巨大メイドの復讐-前編-


軍事大国の人民共和国に侵攻され、崩壊した王国。
国王をはじめ多くの貴族は捕らえられて処刑され、
愛らしく美しい姫も、共和国を支配する労働党幹部の奴隷にされ、
屈辱の中、党幹部の屋敷でメイドとしてこき使われてしまう。
さらにある日、自分が慰み者にされることを知った姫は
もはや生きることに絶望し、自殺を図ろうとする。
悪魔が姿を現したのはその時であった。
「一国の姫が自殺をしようなど…。くく、そんなに辛いか。
だが安心するがよい。お前に復讐をさせてやろう。」
そして、悪魔は不気味な笑みを浮かべながら契約書を姫に渡す。
古代文字で書かれた契約書。だが、不思議なことに文字は読めた。
巨大、破壊、殺戮…そして復讐という文字。
「復讐…。もしできることなら、あの男と、この国を滅ぼしたい…。」
姫の頭の中に『復讐』の二文字が駆け巡る。
圧倒的な軍事力を前に、決して望むことの出来なかったこと。
それが今、目の前に横たわっている。あとは血判を押すだけ。
国や親しい者を失い、自身も奴隷の身として虐げられた姫は
もはや躊躇うことなく、だが、よく読みもせず契約書に血判を押した。
『契約は血で贖われる』という条項に目を通すことなく。
そして契約を結び終わった時、メイド服を着た姫の足元には
精巧なミニチュア模型のような党幹部の屋敷があったのだ…。


針金のように細い塀で囲われた、箱庭サイズの小さな敷地。
その中心には踝ほどの高さの、洋風建築の屋敷が建っている。
広さも靴二つ分ほど。とても先刻までいたとは思えない小ささだ。
そんなに大きくなってしまったメイド姿の姫だが、
大して驚きもせず、落ち着いた様子でゆっくりと膝をつくと、
屋敷の両端に指を突き刺し、屋根をバリバリ剥ぎ取って中を覗き込む。
すると、露になった二階では使用人達が慌てふためいていた。
まるでドールハウスの人形にされたような気分なのだ。
大きさはもっと小さかったが。実に100分の1サイズだ。
それだけ小さければ、いくら相手が使用人仲間とはいっても
まるで怪獣のように見えてくる。何されるか分かったものではない。
うろたえながらも、急いで逃げようとする使用人達。
だが、巨大メイドは無慈悲にも彼らを指先で押し潰していく。
プチ、プチッと。鮮血で真っ赤に染まる廊下、小部屋、大広間。
机の下やクロゼットに逃げ込んでも、まとめて潰されてしまう。
使用人達は何処にいようと関係なく指先の犠牲となった。
続いて、巨大メイドは外に逃げ出した使用人達をデコピンで弾き飛ばし、
20m以上離れた塀に突っ込ませ、一瞬で絶命させていく。
その時、屋敷一階の廊下ではまだ数人が残っていたが、
外での惨状を目の当たりにして逃げ出すことは出来なかった。
そこに、庭にいた者を全滅させた巨大メイドが窓を覗き込んでくる。
窓枠よりも遙かに大きな瞳。それが自分たちを見つめているのだ。
恐怖のあまり、人々は悲鳴を上げながら各々の部屋に逃げ込み、鍵をかける。
党幹部も例外ではなかった。目が合ってしまったが、視界外に飛び込む。
「かくれんぼですね、ご主人様。」
それを見た巨大メイドは楽しそうに言い、外壁を指で削り取った。
すでに廊下には誰も居なかったが、構わずに部屋の扉を一つずつ小突いていく。
簡単に破れていく扉と、その周りの壁。鍵など全く意味を成していない。
中にいた者は部屋の隅に逃げたが、隣の部屋を指一本だけで壊して空間を広げると、
簡単に摘み取り、反対の手のひらにぽいっと落としていく。
そして、党幹部やその家族をも摘み取った巨大メイドは立ち上がると、
用が無くなった屋敷を踏み均して完全に破壊し、手のひらに視線を移した。
「捕まってしまいましたね。これは罰ゲームです。」
そう言い、不気味な笑みを浮かべる巨大メイド。
まずは手のひらにいた使用人を摘まみ上げ、手のひらの上でプチッと潰す。
続いて党幹部の家族を一人一人爪先で押さえつけ、身体を切断していく。
「や、止めろ…!!家族だけは……」
発言空しく、家族は一人、また一人とバラバラにされていく。
妻が、子どもが、物言わぬ数個の肉塊に変わり果ててしまったのだ。
そして彼自身も少なからぬ返り血を浴び、気が触れてしまった。
「あは…は……。これは夢だ…夢に違いない……。」

