地球の最期

 

 それはまさしく悪夢だった。いや、悪夢としか言いようがなかった。
軍隊を軽くあしらい、東京湾にいた艦船を全て水没させ、
東京一帯を壊滅させた超巨大少女、玲奈がさらに巨大化したのだ。
すでに都心は玲奈に踏み荒らされ、津波に侵食されて全滅しており、
周辺部も多くがすり潰され、踏み潰されて壊滅的な打撃を受けていたが、
残った建物や地盤そのものも巨大化した玲奈のブルマ、太もも、
そして脛によって押し退けられ、抉り取られ、飲み込まれ、
ついには完全にブルマの下に埋められてしまったのだ。
その直前、アメリカ合衆国とロシア連邦はホットラインを通して
『地球外生命体に対し核兵器を用いて消滅させる』ことに合意、
完全に機能を停止した日本政府に代わって、大陸間弾道弾による攻撃を行っていた。
両国のサイロからまず八基が第一波として大気圏外に出、東京に降り注ぐ。
そのうちの一基はやや先行して目標の顔に命中、大きなキノコ雲を上げ、
さらには転倒させることに成功する。続いて残りも倒れ込んだ目標に全て命中。
半径10kmに渡って強力な衝撃波を発し、破壊されずに残っていた建物を粉砕する。
また、爆心地では物凄い高温になり、付近の物を一瞬で蒸発させていく。
人類の有する最強兵器による攻撃。爆炎は目標の周りを何重にも覆う。
しかし、それも無駄な抵抗に終わってしまった。目標はあまりに強すぎたのだ。
そう、煙が晴れた時、そこには全く無傷の超巨大少女が存在していた…。
全てが破壊し尽くされた大地。だが、玲奈はその中心に神々しく存在していた。
もはや人知の及ぶ存在ではないことは明らかだ。それでも、人類は無謀な攻撃を続ける。
大陸間弾道弾の第二波だ。しかし、それらが到達する前に彼女は巨大化を始めたのだった。

