海だ!スク水だ!!巨大娘だ!!!

 海。広大無辺にして、生命の起源である母なる場所。
暗闇に閉ざされ静寂とした、未知なる深海とは打って変わって、
青々とした水面はさざ波を立て、真夏の太陽の日差しを浴びてキラキラと輝く。
ここ、玉津島でも海は青く輝き、都会のそれよりも一層澄んでいた。
穏やかでゆったりとした、綺麗な海。されど、ひっそりともした海。
まるでこれから起ころうとしている大嵐の前兆かのように。
その沖合で優雅に泳ぐ一人の少女。紺色スクール水着姿の少女。
彼女の名前は榊 千華(さかき ちか)。地元高校の水泳部に所属する女の子である。
容姿端麗で、学業・運動ともに優れ、おまけに由緒正しき家のお嬢様とあって品行方正と、
まさに完全無欠で、本人は特に意識してないが校内にファンクラブが出来るほど人気があったりする。
おかげで海辺を泳いでいるといつの間にかギャラリーが出来てしまうほどなので、
嫌というわけではないが少し恥ずかしく、集中することができないため、
今日も人目を避けるようにして島の沖合を泳いでいく。
いつも以上に穏やかで、静まり返った海をのびのびと。
しかし、ある地点に差し掛かったところで彼女は異変に見舞われた。
周りの海が突然七色に輝いたかと思うと、ポコポコと気泡が浮かび上がり、
さらに魚が何匹も浮かび上がってはプカプカと海面を漂ったのだ。
(毒ガス…!?)
何か良からぬ気体が突然噴出してきたのであろうか。
千華はまずいと思い咄嗟に息を止め、少しでも遠ざかろうと無呼吸で泳ぐが、
そう長く堪えることも出来ず、苦しくなってついに息継ぎをしてしまう。
勢いよく空気を吸ってしまった千華。当然、湧き上がった気体も一緒に吸い込む。
(…うっ…何これ……なんだ…か…気持ち…いい…)
あっという間に彼女の身体全体を蝕んでいく、未知なる物質。
初めは軽い目眩が襲い、続いて身体がだるくなって平衡感覚が失われ、
やがて手足にもほとんど力が入らなくなってしまう。
(もう…だ…め……)
そして、ついに千華は海の真っただ中で昏睡状態に陥ってしまった……

 * * * * *

 気がつくと、私はどこかの浅瀬に流れ着いたようであった。
近くに人はいないし、運良く波が近くの島へとさらって行ってくれたのだろうか。
だが、それにしては風景に全く見覚えがない。立ち上がって周囲を見渡しても、同じだった。
そもそも島がどこにも見当たらないのだ。ただ、海と空だけが広がっている。
周りにあるのも、苔の生えた岩礁のようなものがいくつかだけ。
今いる場所も、一跨ぎで脚の間に収まってしまうほど小さな岩礁でしかない。
「どういうことかしら…」
ひょっとしてはるか遠くに流されたのだろうか。それこそ見当もつかないような。
「これじゃあ助かったとは言えないわね…」
ポツリと愚痴を言ってみるも、何とも致しようもない。
「せめて何か手掛かりは……」
そう思ってもう一度岩礁を、今度はしゃがみ込んで良く眺めてみる。
こういう時は案外近くに手掛かりがあったりするのだ。
まずは足元にある小さな岩礁。…ただの岩礁だった。
続いて、隣のやや大きめの岩礁とにらめっこする。
「…うん? ……これは…?」
緑色の苔の中にいくつも点在する多彩な砂利。
目を凝らしてよく見ると、それらは小さな家のようであった。
大きさは小指に楽々載せられる程度の極小サイズしかないのに、
一つ一つ形や色が違い、見れば見るほど細部まで精密に作られているのがわかる。
そんなミニチュアの家々があちこち点在して、それを縫うように道路らしき線も敷かれている。
「へぇ、良くできてるわね。一体誰がこんなものを作ったのかしら」
出来栄えは全く感心するほどであった。大きさを除いて、本物にそっくりだ。
ご丁寧に車まで走らせており、速度は非常にゆっくりだが、確かに走って…走っている!?
ゴマ粒大の自動車が、風に吹かれたわけでもなく、道なりに進んでいく。
さらに、目を凝らせばケシ粒のような物体がちらほらと見受けられた…。
昆虫のようではないのに、とても見覚えのあるような姿形をした矮小な物体。
ためしに指先を地面に突き立て、地面の一部を慎重に抉り取ってそれらを観察してみると、
心なしか、わずか1mmほどの物体はまるで小さな人間のように見えた。
「ま、まさか…。でも、そんなこと……」
いや、まだそうと決まったわけではない。決まったわけでは…。
しかし、目に映るのはどこか見知っている気がする光景。
とりあえず指先に乗った地面をそっと元の場所に戻してあげて、
それから目で道路を辿っていくと、まずは民家が立ち並ぶ海岸通りに。
確かこの先を進むと、校舎を建て替えたばかりの小学校があり、その先には三つの鳥居を構える神社が…あった。
ほかの場所を見ても、どれも知っているものと形がそっくりで大きさだけが違う。ということは…。
「わ、わたし……大きくなってしまったの…?」
信じ難い事実。だが、確かに目の前にあるのは玉津島そのものに違いなかった。
住宅、学校、商店街。上空から見るのは初めてなものの、その全てに見覚えがある。
模型とは違って人間もおり、車が走り、小さいながらも生命の息吹が感じられる。
もちろん逆に玉津島が小さくなってしまったのでは、と少しは考えてみたりもしたが、
周囲の風景も一緒に小さくなり、雲が腰にかかっていたり地球が丸く見えることから違うらしい。
ということは、どうやら本当に大きくなってしまったのだ。それも、とてつもない大きさに。
建物や島の大きさから推測するに、恐らく…
「1000倍……」
あまりに途方もない数字に、ただ呆然としてしまう。
私の身長はおよそ160cmだから、1000倍となると1600m…。
とりあえず、世界で一番大きな人間というのは間違いなさそうだ。
それどころか、地球上のあらゆる建造物よりもずっとずっと背が高いのだろう。
大きな山と比べてもいい勝負をしそうで、今の私は人々から見ればまさに山が動くといったところか。
当然、そんな巨大な私が動きまわれば周囲に大被害を与えるのは確実で、
それこそ何気ない動作一つで地形を楽々変えてしまえるのだろう。
現に、足の下では隣島の海岸線が形を大きく変えてしまっていた。
「怖い…」
手に余りすぎる強大な力。こんなものに一体どう付き合っていけばいいのか。
どんなに慎重に動いても、どんなに気を配っても、行動は大破壊へと即つながり、
また、知らず知らずのうちに小さな人々を傷つけてしまう。そう考えるだけで恐ろしくなる。
仮に玉津島に一歩上陸したとすれば、広大な範囲の田畑や家屋が素足の下へと消え失せることだろう。
それも一瞬にして。そこにいるであろう大勢の人々をも巻き込みながら。