「残念でしたー。これは現実ですよ、ご主人様。」
残虐なことをしでかしたのに、笑顔のままの巨大メイド。
手のひらの上で呆然としている党幹部に、指でぽんっと軽く押してみる。
しかし、そんな些細な動作で突き飛ばされる党幹部。
地面が柔らかいとはいえ、身体を強打してうめき声を上げる。
「うぁ…がはっ…。」
「ふふ、これでわかりましたか?」
巨大メイドは、さらに指をぐりぐり押しつけながら言う。
党幹部はジタバタもがくが、指をわずかに動かすことも出来ない。
完全な力の逆転。奴隷として酷使されていた日々は過去のものとなり、
今や『ご主人様』を弄ぶことはおろか、命さえ自分の自由だ。
恐ろしいまでの力に巨大メイドは酔いしれ、さらに力を加える。
一方、労働党中央委員会の委員として絶大な権力を誇った党幹部だが、
たった一人のメイドに成す術もなく、声にもならない悲鳴を上げてしまう。
だが、押さえ付ける力は弱くなるどころかますます強くなっていく。
「うんうん、痛いですか、苦しいですか?
ですが、ご主人様もよくやっていたことですよ?」
次第に身体はボキボキと、嫌な音を発してしまう。
「た…助け…て……」
虫の息の党幹部。もはや抵抗する力も残っていない。
ただ潰れるのを待つだけ。権力者の、あまりに哀れな最後である。
だが、多くの民族を弾圧し、虐殺した者が当然受けるべき報いでもあった。
そして、党幹部はプチュッと音とともに完全に消滅したのだった。
「これは、この国が奪ったものの重みです。」
血溜まりに指をびしっと当て、言い放つ巨大メイド。
しかし、党幹部の死はまだ始まりに過ぎなかったのだ…


100倍サイズとなって、共和国の首都にそびえ立つ巨大メイド。
王家の気品を失うことなく凛としているが、可愛らしくもある。
黒髪は長く艶やかで、胸は程よい膨らみを帯びている。
服装の方は、頭にはフリルのついたカチューシャをのせ、
紺色のメイド服はロングスカートと一体型で、襟先には赤いリボン。
その上にはフリルがよくあしらわれた純白のエプロン。
背中で大きなリボン型に結んでいるのが何とも愛らしい。
そして黒のローファーと白のニーソックスを履いている。
だが、そんな清楚で可愛らしいメイドさんが
非道にも労働党幹部の屋敷を破壊し、幹部らを惨殺したのだ。
この事態に、高級住宅街を警護していた武装警察は鎮圧命令を受け、
すぐさま機関銃を持って正門に集結し、敷地に雪崩れ込んでいく。
巨大メイドがその存在に気づいた時には、警官隊はすでに足元にまで達していた。
そして銃撃。位置の関係上、ローファーに攻撃が集中する。
ババババ、と絶え間なく数百発と打ち込まれる銃弾。
だが、それぞれがちょっとした建物よりも大きなローファーに
弾丸は全て弾き返され、黒光りするそれに傷一つ付けられなかった。
すぐに弾倉は空となり、警官隊には動揺が走ってしまう。
巨大メイドは両手を腰にあて、そんな彼らを見下ろす。
「ふふっ。くすぐったくも無いですよ。」
やや怒気のこもった声。顔は笑っているが、目は笑っていない。
威圧感に圧されて警官隊は統率を失い、各々逃げ出したり腰を抜かしたりする。
中には屈強の精神を持ち、弾倉を換えて再び銃撃する者もいたが、
巨大メイドは全く意に介さず、スカートを捲り上げながら足を高々と上げると、
警官が多く集まっていた場所に巨大なローファーを思いっきり振り下ろした。
ズウウウウウン…
大震動と轟音。警官隊はたった一踏みで十数人が潰されてしまった。
被害はそれだけに収まらず、潰されずに済んだ者も衝撃で弾き飛ばされ、
わずかな滞空の後、地面に叩きつけられてしまう。
ほとんど全員が死傷し、瞬時に壊滅した武装警察。
だが、無慈悲にも巨大メイドは生き残った者達を
一人一人丁寧に、確実に爪先ですり潰していく。
「メイドさんに躙られる気分はどうですか?嬉しいですか?」
警官を次々に赤いペーストに変えながら、残酷なことを平気で言う。
そして、あっという間に二、三十人いた警官を全滅させてしまった。
しかし、巨大メイドはこれくらいでは満足などしない。
「もっと、もっと壊して、殺しちゃうんだから…。」

