超巨大美少女上陸

海をちゃぷちゃぷ渡ってくる、私服姿の美少女。ほんわかした雰囲気が印象的で、屈託のない笑顔が可愛らしい。
さらさらのロングヘアは左右の一部をリボンで留め、ツーサイドアップにしている。
服装は真っ白のブラウスに黒のブリーツミニスカートと、清楚な感じ。
スカートからはむっちりと柔らかそうな太ももが覗き、眩しく輝く。
すらりとした足は何も履いておらず、綺麗な素足を露わにしている。

そんな美少女に、思わず多くの人が足を止めてじっと見入ってしまう。
もちろん彼女が可愛いかったのもあったが、もっと重要なことがあった。
少女は遥か水平線の彼方を歩いているというのに、その姿をはっきりと見ることができたのだ。
脛の中ほどまでの高さの海と、太ももの高さの雲を掻き分けつつ、まっすぐこちらに向かってくる。
一歩一歩近づくにつれ、大きさはますます増しているように感じられた。
実際は変わってないのだろうが、超巨大さ故にそう錯覚してしまったのだ。
数十キロ彼方にいるはずなのに、まるで手を伸ばせば届くかのように。
あまりに突然で突拍子もない事態に、人々は我が目を信じられず何度も目を擦って見返したが、
彼女の姿が視界から消えることはなく、よりはっきりと見えるだけであった。

では、これからどうすべきか。まずは話をしてみるのが一番だろう。
少女の表情や雰囲気に攻撃的なものは全く感じられず、むしろ穏和そうなことから、
来訪の目的は侵略や破壊といったものではないのかもしれない。
ならば、どうにか説得して上陸だけは止めてもらわなければ。
いくら好戦的でなくても、あの大きさでは存在自体が大量破壊兵器となってしまうからだ。
彼女が一歩足を踏み出すだけでも数百数千単位で建物や人、車が踏み潰され、
その数倍が着地の際に発生する衝撃波によって破壊されることだろう。
だが、果たして対話など通じるのであろうか。それ以前に、そもそも意思疎通を図れるのだろうか。
外見が同じとはいえ、彼女が人間であるかどうかという保証はなく、仮にそうだとしても、
あまりに大きさが違いすぎて我々を同じ人間と認識してもらえないかもしれないし、存在に気付いてもらえるかも怪しい。
事実、少女の進路には何隻か航行していたが、彼女が意識する素振りも見せないまま歩くことで
船舶は次々と足の動きに巻き込まれ、また引き起こされた大波に飲み込まれていた。

あれこれと考えている間にも少女はどんどん接近してきている。
このままでは、あと幾ばくもないうちに街へ到来することだろう。
その前に逃げなければ。あの巨体に踏み潰されたら一溜まりもない。
ぺちゃんこになって、少女の足裏に惨めにもこびり付くのだ。
何と恐ろしいことか。想像しただけで身の毛がよだってしまう。
そんな最後は真っ平御免だ。とにかく遠くへ。

もはや人々は何処ともなく駈け出していた。


少女は小人の国に向かっていた。
視線の先にあるのはちょっとした広さの平たい島。
視界は悪くないので、やや離れていても確認することができる。
島は多くが深緑に覆われ、所々で白緑に開けている。きっとそこが街なのだろう。
中でも一際大きく開けたところに向かって、まっすぐ海を渡っていく。
その際に起こった波で多くの船舶を沈めていることなど知りもせず。

しかし、ふとした拍子に何気なく足元を見遣ると、
脛を濡らす程度の海面には小さな棒切れのようなものが漂っていた。
ゴミのようにも見えるが、もしかしたら小人さんの船かもしれない。

「これは…ひょっとしてお船さん?」

ためしに、両手をお椀のような形にして周囲の海水ごと掬い取ってみると、
それは非常に小さいながらも精緻に造られた貨物船のようであった。
大きさは一万分の一ほどだろうか。あまりの小ささに少々驚いてしまう。

「とても…ちっちゃいです」

感嘆として、船をじっくりと見入る。大きさは指先に乗せられそうなほど。
小さくてよく分からないが、どこかに荷物を運ぶ最中だったのだろうか。
こんなミニミニサイズで一生懸命積荷を運んでいる姿を想像すると、思わず微笑ましくなる。
ともかく、小人さんの船がいると分かったのでこれからは足元に気をつけよう。
貨物船をそっと海に戻してやると、今度は下を見ながら歩いていく。

