育つ女子高生

 

「すごーい!みんな小さくなってるー」
突如巨大化した制服姿の少女は、真下に広がっている光景を見て目を輝かせた。
ビル、道路、自動車など街を構成しているあらゆるものが小さくなっていたのだ。
それも10分の1や100分の1でなく、もっともっと矮小なサイズに。
膝立ちしている彼女のふくらはぎを超える高さの建物は街にほとんどなく、
それどころか数多の建物が膝や脛にすり潰されたり倒壊させられてしまっていた。
人間に至ってはゴマ粒以下の大きさで、辛うじて見える大きさしかない。
彼らは必死に逃げようとしていたが、彼女にとっては蠢いているようにしか見えなかった。
「ふふ、かわいいー」
ふと、その一団に目を付けた少女は何気なく両手を地面に着く。
軽くついたはずの手のひらはそれぞれ何棟もの高層ビルを叩き潰し、粉砕し、
何十台もの車両、何百人もの人々を巻き込みながら地面を陥没させたが、
彼女は気付きもせずにそのまま顔を地表に近づけていく。
「…ねー、みんな何やってるの?」
数百の小さな人間たちの集団を見下ろす巨大女子高生。
さっきまで蠢くように右往左往していた彼らだが、
どういうわけか手のひらを着いた瞬間に動きが止まってしまっていた。
それが自分の起こした衝撃のせいであるとは露ほどにも思わない少女は、
つまらなそうに右手を持ち上げ、彼らの頭上にかざそう…としたところで
ようやく立ち上がった彼らは一目散に彼女から逃れようと走り出した。
それでもあまりの遅さに彼女は初め何をしているのか理解できなかったが、
人々が100メートルほど遠ざかったところでようやく逃げようとしていることに気がついた。
「あ、そっか。私がこんなに大きいから逃げたいんだね。
それじゃ、私が遠くに飛ばしてあげるよ」
少女はにっこりと微笑むと、顔を少しだけ前にやる。
そして息をすっと吸い、口をすぼめると道なりに吹きかけた。
「ふぅーーー」
決して強くはなく、むしろ優しいくらいの吐息。
しかし普通の大きさではそうでも、巨大さゆえに優しいはずの吐息も圧倒的な力となり、
吐息に触れたものから順々に人々はまるでゴミのように軽々と飛ばされていき、
遠くに逃げていたはずの先頭集団も数瞬の後に空を舞うことに変わりなかった。
被害はそれだけに収まらず、乗っている人の有無に関わらず車も次々と吹き飛ばされ、
アスファルトの地面も粉々に砕かれて破片が空を舞い、路上のあらゆるものも舞い、
道路脇の建物も吐息の力を前に圧壊し、崩落したり倒壊したりしてしまった。
もっとも、小さな人間たちは希望通り彼女から遠く離れることはできたが…。

