巨大メイドの復讐-後編-


国内最大の人口500万を誇る、人民共和国の首都。
この都市は『主体塔』を中心に整然とした街並みが広がっていた。
西部は副都心となっており、高さ100mを超える超高層ビルが立ち並び、
軍需産業や金融業などの大企業の本社が数多く入っており、
数え切れないほどの高層ビルと共に大商業街を形成していた。
西部から中心部周辺にかけては繁華街が広がり、
禁欲を旨とする国でありながらも多くの人で賑わっていた。
南東部は大部分が国有地となっており、毎年軍事パレードが行われる革命広場の奥には
レッドベースと呼ばれる労働党本部や首相府、参謀本部などの建物がずらりと並び、
人民共和国の裏の顔と呼ばれる権力の頂点がそこには存在していた。
北東部は主な雑務を執り行う官庁街があり、象徴とはいえ人民議事堂も建っていた。
重要項目は労働党本部で総て決められるが、実際に機能するのはここである。
また、首相官邸には官僚のトップとして絶大な権限を有する副首相が控えていた。
住宅街は首都の中心から外縁まで至る所に広がっていたが、
そのうち高級住宅街は東部に集中して造成されていた。
ちょうど両中枢機関に挟まれる場所だからである。

だが、すでに北東部は巨大メイドによって大きく破壊されていた。
官庁街は壊滅し、高級住宅街もその一つが消滅していたのだ。
建物という建物は崩れ、潰れ、原型など全く留めていない。
高級官僚から一般市民まで多くの人々も潰れ、ただの赤い染みと化し、
地面は道路といわず至る所で陥没し、水道管が破裂して水浸しになっている。
しかし、この程度では巨大メイドは満足などしていなかった。
まだ建物はたくさんある。人もたくさんいる。
祖国を滅ぼした軍隊だって、そのほとんどが無傷だ。
最大の復讐相手である首相や労働党も残っている。
「もっと、もっと壊して、殺しちゃうんだから…。」
無傷な街の方を眺め、巨大メイドは呟くように言う。
そして、今また破壊と殺戮をするため動きだした…


官庁街の外れにある、国営地下鉄の駅。
普段は庁舎の職員が使う程度で、昼にはあまり利用者が多くない駅だが、
今や巨大メイドから逃れるため避難してきた人々で溢れていた。
入口から地下のホームまで人で埋め尽くされているのだ。
薄暗く狭いホームでは満員電車が一本、二本と出発していくが、
如何せん人が多すぎて避難民の半分も捌けていない。
そんな状況では、駅員や警察の指示など全く無意味で、
押し合い圧し合いが至る所で起き、ケガ人が続出していた。
さらに、あまり電車の本数の多くない時間帯なので、
待つこと出来ずに線路伝いに逃げようとする者までおり、
やって来た電車に轢かれたりとパニック状態であった。
そこに、官庁街を破壊した巨大メイドが早くも現れ、
駅構内に入れず地上で右往左往していた人々が踏み潰されていく。
グチャ、グチャと嫌な音が辺りに響き渡る環状道路。
また、巨大メイドがズシン、ズシンと足を振り下ろすたびに、
四万tもの体重に地面が耐えられるはずもなく陥没していたが、
そのうちの一歩が地下鉄のトンネルを岩盤ごと踏み抜いてしまった。
「…ん?」
いつもと違う感触。巨大メイドは不審に思い、
足を別な場所に降ろして崩れ落ちた土砂を除けてみる。
すると、そこには何やらトンネルのようなものがあった。
レールがあることから、地下鉄のものだろうか。
早速近くを窺ってみると、すぐそばに人々の集まっている場所を発見した。
そこには何やら小屋のようなものが立っており、それが地下鉄の入口なのだろう。
思った通りである。悪戯っぽい笑みを浮かべる巨大メイド。
両手両足をついて四つん這いの姿勢で入り口に近づくと、その周りの地面に指を突き立て、
固い岩盤をいとも簡単に突き破りながら、ズブズブと泥に突っ込むように手を潜らせ、
ある程度までいった所で、上に乗っている自動車や群衆ごと岩盤を一気に持ち上げた。
露になる地下構内。穴が空いた場所はちょうどホームの真上だったようで、
中にはたくさんの人々と、八両編成の地下鉄が一本見えた。
誰しも突然のことに驚き、何が起きたか分からず呆然としている。
だが、巨大メイドが真上で岩盤を抱きしめ、ボロボロに崩すと、
落ちた瓦礫で人々は傷つき、潰され、構内はパニックになってしまった。

「ふふ、どこへ逃げるつもりですか。ご奉仕が済んでいませんよ?」
巨大メイドの不気味な笑み。逆光で凄みが増している。
ご奉仕が何か分からないが、ただで済まなさそうだ。
怯え、ますますパニックに陥ってしまう人々。
ただでさえ満員の電車に入ろうと人ごみを掻き分け、
ドア付近に固まることで電車は発車出来なくなっていた。
だが、そんなことなどお構いなしに巨大メイドは胸を前に突き出し、
先程造った穴の中へとゆっくりと差し込んでいきながら一言。
「では、私のおっぱいで皆さんをすり潰してあげますね。」
そしてのしかかり。その瞬間、膨大な体重が駅に襲い掛かった。
ホームでは、逃げ場のない群衆は成す術なく胸に押し潰されてしまう。
柔らかいはずのおっぱいだが、殺傷力は抜群であった。
満員電車もまた、その内の一両が胸と壁に挟まれ、圧縮されてぺしゃんこになった。
大量の血飛沫がかかるエプロン。数百人が瞬時に液体と化してしまったのだ。
おっぱいは殺傷力だけでなく、破壊力も抜群だった。
破壊はそれだけに収まらず、巨大メイドの下腹部は岩盤を押し崩し、
自身も沈み込んで、人々で溢れる構内をも瓦礫ごと圧縮していく。
さらに、巨大メイドが前後運動をすることで岩盤が次々に崩れ、
地下に落ち込んだ身体はホームを押し潰し、電車や群衆をすり潰していく。
わずかな時間で、ほとんどの者が死に絶えた地下鉄の駅。
しかしこれで終わりではなかった。
巨大メイドは完全に駅を破壊するために立ち上がると、
地面を思いっきり蹴って勢いよくジャンプしたのだ。
「えーいっ。」
可愛らしい掛け声。しかしそれと裏腹に、恐ろしいまでの体重が降ってきた。
ズドオオオオオオオン
着地の瞬間、辺りには大震動と大轟音が発生し、その衝撃で周囲の建物は倒壊し、
固いアスファルトの地面もひび割れとデコボコだらけになってしまう。
さらに震源地では大きく深い陥没が出来、ローファーは完全に地面に埋まっていた。
地上でさえこのような状況なのだから、地下はさらに被害が大きかった。
地上が陥没する際に駅構内などの地下施設では落盤が至る所で起き、
周囲100m以上に渡って完全に土砂に埋まってしまっていたのだ。
瓦礫に押し潰され、土砂に飲み込まれて死に絶える人々。
もはや地下鉄の駅周辺で生き残っているものは皆無であった。


