったのだ。



 あのような惨劇は架空の出来事であった方がいいに決まっている。
破壊や死は何者にも変えられない喪失だ。
そんなものは出来る限り現実世界ではあってほしくないことだ。
でも、仮想世界ならどうだろうか。
データで構築された仮想世界。
見た目は現実とそっくりだけれども、中身はまるで違う。
現実を模したデータに過ぎない。
データだからたとえ破壊や死ということがあっても操作一つで元通りになってしまう。
仮想世界の中で建物が壊され、人が死んでいくということがあっても、
それは「DESIRE」のデータ上で少しばかり変化があったに過ぎない。


 それにあの仮想白川市が巨大メイドに襲撃され、破壊された理由はある種、不謹慎と言える。
なぜなら、あの世界は智之の性的欲望を満たすためだけに作られ破壊されていくのだから....






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 個々の仮想世界の中で行われていることを知り得るのはその仮想世界に「DIVE」する者だけである。
SH社も利用者のそれぞれのプレイヤーが何をしているかは把握していない。




 それに関連することだが、重要な大原則がある。
何人も「DESIRE」の仮想世界の中で何をしようとも許される。
公にしない限りはであるが。
当たり前といえば当たり前である。






 例えば、パソコンで自分が書いた小説の中で殺人をしようと乱交をしようと巨大メイドが街を破壊しようとて
それを公にせず、自分の中にしまっている限りはそれが元で公的機関に取り締まられることはない。
それと同じだ。
公にしない限りは違法性は皆無だ。
パソコンの中の小説も「DESIRE」の仮想世界も同じデータ上の存在。
データをいくら書き換えようと現実には何の影響も及ぼさない。





 「DESIRE」の中では何をしても許される。
公にしない限りはであるが。

 


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 だからと言っては何だが、「DESIRE」の中で繰り広げられている世界は恐ろしいまでに自己中心的だ。
 ある者は好きな女性を自身の妄想どおりに何でも言うことを聞く性奴隷としている。
 ある者は世界征服を成し遂げて、全世界を思いのまま操っている。
 ある者は成し遂げられなかった子どもの頃の夢を適えている。
 でも、これが「DESIRE」の本来の姿なのかもしれない。



 こうして日々、「DESIRE」は清濁併せ呑んで、現実世界で満たされることのない人間の欲望を仮想空間で具現化し続けていた。




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 彼らが、さっきまで遊んでいた「DESIRE」は、全国各地に急速に普及しつつあった。
装置が大型のため家庭には不向きだが、カラオケボックスのような形で、気軽に誰でも仮想現実を体験することができる。
うらやましい時代になったものだ。

仮想現実というSFめいたものが想像できなければ妄想をリアルに体験できると考えてもいい。
Science FictionではなくSexual Fantasy。
こう考えると分かりやすいだろう。



 今日、2人は智之の誕生日祝いということでこの「DESIRE」を利用していたのである。
智之の「巨大なメイドさんが街を楽しそうに破壊していく光景」を見てみたい
というたっての希望を由佳が誕生日祝いということでしぶしぶ受け入れたのだった。




 「また、こんど別のコスプレしてやってみる?」
と智之が尋ねると「今日は、特別なんだから、次を期待するなら一年後ね。」と由佳。
「え〜〜ケチ〜〜」と智之はすねた。
「でも、次回は案外、近いうちかもね」と由佳は小さな声でつぶやいた。
「ん?何か言った?」
「べ〜つに〜。それよりも、さ」
「ん?」
「どこかでお茶していかない?お腹減っちゃったし」
「そうだな。オレもお腹が減ったみたいだし〜」
二人は仲良く手を繋いで、「DESIRE」をプレイした店を出た。





 「ありがとうございました。またご利用くださいませ〜」
受付の店員の声を受けて、智之と由佳は「DAIVING SPOT! 白川駅前店」を後にしたのだった。


<つづく>

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