武装警察を殲滅した巨大メイドは、続いて高級住宅街を破壊していく。
労働党幹部や上級将校の邸宅。それらを片っ端から踏み潰し、蹴り崩す。
高級住宅とはいえ、踝ほどの高さと靴ほどの大きさしかない建物。
ローファーを乗せるだけで屋根が陥没し、外壁が崩れ、
力を入れずとも少し体重を乗せるだけで簡単に潰れてしまう。
また、軽く爪先で押すだけでも外壁や骨組みが押し退けられて歪み、
そのまま押しても、逆に引いても建物は倒壊してしまう。
精巧なミニチュアのような高級住宅街はとても脆かった。
しかし、憎き人民共和国の高官が住む街なので、
ただ壊すだけでなく、念入りに瓦礫をも踏み潰していく。
平たくなっていく住宅。住民の多くは建物ごと潰されてしまう。
赤く染まっていくローファー。まるで血を吸っているかのようだ。
もちろん、屋外に出ても踏み潰されることに変わりはなかった。
プチ、プチと順々に踏まれ、路上の赤い染みと化していく。
高級外車に乗って何とか逃げようとする者もいたが、
時速400kmに達する巨大メイドの歩行速度に敵うはずもなく、
すぐに追いつかれて車ごとぺしゃんこに潰されてしまう。
「自分だけ逃げようなんて、ずるいですよ。」
巨大メイドは捨て台詞を言い、車の残骸をぐりぐりっと躙る。
すぐに足跡と、その中の死体だらけになってしまう道路。
武装警察の応援はそんな悪路を悪戦苦闘しながら乗り越え、
やっと巨大メイドの前にたどり着けたが、一踏みで全滅してしまう。
せっかくの苦労は無駄な徒労に終わってしまった。
そんな警官隊の死体をさらに躙った巨大メイドは、
また建物を踏み潰し、蹴散らし、瓦礫の山を踏み固めていく。
そして、わずかな時間で、それも二本の足だけで
高級住宅街は破壊し尽くされてしまったのだった。


高級住宅街に隣接する、マンションが立ち並ぶ大型団地。
公務員は勿論、会社員や大学生もそこに大勢住んでいた。
都市部からやや離れ、豊かな緑に囲まれている団地は
普段なら仕事や学業から離れ、平和な一時を過ごす場だが、
折角の休日の昼とはいえ、巨大メイドの出現を受けて
住民は身ぐるみのまま大慌てで避難しようとする。
その数や数千。団地を横切る大通りは人で溢れ、混雑してしまう。
そこに規則正しい震動が来る。早くも巨大メイドが現れてしまったのだ。
一人、また一人と逃げるのを止め、恐る恐る振り返る人々。
視線の先には…もちろん巨大なメイドさんがいた。
近くの建物から推測するに、身長は160mほどあるだろうか。
遠くで暴れている姿は見たが、実際こう近くで見ると巨大さがよく分かる。
靴だけでも信じられない大きさで、スカートはまるでオーロラのようだ。
大通りの真ん中を歩いているのにその裾は両端に達している。
胸の膨らみも小さな丘のようで、バスはおろか電車をも挟めそうだ。
顔も一戸建てより大きそうで、大きな口は何十人を一度に飲み込めそうだ。
当然これだけ大きければ、体重も数万tという重さがあるだろう。
だが、それでいて巨大メイドは可愛らしくもあった。
優しげな印象もある。そして、少し戸惑ったような表情。
ひょっとしたら自分達は助けてくれるのか…?
人々は固唾を飲んで巨大メイドの次の出方を待った。