官庁街から主体塔に続く住宅街を踏み荒らしていく巨大メイド。
一戸建て住宅を踏み潰し、アパートやマンションを蹴り飛ばす。
まるで新雪のように柔らかく、脆い街並み。
わざわざ意識せずとも、普通に歩くだけで壊れていく。
それでも、凄まじい破壊とその速度にも関わらず、
スカートがほとんど舞わないのは元来のしとやかさ故か。
もっとも、破壊される方としては何の気休めにもなっていなかった。
どれだけ丁寧であろうと、街が破壊されることに変わりはないのだ。
そんな巨大メイドから逃れるため、住民の多くは北大路を南下していた。
だが、ただでさえ慢性的な渋滞が発生している道路はますます車で埋め尽くされ、
歩道も、寸断されて不通となった鉄道の代わりに仕方なく徒歩で逃げようとする人で溢れる。
長さ10km以上に渡って伸びる長蛇の列。それを巨大メイドが見逃すはずもなかった。
住宅街にほとんど人が残っていないことが分かると、破壊の重点を北大路に絞っていく。
グシャ、ギシャ、バキャ
初めは普通に道路の上を歩き、様々な音を立てながら、人や車、信号機などを踏み潰す。
直撃を受けなくとも、悲鳴を上げながら逃げ回る人々は風圧や衝撃で弾き飛ばされてしまう。
血に染まっていく北大路。だが、次第に巨大メイドはただ踏み潰すことに飽きていた。
(うーん。一々踏むのは面倒だし、何かいい手でも…。
そうだ、一か所に掻き集めちゃうのはどうかな)
良さそうな考えが閃いた巨大メイドは早速四つん這いになると、一応宣言をする。
「これから皆さんを前方に運んであげますね。遠慮なさらないで結構ですよ。」
その残虐性からはとても想像も出来ない、にっこりとした表情。
可愛らしい容貌と相まって人々は一瞬心が奪われたが、次の瞬間には現実に引き戻されてしまう。 
匍匐する様な姿勢をとった巨大メイドが、あらゆるものをえぐりながら向かってきたのだ。
巨大な腕がアスファルトをめくり、自動車を押し出し、街路樹を根元から押し倒し、
ゴゴゴゴと地鳴りのような音を立てながら迫ってくる。それも電車並みの速さで。
必死に逃げる人々。しかし逃げ切れるはずもなく、腕の前の堆積物の一員と化すだけだ。
その際、運が良ければ車と同じように押し出されるだけで済んだが、
運が悪ければ腕にすり潰され、ぐちゃぐちゃの液体となっていった。
そして巨大メイドが大きな交差点に差し掛かった時、
腕によって数百台の車と数千人もの人々が掻き集められていたのだった。

巨大な腕に押し出されながらも、辛うじて生き残った人々。
そのほとんどは自動車に挟まれたりして重傷を負っていたが、
ここで彼らにさらなる不幸が訪れてしまった。
立ち上がった巨大メイドが、交差点の周りに溝を掘ったのだ。
指で軽く削ったように見えたが、そこは深さ3m程の窪みとなっていた。
傾斜も90度に近く、もはや脱出はほとんど不可能である。
人々は絶望し、ある者は悲鳴ともうめき声とも取れない声を上げ、
またある者はすがるような気持ちで巨大メイドに命乞いをした。
土下座をし、拝み、慈悲を掛けてくれるよう心から望む。
巨大メイドはそんな彼らの必死さがひしひしと伝わり、
内心悪い気はしなかった。むしろ心地良かった。
「ふふ、必死になっちゃって…。生かしてほしいですか?」
小さな人々を見下ろし、笑顔で言う巨大メイド。
人々はわずかな希望が見えたかのような表情で激しく頷いたが、
優しさよりも残虐性が上回った今、情けをかけることはない。
ただ、わざと勿体ぶって焦らしてみる。
「うーんと、どうしようかなぁ?」
口元に人差し指をあて、考えるそぶりをする。
その様子を見、人々の表情は一瞬綻びかけたが、
次の瞬間またしても絶望に変わってしまった。
「でもダメですよー。皆さんは私のおもちゃになってもらうんですから。
そのかわりと言ってはなんですが、じっくり潰してあげますね。」
巨大メイドの処刑宣告。それも笑顔で楽しそうに言う。
そしておもむろに、自動車が重なった山の一つにローファーを乗せていく。
ギシギシと金属の歪む音、バキバキと金属が圧し折れる音。
それに加えて、逃げ遅れて車内に残っていた人や
車に挟まれて身動きの取れなかった人の悲鳴が辺りに響く。
初めは小さく、次第に大きく、そして消えていく悲鳴。
代わりにブチュッという血が飛び散る音がしていった。
こうして一山を完全に薄っぺらいスクラップに変えた巨大メイドは
他の堆積物にも次々に足を乗せてはゆっくりと潰していく。
呆気に取られている路上の人々。目の前で圧倒的な破壊と殺戮が行われているのだ。
だが、逃げようにも深い溝を乗り越えることなど出来ない。
ただ何もせずに呆然としているだけ。それしか出来なかった。