 それからしばらく、巨大女子高生は移動することなく近くで遊んでいった。
指先で高層ビルをちょんと叩き潰したり弾き飛ばしたりしてちまちま壊していくかと思ったら、
今度は手のひらで建物をまとめて押し潰し、辛うじて原型を残っていた残骸も容赦なく握り潰したりと、
興味本位で手当たり次第に、さりげなく大破壊を巻き起こしていく。
悪気もなく、当の本人にとってはちょっとした悪戯程度の認識で。
とはいえ、人間たちにとってはちょっとしたどころではない大災害である。
彼女が少し動くたびに建物が倒壊し、大小の瓦礫が降り注ぎ、粉塵が舞い、
地面には無数のヒビが入り、所々大きな亀裂が縦横無尽に走っていく。
まるで地獄絵図のような光景の中を、人々は必死に逃げ惑うしかなかった。
そこにわざわざやってきた一機の報道ヘリコプター。
スクープを間近で撮るべく、地上400メートルほどの低空飛行で
事もあろうに真正面から巨大女子高生へと近づいていく。
「ご覧ください、少女が、巨大な少女が暴れています!
これは特撮ではありません! 信じられませんが…現実です。
都市が、本物の都市が巨大な少女によって破壊されています!
ああ、今もまたビルがいくつも壊されてしまいました。
すごい力です、恐ろしい力です。破壊の化身とでもいうべき力です。
どこかの高校の制服を着ているようですが、彼女はいったい…」
何者なのか、とレポーターが言おうとしたとき、
ヘリに気がついた少女はまるで雷鳴のような声を発した。
「あ! NHKかな? ひょっとして私を取材しにきてくれた?
こんなに大きいもんね。ふふ、うまく映ってるかなー?」
ヘリに向けて手をパタパタと振り、にぱっと笑う少女。
「しょ、少女が我々に向かって微笑みかけました!
声量は凄まじいですが、どうやら日本語も話せるようです。
これは…インタビューするしかありません!」
反応してもらえたことでジャーナリズム精神に火が付くレポーター。
当初は遠巻きに報道する予定だったが、そんなことなどすっかり忘れて
パイロット共々命知らずにもヘリを巨大女子高生に近づけていく。
日本初、いや人類史上初となる巨大少女へのインタビュー。
彼女は我々と同じ人間なのか、それとも宇宙人なのか。
何故こんなに大きいのか、これから何をするつもりなのか。
まだまだ他にも聞きたいことは山ほどある…。
しかし、インタビューが実現することはなかった。
ヘリと少女の顔との距離が先程の半分ほどまで縮まった時、
突然巨大な肌色の物体が凄まじい速さでヘリの横に迫りよったのだ。
いくつかのパーツで構成されているそれは柔軟な動きで上下に分かれると、
ヘリを凶悪な力で挟み込んで、高速で回転していたメインローターを粉砕し、
そのまま手加減なしに一瞬にしてヘリを丸ごとプチリと潰したのだった。
「あ、壊れちゃった…」
少し残念そうに呟く少女。捕まえてよく観察しようと思っただけなのに、
ヘリは親指と人差し指の間でほとんどぺしゃんこになってしまった。
しかしすぐに気を取り直し、指をこすりつけてパラパラと残骸を払い落すと、
また地上にある無数のおもちゃと戯れていった。

「うーん、いっぱい遊んだら疲れちゃった…」
わずか数分で周囲を瓦礫の山に変えた少女はそう呟くと、まだ破壊されていない区画の上に座りこみ、
スカートの下に存在していた何十ものビルやマンションを圧倒的な体重で粉砕し、
それをはるかに上回る数の建物を背中で押し潰しながら仰向けになると、
周囲の喧騒をよそに、気持ち良さそうに眠りに落ちていった…

 

 巨大少女現る。この緊急事態に、政府はすぐさま自衛隊の出動を命じていた。
これを受け、各地の飛行場や駐屯地は慌ただしく出撃準備に取り掛かり、
まずは近隣の飛行場で待機中だった二機の戦闘機が偵察も兼ねて派遣されたのだった。