 日本海から太平洋にまで伸びる肌色の壁。それは全て玲奈の身体の一部だ。
素足、脛、ふくらはぎ、太もも…。パーツ一つ一つが想像を絶する大きさとなっている。
ただ玲奈が巨大化しただけで埼玉県と群馬県、神奈川県、千葉県が全滅、
東京都も離島を残して全滅していた。越後山脈も半分を削り取られ、
新潟県も上、中越が玲奈のふくらはぎや脛の犠牲となっていた。
それでも人類は相変わらず無意味な核攻撃を行っていたが、
もはや玲奈は自分が攻撃されていることさえ気付いていないようだった。
日本列島に馬乗りしていた玲奈はしばらく辺りを見回していたが、
仙台市周辺に目を止めると、顔を近づけて笑いながら話しかける。
雷鳴の比ではない声で。だが、それを聞ける者はいなかった。
玲奈の吐息で街は一瞬にして粉砕され、市民は死滅していたからだ。
だが、全てが失われた死の街に追い打ちをかけるように
玲奈は直径10kmにもなる人差し指を突き立て、擦りつける。
それだけで仙台市があった場所は底も見えない窪地と化してしまった。
続いて玲奈は佐渡島に手の平を置くと、海底を削りながら指を内側に寄せる。
そして握り潰し。大量の土砂が、岩盤があっけなく圧縮され尽してしまう。
しかし、そんな被害などこれから起こることに比べれば微々たるものだった。
なんと玲奈はブルマを本州に擦りつけ始めたのだ。少しずつ前に進みながら。
真っ先に栃木県と茨城県は擦り潰されてしまう。わずかに遅れて福島県も。
関東平野は完全に抉り取られ、宇都宮、水戸といった都市などは
玲奈の股の間の堆積物と化し、エベレストよりも高い土の壁となる。
新潟市や福島市も太ももに削られたり、お尻に敷かれたりして消滅した。
さらに山形県や宮城県も粉砕した玲奈はそこで一旦止まると、
秋田県や岩手県を地盤ごと抉り取りながら太ももを閉じていく。
かつて関東平野を成していた堆積物を挟み潰しながら、ぴったりと。
その圧力を前に、太ももの間の全てが一溜まりもなく圧搾され尽してしまった。
天地創造といった大破壊の中、東北地方で唯一生き残っていた青森県。
だが、そこも玲奈が足を伸ばした際に爪先で削り取られ、失われてしまう。
北海道もまた、伸ばされた足の犠牲となってまずは渡島半島が消滅する。
さらに玲奈は何を思ったか、踵を振り上げると大地に向かって叩きつけた。
何回も、何回も。札幌や帯広といった都市は勿論、日高山脈なども
超音速で天から降ってくる玲奈の踵に粉砕され、クレーターとなる。
まるで爆撃のようだ。しかし、威力は比べ物にならず、島自体が削れていく。
それが10回ほど繰り返され、ほとんど原形を失ってしまった北海道だが、
まだ弄ばれるかのように玲奈の足の裏で撫でられ、潰されていく。
そして、ついには陸地の高さが海面下となって水没してしまった。
これで東日本をほぼ消滅させた玲奈は、反転すると今度は西日本に襲い掛かる。
まずは石川、富山、長野、静岡の各県をすり潰しながら西日本に向き合うと、
座ったまま上半身を倒していく。本州の残り半分をすっぽり覆う形で。
最初に大地に触れたのは玲奈の胸だ。巨大という言葉で形容出来ないほど
大きな二つの乳房は中国地方に降臨し、各県を容易く粉砕していく。
刹那、今度は玲奈の体操着が身体越しに近畿地方に覆い被さり、
大阪、神戸をはじめとした都市という都市を万遍無く押し潰す。
それだけで飽きたりない玲奈は、さらに腕を内側に寄せて
瀬戸内海の島々や隠岐諸島、香川県まで削り取ったり、
胸をぐりぐりと中国地方に擦りつけて地殻を抉ったりする。
お腹を左右に動かして、潰れずに済んだ和歌山県や福井県を潰したり、
太ももを擦り動かして岐阜県や愛知県を潰したりもした。
これで本州は全滅である。もはや全てが岩盤ごと圧縮され尽されていた。
玲奈が立ち上がっても、かつて本州が存在していた場所にあるのは
合流した日本海と太平洋、そして地下から噴き出すマグマだけであった。
大きな被害が出ていたものの、まだ潰されずに済んでいた四国と九州。
しかしここも立ち上がった玲奈に弄ばれるまで、そう時間は掛からなかった。
それぞれの島の半分ほどの大きさがある素足が振り下ろされたのだ。
徳島県と高知県の東半分、続いて福岡県や佐賀県もその犠牲となる。
数瞬にして踏みつけられ、躙られ、跡形も無くなってしまう。
それが数回繰り返されると、四国は完全に玲奈の足の下となり、
九州も鹿児島県を残して全滅。その鹿児島も東半分以上が無くなっていた。
それでも玲奈は容赦せず、足の裏で薩摩半島を掴み取ろうとする。
もちろん握れるはずもなく、大地は削り取られて失われてしまった。
玲奈が巨大化してから、ここまでわずか数分の出来事である。
だが、その短時間で日本は完全に破壊し尽くされ、消滅したのだ…。