しばらくして堆積物を全て圧縮した巨大メイドは、残った人々にも足をかざした。
「次はあなた達の番ですよ。どこまで耐えられますか?」
悪戯っぽい笑み。そしてゆっくりと足を下ろしていく。
その下には数十人の群衆。しかしほとんど動きはない。
所々陥没していたり、亀裂が入っていたりする路上は動きにくく、
何より人々は怪我をし、気力を失い、生きる意欲を失っていたのだ。
それでもローファーが頭上にのしかかると生命の危機を感じ、
全員が全員、本能的に両手を上げて押し返そうとする。
そのお陰か、一瞬ローファーの動きは止まった…かに見えたが、
数瞬後には信じられないほどの力が加わり、誰もが地面に突っ伏す。
ずっしりとした重み。身動きなど全く取れずにボキボキと身体が潰れていく。
それでも生きている。巨大メイドは彼らを弄んでいるのだ。
じわじわと力を加え、時には靴で撫でるようにさえする。
そして、最後にはぐっと力を込めて地面に同化させてしまう。
残った人々もまた同様に踏みつけられ、圧迫され、潰されていく。
所詮、巨大メイドの前では人間など取るに足らない存在でしかなかった。
ただ快楽のために弄ばれるおもちゃのような存在。そして建物も。
誰も居なくなった交差点で一人佇む巨大メイドの視線の先には
北大路の始点にそびえ立つ『主体塔』があった…


主体塔。高さ294mと人民共和国随一の高さを誇り、首都のシンボルでもある塔は
国是である『主体』思想の名を冠し、都市の中心に堂々とそびえ立っていた。
形状は下三分の二が円柱状で、残りは鋭く尖った針金のようである。
下層には、首相の賛美など洗脳教育を行う国営放送が入り、
中層は見晴らしの良さから特権階級専用の居住スペースとなっている。
上層には高さ200m程の位置に展望室があり、一般人の立ち入りは禁止だが、
首都を一望することが出来、特権階級の人気スポットだった。
そして、そこから上はアンテナが延々と延びている。
いかに身長160mほどもある巨大メイドとはいえ、
主体塔は見上げなければ全容を見ることはできない。
それほどまでに高くそびえ立つ建物なのだ。
とは言え、巨大メイドにとってはおもちゃに過ぎない。
今や全ての建物はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
そんな巨大メイドは主体塔の脇に来て建物を一瞥すると、
両手でがっしりと抱え、揺さ振りをかけた。
「地震ですよー♪」
笑顔で言いながら、建物をグラグラと揺らしていく。
壊れないよう力を抑えたつもりだが、それでも中を覗けば
小さな人間達が転げ回り、棚や机も倒れたり引っくり返ったりしていた。
それを見て、ますます笑みがこぼれる巨大メイド。
ある程度揺さぶると、次に建物に腕を回して抱きしめていく。
「私の身体、存分に堪能してください。」
巨大メイドは腕や胸を建物に食い込ませながら言う。
さらに両脚を建物の脇に添え、下層をロングスカートで包むかのようにすると、
股をじりじり閉じていき、建物を両側から挟み込んで粉砕していく。
ガラガラ崩れ落ちる大量の瓦礫。すり潰されたり転落死したりする人々。
中層もまた、腹部にドンと押され、粉砕されて崩れ落ちてしまう。
下半分がほとんど崩れてしまった主体塔は支えを失って上半分も倒れそうになるが、
巨大メイドはそれを根元からしっかりと持って、ゆっくりと地面に置いていった。
…瓦礫の上に置いたので、結構傾いていたが。
「これで私の方が大きくなりましたね。」
半分ほどの大きさとなった建物を見下ろして、にっこりと笑う巨大メイド。
さっきまで頭上にあった塔の先端は胸ほどの高さしかなく、
ましてや展望室など膝より少し高い位置でしかなかった。

上層階にいた人々は、とりあえず生き残ったことに安堵しつつも、
巨大メイドが次に何をするのか、一抹の不安を覚えていた。
折角地上に置いたのだから、手荒なまねはしないとは思うが…。
などと考えていると、空高くから可愛らしい声が聞こえていた。
「では、今から十数えたらこの建物を壊すので、
逃げたい方はどうぞお逃げください。」
十とは短すぎる!逃げることなど出来ないではないか。何を考えているのか…!
そう思っていても、いざカウントが始まると皆一斉に非常階段や窓に向かっていく。
「いーち、にー、さーん…」
ゆっくりとしたテンポで数える声が、建物内の何処にいようと聞こえてくる。
だが、いくらゆっくりといっても数秒の違いでしかない。
「ごー、ろーく…」
半分を切り、焦った人の中には数十階分の階段や窓を飛び降りる者も出る。
自由落下。当然助かるはずもなく、次々に地面に激突しては絶命していく。
「きゅー、じゅうっ!」
だがその多くは、地道に階段を降りていた者と同じように
巨大な手に押しつけられ、地面にめり込んでいった。
何てことはない、巨大メイドが塔のてっぺんに手を置いたかと思うと
身体をしゃがみ込ませながら一気に建物を圧縮していったのだ。
まるでビルの爆破のような、しかしそれよりも早く、強い破壊。
ほんの一秒足らずで建物は粉砕され、消滅したのだ。
その圧倒的な破壊で、主体塔の中や傍にいた人々は押し潰されて全滅し、
早く脱出した者も降り注ぐ粉塵から逃げられず、誰も生き残ることは出来なかった。
結局のところ、塔を残したのも潰したのも単に巨大メイドの気まぐれだったのだが、
たかが気まぐれ、されど気まぐれ。無力な人々には成す術がなかった。


主体塔の西部に広がる繁華街。普段なら多くの人で賑わうこの地だが、
今は別な意味で人が溢れていた。即ち巨大メイドからの避難である。
すでに店は全て閉まり、客も物好きを除いてほぼ居なくなっていたが、
それでもひっきりなしに人が流入しては近くの交通機関に向かい、
この近辺の交通網はまだ無事とはいえ、パンク状態になっていた。
その間にも首都のシンボルである主体塔はみるみる破壊されていく。
人々はさらに急いで逃げようとするが、ついに轟音と共に主体塔は崩れ去ってしまった。
果たして巨大メイドは次にどちらの方向に行くのか。西か、南か。
結局、とばっちりを受けたのは繁華街の人々であった。
初めは復讐心に燃えていた巨大メイドも、
快楽のために破壊と殺戮をするようになっていたのだ。
すぐに人々は追いつかれ、数十人単位で潰されていく。
路地裏に逃げようとも、建物ごと蹴り飛ばされ、踏み潰されてしまう。
あまりに無力な人々。一刻も早く軍が鎮圧してくれることを願うことしか出来ない。
だが、その願いが通じたのか、ようやく航空部隊が姿を現した。
戦闘機四機、戦闘爆撃機四機の二編隊である。
人々はジェット音を聞き、姿を確認して歓声に沸く。
もちろん、巨大メイドも音や姿を確認していた。
今までとは一転、キッとした顔をし、破壊を止めて気を集中させる。
(いよいよ軍隊との戦い…。当たったら、やっぱり痛い…よね)
さすがにやられはしないと思うが、それでも鼓動が速くなる。
王宮の眼下に広がる街が航空機のミサイルや爆撃によって破壊されるのを
嫌というほど見せつけられ、少しトラウマになっていたのだ。
しかし、そもそも本来の使命は祖国を滅ぼした者への復讐だったはずだ。
一時は快楽に流されていたとはいえ、ここで終わるわけにはいかない。
(やるしかない…!)
そう決意した時、戦闘機の一機からミサイルが発射された。