一方、大地を揺らし、大きな音を立てながら歩み寄る巨大メイド。
だが、あと一歩の距離まで来て、住民を潰すのを躊躇していた。
(いくら敵国とはいえ、一般市民を殺すのはちょっと気が引けちゃう…)
そこで方向転換しようとした時、悪魔のささやきが聞こえてきた。
『殺せ、殺せ…!!』
(で、でも…)
心の内で反論しようとするが、声はささやき続ける。
『何を躊躇っている。復讐すると決めたのではないか?
それとも、その程度の復讐心だったのか…?』
(…うぅ)
『案ずるな。所詮、人間など憎悪の塊だ。
今ここで殺さなければ、また悲劇が繰り返すぞ。
それに、お主は破壊と殺戮を望んでいたのではないか…!
躊躇うことはない、もっと破壊を、もっと殺戮を!』
ささやいたのは本当の悪魔なのだろう。…きっと。
そして契約の効果だろうか、だんだん人々を嬲りたくなってきた。
だが、それに関係なく人々を弄んでいたのは事実であり、
すでにたくさんの罪のない使用人や女子供を殺してしまっている。
いまさら復讐の対象を絞っても、意味が無いのかもしれない。
(もう、快楽に身を預けてもいいかな…。
これぐらい、この国が平気でしてることだし…)
そう考えると気持ちが少し楽になる。
(……独裁国家とはいえ、貴方達にも責任があるんだから)
葛藤の末、結論を得た巨大メイドはもはや躊躇うことなく大通りを歩いた。
グチャ、グチャッと、逃げ惑う市民を踏み潰しながら。

結局、人々の淡い期待はその命とともに脆くも潰えてしまった。
そして、ズシン、ズシンと足音がする度に数十人がまとめて潰されていく。
殺戮から逃れるため市民は必死に逃げようとするが、
混雑していた大通りはますます混乱に拍車が掛かり、
警察の誘導もむなしく、押し合い圧し合いが至る所で起きてしまう。
無秩序な大通りは血に染まり、瞬時に阿鼻叫喚の地獄と化す。
だが、巨大メイドはそんな状況を笑顔で楽しんでいた。
「早く逃げないと、おっきなメイドさんが潰してしまいますよ。」
そう言って急かしながら、人々が密集している所を狙って踏みつけていく。
たくさんの人がプチプチッと潰れていく感触を楽しんでいるのだ。
また、踏み潰すだけでなく息を吹きかけたり指で軽く弾いたりもする。
その度に彼らは宙を飛び、前を逃げていた人々の頭上に降り注ぐ。
人だけでなく自動車も同様に軽々吹き飛ばされ、壁や地面に激突して爆発する。
大混乱に陥る大通り。もはや安全な場所など何処にもない。
後方はもちろん、前方にいても落下物に潰されてしまうのだ。
この事態に、一部の群衆は近くのマンションに隠れようとした。
果たして建物の中にいればやり過ごせると思ったのか。
だが、それを見逃す巨大メイドではない。
「そんなところに逃げても無駄ですよ。」
笑顔でさらりと言うと、マンションを丸ごと持ち上げる。
五階建ての建物は、小さな人間ごと楽々引き抜かれてしまったのだ。
そして顔の高さまで上げられると、大通りに向かって投げつけられた。
ズガアアアアン
百人以上を巻き込んで、木端微塵になるマンション。
被害はそれだけに収まらず、瓦礫で大通りは寸断されてしまう。
取り残された数百人の群衆は怖々後ろの方を向く。
すると、そこには巨大メイドが微笑みながら立っていた。