すると、すぐに別な船に出会えた。船体は小指の幅くらいの長さだろうか。
先程の船よりもさらに小さく、平べったい形をしている。
避けてあげてもいいが、せっかくなのでちょっと悪戯してみることにした。

「えいっ♪」

少し離れた場所から、ぱちゃっと海水を軽く蹴って水をかけてみる。
宙をキラキラ舞う水飛沫。ややあってから船の周囲に落ちていく。
一部は船の上にも降り注ぎ…船を飲み込んでいってしまった。

「あれ…? 沈んじゃった?」

ほんの悪戯だったのに、と思うも、時すでに遅し。
少し待ってみても、浮かびあがる気配は全くない。
とはいえ、過ぎてしまったことはしょうがないので、
ばつが悪い表情を浮かべつつ、再び歩みを進めると、
数歩先で旅客船らしき真っ白な船を見つけた。
きっとこの中には何百人もの小人さんが乗っているのだろう。

「ふふ、わたしってどう見えているのかな」

少し気になって、親指と人差し指の間で旅客船をそっと摘まみ取ってみるも、
小人さんの姿は小さすぎて見ることができなかった。
いや、ひょっとしたら船中に隠れているのかもしれない。
ならば、出てきてもらうまで。船を海に戻すと、足の親指を上にかざして警告してみる。

「出てこないと潰しちゃいますよ~」

しかし、少し待っても小人さんが出てくる様子が無かったので、
実力行使とばかりに、親指を船に突き立てて、つんつんしてみる。
もちろん本当に潰すわけではないので、軽く小突くように。
だが、思った以上に船は弱く、二突き目で脆くも沈んでしまった。

「え…えっと……そうだ」

ちょっと脅かすだけのつもりだったのに、呆気なく沈んだ旅客船。
このままではまずいので、慌てて海に手を突っ込んで引き上げようとするも、
手探りで掴もうとする際に、手の中で何かが潰れる感触がした…。
手を戻し、恐る恐る開いてみればそこには歪な形をした船の姿が。
助けるどころか、逆に追い打ちをかける結果となってしまった。

「うぅ…。で…でも、出てきてくれないのが悪いんですよ…」

項垂れつつ、とりあえず責任転嫁してみるも、どこか心が痛んでしまう。
一方で、船が潰れていく感触が少し心をくすぐるものであったのは…たぶん気のせいだろう。
ともかく船の残骸を海底に埋葬してあげると、そそくさと歩き出した。


その頃、街からは数十隻の艦艇が少女に向かっていた。
大口径砲を装備した少数の戦艦に、多くのミサイルを搭載した巡洋艦、
それらを囲むように配置された多数の駆逐艦などからなる大艦隊である。
たまたま観艦式を控えていたため、多くの艦艇が集結していたのだ。

当初、この大艦隊は少女と対話を図るために用いられる予定だったが、
すでに多くの船舶が彼女によって沈められ、航行不能にされ、
さらに最新の情報によると彼女が意図的に破壊行為を行っていることが分かった以上、
そんな悠長なことはやってられない。やるか、やられるかだ。
2000TEU級コンテナ船が大量の海水を浴びさせられることで沈没したことはまだしも、
1000人以上が乗る旅客船など故意に踏み潰されて海の藻屑となってしまったのだ。
可愛い顔をしているものだから、危うく騙されるところだったが、
もはや少女が侵略者、破壊者であることに疑いの余地はない。
ならば、武力を以って撃退あるいは撃滅するまで。
海軍の総力を結集したこの大艦隊が総攻撃を行えば、
相手がどれほど巨大であろうと無傷でいられないだろう…

やがて少女が戦艦の射程圏内に入ったところで、警告なしに攻撃が開始された。
まずは戦艦の主砲が一斉に火を吹き、続いて各艦からミサイルが次々に発射されていく。
徹甲弾と対艦・対空ミサイルによる飽和攻撃。無数の弾が少女の身体に命中、爆発した。


「………?」

歩いていると、突然身体のあちこちでぽつぽつと小さな爆発のようなものが起こった。
何だろうと思って前をよく見ると、何か小さな物体が飛んできているのが分かる。
じっと眺めてみると、それらは身体や衣服に当たって爆ぜた。