「では、本機から攻撃する。全機、作戦通りに行動せよ。」
隊長は配下の機体に伝令すると、早速攻撃を行った。
パシュウウゥゥゥン…
まずは様子見を兼ねて、空対空ミサイルを一発お見舞いする。
小気味良い音を立て、勢いよく発射されたミサイルは真っ直ぐ目標に向かっていき、
いよいよ命中すると思われたその瞬間、不測の事態が発生した。
それまで止まっていた目標が急に動き出したのだ。それも物凄い身のこなしで。
数万tもの巨体が脇に飛び跳ね、ミサイルは回避されて近くのビルに命中、爆発してしまう。
「な…。くそ、今度は挟み打ちだ。」
隊長は一瞬焦るも、すぐに的確な指示を出す。
二手に分かれる戦闘機隊。巨大メイドの前後から攻撃を行う。
発射されたミサイルの数は八発。これなら確実に命中するはずだ。
…しかしそれも感付かれてしまい、マッハ2もの速さで逃げられてしまった。
粉砕されていく街並み。直接踏まれなくとも、衝撃波で破壊されてしまう。
さらに、巨大メイドは反撃としてビルを引っこ抜いて投げつけ、
逆に戦闘機一機が回避できずに撃墜され、地上に落ちて爆散する。
それでもその隙に裏手の機体がミサイルを発射し、ついに命中を得られた。
バアァァン
首に小さな爆発。巨大メイドが怯んだ隙に、続いて戦闘爆撃機がクラスター弾を投下する。
バババババババババババン
連続した爆発音が轟き、目標全体が爆炎に覆われた。
「よし、これで目標もただでは…」
しかし次の瞬間、隊長は我が目を疑った。
巨大メイドは全くの無傷だったのだ。服さえも穴がない。
いくら一発の威力が低いとはいえ、これ程までとは…

結局、巨大メイドの考えは完全な杞憂だった。
ミサイルも爆弾も全然痛くもなかったし、熱くもなかった。
もう一度クラスター弾が、今度は正面に命中したのにわずかな感触しかなく、
煙が消えても服やエプロンには傷一つ付いてなかった。ちょっと汚れちゃったけど。
「ふ…ふふ…。」
不気味な笑みを浮かべる巨大メイド。
もう怖いものなど何もない。無敵の力を持っているのだから。
となれば、あとは適当にあしらって楽しむだけである。
早速、近くを飛んでいた一機に駆け寄って叩き落とす。
さらにもう一機を掴み取り、ぐしゃっと手のひらの中で潰す。
そこにまたしても爆弾が投下されるが、どうせ効かないとはいえ、あえて避けてみる。
バババババババババン
爆竹のような音。それと共にさっきまでいた場所が爆発炎上した。
火だるまになるショッピングモール、崩れ落ちる雑居ビル。
ミサイルも飛んできたが、ひょいっと回避する。
「ほらあ、全然当たりませんよ?」
航空部隊に向かって挑発するように言う巨大メイド。
憤った数機は果敢に突撃をして攻撃を加えるが、結果は同じで、
代わりにデパートの上層階や民家を吹き飛ばしてしまう。
もっとも、巨大メイドが歩き回ったり駆け回ったりした方が被害が大きかったが。
その上、何の成果も上げられないまま弾が尽きた部隊は退却しようとしたが、
追いかけてきた巨大メイドにビルを投げつけられ、二機が撃墜されてしまった。
圧倒的な力を前に、軍隊もあまりに無力であったのだ。
わずかに三機だけが難を逃れ、撤退していった。
「あーあ、逃げちゃった…。」
彼方の空を見上げ、残念そうに言う巨大メイド。
しかし、気がつけば周囲には高層ビルが林立していた。
いつの間にか副都心に侵入していたのだ。
「ふふ、まだたくさん楽しめそうだね。」
立派な建物群を一瞥し、巨大メイドは微笑む。
そして、おもむろに破壊を開始していった。


副都心に所狭しと立ち並ぶ高層ビル群。
今にも崩れそうな雑居ビルから新築のオフィスビルまで
様々な形や種類の建物が揃い、商業街を形成している。
しかし、その多くが50m以上の高さであるとはいえ、
巨大メイドにとっては膝から腰程度の高さでしかなかった。
大きさも太股の方がやや大きいか、同程度でしかない。
それほどまでに大きな巨大メイドは、例によって建物を破壊していく。
さすがに踏み潰すのは難しいが、蹴り飛ばしたり押し倒したりする。
次々と崩れ去り、粉塵を上げながら瓦礫の山と化す高層ビル群。
12階建ての雑居ビルは、特に意識もされないまま足を踏み入れられて中がえぐられた上に、
再び足が持ち上がる際に構造が蹴り上げられ、支柱を失って崩落してしまう。
20階建てのオフィスビルは巨大メイドが通る際に上半分が蹴り崩され、
下半分も反対の脚に踏み荒らされて地下室ごと失われてしまう。
さらに、巨大メイドは目ぼしい建物を見つけると、様々な方法で破壊していく。
やや低めの平べったい銀行社屋はロングスカートですっぽりと覆うと、
徐々に腰を低くして座り込むような姿勢をとっていく。
「私のお尻、直に味わってください。」
ちょっと恥ずかしそうな声を出しながらも、社屋にのしかかる巨大メイド。
ひんやりとした感触がお尻に伝わり、それと共に沈みこむ感じがする。
中からはどう見えているかちょっと気になるが、構わず体重を乗せてみた。
グシャッ…ガラガラ…
建物は一瞬で突き破れてしまい、お尻は地面に着いてしまう。
外壁など残った部分もまた、スカートの重みで全部崩れ落ちてしまった。
「むぅ、弱すぎますよー。」
あまりの脆さに少し不満そうな巨大メイド。
しかし、その膨大な体重に耐えられる建物などあるはずもない。
そして、たとえ一部分でも建物は耐えることは出来なかった。
続いて四つん這いになった巨大メイドは、背の低い建物は腕ですり潰し、
高い建物は頭突きをして中のあらゆる物を押し退けながら粉砕していく。
そうやって移動しながらちょうど良い高さの建物の前に来ると、
悪戯っぽい笑みを浮かべ、屋上に胸をちょこんと乗せてみた。
「私のおっぱいには耐えられますよね。」
だが、体重をかけてもいないのに、その重みだけで屋上は陥没してしまった。
建物自体もミシミシと音を立て、今にも崩れそうだ。
さらに、ゆっくりと身体を降ろしていくと、建物は胸に削られていき、
削られずに済んだ部分もお腹などに崩されて瓦礫の山と化したのだった。