「隊長、間もなく目標に到達しますが、目標はいったい何者なんでしょうか」
高度5000メートルをマッハ2.5で飛行する小編隊。
2番機の若いパイロットが素朴な疑問を壮年の隊長に尋ねる。
「それを調べるのも我々の目的だし、それがわかればお偉い方も苦労しないさ。
1000メートルを超え、女子高生の姿をした化け物なんて前代未聞だからな」
「でも、見た感じ可愛らしい女の子みたいですよ」
彼は事前説明で見せられた映像のことを思い浮かべる。
可愛らしい顔つきをして、胸はなかなか膨らんだ、天然そうな女の子。
どこぞの高校の制服を着て、ニーソックスを履いていた。
どう見ても化け物とは真逆で、清楚ささえ感じられる少女。
いくら巨大で暴れまわっているとはいえ、そんな女の子を攻撃するのは
彼にとっていささか心苦しいものであり、隊長もまた同じだった。
「まったくだ。できれば穏便に済ませたいものだが…
おっと、見えてきた。恐らくあれがそうだ。街の真ん中で寝てやがる」
「ああ、あれですね。実際に見てみるとすごい大きさのような…」
そこで彼に違和感が生じる。隊長もすぐ異変に気づいた。
「…いや、少し違うな。さらに大きくなっていやがる。
どうなっているんだ。寝る子は育つってのか」
思わず天を仰ぐ隊長。ただでさえ巨大なのに、さらに大きくなってしまうとは。
これほどまで大きいと、もはや可愛いなどと言える状況ではない。
下手をすれば彼女が歩き回るだけで日本壊滅もあり得るだろう。
しかし、先程までの大きさでも自衛隊の全兵力をもって勝てるか怪しいのに、
ここまで大きいと彼女が我々の攻撃を感じられるかも不明だ。
とはいえ、このまま手を拱いているわけにもいかず、
隊長はとりあえず司令部に指示を請うことにした。
「こちらアルファリーダー。目標上空に到達したが、目標はさらに巨大化しているようだ。
事前に聞いていた1000メートルどころの大きさじゃない、10000メートルは軽くあると思われる。
目標は現在、都市の中心で寝ているようだが、どうすればいい。指示を求む」
「…火器の有効性を確認するため、攻撃を行ってください」
しばらくの沈黙の後、ようやく帰ってきたのは攻撃指令。
当然といえば当然の返答。もともとそのために出撃したのだから。
ただ、初めての実戦ということもあり悪い気はしなかった。
「どうせ効かないとは思うが、まあやれるだけやってみるか」
隊長はすぐに割り切ると、早速部下に指示を出す。
「よし、許可も出たし、奴の身体中を舐めまわすように攻撃してやるか」
「隊長、セクハラですよ」
「なあに、どうせいくらやったって気づかれないんだ。
奴は今まで散々暴れてきたんだし、それぐらいしたっていいだろう」
「はあ、まあそうですが」
「だろ。それにこんな機会はまずないぞ。
女子高生の寝込みを襲う。いい響きじゃないか。
司令部の公認だし、俺たちは何のやましいこともない。
それじゃ、まずはおっぱい目指して反転降下だ」
「………」
内心ついていけないと思いながらも、若いパイロットは隊長機に従う。
そして、二機の戦闘機は巨大女子高生にすれすれの高さまで降下すると、
超低空を彼女の脚の方から胸を目指して突撃していく。
「…ほんとにやるんですか」
「ああ、もちろんだ。いけ、ファイアー!」
まずはサイドワインダーをそれぞれ一発ずつ、二つのおっぱいに向けて発射する。
だが、攻撃はまるで効かないどころか、分厚い制服に阻まれ胸も微動だにしなかった。
もっとも、これは想定内だったので隊長は落胆した様子もなく次の手を打つ。
「ふむ。空対空ミサイルじゃこんなものか。まあいい。
このまま胸の谷間を抜けて反転したら、次は顔を攻撃だ。
ミサイルもバルカンも、全弾撃ち尽くしてしまえ。
どうせ効かないんだし、さっさとやってあとはじっくりと観察するぞ。
上空から顔を眺めるのもよし、スカートの中に侵入するのもよしだ」
「………はあ」
やがて旋回した二機の戦闘機は続いて少女の顔を攻撃する。
今度は手持ちのミサイルを全て発射して、機関砲もぶっ放していく。
次々と爆発してはモクモクと上がる爆煙、その中に消えていく弾丸。
なかなか爽快な攻撃。隊長も部下も多少満足感を得られる。
もちろんダメージはないだろうが、やれることはやったのだ。
「これで任務は果たした。では、いったん上昇…」
しかし、隊長がそこまで言った時、突如辺りに雷鳴が響き渡った。
「ん……」
巨大な少女がやや不快気に声を発したのだ。
どうせ効かないと諦めていた攻撃だが、奇跡的に彼女の反応を得られていた。
そしてこの代償はあまりにも大きかった。
「隊長! 後方から巨大…うわ……」
「アルファツー、回避し…」
雷鳴とほぼ同時に後方から出現した超巨大な肌色の物体、
すなわち少女の手が想像を絶する速さで戦闘機に迫りよったのだ。
彼らは緊急回避しようとしたが、あまりに速く大きな物体を避けれず、
二機とも仲良くぺちりと叩かれ、あえなく撃墜されてしまった。
所詮、今の彼女にとっては戦闘機など蚊以下の存在でしかなかった…