「これは小人さんの攻撃なのかな…」

痛みなど全然感じられないほど弱々しい攻撃。
注意しなければ攻撃されていることさえ分からないほどだ。
とはいえ、身体のあちこちでチカチカするから少々鬱陶しく、
おまけに顔にまで攻撃されるものだから、げんなりしてしまう。
では、何処から攻撃しているのかと、ミサイルや砲弾を払いながら辺りを窺うと、
ほんの少し先の海上に何十もの灰色の点が集まっているのが見えた。
他にそれらしいものは無いことから、きっとそれが小人さんの艦隊なのだろう。
早速歩み寄ると、少しの間じっと眺めてから、人差し指をぴしっと立てて文句を言う。

「どうしていきなり攻撃しちゃうんですか?
ちょっと驚いちゃったじゃないですか」


一方、艦隊の方は恐慌状態にあった。
総力を挙げた攻撃は少女を撃滅するどころか、全く効いていないように思われ、
さらに彼女が近づく際に引き起こされた大波で各艦は大きく揺さ振られて
戦闘どころかまともに動くことすら困難になってしまったのだ。

そのうちに少女は目前にまで来ると、遥か上空から艦隊を見下ろす。
とはいっても、あまりの巨大さに、正面に見えるのは二本の巨大な肌色の柱だけ。
それぞれ幅数百メートル、高さ数千メートルもの大きさがある。
柱は上に行くほどより太くなり、圧倒的な存在感をさらに増していく。
信じられない、信じたくないが、これが少女の脚というのだ。
さらに見上げれば、少女の身体はまだ続き、脚はミニスカートから伸びていることが分かる。
…艦隊からは桃色のパンツが丸見えだが、少女には恥じらいはないのだろうか。
いや、恐らくあるのだろうが、詰まるところ我々を同じ人間と認識していないのだろう。
しかしまあ凄い大きさのパンツである。艦隊の全ての艦を楽々収めることができそうだ。
スカートの上に現れるのは女の子らしい可愛らしいデザインの真っ白なブラウス。
あれほど攻撃したというのに、どこにも破けたところは見当たらない。
ますます無力感を感じつつ、さらに見上げてようやく少女の顔を拝むことができた。
むっとした表情をし、大きく澄んだ瞳でこちらをじっと眺めている少女。
目線が合うことなどないだろうが、あまりの大きさにどうしてもそう感じて思わずびくりとしてしまう。

間近で見れば見るほど圧倒的な大きさに思わず驚嘆する。全てにおいてスケールが段違いだ。
推定身長1万6000メートルとは聞いていたが、これほどまでに大きかったのか。
これでは勝てるはずもない。戦おうと思うことすらおこがましいくらいだ…

そう思っていると、少女は人差し指を立て雷鳴のような声を轟かした。
声量は耳をつんざくばかりであったが、よくよく聞いてみれば、どういう訳か彼女の言葉を理解できる。
そして、総攻撃がやはり「ちょっと驚いた」程度の効果しかないことが分かった。
表情と口ぶりから、あまり怒ってなさそうな少女だが、これから我々をどうするのだろうか。
ただでは済まないだろうが、などと思っていると、彼女はまた喋り出した。

「わたし、そんなに悪いことしてないつもりなのに」

思わずずっこけてしまう。一体どれほどの船が破壊されてしまったことか。
いやいや、と全力で否定するが、ひょっとしたらその巨大さ故によく分かってないのかもしれない。
彼女からしてみれば船を沈めることなど軽い悪戯程度ということもあり得る。
もっとも、される方はたまったものでないが。

「まあ、痛くなかったから別にいいですけど」

そう言い、口をぷくっと膨らませてむくれる少女。
だが、一瞬何か考える素振りを見せると、突然笑みを浮かべた。

「…そういえば、やられたらやり返していいんですよね。
せいとうぼうえい、とか言うんでしたっけ」

やられたらやり返す。至極当然の理論である。
しかし、あの大きさでやり返されたらどうなってしまうのか。
考えるまでもないだろう。おしまいだ。

だがちょっと待ってほしい。確かに攻撃をしたが、効いていなかったではないか。
なのにやり返すとは正当防衛でなく過剰防衛だ、などと冷静な突っ込みを返せるものなどおらず、
恐怖のあまり各艦は命令を無視して独自に攻撃したり逃走を開始したりする。
だが、少女の大きさを前には全てが無意味だった。