相変わらず巨大メイドは破壊を続けていた。
腰にも届かない建物を叩き崩し、蹴り崩すのはもちろん、
スカートをたくし上げながら跨ぎ越し、脚で挟んだりもする。
高さ50mほどの建物をニーソックスの間で粉砕していくのだ。
様々な建物がその餌食となり、警察署もその一つであった。
巨大メイドは停車中のパトカーを何台もまとめて踏み荒らし、
無意味な抵抗を続ける警察官を興味なさそうに踏み潰すと、
エプロンとスカートを摘まみ上げながら建物の真上に立つ。
白いニーソックスに包まれた脚に挟まれ、スカートにも覆われた警察署。
ここでようやく、逃げ遅れた署員は慌てて玄関に向かって駆け出したが、
その間にもそれぞれがビル並みに太く、大きな脚が建物を圧迫していく。
徐々に強くなる締め付け。柔らかそうな脚は圧倒的な力を持っていた。
建物を両脇から削ってボロボロと崩していき、深く深く中に入り込み、
わずか数秒で建物の大半をふくらはぎや太ももで挟み潰していった。
外壁の一部だけが残った建物。署員もほぼ全滅していたが、
巨大メイドは脚を擦り動かし、ニーソックスで残骸を粉々にする。
最後に、足踏みして足元に残った瓦礫も踏み潰せば完璧だ。
こうして警察署を容易く消滅させた巨大メイドは、隣の裁判所にも襲いかかった。
駐車場に止まっていた自動車をすり潰しながら脇に膝立ちすると、
建物全体にスカートをガバッと覆い被せて包み込む。
それから、摘まんでいた部分を内側に寄せるように引っ張って、
オーロラのようなスカートで建物をほぼ全面から削り取っていく。
成されるがままの裁判所。内側に強く引っ張られることで、
次第に根元からポキリと折れ、基礎と上部が切り離されてしまう。
被害はそれだけに収まらず、巨大メイドがスカートを丸め込むことで、
宙に浮いたような上部はますます削り取られ、圧縮され、
ついには木端微塵となって粉末状となってしまった。
裁判所をスカートで包んで破壊した巨大メイド。
また、逆にエプロンで建物を包んだりもした。
膝にも届かない建物の正面にドスンと座り込むと、
身体を伸ばしながら建物を両手ですくうように持ち上げ、
崩さないように注意しつつエプロンの上にそっと載せる。
そして、エプロンの両端を持って建物を囲う様に覆うと、
まるで風呂敷で包むかのようにしながらぎゅっと力を込め、
コンクリートで固められた建物を容易くぺしゃんこにしてしまう。
もはや建物という建物は巨大メイドの遊びの道具となるだけであった。


様々な路線が乗り入れており、国内随一の利用者数を誇る西中央駅。
すでに駅は線路の片半分が寸断され、電力の供給も失われて機能を停止していたが、
それを知らずに人々は殺到し、薄暗い構内は大幅に混雑していた。
駅の周りも人で埋め尽くされ、ほとんど身動きが取れない状況であった。
そこに現れてしまった巨大メイド。当然、そんなことなど勘案してくれず、
駅付近にいた人々を次々に踏み潰し、すり潰し、蹴飛ばしながら駅を股下に収めると、
建物に跨るようにして、膝を折り曲げながらゆっくりと座っていく。
一方の人々。満足に動けない間に悲鳴や轟音が聞こえ、辺りはサッと暗くなる。
恐る恐る真上を見上げると、そこには紺色のカーテンが広がっていた。
ゆらゆらと揺れる巨大な壁。恐らく巨大メイドのスカートなのだろう。
しかし、あまりの大きさに初めはそれが何なのか分からないほどであった。
そして、それはゆっくりと、しかし確実に降臨してきた。
ギシギシと歪み、陥没していく連絡通路やホームの屋根。
だが、人々は逃げようにも、至る所でパニックになって逃げられない。
その間に、膨大な質量をもったお尻が建物に触れてしまった。
グシャアアアァァ…
成す術なく潰れていく建物。電車はお尻の下に消えていき、
ホーム上の人々は直接潰されなくともスカートの下敷きになってしまった。
駅に併設するビルもお尻に突き飛ばされ、ガラガラと倒壊してしまう。
さらに、巨大メイドは座る際に脚を折りたたんだので、
駅ビルはニーソックスにすり潰され、押し退けられ、
駅自体も大きな穴を開けられて縦断されてしまっていた。
そんな被害を出しながらも駅に座り込んだ巨大メイドは、
パンツが見えるかどうかのギリギリのところまでスカートをまくり上げ、
絶対領域をチラつかせながら、太ももやお尻に潰されている電車のうちの一本を掴み取ると、
潰れている車両以外全てをぐっと上に持ち上げ、目線の高さまで持ってきた。
「んふふ、どうしてあげましょうか?」
不気味な笑み。電車は垂直になっており、乗客は各車両の最後尾に積み重なっていたが、
そんな車内の様子を巨大メイドはむしろ楽しく眺めていた。