「はい、残念でしたー。」
巨大メイドはそう言うと、スカートをたくし上げながら立ち膝になってすり寄る。
迫りくる白いニーソックス。乗り捨てられたトラックが飲み込まれていく。
電線も易々と寸断され、信号機は弾かれてぐにゃっと曲がってしまう。
成す術ない人々はその音一つ一つに怯え、ガタガタと震えあがる。
そして、ついに目の前まで来てしまった巨大メイド。
スカートをぱっと放すと、上に覆いかぶさるように前屈みになる。
一体これから何をしようというのか。答えはすぐに分かった。
自分達に向かって倒れ込んで来たのだ。それも、胸が真上に来るように。
絶叫する人々。だが、逃げようにも巨大メイドは大きすぎる。
大通りの車線部をすっぽりと覆えそうな大きさだ。
さらに、倒れ込むのも早く、誰も逃げることなど出来なかった。
グチャッと音をたて、柔らかいはずのおっぱいに半数以上が潰されてしまう。
数瞬後、今度はお腹に残りのほとんどが潰されて道路にめり込んだ。
「私のからだ、たっぷりと味わってください。」
身体を地面に擦りつけていく巨大メイド。すでに多くは死に絶えていたが、関係なしだ。
ぺちゃんこに潰れた死体をさらにすり潰し、骨すら残っていない液体に変えていく。
また、胸の谷間で何とか生きていた者も両胸に挟みこまれて絶命する。
身体を左右に動かせば、歩道にいた人々もすり潰され、消滅する。
だが、当の巨大メイドはうっとりしたような表情であった。
人が潰れる感触を楽しみ、自分の力に酔いしれていたのだ。
そして、しばらく余韻を楽しんで立ち上がった時、
静かになった大通りには人型の陥没だけが残されていた。

ぱたぱたとスカートやエプロンを叩きながら立ち上がった巨大メイド。
純白のエプロンは鮮血で赤くにじんでいたが、さして気にせず破壊と殺戮を続ける。
まずは無人のマンション群をあっという間に踏み潰し、叩き潰し、蹴り壊すと、
大通りをまだ逃げ回っていた人々を踏み潰していく。
巨大メイドによって、ほとんど殺戮されてしまった大型団地の住民。
それでも、官庁街の入口まで辿り着くものも少なからずいた。
だが、ここで彼らにさらなる悲劇が起きてしまった。
人民解放軍の制止命令を無視して官庁街に侵入しようとしたことで、
あろうことか、先頭を走っていた人々が射殺されたのだ。
あまりに酷い仕打ち。人々は軍に向かって怒号を発する。
しかしその間にも鋼鉄製の柵が入り口に設けられていき、
さらにその後ろには数輌の装甲車が立ち塞がってしまう。
完全なバリケード。軍は彼らを囮に使おうというのだ。
仕方なく人々は官庁街をぐるっと囲む環状道路を通って逃げようとしたが、
ちょうどその時、巨大メイドは彼らの真後ろに現れてしまった。
「あれ、軍隊さんは守ってくれないんですか。かわいそうに。
ちょっとだけ潰れるのが早くなってしまいましたね。」
もはや逃げるのを諦め、路上にへたり込んだ人々に
意地悪そうな笑顔で酷なことを言う巨大メイド。
数歩で歩み寄ると彼らの頭上にローファーをかざす。
その間、四輌いた装甲車はただ傍観していた訳でなく、
積極的に機関砲や機関銃による射撃を行っていた。
ダダダダ、ガガガガと乾いた音が辺りに響き渡る。
だが、どれだけ撃っても巨大メイドには全く効いてなかったのだ。
「そう急かさないでも大丈夫ですよ。すぐにお相手してあげますから。」
巨大メイドは軍の方に振り向くこともなくそう言うと、
人々の頭上にかざしていた足をすっと振り下ろした。
さらに反対の足も、踏まれずに済んだ人々の上に振り下ろす。
そして足踏み。グチャグチャッと嫌な音がし、人々はミンチとなる。
目を覆いたくなる光景。それでも軍は必死の攻撃を続けた。
装甲車のほか、遅れて歩兵も迫撃砲による攻撃を行う。
自分が次に殺されるかもしれないという恐怖心を
撃ち続けることでかき消そうとするが如く。