 だが、その一方で何とも言えない優越感も少なからず感じられていた。
これだけの大きさがあれば、何でも私の思い通りにできてしまえる…。
誰も私に逆らえない。誰も私から逃げることもできない。
破壊も、殺戮も、支配も、天地創造も、全てが思うがまま。
どれも、普段思ってもみなかったことだが、何故か今はそれらに惹かれる。
甘く、とても魅力的な誘惑。決して味わってはいけない、禁断の果実。
しかし…この大きさでは人々と共存など恐らく不可能だろうし、
無理をしてまで小さな彼らに合わせる道理もないのではないか。
こうなってしまった以上、やりたいようにやってしまおうか。
「それじゃあ、とりあえず都会に行ってみようかしら…」
さすがに、生まれ故郷である玉津島に手出しするのは思い留まった。
いくら大きくなってしまったとはいえ、私は人間の女の子なのだ。
何も考えずに暴れまわるだけの怪獣とは違う。ちゃんと理性もある。
それに、まだ何かしようとはっきり思っているわけでもない。
ひょっとして都会ならこの大きさでもどうにか共存が可能かもしれないし、
良いことか悪いことかはわからないけど、その何かを考えるのは行ってみてからでも十分なはず。


 そして、千華は『都会』に向かって歩き出していった。

 * * * * *

 海へと足を踏み入れてみた私。一歩、二歩と、歩を進めていく。
初めは泳いで都会まで行こうかと思っていたが、思いのほか海は浅く、
辺りは浅瀬というより水溜りといった感じで、どうしても歩行になってしまう。
海底に足を着くと地面は深く沈み込んだが、それでも踝の少し上を濡らす程度でしかなかった。
そんな浅海を、柔らかい地面に足を取られないよう気をつけながら進んでいく。
しばらく進むと、次第に海は深さを増していったとはいえ、
私が大きすぎるせいか、なかなか腰のあたりまでは浸からなかった。
「まるで浅瀬がずっと広がっているみたいね」
とはいえ、本当はここら辺の深さは500m以上あるのだろうから、なんだか変な感じだ。
大型船が安全に航行できるであろう海域を、私は悠々と歩いている…。

 実際、やや先の海面には旅客船らしき船がぷかぷか浮かんでいた。
おもちゃの船のように小さく可愛らしいが、本当は100m以上の大きさがあり、
中には数百人もの小さな人間がひしめいているのだろう。
見逃してあげてもいいが、少し興味が湧いた私は船を波で沈めないよう慎重に近づくと、
両手をその下に潜り込ませてから、なるべく優しめに顔の高さまですくい上げる。
「ふふ、びっくりさせてごめんなさいね。
でも、ちょっと見るだけだから。安心して」
私は船内の人々に声をかけてから、じっくりと船を眺めていく。
真っ白な船体に水色の横線がいくつか引かれているそれはどうやらフェリーであるらしい。
さすがに中まではよく見えなかったが、甲板には芥子粒のような人々をいくつか見ることができた。
怖いもの見たさか恐る恐る甲板にやってくる者、震えあがって船内に逃げる者など、
ただ眺めているだけでもちょっとした人間観察が楽しめる。
いくら大きくなったとはいえ、目の前で逃げられるのは少し不満だったが。


 一方、大洋を安全航行していたはずのフェリーは大混乱に陥っていた。
波も穏やかな海をゆったりと進んでいたと思ったら、急に船が揺れだしたのだ。
一体何事が起きたのか。外を眺めていた何十人かはすぐにその原因を知った。
スクール水着姿の少女が、それも超巨大な少女が船に向かって近づいてきたのだ。
たちまちそのことは船内の全員が知ることになったが、逃げようにも海は大きく荒れだし、
泳いで逃げることはおろか、救命ボートも降ろせる状況になくなってしまった。
どうしようもなく、逃げ場のない船内で右往左往する人々。
そうこうしている間にも少女は接近し、ついに船をすくい上げてしまった。
海面から何と数百メートル上空にまで上昇させられたフェリー。
その数千トンにもなる重量を彼女はものともせずに楽々持っている…。
少女の手の中で、もはや生きた心地のしない人々であったが、
それを知ってか知らずか、彼女は「安心して」と声をかけてきた。
無論、大多数の人間はそれだけで安心などできるはずもなかったが、
勇敢なのか無謀なのか、何人かはそれを聞いて甲板に恐る恐る出て行った。
怖いもの見たさもあったが、美少女を間近で見ようという下心からである。
もっとも、甲板からはほとんど少女の顔とスク水に包まれた胸しか見えなかったが、
それでも彼女のとても可愛らしい笑顔と豊かな胸を彼らは堪能した。
それにつられて今度は十数人が、今度は怖いもの見たさで甲板に赴くが、
彼女の大きく澄んだ瞳にじっと見つめられ、ほとんどが逃げ出してしまった。
もちろん未だに多くの人々は相変わらず船の中で震えるだけであったが。

 とはいえ、言葉通り少女が手出しすることはなく、やがて船は無事に解放された。
「ありがとね。それじゃあ、もう行っていいわよ」
再び海の上へと戻ってきたフェリー。乗員も乗客も安堵の気持ちでいっぱいになる。
終わってしまうと多少名残惜しさもあったが、少女がいつ心変わりするともわからないので、
笑顔で見送られながらも、船は全速力で彼女から離れていった。

 もっとも、このフェリーは玉津島同様、とても幸運な存在だった…

 * * * * *

 ゆったりと進むフェリーを笑顔で見送った後、私は再び都会に向かって歩いていた。
少し経つと水深も大分深くなり、腰まで、続いて胸までと、水に浸かるようになる。
もうこの頃には泳いでもよさそうではあったが、大波がどうしても発生してしまうだろうから、
うっかり犠牲を出さないためにもひとまず周囲に船がいないか確かめてみる。
すると、右前方から小さな船がこちらに向かって接近しているのが確認できた。
私は少し残念に思いつつも、その船の行動を訝しく思ってしまう。
「普通ならわたしから離れそうなものだけど…」
不本意ながらも、これだけ大きいのだから逃げてしかるべきなのに、何が目的なのだろうか。
とりあえず近づいてみることにする。あまり大きく波を立てないよう慎重に。
それでも、比較にならないほど私の方がずっと速かったが。
それは巡視船だった。船首には機関砲を搭載し、砲身をこちらに向けている。
物々しい雰囲気から、どうやら穏やかな要件ではなさそうだが、
街が危険に晒されるから帰ってくれとでも言いに来たのだろうか。
確かにそのようであった。ただし、警告の代わりに銃撃で示されたが。
「………?」
小さな銃撃音が絶え間なく聞こえる。でも、痛み…というより感触もほとんどない。
しかし、いくらなんでも警告なしにいきなり撃つのはひどすぎる。それも顔を狙って。
「丸腰の女の子に傷つけようなんて…!」
無傷であるが、それでも攻撃されたことには変わりない。
身体が丈夫であったからよかったものの、普通なら蜂の巣になっているところだ。
「どういうつもりなのかしら…!」
私は少し怒りながら、まだ攻撃を止めようとしない巡視船を鷲掴みしてやる。
だが、力加減を誤ったのか、船をグシャリと一気に握り潰してしまった。
手を開いてみれば、船は大部分が拉げて見るも無残な姿になっている。
…不思議と罪悪感は湧かなかった。むしろ、気持ちが良かった。
生意気にも逆らおうとした小舟を軽くひねり潰したまでのこと。
私は何も悪くない。悪いのは、か弱いこの船の方。
「…ふん、あなたたちが悪いんだからね。これは正当防衛よ」
私は捨て台詞を吐き、歪な形になった巡視船を放り投げる。
とはいえ、完全に踏ん切りがついたわけではなかった。
今は攻撃されたからやり返しただけ。こちらから何かするのは…まだ躊躇してしまう。
でも、こんなに弱く脆いものに何を迷っているのだろう。
悪いことだから? どうせ誰にも裁かれないのに。
理性があるから? どうせ何にも縛られないのに。
「……とりあえず泳ごうかしら」
少しの間自問自答してみるも、明快な答えは出せない。
ならば、こういう時には泳いで何もかも忘れてしまうのが一番だ。
私はすっと息を吸うと、地面を思いっきり蹴って泳ぎだした。
海を両手両足で掻き分けながら、ぐんぐんと前に進んでいく。
…周囲のことなど顧みず。高波を次々に発生させながら。
もっとも、それに気がつくのは少し後の話であったが。

