囲まれた街


「ねえ、みてみて。小人の街だよ」

足元に広がる小さな街を見下ろしながら、呼びかけるポニーテールの少女。
それに応じて、ツインテールの少女も街を覗き込む。

「え、どれ? うわぁ、ちっちゃーい」
「よく出来てるわね…って本物なんだから当然か」

遅れて、ロングヘアの少女も二人の斜め向かいから観察する。
何処かの制服を着た少女たちに三方から取り囲まれてしまった街。
紺のローファーに黒や白のハイソックスを履いた、六本の脚が天高く伸びている。
街にそびえる数十棟の超高層ビルを束にしてもまだ敵わない太さと高さ。
三人の身長は小人たちにとって実に一万メートル以上もあった。
頭上を見上げれば、天高くに伸びる肌色の柱と、その合流点にある白・ピンク・白青縞のパンツ。
何という素晴らしいアングルであろう。スカートが遮ることもなく、パンツが完全に丸見えとなっている。
だが、そのまた上空に霞んで見える三つの巨大な顔は恥じらう表情もなかった。
パンツが見られても恥ずかしくないのだろうか。いや、そうではない。
目に見えないサイズの小人たちのことなど人間扱いしてないないだけであった。
彼女たちの顔に浮かぶのは、驚きと、興奮と、嘲りを含んだ笑み。

「こんなちっちゃな街に小人は住んでいるのね」
「さすがに小さすぎて見えないみたいだけど、どれくらいいるのかな。数万? 数十万?」
「えー、そんなにいるの。きもーい」

気味悪げに街を見るツインテの少女。すかさず二人がフォローする。

「大丈夫。どうせ見えないから」
「ビルだって米粒みたいな大きさだしね。家なんか点だよ、点」
「そっかー。心配して損しちゃった」

「それにしても精巧な街並みだね」
「…でも、ちっちゃすぎてまるでゴミみたい」

腰に手を当て、街を見下ろしながらさらりと言うツインテの少女。
実際、建物の一つ一つは少女たちにしてみれば芥子粒から米粒のようなサイズで、
街自体、三人が両足を揃えて入れる大きさすらなかった。

「そうね、細々してるというか、ゴミゴミしちゃってるし」

一通り街を眺めてから、ロングの少女も同意する。
多くの高層・超高層建築が整然と立ち並んでいる立派な街並みも、
はるかに巨大な彼女たちには雑多な印象しか与えなかった。

「ゴミなら…踏み潰しちゃってもいいよね」

そう言って、楽しそうに笑うポニテの少女。
大勢の小人で活気溢れる街も、彼女にとっては足の踏み場にする程度の価値しかなかった。
そしてそれは残り二人も同様で、さっそくロングの少女が話に乗っかる。

「それじゃ、いち、に、さんで踏み潰すのはどうかしら」
「いいねいいね」
「うんっ」

この瞬間、街の運命は決まった。


足をすっと、小人たちにとっては高々と街の上にかざす少女たち。
青空が靴底にとって代わり、街は昼間にもかかわらず暗闇に閉ざされてしまう。
この期に及んでようやく小人たちは逃げようと駆け出したが、無慈悲にもカウントが始まる。

「せーの」
「いーち」

少女たちはロングの少女のかけ声を合図に元気よく声を出す。

「にっ」

ゆっくりとしたカウント。しかし、この間にほとんどの小人たちは十メートル進むことさえできなかった。
そして、もう十メートル進む前に早くも終焉の時がやってしまう。

「さんっ!」

発声と同時に街へと下ろされる三足の巨大なローファー。
超高層ビルも、平屋の家屋も、数瞬の違いもなくほぼ同時に押し潰され、大地にめり込む。
オフィス街も、住宅街も、学校も、公園も、全てがローファーの踵や爪先、土踏まずの下敷きとなる。
高速道路を走っていた車も、ローファーが降りてきてから数メートル進む前に高架ごと潰れ果て、
長編成の電車も先頭から最後尾まで丸ごと同時にペシャンコになり、
小人たちも、振り向く間もなく地面と一体化してしまっていた。
そしてこれらは彼女たちがぐっと足に力を込めることで地中数百メートルの深さへと押し固められる。
さらに、運よく踏み潰しを免れた建物も何もかも、超巨大な足が勢いよく下ろされた際の衝撃で粉砕され、消滅する。
足が上げられた時、街があった場所は深々とした三つの足跡と、広大な更地に取って代わっていた。

「ふふ、街が無くなっちゃった」
「ただ足を乗せただけなのにね」
「小人の街って、ちっちゃいしとっても弱いんだね」

街一つを滅ぼしたにもかかわらず、少女たちは楽しそうに談笑する。
一瞬にして数万の建物が、数十万の命が失われたことなど関係なかった。

「でも、ちょっと呆気なかったかな」
「大丈夫。街はまだたくさん残ってるから。ほら、そこにも」

ロングの少女が指差した先には別な小人の街。
また、辺りをよく見ればそこら中に街並みが広がっている。

「ほんと? じゃあ、どんどん踏み潰しちゃお」
「うんっ」
「もちろん」

そして次の街に向かう少女たち。
お遊びはまだまだ終わりそうになかった。


おしまい

 

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