人々を踏み潰し終えた巨大メイドはそれを冷めた目で見ていた。
(何したって無駄なのに…。まだ力の差がわからないの?
そんなわからず屋さんにはお仕置きが必要だね)
そして、地響きを立てながらおもむろに歩み寄る。
ここでようやく軍は慌てて撤退を開始しようとしたが、
ゆっくりとはいえ巨大メイドの歩く速さは時速200km以上だ。
たちまち追いつかれ、吐息を『軽く』吹きかけられてしまった。
物凄い突風。数十人の歩兵や鉄製のバリケードなどが瞬時に吹き飛ばされ、
しばらく宙を舞った後、彼方の地面に叩きつけられてしまう。
装甲車の方はなんとか吹き飛ばされずに済んだが、
それでも巨大メイドに弄ばれることに変わりはなかった。
邪魔なものをあっさりと吹き散らした巨大メイドはまず、
一番後方にいた歩兵戦闘車を摘まみ上げて手のひらに置き、
ゆっくりと手を閉じて、徐々に圧縮しながら握り潰した。
薄い鉄板と変わり果てた車輌。それをぽいっと捨てると、
続いて全速力で逃走していた二輌の装輪装甲車を数歩で追いつき、
しゃがみ込むと矢継ぎ早にデコピンを浴びせ、弾き飛ばしていく。
その先には庁舎ビル。勢いよく飛ばされていった装甲車は
二棟の建物の高層階にそれぞれ正面から突っ込み、
ガラスを撒き散らしながら突き刺さってしまった。
最後に、巨大メイドはしゃがんだまま指を伸ばすと、
残った装輪装甲車を人差し指で押さえ付ける。
それだけで装甲車は動けなくなり、ゆっくりと力を加えていけば、
タイヤが吹き飛び、車体は大きく歪み、遂にはぺしゃんこになった。
これで庁舎前にいた人民解放軍の部隊は全滅である。
所詮、軍とはいえ巨大メイドの敵ではなかったのだ。


二十階建てほどの高さの建物が立ち並ぶ庁舎街。
財務省や国防省、外務省など国の中枢機関がそこにあった。
また、奥の方には人民議事堂や首相官邸もあり、
人民共和国の表の顔が揃った場所であった。
だが、巨大メイドにとっては恨み多き場所であり、
その一方で何とも破壊のし甲斐のある場所でもあった。
すでに多くの官僚や職員は逃げ出していたが、
巨大メイドはそんなことなどお構いなしに破壊を開始した。
最初の獲物は装甲車が突き刺さった二棟の建物。
腰ほどの高さのそれを、一蹴りで上層階を粉塵に変える。
その際、紺色のロングスカートはめくれ上がってしまったが。
「パンツ見えた…。」
しかし、それを目にした者は次の瞬間に消滅した。
巨大メイドは蹴りあげた足を下層階に下ろしたのだ。
それだけで建物は大きく崩れて倒壊寸前だったが、
さらに足を掻き回し、瓦礫の山と変えてしまった。
もう片方の建物もすぐに同じ運命をたどった。
膝蹴りを浴びせられ、大きな穴を開けられただけでなく、
そのまま建物の内部まで侵入した脚に部屋や廊下が粉砕される。
そして半分ほどまでいった所で今度は脚が左右に振られ、
建物は土台ごと薙ぎ払われて前側は大きく崩れてしまった。
そのすぐ後に残った奥側も小刻みに蹴られて崩壊し、
早くも二棟のビルは完全に消滅した。

スカートについた埃を払った巨大メイドは、外務省ビルにも襲い掛かった。
その屋上には高級官僚がヘリコプターに乗って脱出しようとしていたが、
巨大メイドはビルを超える高さまで足を上げると、一気に踵落としを喰らわせた。
グワッシャアアアアン
豪快な音を立てながら、建物は屋上から地下まで瞬時に粉砕される。
圧倒的な破壊力。ガラスが、瓦礫がビルの爆破さながらに吹き飛んでいく。
やや遅れて建物自体も粉塵を上げ、ガラガラ崩れ落ちていった。
もちろん、高級官僚が乗っていたヘリコプターも踵に押し潰され、
建物を貫通しながら地面にまで追いやられ、めり込んでしまっていた。
真新しい財務省ビルもまた巨大メイドに襲われた。
庁舎の屋上はやや広く、膝ほどの高さしかなかったので、
巨大メイドは建物の前まで進んでくるりと振り返ると、
まるで椅子に座るかのように建物にお尻を乗せた。
天幕のように、スカートに覆いかぶせられる建物。
それだけでひびが入っていたが、さらに身体が乗ったことで
建物はそのまま陥没し、外壁を残してほとんど崩れてしまった。
数万tの体重に一瞬たりとも耐えられるはずもなかったのだ。
さらにその外壁も、巨大メイドが立ち上がろうと手を乗せた際に崩れ落ち、
財務省ビルもほとんど一瞬にして瓦礫の山と化したのだった。