「…ぷはぁ」
しばらくして、水面へと飛び出た私。水飛沫が辺り一面に舞い、波が同心円状に広がっていく。
一旦は深さを増した海であったが、次第にまた浅くなり泳ぎにくくなったので起き上がったのだ。
それでも結構な距離を泳いで進み、ようやく陸地を拝めることができる。
「いよいよね…って、あれ……!?」
待ちに待った都会まであと少しとなり、私は早速陸地に近づこうとしたが、
ふと海面を見ると、何隻もの船が転覆したりバラバラになっていたりしていた。
そういえば先程まで好きに泳いでいたわけで。波もきっとたくさん立てていたわけで。
私にとっては普通の波も、小さな人間にしてみればさぞかし高く大きかったわけで。
――振り向けば、さらに数隻の船が転覆しているのが見てとれた。
きっと沈んでしまった船もたくさんいるのだろう。
「あー……。もう、手遅れ?」
どうやら思いがけず甚大な被害をもたらしてしまったようだ。
もっと注意深く泳ぐべきだったと思うも、後悔先に立たず。
これで私は確実に怪獣の仲間入りをしてしまった。
とはいえ、あまり悪気は感じられず、どこか吹っ切れた気持ちすらあった。
どんなに頑張ったところで、きっと遅かれ早かれこうなる運命だったのだろうし、
これからはもう小さな人間たちを一々気にしなくてもいいのだから。
どうせ手にかけるのは一も千も百万だって変わらない。
ならば、思う存分暴れるのも悪くない。悪くないどころか、考えただけでもわくわくする。
「…わたしってこんなに悪い子だったかしら?」
我ながら恐ろしい考えではあるが、目の前の惨状をしでかしたことを思えば何てことはない。
今更良い子のふりをしようとも、既に手遅れだろうし、
逆にこれからどんなに暴れようが、悪い子がもっと悪い子になるだけだ。
ならば、せっかく大きくなれたのだから楽しまなければもったいない。
「…よーし、思いっきり遊ぶわよー!」 
そう、これはお遊びなのだ。破壊とか殺戮とか、そんな大それたものではない。
ただ楽しみたいから。手で、足で、身体の至る所を使って楽しみたい。
そういえば、先程巡視船を握り潰した時はなかなか気持ちがよかった。
色々なものが同様に、いや、きっとそれ以上に私を楽しませてくれるだろう…


 まず標的になったのは全長300mを超す大型タンカーだった。
やや遠くにいたとはいえ、荒れた海面を転覆することなく航行している。
初め、舳先は千華の方を向いていたが、すぐに大きく旋回して回避しようとしていた。
が、彼女はもはやそれを見逃してくれるほど甘くはなかった。
「あら、どこに逃げようとしているのかしら?」
邪悪な笑みを浮かべながら、のろのろと逃げ回るタンカーにザブザブと詰め寄る千華。
驚異的な速さで容易く船に追いつくと、パニックに陥る船員たちをよそに、
彼女は海水をすくい取ると船の真上からドバッと勢いよくかけていく。
ドドド、と滝のように注ぎ込む海水。甲板は洗い流され、船員も押し出されてしまう。
「どこまで耐えられるかしら」
さらにもう一すくい。今度は先程以上の量と高さで海水が降り注ぐ。
排水が間に合わないまま、さらに大量の海水が叩きつけられたタンカーは
バランスを大きく崩し、ついに復元することなくゆっくりと沈んでしまった。
「ふふ、だらしないわね」
結構な大きさがあったにもかかわらず、ほんの二すくいで沈んだタンカーを嘲る千華。

 続いて、都会に面した湾内にいた船が次々に襲われた。
貨物を満載した中型コンテナ船は中央部を鷲掴みにされて胸の高さまで持ち上げられると、
コンテナを撒き散らしながらぐっと握り潰され、二分されて海へと叩き落ちる。
小型タンカーは一踏みで丸々潰されただけにとどまらずに海底まで押しつけられ、
大型巡視船は波に煽られて何もできずにいるうち、脛に押しのけられて簡単に転覆してしまった。
そして、大勢の乗客を乗せたクルーズ客船にも千華の魔の手が伸びた。
500名近くの人々が搭乗した客船は長い船旅を終え、もうすぐ寄港しようというところであったが、
千華は無情にも、むしろ楽しんで船を破壊しようとしていた。
「なかなか立派な客船ね。わたしも乗せてちょうだい」
そう言って船を跨ぐと、膝を曲げて船の上に座り込んでいく。
船の上空を覆い尽くす、スク水に包まれた巨大なお尻。
それが次第に接近し、衝突し、あらゆる構造物を潰しながらのしかかる。
煙突、レーダーマスト、カッターボート。そして船楼。
上の階から順々に、乗員乗客は訳もわからぬまま船室ごと押し潰されてしまう。
わずか数秒にして船楼は完全に潰れ、船自体も間もなく沈没してしまった。
「あはっ。わたしってそんなに重かったかしら。ごめんなさいね」
船の残骸をお尻に敷きながら、笑顔で謝る千華。
だが、それを聞けた者は誰もいなかった…

 さらに進路上にいた様々な船を何隻も何十隻も手や足で潰し、沈めていった千華は
近くの港に停泊していた貨物船やタグボートも足で描き回して全て転覆させるか沈め、
目ぼしいものを破壊し終えると、いよいよ『都会』に上陸を果たしたのだった…

 * * * * *

ズウウウドドドドドドドドオオオオオォォォンン…… 
超巨大な素足を陸に下ろした少女。スクール水着姿の少女。
すでに彼女が起こした波で水浸しになっていた港の倉庫群は容易く踏み潰され、
次の瞬間には少女の巨体によってもたらされた凄まじい衝撃が一帯を大きく震わせる。
それだけで付近の建物は粉砕され、少し離れていても多くの建物が倒壊してしまう有様だった。
続けてもう一歩。今度は山積みになっていたコンテナ群と数基の大型クレーンが素足の下敷きになる。
あまりにも強大で恐ろしい力。これから彼女はいったいどうしようというのか。
いや、本当はわかっている。これから陸でも海と同じようにあらゆるものを壊していくのだろう。
上陸してしまった以上、もはや一刻の猶予もない。早く逃げなければ。
二度の衝撃に少なくない数が転倒し、また崩れ落ちた瓦礫に巻き込まれていくが、
多くの人々は必死に耐えながら、後ろを顧みることなく内陸へと避難していく。
しかし、どんなに恐ろしくてもつい振り返るのが人間というものだ。
そして後ろを向いてしまったものは誰でも足を止めてしまった。
右手を腰に当て、左手でロングヘアを掻き上げながら大都市を見下ろす少女。
端整な顔立ちに、長く艶やかな髪。形のよい胸、くびれた腰、すらりとした脚。
その上、優雅で気品あふれ、まさに美少女という形容がぴったりである。
また、ぴっちりと身体に密着したスク水は水で滴り、なんとも艶めかしい。
あまりの美しさに人々はついつい見とれ、避難することを忘れてしまうほどであったが、
彼らはすぐに現実へと引き戻された。少女が破壊宣言をし、動き出したのだ。