「それじゃ、いきますよー」

一応宣言すると、まずは手近な一隻を摘まみ上げてみる。
だが、顔の高さまで持ち上げたところでその艦は突然攻撃してきた。

「もう、まだやるんですか」

往生際が悪いというか、学習しないというか、少々呆れてしまう。
ぷんすかしながら、ちょっと懲らしめてあげようと思って指にほんの少し力を加えたら、
しかし、軍艦はいとも簡単に指の間でぺっちゃんこに潰れてしまった。
またしてもやってしまった。実のところ、やり返すとは言ったものの、
なるべく穏便に済ませるつもりだったが、どうしてこう小人さんの船は弱いのだろうか。
これではまるで一人馬鹿を見ているみたいだ。

「でも…何だかちょっと気分がいいかも」

指の間で軍艦がくしゃっと潰れていく感触は、どこか心をくすぐるものがあった。
それに潰れたのは、か弱い女の子を攻撃してくる可愛げのない艦だったから清々する。
ためしに、平べったくなった残骸をくるくる丸めてぽいっと捨ててから
他に攻撃してくる艦も指の間で挟み潰してみたら、思わずゾクゾクしてしまう。
生意気な小人さんの小さな艦を弄ぶ。これはちょっといいかもしれない。
どうせ、何をやっても正当防衛だから問題ないはずだし。

「そういえば、遊びに来たんだっけ」

せっかく小人さんの国に来たのに、ただ見て帰るのはもったいない。
ならば、心行くまで楽しもう。そうと決まれば話は早い。
とはいえ、一方的にやってしまうのは少し可哀想な気がしたので、
一応、まずは攻撃を続けている艦から順に破壊していく。
足を上にかざすと、無意味な攻撃を続ける軍艦を何隻もまとめて踏み潰し、
逃げながら攻撃している艦を爪先で撫でるようにして擦り潰す。
大きな軍艦も、艦橋に指をぐりぐり押しつけて撃沈し、
中くらいの軍艦を両手で掬った海水をどばっと掛けて沈め、
小さな軍艦は、手で掻き集めてから何隻もまとめて握り潰す。

「ふふ、どんどんいきますよー」

途中からは攻撃の有無など関係なく手当たり次第に破壊していたが、
それはまあ連帯責任とかいうやつだ。どうせ最初は一緒に攻撃していたんだろうし。
という具合にやっていけば、たくさんいた軍艦も残り少なくなっていた。
最後は海の中に腕を突っ込み、大きく掻きまわすようにして渦を作っていけば、
残りの軍艦も渦に飲み込まれて沈んでいき、艦隊はあっという間に全滅した。

「…もう終わっちゃった」

いつの間にかすっかりお遊びを楽しんでいたものの、あまりの呆気なさに少々不満が残る。
軍艦は数十隻いたのだろうが、この程度の数では満足できないのだ。
まだまだ遊び足りないのに、と嘆息するも、仕方がない。
そこで何と無しに周りを見れば、たくさんの船が目に入ってきた。

「…んーと、どうしようかなぁ」

さすがに民間船に手出しするのはちょっと可哀想な気もする。
でも、最初に攻撃してきたのは小人さんの方なのだから。
先に二隻ほどうっかり沈めちゃったのは…ノーカウントで。
ともかく、小人の軍隊さんの責任は小人さんの責任。
連帯責任ということで、慰みものにしていく。

「ふふ、いっぱい楽しませてね」

まず標的にしたのはタンカーらしき大型船。といっても極小サイズには変わりない。
歩み寄って足をすっと上げると、一瞬躊躇うも、一気に振り下ろして踏み潰せば
足は勢いそのままに海へ潜り着底する。タンカーはさぞかし海底にめり込んだことだろう。
これを皮切りに、別なタンカーにも近づくと、足指の腹の部分で摘まんでから挟み潰したり、
作業船を手で高く摘まんでからぱっと指を離して海面に激突させてみたり、
貨物船も摘まみ上げるとぽきりと二つに折ってみたりした。
また、漁船の群れを一蹴りでさくっと蹴散らしてみたりもする。