さらに他の庁舎も次々に破壊した巨大メイドは、
残った国防省ビルにも地響きを立てながら歩み寄り、膝をついた。
そして笑みを浮かべると、建物に腕を回して抱きかかえる。
膝立ちしている巨大メイドの胸あたりの高さしかない建物は
屋上が胸に削り取られ、その下数階も押し潰されて消えていく。
反対側でも腕に食い込まれた中層階は支柱が脆くも折られ、
巨大メイドが身体を押しつけることで、そこより上部が傾いていき、
遂には押し倒されて横倒しのまま落下して地面に激突し、
大きな粉塵を巻き上げながら木端微塵になってしまった。
下層階も巨大メイドが持ち抱えるように抱き締めることで
圧縮されていき、ガラガラと音を立てて崩れ去ってしまった。
廃墟と化した国防省ビル。だが、それで終わりではなかった。
地下に司令部があることを知っていた巨大メイドは
地表の瓦礫を手で押し退け、建物があった場所を綺麗にすると、
地面に指を突き刺して鋼鉄製の分厚い天井をメリメリ剥ぎ取り、
数十人が退避していた司令部を完全に露にした。
大慌てになる司令部。何人かは非常通路に駆け込もうとしたが、
指一本で非常口を押し潰して土砂で埋め、逃げ道を無くす。
もはや司令部は出口を失い、水槽のようになってしまった。
絶望の色を隠せない軍の幹部や職員ら。
巨大メイドはそんな彼らに微笑みをかけ、こう言った。
「おっきなメイドさんとゲーム、しませんか?
ルールは簡単。私の指から逃げ回るだけです。
それでは、いきますよー。」
そして、有無も言わせず人差し指を突き出し、襲い掛かる。
唖然としていた彼らだが、職員の一人がデスクごと巨大な指に押し潰され、
肉塊に変わり果てたのを見て、嫌でもゲームに参加しなければならなかった。
一辺が40mほどの司令部。しかしさまざまな機器が占拠し、逃げ場はあまりない。
そこを、本来なら安全な場所で指揮するはずの制服姿の者達が必死になって逃げ回った。
血に染まった指から少しでも遠ざかろうと、他人を突き飛ばしながら行ったり来たりする。
それな哀れな姿を見て、巨大メイドは可笑しくて堪らなかった。
(みんな必死になっちゃって…。無駄なのにね)
何処に逃げようと、ほとんど手を動かさずに潰せてしまう。
たとえ角に逃げても、壁を削りながら押しつけて潰していく。
そして、すぐに司令部は血の海と化してしまった。
人差し指一本で、実に数十人が殺戮され尽していたのだ。