 とん、と右足を陸の上に乗せた私。足の置き場がなかったので倉庫を下敷きに。
左足も、今度はコンテナターミナルに置き、ついに上陸を果たす。
すぐに破壊を始めてもよかったが、まずは私の姿を人々に見せつける。
脚をやや開き、胸を張り、右手は腰に当て、左手は髪を軽く掻き上げていく。
凛とした表情で街を見下ろせば、さぞかし様になっているはず。
もちろん、ただ見せつけるだけでなく、その間に都会をじっくりと眺めもした。
遠くには数多くの超高層ビルが窺え、大小無数の建物も所狭しと敷き詰められている。
さらにはその隙間を縫うように道路や線路が至る所を走っているようだ。
木々が彩る緑は僅かばかりしかなく、まさに都会といった風景。
それを、これから私が地獄に変えてあげるのだ。
どうやって壊していこうか。考えただけでも思わずゾクゾクする。
目線を戻していくと、オフィス街から住宅街に移っていったようで、
次第に高層建築物は減ってマンションや戸建てといった住居にとって代わり、
続いて海に沿うように工場や倉庫、石油タンクなどの施設が増えてきた。
人工島もいくつか見受けられ、私が上陸した場所もやや大きめのそれである。
多くは倉庫やターミナル等の港湾施設になっており、島と本土を結ぶ橋は二本。
船はみんな沈めてしまったので、これを落とせば島は完全に孤立する…。
「ふふ、まずはこの島からね…」
ここから陸での楽しい楽しいお遊びが始まるのだ。
最初ということで、さぞかし丁寧にお相手してあげよう。
橋を落としたら、徐々に追い詰めていって、最後はまとめて――
とその前に、まずは破壊宣言でもしておこうか。この島だけでなく都会全体にも向けて。
私は顔を少し上げると、すっと息を吸ってから高らかに宣言をした。
「小人のみんな、はじめまして。わたしは榊 千華よ。
これからこの街を壊してあげるから、せいぜい楽しませてちょうだい」
いつしか私は小人という言葉が自然に出るようになっていた。
芥子粒サイズの人間のことを、自分と同じ存在だと認識しなくなっていたのだ。
とるに足らない小さな人間。それを小人以外になんと言おうか。
所詮、お遊びの道具にしか過ぎないものでしかない。
「じゃあ、さっそく行くわよー!」
私は元気に掛け声を上げると破壊を開始したのであった。

 初めに、私は人工島を大股で歩いて数歩で対岸に到達すると、
横から二本の橋を楽々跨ぎ、崩さないよう注意しながら爪先で回転し、振り向く。
島では橋を目指して大勢の小人がこちらに向かっていたようだが、
私が橋の上に来たことで流れがピタッと止まってしまう。
一挙一動に怯え、動くこともままならない哀れな小人たち。
そんな彼らを、くすっと鼻で笑いつつ真下を見れば、
たくさんの小人や車で溢れている橋の上でも大混乱が起きていた。
進もうとする者、戻ろうとする者で押し合い圧し合いになっている。
何とか混乱から抜け出たものは一目散に本土に向かって走り出していた――が、逃さない。
膝を折り曲げると、お尻がちょうど本土側の橋台辺りにくるようにして座り込む。
…くしゃりと、お尻の下で二本の橋の大部分が簡単に崩れ落ちてしまった。
僅かに残った場所も、指先でツンと突いてやれば橋上の小人や車ごと潰れてしまう。
「あはっ、脆すぎるわね」
これで島は孤立した。海は未だに荒れているようなので、泳いで逃げることもできない。
再び島の方を見れば、小人たちは途方に暮れたのか、ほとんど動きが止まっていたが、
やはり必死に逃げ回ってくれなければ面白くないので、
付近の何人かを人差し指でちょんと押して促せば、みな弾かれたように島内を走り出した。
命を懸けた、楽しい楽しい鬼ごっこの始まりである。
「ふふ、いつまで逃げられるかしら」
私はすっと立ち上がると、逃げ惑う小人たちの上に次々と素足を下ろしていく。
何てことはない、普通に歩き回って彼らを足裏の染みに変えているだけだ。
建物の中に隠れていても、車に乗っていても関係ない。一緒に踏み潰すだけだ。
とても柔らかな倉庫群をクシャクシャ潰し、車の列を一まとめに圧縮する。
その度に島には深々とした足跡が刻まれ、海水が流入していく。
こうしてすぐに人工島は削られていき、ほとんど消え失せてしまった。
もちろん私は考えもなしに歩いていったわけではない。
端から端へ順々に踏み固めていき、徐々に逃げ場をなくしていったのだ。
そして、辛くも最後まで生き残った小人たちもコンテナターミナルに追い詰めると、
彼らの真上に素足を振りかざし、ゆっくりと足を下ろしていった。
「これで鬼ごっこはおしまいね。楽しかったわよ」
プチプチとしたわずかな感触のあと、素足は地面にぺったりと着いた。

 人工島を跡形もなく破壊した私は晴れて本土へと上陸する。
まず目についたのは、海岸線上に延びる広大な石油コンビナート。
ゴミゴミした精錬所に、白くて小さな豆粒のような石油タンクがずらりと並んでいる。
そのタンクのうちのいくつかを試しに踏み潰してみたら、ちょっとした爆発が起きた。
「わぁっ…」
ボン、と足の周りで火の玉が見え、足の甲まで炎が上っていく。
…それだけだった。全然熱くもないし、火はおろか煙も腰の高さまで届かない。
とはいえ、これはなかなか面白い。音も感触も楽しませてくれる。
すっかり石油タンクを気に入ってしまった私は次々踏み潰しては爆発させていった。
ボンボンと燃え上がる炎。辺り一面は大火災になるが、構わず破壊を続けていけば、
いつの間にか石油コンビナートは一つ残らず石油タンクが無くなり、さらには全焼していた。
「もうおしまいかぁ。もっと楽しみたかったけど…」
思いのほか良かったのでまだまだ続けたかったが、無くなってしまったものはしょうがない。
それに、石油タンクはここだけではないし、私を楽しませてくれそうなものは他にもたくさんある。
ここはまだ大都会のほんの一部にしか過ぎないのだ。
「それじゃあ期待して…と」
続いて私は無数の煙突が立ち並ぶ工場地帯を踏み荒らしていく。
石油タンクみたいな刺激は味わえないとはいえ、やはり建物を壊していくのは快感だ。
大きな工場は素足で圧し潰して平べったくし、小さな工場はまとめて爪先で蹴散らしていく。
火力発電所も爪先で煙突をポキポキ折った後、発電設備を踏み躙って破壊する。
敷地内には石油タンクもあったので、忘れずに踏みつけて爆発も楽しんだ。
さらに、貨物ターミナル駅にも足を踏み入れた私は、
タンク車列を思いっきり蹴飛ばして遠くの住宅街で爆発させたり、
何十両にも連なるコンテナ車を足の親指で線を引くようにしてすり潰したり、
整然と積まれていたコンテナ群をなぎ払って構内を散らかしたり…。
一両でポツンと止まっていた機関車は、前から突いて貨車に連結させてあげようとしたが、
軽く触れただけなのに勢い余ってコンテナ車列と激突し、大破してしまった。
それらをまとめて踏みつけ、また別の貨車を壊していく。
ここも廃墟と化してしまうまでそう時間はかからなかった。