「それでは、こんなご奉仕はいかがですか?」
巨大メイドはそう言うと、掴んでいた一両だけ残すように他の車両を引き千切ると、
それらをポイっと近くに放り投げた。落下していく巨大な金属物。
その落下地点は、まだ破壊されていない駅前の交差点であった。
ズドンという音。中に乗っていた人は言うまでも無く、その下敷きになった人、
さらには電車が落ちたことで崩壊した建物に飲み込まれた人が絶命する。
多くの人で溢れていた交差点は一瞬にして大惨事の場と化してしまった。
だが、そんなことなど全くお構いなしの巨大メイドは
残った車両を胸の谷間に持ってくると、ぐいっと押し込んだ。
潰れていく車体。ちょうど挟まれた場所では人々が赤い液体と化してしまう。
さらに巨大メイドは胸に両手を添えると、ゆっくりと内側に寄せていく。
ますます狭くなっていく車内。身動きが出来る場所はほとんど無くなり、
ついにクチャッと音がし、電車は完全に潰れ果ててしまった。
「ふふ、ぺちゃんこに潰れちゃいましたー。
もっとしっかりしないと駄目ですよ。」
笑顔で無茶なことを言う巨大メイド。
柔らかそうな胸でさえこれほどの破壊力を持っているのだ。
人々はおろか、この世のあらゆるものは容易く潰されることだろう。
駅構内にいた人々はただ呆然とし、逃げ惑うしかなかった。
しかし、巨大メイドは薄っぺたい鉄板と化した電車を引き抜いて捨てると、
まだ大半が崩れずに残っている駅構内に向かって倒れ込んできた。
ズウウウウウウゥゥンン
天地が引っくり返るような衝撃。
近くにあった建物は崩れ、人々は立っていることなど出来ず、
当然下敷きになったホームや電車は押し潰されて地面にめり込んでしまう。
さらに巨大メイドは両手を広げると、地面に手を潜り込ませ、
駅を地下から抱きかかえるようにして抱きしめた。
ズガアアアアアン
粉砕されてしまう駅の構内。瓦礫はもちろん、人々も天高く突き上げられる。
そして地面に降り注いでいく。おびただしい量の土砂降り。
辛うじて被害を受けずに済んでいた人々も、ここで多くが犠牲になっていく。
一方、どこかうっとりしたような巨大メイド。
「これでおしまいですよー。」
そう言うと、方向転換してからゴロゴロと寝転がる。
駅に対して垂直になった身体は、構内だけでなく周りの建物も巻き込みながら、
縦幅160m、横幅200m以上に渡ってあらゆるものをすり潰し、粉砕していく。
脚が何十棟もの建物を吹き飛ばし、お腹は避難中の人々を呑みこんでいく。
そして寝転がりが終わったとき、そこには全てが破壊され尽した荒野が広がっていた…


都庁を取り囲むように立ち並ぶ超高層ビル群にも魔の手が伸びた。
十数棟のいずれもが巨大メイドよりも高く、大きくそびえ立っていたが、
そんなことなど圧倒的な力を前にしては何の意味も持たず、
叩きつけられたり蹴りつけられたりして一瞬で倒壊していく。
その破壊の対象は国内最大の軍需企業本社ビルにも向けられた。
巨大メイドはまず、顔の位置にある階層を殴りつけると、
中に入った手をそのまま左右に振ってから引っこ抜く。
支えを失ったそこから上層階は、一旦残った建物の上に落ちてから、
ぐらりと倒れて真っ逆さまに落下していき、地面に激突して粉々になった。
残った部分も巨大メイドが体当たりをすることで押し退けられ、
ガラスや瓦礫を撒き散らしながら粉砕されていき、バラバラに成り果てた。
そして都庁も。高さ200mほどと、超高層ビル群の中でも一番の高さであり、
首都の行政機関でもある建物では、すでに要人は逃げ出していたが、
平時から建物を警護している兵士達の多くは残っていた。
グレネードランチャーやマシンガンで迎撃する彼ら。
だが、巨大メイドは物ともせずに都庁に近寄ると、
顔から膝の高さまで、中に向けて吐息を吹きかけた。
「ふぅーーっ。」
生暖かく、それでいて突風のような吐息。
建物内では風に煽られて机や椅子、果ては扉までが舞い、
兵士達も外まで吹き飛ばされ、そうでなくとも壁に激突して絶命する。
様々なものが散らかり、台風が過ぎ去ったあとのような都庁の内部。
片面のガラスもほとんどが割れてしまっていた。
そんなちょっとした惨状を引き起こした巨大メイドは、
ボロボロになった建物を土台からひょいっと持ち上げてしまう。
「ふふ、抱きしめてあげますよー。」
巨大メイドは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言うと、
建物を下から順々に抱きしめ、潰していく。
グシャッ…ガラガラ…
大小様々な瓦礫を撒き散らしながら短くなっていく都庁。
吐息に吹き飛ばされずに済んだ人々は急いで上の階へ逃げようとするが、
破壊の速度から逃げられずに大半は潰されたり地面に落下していったりした。
そして、五分の一ほどになった建物を巨大メイドは仕上げとして、
落とさないようにしながら両手を脇に添えると、ぐっと力を掛けた。
グワッシャアアァァァン
爆音を発生させ、粉塵を上げながら木端微塵となってしまった都庁。
こうして、超高層ビル群もあっけなく破壊し尽くされたのだった。


大商業街から一転、大きく破壊されて廃墟と化した副都心。
超高層ビルは全て消滅し、西中央駅周辺も荒野と化していたが、
その元凶である巨大メイドはまだ破壊を続けていた。
踏み潰され、蹴飛ばされていく建物の数々。
と、そこに十機以上現れた重武装の攻撃ヘリ。
横一直線に並びながら徐々に接近してくると、
やや遠距離から対戦車ミサイルや機関砲攻撃を行っていく。
もちろん攻撃は巨大メイドに全く効いておらず、命中率も低かったが、
攻撃しては反転し、ある程度まで行くとまた反転して攻撃してくる。
まるでどこかに誘っているような、そんな感じだ。
とはいえ、怖いものなど何もない巨大メイドは誘いに乗って、
地上の建物を粉砕しながら攻撃ヘリを楽しそうに追いかけていく。
「どこに行くんですか?逃がしませんよー。」
小走りで攻撃ヘリに歩み寄っていく巨大メイド。
すぐに何機かは追いつかれ、様々な回避行動もむなしく、
叩き落されたり握り潰されたりして撃墜されてしまう。
残った機体は高度を上げて逃れようとしたが、
建物や自動車などを投げつけられて爆散していく。
それでも何とか目的は達成することが出来た。
次第にヘリ以外から巨大メイドに向かって弾幕が張られたのだ。
ロケット弾や榴弾が、それも凄い数が飛んでくる。
ちょっとだけ怯んでしまう巨大メイド。
その隙に攻撃ヘリは遥か上空へと逃げていった。
「むぅ…。」
巨大メイドは煙を払いながら、遠くに消えていくヘリを残念そうに眺める。
だが、弾が飛んでくる方をよく見ると、兵器がずらりと並んでいる。
戦車、多連装ロケット砲、榴弾砲、地対空ミサイル、対空砲…などなど。
革命広場に、いつの間にか首都方面軍の大兵力が集まっていたのだ。
だが、それらを見ても巨大メイドはおもちゃが増えたと喜ぶだけであった。
(ヘリは逃げちゃったけど、これならたくさん楽しめそう)
巨大メイドはそんな風に思いながら、革命広場に向かって歩いていった…