 日本列島を弄んだ玲奈は、続いてユーラシア大陸に上陸する。
そして悠々と朝鮮半島を踏み躙ると、今度は大股で歩き出した。
なるべく大きそうな街を狙って、順々に踏み潰していくのだ。
大連、長春、ウラジオストク…。それから北京。
そこからは海岸線を念入りに踏み潰し、擦り潰していく。
上海を爪先で潰したり、南嶺山脈を丸ごと抉り取ったりしながら。
また、削り取った大地で各地の湖や揚子江を埋めたり、
素足で台湾を薙ぎ払って、マリアナ海溝にまで飛ばしたりもした。
この大破壊にロシア軍や人民解放軍は手をこまねいていた訳ではない。
むしろ積極的に攻撃を行おうとしていたが、何と言っても巨大すぎる。
陸上兵器など出撃しようとした頃には基地ごと踏み潰され、
戦闘機や攻撃機も天から振り下ろされる素足に粉砕されたり、
移動の際に発生する凄まじい気流の乱れに飲み込まれたりして全滅。
巡航ミサイルも玲奈の移動速度に追いつけるはずもなく、
仮に追いつけたとしても傷一つ与えることすら出来なかった。
そんな攻撃が行われていたことさえ知り得ない玲奈は
次第にただ都市を踏み潰すことに飽き、ごろっと寝転がる。
そのまま転がれば、足で潰すのとは比べ物にならない範囲を削っていく。
内陸の都市を太ももや胸など身体の至る所で削り、圧搾し、
チベット高原やヒマラヤ山脈も全身で押し潰し、窪地に変える。
地球最高峰のエベレストも例外ではなく、容易く胸で擦り潰す。
さらに寝転がった玲奈は爪先でカルカッタを、頭でデリーを、
といった感じで都市を潰し、デカン高原を粉砕していく。
そして、わずか数秒でインドを亡き者にした玲奈は
スリランカをも足の甲だけで潰し、躙ったのだった。
アフリカ、東南アジアに向かう高さ数百メートルの波。
玲奈がインド洋を押しのけた時に発生したものだ。
真っ先にスマトラ島は根こそぎ洗い流されてしまう。
遅れてジャワ島やマダガスカル島も飲み込まれる。
それは何も島だけではなく、大陸をも水没させていく。
アフリカ東岸はキリマンジャロといった山々も削られる程で、
低地など波を一瞬たりとも防げずに殲滅されていた。
このまま放置してもアフリカが滅ぶのは時間の問題であったが、
玲奈はそれすらも許さず、波を楽々追い越し、自らの手で裁きを行う。
サバンナを踏み躙り、サハラ砂漠までも踏み荒らしていく。
そして、わずか数分でアフリカ大陸も破壊され尽したのだ…。
もはや人類は絶滅の危機に瀕していた。いや、絶滅寸前だった。
日本列島は消え失せ、中国の海岸部は踏み荒らされ、
ヒマラヤ山脈やチベット高原、インド半島も消滅。
アフリカや東南アジアは玲奈の発生させた波で洗い流され、
南北アメリカ大陸やオーストラリアも多くが水に浸かっていた。
また、撒き散らされた土砂は空を覆い、世界は光を失い、
わずかに高地にいた人々だけが最後の審判を待っていた。
このまま放置してゆっくりと人類が滅びるのを待つのか、
それとも、しらみ潰しに人類をなぶり殺していくのか。
ひょっとしたら生き残った者は助けてくれるかもしれない。
だが、予想は全く別な形で裏切られてしまった。

 宇宙からやや灰色がかった地球を眺めるブルマ姿の少女、玲奈。
彼女はさっきまで地球上で地形が変わり尽くすほど暴れていたが、
まだ被害を免れていた方を見て、邪悪な笑みを浮かべると、
重力など物ともせず、地面を蹴って楽々と宇宙へと出た。
そして指を組んで目を閉じると、さらなる巨大化をしたのだ。
日本並の大きさから、大陸並みに、地球に匹敵する大きさに。
巨大化が完了した時には、それこそ地球を遙かに超える程に。
玲奈にとって、今や地球など風船大の大きさしかないのだ。
そんな惑星大の大きさとなった玲奈は地球を両手で軽く挟むと、
まずはお別れのキスをする。オーストラリア大陸の真上に。
だが、それだけで大陸はマントル層にまで沈下し消滅する。
続いて玲奈は地球を太ももで挟みこみ、力を加えていく。
その際、ヨーロッパは太ももが触れただけで殲滅され、
南北アメリカ大陸もブルマに擦りつけられて消滅したが、
人類が完全に死滅した今、もはや些細な問題でしかない。
玲奈は全く気にせずにどんどん締め付けを強くして地球を抉り、
さらには圧縮し、いびつな楕円形へと変形させていく。
そして最後は一気に力を加え、一瞬で葬り去ったのだ。
これが45億年の歴史を持つ惑星、地球の最期であった…。

 

おしまい


 * * * * *

補足:『お遊び』…玲奈の住む星で流行っている、小人のいる惑星を根こそぎ破壊するゲーム。
通常でさえ小人の10000倍の大きさを誇る彼女たちは宇宙征服も兼ねて、
惑星を侵略しては根こそぎ破壊するという新しい娯楽に辿り着いた。
ただ問題点として、自分の宇宙船まで破壊して行方不明になる者が続出している。

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