「あはは、楽しい~♪」

こうして船という船を見つけては次々に破壊していけば、
小人さんの街まではあっという間だった。


* * * * *


「小人のみなさん、こんにちは。今日は遊びに来ちゃいました」

小人さんの国の前に来ると、足元の街に向かってまずは挨拶をしてみる。
それから、人差し指を口元に当て、笑顔で街を隅々まで眺めていく。

「ふふ、ちっちゃくてかわいい♪」

建物はみんなミニミニサイズで、どれもこれも小指一本にすら満たない大きさ。
足を一歩前に踏み出すだけで、数百数千と素足の下に消えていくことだろう。
でも、こんな小さなもの一つ一つに小人さんが住み、働いているのだ。
海で散々暴れたから、もうどこかに逃げてしまっただろうけど。
もっとも、その方が気兼ねなく遊ぶことができる。

「それじゃ、上陸っと」

一通り街を眺めると、足を高々と掲げてから足元にあった港の上に下ろした。
そこには何隻かの船が停泊し、大型クレーンやら倉庫やら何やらの港湾施設があったが、
さっくりまとめて踏み潰した…だけに収まらず、港に隣接する工業地帯の一角も素足の下敷きになる。
足を上げてみれば、港があった場所にはくっきりした足跡が出来ていた。港の痕跡などどこにもない。

「くすっ、記念すべき第一歩ね」

見事なまでに深々と刻まれた足跡。他を圧倒する存在感を放っている。
ちまちました小人さんの建物に比べて、その何と雄大なことか。
これを造ったのだと思うと、何だか気分がいい。

それから、足を戻すともう片足でも港を踏みしめてみる。
今度はコンテナヤードを踏み躙り、石油タンク群もまとめて踏み潰した。
残った倉庫群も爪先で抉り取り、工場群を蹴散らし踏み潰せば、もうすぐそこには住宅街。
ぺたぺた歩き回れば、木造鉄筋問わず無数の家屋が素足の下に消えていく。
学校など、足の親指だけで校舎から校庭に至るまでさくっと踏み潰し、
高層マンション群も足の小指で叩き潰し、擦り潰す。
運動場は爪先でぐりぐり抉ればその何倍もの大きさの窪地となり、
小高い山もさくっと踏み潰せば逆に陥没してしまう。
隅から隅に踏み固めていこうものなら、住宅街はすっかり茶けた荒野に早変わり。
建物、道路、田畑や草木に至るまで全てが消え失せていた。


巨大な侵略者に対し、軍隊は何も手を拱いているわけではなかった。
海軍はすでに壊滅してしまったものの、陸軍と空軍は依然として健在である。
とはいえ、強力な火力を持つはずの大艦隊が手も足も出ずに全滅させられたことから、
指揮官は元より兵士達も少女を倒せるなどとは夢にも思っていなかったが、
それでも彼らは少しでも多くの市民を守るために身を挺して戦おうとしていた。
各基地からは次々に戦車や戦闘機が出撃し、少女に向かっていく。
国の総力を挙げた大部隊。その数はそれぞれ数百を下らなかった。

先に到達したのは各種ミサイルを満載した戦闘機の大編隊。
高高度を飛行しているはずなのに、パイロットの目線の高さには少女の胸が見えている。
顔は見上げなければ見えないという光景に、彼らは改めてその大きさに驚かされつつ、
街の様子を見てみれば、すでに少女の足元では住宅街の大半が大地に埋められていた。
港があったはずの場所には足跡しか残されておらず、工業地帯も無残な姿を曝け出している。
しかも、これらは彼女が上陸してからほんのわずかな時間でもたらされたのだ。
このままでは街が全て破壊されつくされるのも時間の問題だろう。
その前に何としても市民の避難を完了させなくては。

少女が足元に気を取られているうちに、大編隊は少女の周囲に散開すると、
ある程度距離を取りつつ、海へ誘い込もうと海上から攻撃を開始した。
号令と同時に各機体から次々と発射されていくミサイルの大群。
それらは大きすぎる少女の身体に外れることなく全て命中し、たちまち幾多の爆炎が上がった。
だが、彼女の大きさに比べてその何と小さく儚いものか。まるで線香花火のようだ。
これでは、もしかしたら気がつかれないのでは…と思った時、彼らは少女と目が合った。