 * * * * *

 その頃、近くの空港では大勢の人々が超巨大な少女―千華―から逃れようと殺到していた。
陸ならいざ知らず、空なら早く彼女から逃げられると思ったからだ。
しかし、空港にいる全ての機体を使っても多くを捌くことなどできず、
整備にも色々と時間がかかることから、一向に離陸は進まなかった。
むしろ、パンク状態になることで事態は悪化の一途をたどっていた。
それでも何機かはエプロンから誘導路に進み、離陸態勢に入る。
定刻からやや遅れつつも、まずは一機、滑走路を走り飛び立った。
これで助かった。ようやく離陸し、安堵の気持ちでいっぱいの乗員乗客。
巨大な少女が海の向こうから現れた時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだ。
まだ空港に残っている人たちには悪いが、一足先におさらばだ…
だが、何事もそう甘くはない。少女は飛行機の方へと目を向けたのだ。
しかも、高度はまだ1000mに達するかどうか。このままではまずい。
機長はとっさの判断で機体を大きく旋回させ、少しでも彼女から離れようとしたが、
少女は驚異的な速さで歩み寄り、距離は広がるどころか大きく縮まってしまう。
こうなれば残された手段は高さを稼ぐことだけ。機長は失速しない程度に機体を上へと向けていく。
1400、1500、1600m…。恐らく少女の身長はこれぐらいだろうから、どうやら振り切れたようだ。
…振りきれてなどいなかった。機体は大きく揺れると、空中で動きを止めたのであった。


「ふふ、捕まえたわよー」
大きく腕を伸ばし、頭上の飛行機を掴んだ…というより摘まんだ私。
危うく逃げられるところであったが、無事に捕まえることができた。
もちろん飛行機の一機や二機、逃げられようとも全然構わないが、そこは気持ちの問題である。
せっかく捕まえられるならそれに越したことはない。
さて、この小さな小さな機体をどうしてあげようか。
胴体は鉛筆並みの幅しかなく、長さも私の小指ほどしかないが、
この中には数百人の小人たちが整然と詰まっているはず。
そんな機体をただ単にこのまま挟み潰してしまうのはつまらない。
中の小人たちにはこれから怖い思いをたっぷりと味わせてあげるのだ。
「こんなのはどうかしら」
私はあーんと口を開くと、摘まんだ機体をゆっくりと近づけていく。


 彼女は我々を食べてしまうつもりなのだ!
徐々に巨大な口が迫るにつれて、凄まじい絶叫に包まれる機内。
捕まえられた時も絶叫は凄かったが、今はそれ以上である。
食べられてしまうという恐怖。そんなことならいっそ一思いに潰してほしかった。
しかし、機体は無情にもどんどん前に進んでいき、ついに暗い口の中にすっぽりと入った。
もうおしまいだ。あとは噛み千切られるか、飲み込まれておしまいだ…
「なーんてね。こんな体に悪そうな物、食べるわけないじゃない」
予想は裏切られた。それも良い方向に。まさに雷鳴のような声量ではあったが、
彼女は我々を食べるつもりではないと言い、機体を口の外に出したのだ。
助かった…。再び光がさし込めた機内で、ひとまず胸をなでおろす人々。
だが、すぐに彼らはまた絶叫することとなった。
今度は、飛行機が唇に挟まれてしまったのだ…


「あむっ」
中の小人たちをちょっと脅かした私は、続いて飛行機の前半分を唇で咥える。
初めは包み込むように優しく、次第に挟む力を強くしながら。
すると、すぐに主翼は簡単に折れたのが唇に伝わり、
残る胴体部分もどんどん上下に狭まっていくのが感じられる。
そして、最後は唇が完全に閉じると同時に飛行機はプチッと潰れたのだった。
また、後ろ半分はその際に支えを失って落下していき、胸に激突して弾け飛んでいった。
あとは口をすぼめて残骸を吹き飛ばし、胸の残骸も払い落すと、
私はさらなる獲物を求めて飛行場へと向かっていった。

 滑走路の真ん中にドンと足を踏み下ろした私。
離陸しようとしていた飛行機は止まずに足と激突したが、
その機体は大破して爆発炎上したものの、私は傷一つ負わなかった。
「ふん、脆すぎるわね」
鼻で笑いつつ、私は空港をざっと眺めていく。
長細い旅客ターミナルに、十数機の旅客機が停まっているエプロン。
飛行機は小指の半分ほどから人差し指ほどの長さのものまであり、どれも一様に胴体が華奢だ。
エプロンの隣には整備場があり、結構大きな格納庫と、ここにもいくつかの機体。
ターミナル奥には管制塔があり、モノレールの駅といった施設や駐車場も。
そして、すぐ足元の滑走路入口にも三機の機体が停まっていた。
恐らく飛ぶ順番待ちでもしていたのだろうが、もう滑走路は使えないので無駄なことだ。
でも、せっかく並んでいるので順番に踏み潰してあげよう。
一踏みでも全部潰してしまえそうだが、味気ないので、爪先でうまく調整しながら順々と。
「えいっ、ていっ、やっ」
クシャ、クシャ、クシャ。身体全体を動かすこともなく、片足だけで三機は潰れ果てた。
叩き潰された虫さながらに、厚みもなくなって滑走路に張り付いてしまっている。
次に、私はエプロンに向かうと、何機かお尻で潰しながら座り込む。
そのうち一機は両方のお尻で挟まれるようにして潰れたようだった。
スク水越しに機体が弾けるのが感じられ、ちょっとした刺激になる。
それを味わいながら、私は宙に浮いていた両足を振りおろす――
その真下にくるのは旅客ターミナルである。
「えーいっ!」
掛け声とともに勢いよく踵落としをしたので、一瞬にして建物は足に押し潰れるか衝撃で崩されるかで大破し、
辺りは瓦礫やらガラスやらが舞い上がり、旅客機までも飛び跳ねたのちに地面に激突して爆発。
そのまま足を左右に開けばターミナルはガラガラと完全に崩れ、廃墟と化した。
「あはっ、あっけないわね」
なかなかの大破壊を楽々とやってのけ、自分の力に酔いしれる私。
続いて四つん這いの姿勢をとり、まだ生き残っていた飛行機を手で叩き潰し、脛ですり潰しながら管制塔に近づくと、
人差し指でそれをプチリと押し潰し、その脇の建物も人差し指と親指で挟み潰して破壊する。
さらにその姿勢のまま整備場に移動すると、格納庫に覆い被さるようにして身体を地面に寄せていく。
胸が建物に触れたと思ったのも束の間、次の瞬間には地面に触れてむにゅっと広がっていた。
当然格納庫は全壊し、整備場にいた飛行機も胸やお腹に押し潰される。
運よく一機が潰されずに生き残っていたようだったが、
それも少し身体を前に動かしたら胸にすり潰されるようにして消えていった。
あとは立ち上がってからモノレールの駅を蹴り壊し、駐車場などを踏み潰していったら、
結構な大きさがあった空港にはもう何も残っていなかった。