人民共和国最高権力者して、人民解放軍最高司令官でもある首相。
人は彼を偉大なる首領と言い、また、将軍様と言った。
その首相が、レッドベースと呼ばれる赤塗りの労働党本部の屋上に立ち、
巨大メイドにも聞こえるように、眼前に展開する全軍に対して鼓舞を行った。
「ずいぶんと街を破壊してくれたようだが…、我々はその程度では屈しない。
何度でも立ち上がり、再興する。我が人民共和国は永遠に不滅だ。」
スピーカーを通して広場全体に声を響かせる首相。
そして、演説はクライマックスを迎える。
…たとえ虫一匹であろうとも、祖国に仇を成すものは全力を以て排除する。
祖国の荒廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ。…人民共和国万歳!!」

首相の演説が終わり、戦闘を一旦中止していた軍はついに総攻撃を開始した。
戦車約100輌、各種自走砲400門以上などが一斉に火を噴く。
絶え間ない砲撃音。放たれる砲弾、ミサイルの雨。
大小様々な形をしたそれらが革命広場付近の空を覆い尽くし、
数瞬にして一つの目標に到達し、命中して爆発する。
凄まじい量の爆炎。外れた弾だけでも周囲の建物の多くを粉砕していく。
地獄の業火のような総攻撃。目標は完全に炎と煙で覆われてしまう。
それでもなお攻撃は続く。じりじりと接近し、確実な命中弾を浴びせながら。
と、しばらくして煙の中で動きがあった。いや、煙が押し退けられたのだ。
果たして倒すことが出来たのか。はたまた、まだ生きているのか。
攻撃しつつも、固唾を飲んで目標がいた方向を見守る兵士達。
その時だった。可愛らしくも雷鳴のような声が聞こえてきたのは。

「頑張っているみたいですけど、全然効きませんよー。」
巨大メイドは攻撃されているにも拘らず、どこか楽しそうに言った。
そして、付近に溜まっている煙をフッと吹き飛ばすと、軍隊を見下ろす。
まだ攻撃してはいるが、その密度は確実に低下している彼ら。
無理も無い。あれだけ攻撃したのに、傷一つ与えられなかったのだ。
純白のエプロンは灰色に汚れ、全体的に黒ずんでいるが、
服には何の破けもなく、ましてや肌には何の傷も無い。
そんな恐ろしいまでの強さを持った巨大メイドは、
一旦視線を落として、衣服をパタパタと叩いて汚れを軽く落とすと、
もう一度軍隊に向かって、今度はにっこりと微笑んだ。
「それでは、今度は私の番ですね。」
そう言うと、巨大メイドは攻撃を物ともせずに足を踏み出していく。
その進路には戦車隊。まず数輌を踏み潰しながら部隊の中心に陣取ると、
しゃがんで一輌を摘み上げ、顔の前まで持ってきてしげしげと見つめる。
すると、その戦車は果敢にも顔に向けて砲撃を加えてきた。
ポンッと軽く何かが当たる感触。当然傷は付いていない。
「女の子の顔に攻撃するなんて…。おしおきですっ。」
だが、ちょっと怒った巨大メイドは顔をぷっと膨らましながら、指先に力を加えた。
指の間でプチッと潰れてしまった戦車。さらに、指に弾かれて遠くに飛んでいってしまう。
これで些細な怒りが消えた巨大メイドは、残った戦車も握り潰したり叩き潰したりする。
指先だけで逃げる戦車を止め、ゆっくり力を加えて潰したりもした。
次々とぺしゃんこになっていく戦車。元が何なのか分からないほどだ。
そうならなくても、デコピンで弾かれ飛んでいったりもして、
すぐに二十輌近くいた戦車隊は一輌だけとなってしまう。
その一輌も、巨大メイドに持ち上げられると胸の谷間に置かれてしまった。
「さすがに戦車さんはおっぱいで潰れませんよね?」
すでに歪んでいる戦車を見ながら、くすくす笑う巨大メイド。
胸はメイド服やエプロンを盛り上げ、まるで小山のようであったが、
それが戦車を初めは優しく包み込み、次第に圧迫し、最後には潰していく。
そして胸から取り出された時、この戦車も他と同様、ぺしゃんこになっていた。

一個戦車隊がやられたが、まだ大多数は残っていた首都方面軍。
しかし、そのほとんどが展開している革命広場も決して安泰ではなかった。
進路上にある建物をにべも無く破壊しながら、巨大メイドがやって来たのだ。
その勢いに気圧され、軍は攻撃しつつもじりじりと後退するが、
全く意味を成さずに追いつかれ、戦車や自走砲が次々に踏み潰されていく。
さらに、巨大メイドは四つん這いになると、兵器が多く集まっている場所の真上に行き、
身体をゆっくりと沈めていって、何十輌、何十門ものそれらを身体の下で潰していく。
グシャグシャバキバキ…
あまりに脆い兵器の数々。ひしゃげ、薄っぺらい鉄板と成り果ててしまう。
完全に潰されなくとも、砲身があらぬ方向を向いていたり、
半分のキャタピラだけが残されたりして見るも無残な姿となっている。
巨大メイドはそんな凄まじい破壊を数回繰り返すと、
今度は脚を折り曲げ、スカートの裾をたくし上げながら座り込む。
そして榴弾砲や対空砲を潰さないよう丁寧に摘み上げ、
ニーソックスに包まれている太ももの間に置いていく。
何門かは絶対領域に置かれ、その柔らかさを感ずることが出来たが、それも束の間、
一転して凶器と化した太ももに兵器はまとめて挟み込まれ、潰されてしまう。
あまりに強い巨大メイド。もはや首都方面軍が全滅するのは時間の問題だった。