住宅街を踏み踏みしていると、またしても小さな爆発がぽつぽつと身体中で起こった。
小人さんの攻撃だろうかと思って、その方向――海をきっと睨みつけると、
上空には何やらとても小さい物体が多数飛び交い、さらに小さい物体を放っている。
それが戦闘機とミサイルであることは何となく察しがついた。

「もう、まだ分からないんですか。小人さんの攻撃なんて効きませんよ」

呆れながら言うも、攻撃は止むどころかますます激しくなっているような気がする。
とはいえ、相変わらず痛くも痒くもなく、何ら実害がないので放っておいてもいいが、
分からず屋さんはちょっと懲らしめてあげよう。

「いきますよー。えーい」

向かってくるたくさんのミサイルを無視しながら海に足を踏み入れると、
掛け声をあげてから、両手を大きく広げてぶーんと一回り。
そうすれば、周囲を飛んでいた戦闘機の多くが手のひらにぶつかったり、
ふわりと広がった髪に巻き込まれたり、気流に煽られたりして墜落していく。
残りは敵わないと思ったか、慌てて逃げようとしたがそうはさせない。

「逃がしませんよ~♪」

両手を大きく振りまわして、手のひらで、手の甲で、腕で、次々と叩き落していく。
身体が軽く触れただけで脆くも壊れ、墜落したり爆散したりする戦闘機たち。
捕まえてみようと指の間にそっと挟んだだけでも擦り潰れてしまう。
また、優しく吐息を吹きかけただけでも、きりもみして墜落していった。

気がつけば、戦闘機はすっかりいなくなっていた。
すっきりした空を見て、気分もすっきりする。

「ふふ、思い知りましたか」

それからまた小人さんの街に戻ると、住宅街を踏み固めていく。
すると、何回か足を踏み下ろしたところで近くのビル街の間に蠢くものを見つけた。
何だろうと思って、かがんでよく見てみると、それらは戦車のようであった。
非常にゆっくりではあるが、こちらに向かっているような気がしないでもない。
どうせならこちらから赴こうということで、ビル街を楽々跨ぎ越すと彼らの目の前に足を置く。
その際、数百のビルがさっくりと素足の下に消えたのは言わずもがな。
すると、彼らはぴたりと動きを止めたようだったが、ややあってから弱々しい攻撃が始まった。

「くすくす、そんな攻撃じゃ効きませんよ」

笑みを浮かべながら、戦車隊が必死に素足を攻撃する様子を悠々と見下ろしてみると、
どうやら小人さんの戦車では足の上まで攻撃が届かないようであった。
まるで素足、それも彼らの正面にある親指と戦ってるかのよう。
ためしに親指を左右に動かしてみれば、それに合わせて攻撃が止んだり始まったりする。
また、前に少し動かせば慌てて後退したり、後ろに引けば追いかけてきたり。
でも、ほとんど見ているだけなのはすぐに飽きてしまった。

「今度はわたしの番です」

そう言ってしゃがむと、戦車を何十台とまとめて人差し指でつんつんして潰したり、
指と指で周囲のビルごと挟み込んで潰したり、爪だけでカリッと潰したりしていく。
また、戦車をよく観察してみようと指先で摘まみ取ろうとしてみたりもした。
力加減が難しく、幾つかの戦車を擦り潰してようやく摘まみ取れた一台を
慎重にそっと顔の前まで持ってくると、まじまじと眺めてみる。

「こんなちっちゃな戦車さんで戦おうなんて、けなげな小人さん♪」

指先にちんまりと乗る戦車。そのあまりの小ささに、少々呆れつつも、
こんなに小さなもので必死に戦う小人さんが何だか愛おしく思えてくる。
せっかくだから、ご褒美に残った戦車には逃げる時間を与えてあげよう。

「その頑張りに免じて、十秒待ってあげる」

そして、指先に乗る戦車をふっと優しく吹き飛ばすと、
おもむろに素足を戦車隊の真上にかざしてカウントを始めていく。
しかし、十まで数えても一向に小人さんの戦車が素足の下から出てくる気配が無い。
少々怪訝に思いつつも、きっと中の兵隊さんは戦車を捨てて逃げたのだろうと思って納得すると、
足が疲れてきたのもあって一思いに足を踏み下ろした――。