 * * * * *

 空港も破壊した私は住宅街を踏み荒らしながら一歩一歩中心部に近づきつつあった。
ポツポツ点在する高層マンションや住宅団地に、色とりどりな無数の戸建て。
それらが素足の下で一度に何百と消え、足を上げてみると綺麗な足跡に早変わり。
サクサクと、砂浜を歩くような感触を楽しみながら私は縦横無尽に歩いていく。
「くすっ。お話にならない脆さね」
私にただ踏み潰されるだけの価値しかない住宅街。
そこに学校があろうとも関係ない。校舎を蹴り壊し、体育館を踵で叩き壊し、グラウンドを踏み潰す。
緑豊かな公園も、足を踏み下ろせば木々がクシャリと潰れて茶けた更地に変わり果てる。
病院も量販店も踏み潰せば同じだ。構成していたもの全てを粉砕し、圧縮して地中に埋めていく。
幹線道路を歩けば一度に何十、何百台もの自動車を踏み潰し、線路の上を歩けば数歩ごとに駅や電車を踏み潰す。
もちろん、住宅街には大勢の小人たちがいたが、私は意識することもなく当然のように足を振り下ろしていった。

やがて私は大きな川の前に差し掛かった。これを渡れば中心部まであと僅かである。
川幅は300mほどありそうだが、所詮一跨ぎで楽々越えられる距離でしかない。
早速跨ごうとしたが、その時、突然足の周りで小さな火花がいくつか上がった。
さらに、やや遅れて身体のあちこちでも同様に火花が上がっていく。
「………?」
攻撃…なのだろうか。それにしては何かが軽く触れたような感じしかない。
とりあえず前方を見ると、対岸の低い山地とその上空から何かが攻撃していた。
よくよく見れば、それらは戦車やヘリ、戦闘機のようで、小人の軍隊のお出ましといったところか。
どの兵器もでき得る限りの攻撃をしているみたいだが――相変わらず私には傷一つ付かなかった。
「あのねぇ、そんな攻撃がわたしに効くとでも思っているの」
両手を腰に当て、小人の軍隊を見下ろしながら呆れたように言う。
高校生の女の子とはいえ、今の私は小人の1000倍もある無敵の大巨人なのだ。
巡視船の銃撃も効かず、石油タンクを踏み潰しても火傷一つしなかった。
それなのに、こんなちっぽけな兵器で私を倒せるとでも思っていたのだろうか。
とはいえ、わざわざ戯れに来てくれたのだ。無下にするのは良くない。
たっぷりと可愛がって、いたぶって、弄んであげよう。
「…ふん、面白いじゃない。わたしの力を思い知らせてあげるわ」


 その少し前。巨人の接近を受けて出動命令が下った自衛隊は急遽この地に陣を構築していた。
本当は水際で撃退する予定だったが、巨人のあまりの速さに対応できず、
かといってバラバラに進軍しても各個撃破が予想されたので、
仕方なく対岸の防衛は諦めて部隊の結集を図ったのだ。
今作戦では大都市周辺の部隊を以て陸空共同で巨人を撃滅する算段で、
すでに航空部隊はほぼ展開を完了し、攻撃態勢に入っていたが、
陸上部隊は交通状況の悪化もあって遅々として揃わずにいた。
そこに、対岸を早くも対岸を地獄に変えた巨人が川に差し掛かってしまう。
身長が1000m以上ある巨人。「サカキ チカ」と名乗っている。
高校生くらいの少女の姿をしており、服装は何故かスクール水着姿。
容姿端麗で、思わず見とれてしまうほどの美少女であったが、
所詮、街を大きく破壊し多くの市民を殺戮した悪魔のような存在である。
これ以上の被害を食い止めるためにも、黙って引き下がるわけにはいかない。
戦力は不足しており、果たして勝てるかどうかもわからないが、やるしかないのだ。 
やむなく、間に合わせの兵器と人員で攻撃命令を下す司令官。
これを合図に、ついに自衛隊と巨人との戦いが開始された。
それぞれ数輌ずつしかない戦車や榴弾砲、対空誘導弾だが、巨人に対して一糸乱れずに斉射し、
歩兵も迫撃砲や対空・対戦車ミサイルを次々に発射し、重機関銃で十字砲火を浴びせていく。
さらに、上空でも数機の攻撃ヘリがロケット弾やガトリング砲で猛攻を行い、
後背からは十数機の戦闘機が編隊を組みながら対空ミサイルを次々に放っていく。
大きすぎる目標に対し、どの攻撃も吸い込まれるように全て命中し、巨人の身体は爆煙に包まれていった。
しかし、やはりというか、どれだけ攻撃を加えても巨人は一向に痛がることもなく、
きょとんとした表情で自身の身体を見まわしていたが、不意にこちらをじっと見つめてきた。
航空部隊はともかく、陸上部隊は木々などの遮蔽物で少しは隠れられるかと思いもしたが、
硝煙もさることながら、如何せん上空からは丸見えだったようだ。
それでも攻撃を今更止めるわけにもいかず、惰性で続けていると、
巨人は我々を見下ろしながら呆れたように「効かない」と言ってきた。
迫力に加え、あまりの声量に空気がビリビリと震え、怯んでしまう多くの隊員。
自然と攻撃の手は緩み、中には武器を捨て逃走を図る隊員もいるほどで、
これ以上の攻撃は無意味と悟った司令官はすぐに撤退命令を下したが、もはや全てが手遅れだった。


