Sweet Sweets


宇宙空間を遊泳する二人の少女。
他愛のない話をしながら、どこへともなく進んでいく。

ふと、ツーサイドアップの少女がポニーテールの子に話しかけた。
「ねえ、知ってる?」
「な~に?」
「小さなお星さんって、とっても甘くておいしいんだよ」
「ほんと?」
「うん、ほんと。外はふわふわ、中はとろとろのあま~いお菓子みたいなの」
そう言って、ツーサイドアップの少女は食べた時の感触を思い出して顔をほころばせる。
口元に指を当て、それを羨ましそうに見つめるポニーテールの少女。
「いいなぁ。わたしも食べてみたい…」
「じゃあ、食べる? この近くにもあるみたいだし」
「うんっ」
そして二人は近くの星へと向かっていく。

その星――地球に住む人類は前代未聞の事態にパニックになっていた。
地球の10倍以上ありそうな大きさの少女たちが迫りつつあったのだ。
とはいえ、あまりの大きさに実感が湧かず、幻影だと思う人々もいたが、
月が一人の少女の身体に触れて粉々に砕けたことで現実を直視せざるを得なくなる。
だが、どうすることもできない。逃げることもできない。
地球周回軌道に宇宙ステーションを造るので精一杯なのだから。
人々はただ茫然と、彼女たちの一挙一動を見守るしかなかった。

しばらくして二人は地球のすぐそばまでたどり着いた。
途中、可愛らしい小ぶりな胸で月を粉砕していたことに気がつくこともなく、
ポニーテールの少女は笑顔で手のひら大の蒼い星を覗き込む。
「これがお星さんかぁ。きれい…」
「食べちゃうにはもったいないくらいね」
ツーサイドアップの少女も反対側から顔を近づける。

その頃、地球からは数千発の核ミサイルが少女たちの顔めがけて打ち込まれていたが、
どれだけ命中しようと彼女たちは傷つくことなく、また攻撃に気付くこともなかった。
人類のささやかな抵抗はこうして呆気なく終わった。

少々物色をしてから、ポニーテールの少女は人差し指を地球に突き立てた。
「えへ、どんな味なのかな」
そのままつーっと指先で軽く表面を撫で取ってから、
欠片がこびりついた人差し指を口に持っていくと、ぺろっと舐めてみる。
「んー、あま~~い♪」
「でしょー。ではでは、わたしも」
もう一人の少女も星の一部を摘まみ取ると、ぱくっと口に含んだ。
「おいしー♪」
満面の笑みの少女たち。

一方、人類からしてみれば少女たちの指の動きはまさに天変地異であった。
少女の人差し指一本に中央アジアの国々が岩盤ごと削られ、抉り取られ、
もう一人の少女の親指と人差し指で南アメリカ大陸の大部分も持ち上げられてしまう。
さらにこれらは少女たちの口へと運ばれたのだ。そして咀嚼。
わずか一分足らずで数億の人類が彼女たちの指先と口内で消えていく。
人類の存在など無いに等しかった。

軽く味見をしたポニーテールの子がツーサイドアップの少女に尋ねる。
「ねえ、舐めてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「えへへ、やったー。ぺろぺろ」
少女の舌が地球を舐めとっていく。
初めは軽く、次第に地中深くまで潜り込んでいく。

巨大な少女のべろに、ヨーロッパは根こそぎ舐めとられていった。
小さくて可愛らしい舌も、この大きさでは人類のあらゆる兵器よりも強力だった。
一舐めで数百の大都市と無数の農村が消滅し、もう一舐めで周辺の海洋も舐めとられる。
超高速で移動する超巨大な舌に、軍隊など抵抗する間もなかった。
守るべき国ごと一瞬にして全滅させられてしまう。
さらに少女が舌を深く突き刺したことで、マントルも露わになるが、
彼女は熱さを感じる様子もなく、美味しそうにちゅぱちゅぱ取っていく。

そんな様子を微笑ましそうに見ていたもう一人の少女だが、
ふと、少女の顔に星の欠片がついているのを見つけ、
また、あまりの熱中さについ悪戯をしてみたくなった。
「ほっぺについてるよ」
「え、どこどこ?」
「こーこ」
ぺろっ。頬を軽く舐めて欠片を取ってあげる。
「ひゃん」
思わず可愛らしい声を上げる少女。
「うふ、かわいい♪」
それをますます楽しそうに見るもう一人の少女。

それからまた地球は二人に片っ端から食されていった。
北アメリカは丸ごとかじり取られ、アフリカは十字に舐めとられる。
日本もまた、地殻やマントルごと丸々摘まみ取られたあと口に運ばれ、
一億三千万人が少女の舌の上でとろけていった。

こうしてあっという間に残るはコアだけとなってしまった。
「結構食べちゃった…」
「じゃあ、残りは仲良く半分こね」
そしてコアも舐めとっていく二人の少女。
れろれろ。舌を絡ませ合って最後の一片まで残さず舐めとる。
もはや地球の痕跡はどこにもなかった。

「あー、おいしかった♪」
「小さなお星さんがこんなにおいしいなんて知らなかったよ」
「じゃあ、もっと食べる? この近くにはまだまだあるよ」
「うんっ」


そして数多の星々が忽然と姿を消したのはまた後の話。

おしまい

 

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