「将軍様、戦況は極めて劣勢で、右翼は壊滅!
一部の部隊は戦意を失って撤退していますっ!!」
傍らにいる参謀の悲痛な声。そう言っている間にも震動が建物を襲う。
すでに首相は参謀本部に移動しており、モニター上で部隊の消滅が確認される。
次々に消えていく標識信号。その数は初めに比べて半減していた。
「なに!では、急ぎ戦闘機を用意するのだ。
自ら戦場に立って全軍を鼓舞してくれよう。」
だが、その程度のことで怖気づく首相ではなかった。
むしろ血が騒ぎ、自らの手で逆賊を仕留めようという気概に溢れていた。
そして…。VTOL機で出撃した首相。巨大メイドの前に出ると、猛攻撃を開始する。
対地ミサイル、対空ミサイルを全て発射し、さらに機関砲を絶え間なく撃ち続ける。
次々に命中し、爆発していくミサイル。銃弾も爆炎の中に消えていく。
それが効いたのか、巨大メイドは動きを止めたように見えた。
「ふむ、あと一歩のようだな。よし、今から自爆攻撃を行う。
我が機体が爆発したら、全軍その場所を総攻撃だ!」
勇ましい首相の号令。そして首相は巨大メイドに向かって突撃を掛ける。
だが、いよいよ衝突しそうになって緊急脱出しようとした時、問題が発生した。
何度スイッチを押しても全く反応がないのだ。
「む…脱出が出来ないではないか。どうなっている。
…えい、構わん。こうなれば我が身を持って祖国の敵を滅殺だ。
死して護国の鬼となってやる。…人民共和国万歳!」
バアアアアァァァン…
巨大メイドの胸で一輪の花を咲かせ、散っていった首相の機体。
それを見聞きした兵士達の誰しもが絶叫する。
「将軍様ーっ!!」
だが、いつまでも悲しんではいられない。首相の遺志を継ぎ、仇を討たなければ。
すぐさま総攻撃を開始する首都方面軍。…巨大メイドの胸に対して。
残弾も少ない中、各部隊は死力を尽くして攻撃を加えていった。

「えっちなのはいけませんっ。」
攻撃を遮ったのは、ちょっと怒ったような可愛らしい声であった。
その声の主、巨大メイドは頬を膨らまし、眼下の軍隊を睨みつける。
さんざん胸で色々な物を潰してきた者が言う台詞ではないが、
全く無傷だったのと相まって、睨まれた軍隊は動けなくなってしまう。
「罰として…最後まで付き合ってもらいます。」
頬をほのかに紅潮させながら言う巨大メイド。
呆気に取られる軍隊の目前で膝をつくと、身体を前に倒していく。
迫りくる巨大な胸。圧倒的な質量のそれは砲塔を歪ませ、装甲を変形させる。
バキバキと潰れていく兵器群。時折小さな爆発を起こしながら、地面にめり込んでいく。
そうやって次々に軍隊を弄んでいく巨大メイドは、さらに胸の間で挟んだりもする。
一瞬にして挟み潰されていく戦車などなど。平べったくなって地面に落ちていく。
もはや巨大メイドの通ったあとには数多の残骸が残っているだけであった。
そして最後まで抵抗していた部隊を吐息でお掃除すると、
革命広場に集結していた首都方面軍は完全にその姿を消していた。


革命広場の後方に広がる、首相府や参謀本部などの建物群。
それらも首都方面軍と同じ運命をたどるまで時間はかからなかった。
踏み潰され、蹴飛ばされ、瓦礫の山と化していく。
そして、人民共和国を支配し続けてきた労働党本部も。
巨大メイドが拳を叩きつけると、真っ赤な建物は血を撒き散らすように粉砕され、
崩れずに残った部分も手を掻き回すことでガラガラと倒壊してしまう。
その地下で身を隠していた党中央委員長。
御しやすい首相を裏から操り、自身は常に安全な場所にいた。
王国への侵略を考案したのも、国王の処刑を命じたのも彼であった。
そんな委員長は地響きがし、地上の建物が崩れていく中、
薄暗い地下で嵐が過ぎ去るのを待とうとしていたが、それは叶わなかった。
巨大メイドは地下の天井を取っ払うと、彼を摘まみ上げたのだ。
「ひいい…。た、助けてくれ!」
足をばたつかせながら、必死に抵抗しようとする委員長。
だが、身体にかかる圧力は弱まるどころか強くなっていく。
「が…。わ、私は悪くない。けけ…決して侵略しろなどと命じてない。
国王の件も…。そうだ、首相が…うぐっ……。」
しかし、聞いてもいないのに自分が犯人ですと名乗るような委員長に
巨大メイドは少し呆れつつも、力を加えていく。
「……頼む…から…命…だけは…。」
ほとんど虫の息の委員長。
「いいですよ。逃げられたら…ですけど。」
巨大メイドはそんな哀れな姿を見ながら、不気味な笑みを浮かべると、
委員長を地面に落とすような感じに下ろした。
ただでさえ瀕死な上に、地面に叩きつけられて動けない委員長。
そこに、光を遮りながら巨大な靴底がやって来た。
「う…うわああああ……」
そして踏み潰し。叫びは途中で途切れ、静寂が訪れた。
「憐れな最後でしたね。」
地面にめり込んだ死体に向かって、吐き捨てるように言う巨大メイド。
この瞬間、長いようで短い復讐劇は終わったのだった…

元の大きさに戻った姫。メイド服を着ているが、衣服はすっかり汚れていた。
全体的に灰色がかり、所々赤い染みや細かな破片が付着している。
また、辺りを見回せば、首都は完全に廃墟と化してしまっていた。
さっきまでのことが現実なのだと感慨にふける姫。
ちょっとした罪悪感と、それを遙かに凌駕する驚きと喜び。
未だ信じられないが、復讐を成し遂げられたのだ。
そこに、どこからともなく悪魔が現れた。
これから何をするつもりなのか。魂を抜きとるのか。
しかし、そんな姫の杞憂とは裏腹に、悪魔は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「想像以上の出来だ。街を一つ滅ぼすとは、可愛い顔して恐ろしい姫君だな。
…契約は成った。が、お前を気に入った。巨大化能力を授けてやる。
いつでも使ってよいぞ。くく、世界を生かすのも、滅ぼすのもお前次第だ。」

 

そして数日後、人民共和国に併合されていた王国は再び興った。
たった一人の少女の、圧倒的な軍事力を以て…

(おしまい)

 

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