ずん。戦車隊は一踏みで周辺のビル街ごと全滅した。
結局、軍隊は陸海空ともにほとんど何もできないまま無為にやられてしまったのだった。


戦車隊を踏み潰したら、残ったビル街も破壊していく。
超高層ビルを爪先で押し倒し、押し潰し、とどめに周囲のビルごと踏み潰したり。
足指の間でビルを摘まんでみたりもする。そして指を擦り合わせて粉砕してみたり。
擦り足をしてみれば、何千と小さなビルが擦り潰されて跡形もなくなり、
蹴りつけてみれば、数百のビルが宙を舞って無傷のビル街に降り注いでいく。
また、足だけでなくお尻を使って遊んでみたりもした。
超高層ビルが立ち並んでいるオフィス街に狙いを定めると、
飛びこむようにして勢いよくお尻を地面に打ちつける。

「えいっ」

どすん、と尻餅。思いのほか地面は柔らかくてお尻は全然痛くなかったが、
お尻の下の建物はもちろん、周囲の広範な建物も衝撃でみんな倒れてしまった。
なかなか凄い威力である。お尻爆弾とでも言ったところだろうか。
立ち上がってみれば、大地にはくっきりと丸いお尻の跡が残っていた。
さっきまで立ち並んでいた超高層ビルなど全く跡形がない。

「ふふ、わたしのお尻はいかがでしたか」

顔をほころばせながら、爆心地を満足気に眺める。
それからお尻に付いた瓦礫やら何やらを叩き落すと、今度は両手両足を地面に着き、
手のひらでビル街を叩き潰し、握り潰し、膝や脛で抉り取りながら四つん這いで進んでいく。
縦横無尽に歩き回ると、途中目についたのは電車がたくさん停まっている車両基地。
それに勢いよく吐息をかけてみると、電車も建物も何もかもが吹き飛んでいき、
車両基地があった場所はきれいさっぱり更地になった。
せっかくなので、そこに指で文字を書きいれてみたり。

「こんにちは、っと」

ほんの挨拶代わりというか、挨拶そのものを大地に刻み込んでいく。
きっと小人さんの大きさではこれぐらいの溝の深さでも断崖絶壁になってしまうので、
普通には読めないだろうけど、それでも飛行機などを使って上空から眺めてもらえばちゃんと読めるはず。
ついでに、山や幾多のビルを削りながら遊び心でハートマークもつけてみる。
そんなこんなで進んでいくと、ふとあるものを見つけた。

「いいものみーつけた♪」

すぐ前方にあるのは街で一際大きなタワー。高さは人差し指くらいだろうか。
大きさ、形ともに申し分なく、小人さんの国に来たついでにちょっと拝借してみようと摘まんでみる。
しかし、指で挟むまでもなく軽く触れただけでタワーはぼろぼろ崩れてしまい、
崩落を止めようと指先で押さえ込もうとしたら、簡単に上半分がくしゃりと潰れてしまった。

「あぅ…。もう、弱すぎです」

腹いせに、タワーの残った下半分を周囲のビルごと叩き潰すが、すぐに気を取り直す。
どうせ目ぼしいものは他にもあると思って辺りを窺ってみれば、とある駅周辺が目に留まった。
幾つかの超高層ビルが周りに立ち並ぶ、小人さんの街で一番大きそうな駅。
さっきは摘まもうとしたから失敗したが、地面ごと掬ってしまえば恐らく壊れないだろうということで、
指を地面に深く突き刺して潜り込ませると、駅やその周辺の建物ごとさっくり掬いとってみる。
どうせなら単品だけでなくその周辺も頂戴しようといった具合だ。
すると、岩盤ごと駅周辺を無事両手のひらに収めることができた。

「ふふ、成功成功っ。それじゃ、記念にお持ち帰り~♪」

まだ街を完全に破壊し尽くしてはいないものの、十二分に楽しむことができた。
それにお土産も手に入れられたことだし、そろそろお開きにしよう。


そして少女は駅一帯を大事そうに両手の中に持ちながら、
街をさらに踏みしめ、海に大波を立ててまた多くの船を沈めながら帰っていた…


おしまい

 

↓拍手ボタン

web拍手 by FC2

 

戻る