人民議事堂。国権の最高機関であり、立法機関でもあるが、
労働党が長年に渡って一党独裁する人民共和国ではお飾りに等しく、
『ご主人様』も委員を務めていた労働党中央委員会が実質的な最高機関であった。
そんな建物の正面に移動した巨大メイドはスカートを押さえながら膝立ちする。
その時正面玄関から一人の男性が現れた。元王国の閣僚だった人間である。
だが、戦争が始まるとすぐに敵国の人民共和国に内通し、
クーデターを起こして国王を捕らえた売国奴の一人であり、
その功績で旧王国領を代表する議員になった人間である。
当然、巨大メイドにとっては憎しみの深い相手だ。
摘まみ上げると、顔の前まで持ってきてじっと睨む。
「裏切り者さん…何しに来たのですか…。」
可愛らしく、しかし迫力のある声。
議員は一瞬怯んだが、何とか弁解しようとする。
「わ、私は国を売った訳ではない。国を守ろうと…」
「もう一度聞きます。何しに来たのですか。」
議員の発言を遮り、尋ねる巨大メイド。
「ひひ…姫様に…こ、これ以上の破壊を止めてもらいたいと…」
上ずった声の議員。最後には声がしぼんでしまう。
それを聞いた巨大メイドはため息をついた。
「はぁ…。やっぱり貴方は裏切り者ですね。
ここは敵国ですよ?祖国を滅ぼしたんですよ?
それなのに破壊を止めろだなんて…。
もういいです。貴方には失望しました。」
そして巨大メイドは議員を摘まんでいる手にゆっくりと力を掛けていく。
苦痛にゆがむ議員。うめき声を上げながらも命乞いをする。
「うがぁ……い、命だ…けは……」
しかし、議員の必死の懇願も巨大メイドを楽しませるだけでしかなかった。
「ふふ。もっと痛みつけてあげますよ。」
今や巨大メイドは破壊と殺戮に快楽を感じているのだ。
議員が苦しめば苦しむほど、ますます口元が緩んでいく。
そしてプチッという音とともに議員の身体は消滅した。
さらに巨大メイドは続けて人民議事堂も破壊する。
まず、建物に向かって倒れ込んで屋根を突き崩し、
その下の本会議場を身体で押し潰して建物を二分すると、
続いて左に右に転がって、委員会室なども粉砕していく。
寝転んでも議事堂より高い巨大メイドの身体は
まるでローラーのように建物を隅々まで平たくし、
わずか数秒で人民議事堂も消滅させたのだった。

全てが破壊し尽くされた官庁街で最後まで生き残った首相官邸。
だがそこも巨大メイドに襲われることに変わりはなかった。
巨大メイドは銃撃をしていた衛兵の上で両手両足をつき、
彼らを胸で押し潰しながら寝そべると、中を覗き込む。
すると、ある部屋で副首相が呆然と外を眺めていた。
首相に官邸の死守命令を受けた副首相。
使い捨ての駒にされたことは分かっていたが、
楽しそうに暴れ回り、軍すら軽くあしらう巨大メイドを見て、
空以外どこへ逃げても無駄ということを直感していた。
そして、ついに目の前まで来た巨大メイドは外壁を取っ払うと、
部屋から副首相を摘まみ出して眼前に持ってきた。
「副首相さん、こんにちは。また会いましたね。」
邪悪な笑みを浮かべる巨大メイド。
以前会ったのは奴隷の配分を決める場であったが、
今は完全に立場が逆転してしまっている。
「首相の居場所はどこですか?言わないとこうなりますよ?」
巨大メイドはそう言って、拳を作って首相官邸を何度か殴りつける。
指の間で恐る恐る振り返る副首相。その視線の先に官邸はなかった。
瓦礫の山と、拳の跡に取って代わっている。恐るべき破壊力だ。
速度も相応なのだろう。やはり逃げられるはずもない。
だが、肝心の答えを副首相は知らなかった。
「残念だがわからない。本当だ。信じてくれ。」
「別に構いませんよ。どうせ用が済んだらお別れですから。」
特に落胆した様子もなく、笑顔で言う巨大メイド。
これだけの大きさと強さがあれば、何処へ逃げようと関係ないのだ。
ただ早いか遅いかだけ。そして、処刑の時間がやってきた。
「それではお別れです。冷静な副首相さんは、どこまで耐えられるかな?」
巨大メイドは早速、副首相の左腕をプチッと引き千切る。
続いて右腕も指で挟み潰し、副首相を地面に置く。
想像を絶する痛み。常に冷静でいた副首相もこれには悶え苦しみ、
無駄だと頭で理解していても、身体が本能的に逃げようとしてしまう。
大量の血を流しながらも地面を這いつくばる副首相。
だが、今度は巨大な爪で両脚を切断されてしまった。
もはや動くこともままならない。そして。
「これでおしまいです。」
巨大メイドは、切断されたパーツごと副首相を指ですり潰した。
彼もまた、地面の染みと化してしまったのであった…


「次はどこを壊そうかな。」
口元に指をあて、少し考えるそぶりをする巨大メイド。
これだけ破壊と殺戮をしても、まだ満足していないのだ。
飽くことがなく、むしろ強まっていく邪悪な欲望。
復讐心は、優しい女の子であった姫を邪鬼に変えてしまった。
果たして人民解放軍は巨大メイドを撃滅出来るのか。
そして首相の命運は。それは神のみぞ知っていた…

(続く)

 

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