 川を一跨ぎで越え、対岸の河川敷に足を踏み下ろす私。
今更ながら小人の軍隊は攻撃を止めて逃げつつあったが、そうはさせない。
両足で、放置された兵器や逃げ遅れた兵士を潰しながら山地を踏みしめると、
ぐっと身体を屈め、まずはちょこまか飛び回るヘリに向かってフッと息を吹きかけてやる。
たった一息で全てのヘリは操縦不能になったのか、きりもみ状態で急降下し、墜落して爆散した。
その姿勢のまま、私は地上を逃げ回る兵士たちに声をかける。
「あら、わたしを攻撃しておきながら、どこに逃げようっていうの?
くすっ、当然覚悟はできているんでしょうね」
そして、地上にも舐めまわすように息を吹きかけていく。
面白いように飛んでいく兵士たち。木々やトラックなども宙を舞う。
「あはっ、小人がまるでゴミのようだわ」
数回吐息をかけたら地上も簡単にお掃除できてしまった。
たくさんいた兵士たちはどこか彼方に消え、残るは数輌の戦車だけだ。
その一つを慎重に摘まむと、顔の前に持ってきてみる。
「女の子に捕まえられちゃって、恥ずかしくないの?
ほらほら、悔しかったら撃ってみなさいよ」
完全に馬鹿にした態度。あえて攻撃を誘ってみたのだ。
せっかく戦うのだから、少しは頑張ってくれないと面白くない。
そして、力の差を存分に思い知らせてから潰してあげよう――
すると、挑発が効いたのか戦車は指の間で砲撃を始めた。
もっとも、次々と放たれる砲弾は私の顔に傷一つ付けることなく弾かれていく。
それでも戦車は必死に砲撃を続けていたが、弾が尽きたのかやがて沈黙した。
「ふふ、もうおしまい? それじゃ、今度はわたしの番ね」
私は笑顔でそう宣言すると、指先に少しずつ力を込めていく。
ゴマ粒サイズの戦車は徐々に歪んでいき、数瞬後にはプチッと潰れた。
「くすっ、無様ね」
指の間で平べったくなった戦車の残骸を見て、圧倒的な優越感に浸る私。
ほかの戦車もデコピンで弾き飛ばして遠くの高層ビルに直撃させたり、
足指で挟んでギュッと潰したり、足で押さえつけてからじわじわ押し潰したりして、
最後の一輌も摘まみ取って胸で挟んであげたら、小人の軍隊は早くも全滅してしまった。
「ふん、力の差を思い知ったかしら」
私は勝ち誇った顔で、無残にも地上に散らかる軍隊の残骸を見下ろす。
残念ながら戦闘機にはさっさと逃げられてしまっていたが、まあいい。
その気になれば簡単に追いつけるだろうし、今はそれよりも早く中心部を壊してしまいたい。
林立する超高層ビルに、大きなターミナル駅。中小のビルもたくさんあり、どれも魅力的だ。
「これをわたしが全部壊しちゃうのね。ふふ、ゾクゾクしちゃう」
そして、ついに私は都心へと足を踏み入れた…

 * * * * *

「えいっ」
くしゃり。川の近くに建っていた小さな超高層ビルを一踏みでぺしゃんこにする。
超高層ビルは今まで踏み潰してきたどの建物よりも高く立派な外観をしていたが、
地上数十階の屋上から一階まで、一瞬で潰れるのには変わりなかった。
これを皮切りに、私は高層ビルを次々と、一度に何棟もまとめて壊していく。
普通に歩き回れば、いくつもの建物が高さに関係なくほぼ同時に素足の下で粉々に弾け、
爪先を立てて線を引くように地面の上を滑らせれば、多くの建物が抉られて無残な姿になる。
その際、ビルの谷間を走っていた高速道路もすっぱりと寸断したため、
止まりきれなかった多くの車が穿った穴に落ちて爆発炎上していった。
とはいえ、辛うじて踏みとどまっても、私に踏み潰されるだけだったが。
また、思いっきり蹴りつければ、瞬時に数棟の建物が粉砕して瓦礫片が彼方に飛び散り、
なぎ払うように足を横に滑らせれば、その進路上の建物全てが倒壊して押し流されていき、
草木一本はおろか地下街も何も残っていない開けた空間と、積み上げられた瓦礫の山ができあがった。
瓦礫の山は数百の建物から成り立っているだけあって結構な高さと大きさになっていたが、
私が普通に座り込むだけでもズブズブと沈んでいき、ついには完全に潰れてしまった。
「あはっ、小人の建物は束になっても脆いわね」
数多の建物を尻に敷きながら、私はさらに破壊を続けていく。
地面を抉るように爪先を押し出して幾つかの区画を更地にしながら
やや太めの超高層ビルの前まで脚を伸ばすと、爪先が屋上にくるよう素足を被せてやる。
そして、建物を撫でまわしたり揺すったりした後にほんの少し力を込めれば爪先が建物に食い込み、
やがて超高層ビルは破裂したようにガラスや瓦礫片を吹き散らしながら拉げ、崩れていった。
その近くに建っていた数棟の高層ビルも、足裏で覆い被せて揺すっただけで崩落し、
別な高層ビルも、足の親指で上から軽く突いただけで容易く押し潰れてしまった。
また、足を高々と上げてから思いっきり振り落とせば、
数百の建物が踵だけでなく脹脛や腿で直接粉砕され、
数千の建物が衝撃で消滅したり倒壊したりしていく。


 その頃、まだ破壊を免れていた超高層ビル群には多くの人々が集まっていた。
既に公共交通機関は完全に麻痺し、道路も度々発生する衝撃で陥没したり崩れ落ちた瓦礫で寸断され、
数棟の超高層ビルそれぞれに逃げ遅れた社員や逃げ場を失った群衆が追い込まれていたのだ。
本来ならこのような目立つ建物の中などとても安全なはずもないが、
疲労困憊しきった人々は逃げる勇気も元気もなく、ただ建物の中で恐怖に震えていた。
そこに、だんだん大きくなってくる大地が抉れるような音。
少女が、破壊と殺戮の限りを尽くす超巨大な少女が近づいてきたのだ。
彼女はお尻をずり動かして進路上の無数の建物をすり潰しながらこちらに向かってくる。
さすがに命の危険を感じ、慌てて多くの人々は建物から脱出しようとしたが、もはや手遅れ。
次第に大きくなってくる揺れに耐えるのが精いっぱいで、満足に動くこともできなかった。
そして一際大きな轟音と振動の後、ついに超高層ビル群は彼女の太ももと股間とで三方が塞がれてしまった。
先程まで周囲にあった高層ビルなどは消え、代わりに巨大な少女の身体がそびえている。
健康的な感じでありながらも柔らかそうな太ももに、ぴっちりとしたスク水で包まれた股間。
さらに、見上げれば美少女がとびっきりの笑顔でお出迎え。
これら全てが通常の1000倍もの大きさで、圧倒的な存在感を出している。
もっと眺めていたい。でも、早く逃げないと命が危うい…。
欲望と恐怖とが複雑に入り混じった感情に一瞬戸惑う人々。
それでも多くは脱出を優先したが、たとえ建物の外に出ても何も状況は変わらなかった。
両脇には長さ数百メートルにわたって、巨大な肌色の壁――千華の太ももが延々と続いていたのだ。


「ふふ、すっぽり収まっちゃったわね」
私は笑顔で太ももの間にそびえる超高層ビル群を見下ろし、呟く。
小人の建物はとても脆いので、移動する際に崩れてしまわないか心配だったがうまくいったようだ。
どの建物も崩れることなく、その高さを誇示するようにまっすぐ伸びている。
もっとも、私の太ももの厚みより少し高い程度でしかなかったが。
とりあえず、壊す前にビルをじっくり観察してみると、建物の中から小人たちがぞろぞろ出ていくのが見受けられた。
さすがに小人たちはもう逃げてしまったと思っていたが、どうやら小人は思った以上に鈍間なようだ。
今も、建物の周りを駆け回っているようだが、ほとんど動いていないように見えるほどである。
「くすっ。それで逃げてるつもり? 小人って小さいだけじゃなく動きも遅いのね。
かわいそうだから、ノロマな小人のみんなには特別に十秒あげる。
でも、十秒たったら…ふふ、言うまでもないわね。
それじゃ、数えるわよ。いーち、にー、さーん…」
だが、なるべくゆっくり数えているつもりなのに、相変わらず鈍間な小人たち。
今更ビルから逃げ出そうとする者もたくさんいて、思わず呆れてしまう。
「ごー、ろく、なな…」
それでも、僅かな時間しかあげなかったのに、健気に逃げようとする小人たちの姿は何とも微笑ましい。
だからといって助けたりしないが。そもそも逃げられないよう、十秒しかあげなかったのだ。
でも、せっかくだからお情けで一思いに楽にしてあげよう。
「…きゅー、じゅうっ!」
数え終えると同時に、私は一気に股を閉じた。その瞬間、太ももに挟まれてビルが粉々に弾けるのが感じられる。
何棟かは辛うじて上層階が残っていたが、それらを両手で太ももの間に押し込めた後、
太ももを擦り合わせれば建物は完全に粉々となり、再び脚を開いた時には何も残っていなかった。
もちろん、たくさんいた小人たちも。きっと何が起こったかもわからずに消えてしまったことだろう。
「あはっ、気持ちいいっ!」
快感に浸りながら高らかに笑う私。人も、建物も、何もかもが私の思うがまま。
全ては私を楽しませるためだけのもの。それ以上でもそれ以下でもない。
そして、壊してしまったらまた別なもので楽しんでいくのだ。
「さて、次のお相手は何かしら」
ざっと辺りを見回してみると、目に留まったのは小高い電波塔。
その周辺にも高層ビルが立ち並んでおり、なかなか楽しめそうだ。
早速、私はまたお尻をずり動かして数多の建物をすり潰しながら近づき、
電波塔周辺を太ももで囲むと、今度はじわじわと股を閉じていった。
まずは周囲の高層ビルなどを太ももで突き崩した上にすり潰し、
それから電波塔も片側の太ももでじわじわと押し寄せていき、
大きく傾けて押し倒しそうになる――ところをもう一方の太ももに弾き、
建物をほとんど横倒しにしながらも、すり潰されずに済んだ高層ビルと共に太ももに挟み込んだ。
さらに太ももを内側に寄せれば、建造物はどれも歪な形になって粉塵を撒き散らしていく。
電波塔も、圧迫したら次第に細く細くなっていき、最後はプチリと潰れてしまった。
脚を広げれば、太ももには平べったくなった電波塔が張り付いてしまっている。
「ぷっ、ぺらぺらになっちゃったわね」
まるで干物のように変わり果てた電波塔の何とも情けない姿に、私は思わず吹いてしまう。
せっかくだしこのまま貼り付けていてもよかったが、すぐに剥がれ落ちそうだったので、
剥ぎ取ってからくるくると指先で丸めて、ピンと遠くに弾き飛ばしてあげた。

 その後、私は四つん這いで進みながら街を破壊していった。
腕を前に出せば、いくつもの建物を平手で叩き潰し、地盤ごと握り潰し、
脚を前に出せば、高層ビルなどを膝で押し倒し、さらに脛ですり潰していく。
小さな建物がデコボコとびっしり敷き詰められた区画も、
手で撫でまわせばザラザラとした感触だけ残してまっさらに。
面白いように壊れていく街。形あるもの全てが儚く崩れ去っていく。
まだ残っていた超高層ビルも、身体を倒して胸で突き崩し、
横倒しになったところに身体をさらに倒せばグシャリと粉砕。
そのまま前に進めば、地面に擦りつけられた胸は余すことなく街を蹂躙する。
「あはっ、おっぱいがまるでブルドーザーみたいね」
胸に押し倒され、抉り取られていく数多の建物。
四つん這いになることで顔が結構地面に近づいているので、
建物などが自分の胸によって壊れていく様をよく見ることができる。
映画など比べ物にならない迫力。しかも、これは全て現実なのだ。
「ほんと、最高のショーね」
飽きるどころか、ますます破壊を楽しんでいく私。 
抉り取るだけでなく、胸を建物の上に乗せてみたりもした。
スク水に包まれた胸は高層ビル群に乗っかると、一瞬むにゅっとなったようにも見えたが、
小さな建物たちが重みに耐えきれるはずもなく、次の瞬間にクシャリというよりプチッと潰してしまう。
また、勢いをつけて乗せてみれば、真下の建物は抵抗する間もなく消滅し、
周囲の多くの建物も衝撃で倒壊してしまうほどだった。

 そうこうしているうち、私はいつの間にか大きなターミナル駅の前にたどり着いていた。
超高層の駅ビルに、多くのプラットホームを有している立派な駅。
よくは見えないが、逃げ遅れたのかそれとも電車で逃げようと思ったのか、
駅やその周辺には大勢の小人たちもおり、ここでも色々と楽しめそうだ。
まずは、周辺の建物を当然のように手やら足やらで破壊し、
駅前大通りを埋め尽くす人や車も叩き潰し、すり潰しながら、
駅をうっかり壊さないよう注意しつつその上に跨る。
そして、駅ビルに手を伸ばすと、くっと握ってみた。
すると、たいして力も込めてないのにビルは簡単に手の中で弾けてしまう。
パラパラと舞う瓦礫。思わず埃を払うようにフッと吹いてみたくなったが、
小人の街は吐息でも簡単に壊れてしまうほどので、今回は我慢我慢。
吹き散らすのは手についた分だけにして、続いてホームの屋根を爪でカリカリと剥ぎ取っていく。
こうすることで、隠れていた電車が露わになっていくのだ。
「ふふっ、みーつけた」
私はわざとらしく言い、とりあえずホーム上の電車を一本摘まみ取ってみる。
まるで糸のように細い電車。地面に垂直になったその中をどうにか覗き込むと、
愚かにも結構な数の小人たちが乗っているようだった。
「さっさと逃げればよかったのにね。でも、もう遅いわ。
たっぷりとお遊びにつきあってもらうわよ。…こんなのはいかが?」
そして、私は電車を振り子のように揺さぶっていく。
すると、次々に連結が外れて吹き飛び、周辺の建物に突っ込んでいく車両たち。
建物に突き刺さったり、弾かれて地面に激突したりしてどれも大破する。
こうして、十両編成以上あった電車だが、あっという間に摘まんでいた一両だけになった。
その一両もポイッと投げ捨てると、またほかの電車でも同じことをやっていく。
また、指先で線を引くようにしてホームごと電車をすり潰したり、
走らせると称して電車を最後尾から弾き飛ばし、空を飛ばさせたりした。
そして、最後は身体を倒して胸やお腹で駅を押し潰し、すり潰してここも完全に破壊したのだった…

 * * * * *

 その後も街を破壊していき、目ぼしいものはあらかた破壊して満足した私は、
まだ破壊を免れていた地区に腰を下ろすと、大きく足を投げ出し、手も広げ、
背中で数多の建物を潰しながら大の字に寝そべった。
「うふふ、楽しかった~」
もうこれ以上ない幸せな気分。これほどまで破壊が楽しかったとは。
お遊びの一端を思い浮かべるだけでも、ついつい笑みがこぼれてしまう。
でも、きっとこれは始まりにすぎないのだろう。
これから私はもっともっと楽しんでいくのだから…


 やがて千華は眠りに落ちていた。気持ち良さそうに寝息を立て、幸せそうな表情をしている。
だが、遠くからいくつもの物体が徐々に迫りつつあるのを、この時千華は知る由もなかった…


つづく

 

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