 その頃、地上でもやましい考えを持った者が一人。
彼は巨大女子高生の両脚の間のとあるビルの屋上にいた。
「うは、不用心にも股を広げちゃって。パンツ丸見えだぜ」
本来なら逃げるべきなのだろうが、恐れを知らない彼は半ば興奮しながら
ビルの三方に広がる少女の身体をじっくりと観察していく。
無造作に投げ出された、黒のニーソに包まれた脚。
スカートとニーソの間の、健康的な肌色がまぶしい絶対領域。
そして丸見えの、青と白のストライプが入った縞パン。
上半身はここからでは窺えないが、これだけでも十分絶景である。
「ふはは、素晴らしい、素晴らしすぎる!」
屋上に広がる絶景に、興奮しきりの彼だったが、
やがてただ見ているだけには飽き足らず、接近してみることを考えつく。
「…これは何としてもスカートの中に入ってみたいもんだ」
そう呟くと、すぐさま階段を下りて地上へと出ていく。
そのまますぐにでもスカートの中に飛び込みたかったが、
目の前に広がっているのは深さ数十メートルはありそうな断崖絶壁だった。
おそらく彼女の重みで地盤が沈下してしまっているのだろう。
クレーターの中には崩れ落ちた建物の瓦礫が散乱しており、
下手に突っ込むと大変な目にあってしまいそうだ。
「く、小癪な。ここまで来て諦めるかよ」
彼は自分を奮い立たせると、安全に通れそうな場所を探しだす。
その間に何度かの爆発音と雷鳴が聞こえたりしたが、気にせずに探索を続け、
辺りが静まったころ、彼はようやく侵入経路を発見することができた。
「よっしゃ、いくぜ! パンツよ、待ってろ!」
威勢よく掛け声をあげると、彼は突撃を開始する…はずだったが、
直後、世界は何の前触れもなく大きく傾き始めてしまった。
「な、なんだ…どうなって……」
それが世界ではなく、少女が動いているとわかったのは
空が巨大な黒い物体に覆われ、辺りが暗くなった時だった。
「う、うう、うわあああああああ」
世界はニーソックスに包まれた。


 少女はただ寝がえりをしただけだった。
たったそれだけで、1000棟を軽く超す建物が彼女の身体の下に消えた。
ふくらはぎは小学校を含む住宅街の一角を完全にすり潰し、
太ももはいくつもの団地を押し潰して大地を深くえぐった。
お腹はすぐ側にあった商店街とその周囲を消滅させただけにとどまらず、
少し離れた位置にあったターミナル駅や駅前通りも跡形もなく押し潰してしまう。
二つの豊かな胸はオフィス街に降臨して一瞬で数百棟の高層ビルを粉砕し、
さらに、胸の谷間にあって運よく破壊を免れていた市内随一の超高層ビルも、
地面に触れてそれぞれ左右に膨らんだ二つのおっぱいに挟まれ、圧壊した。
投げ出された手は自由に暴れまわり、何区画かをまとめて握り潰したり、
まるでなぎ払うかのように街の広範囲の建物を吹き飛ばしたりした。
小指一本でさえ軽く地面に着いただけで何棟もの高層ビルを押し潰し、
少し手を動かせばその数倍の建物を倒壊させてしまうほどだった。
それが何回か繰り返され、街は壊滅した。

 こうして寝ている間に街の大半を破壊してしまった少女。
自身の作った巨大なクレーターの中で彼女は気持ち良さそうに寝ていたが、
やがて目を覚まし、起き上がって大きなあくびを一つする。
「…ふぁ~あ……」
寝起きのため、まだ十分に頭が働いていない少女。
半開きの目で周囲をゆっくりと眺め、ゆったりと立ち上がる。
そして、服やスカートに付着していた建物の残骸を適当に叩き落すと、
いささか怠慢な、人類にとっては驚異的かつ破壊的な動きで、
彼女は寝ぼけ眼のまま特にあてもなくふらふらと歩き始めた。
まだ無事だった場所も、そうでない場所もまとめて踏み潰し、
たった数歩で街の中心から郊外へと進出した少女は
田畑、家屋、森林、山岳といった進路上にある全てを踏み均しながら
次の都市へと破壊的な歩みを進めていった…

 

 日本はたった一人の少女によって滅びようとしていた。
四国・近畿はほとんどが空高くにそびえる少女の脚の影に覆われ、
北陸・甲信は尻に敷かれ、関東も一部が手のひらによって押し潰されていた。
それほどにまで巨大な少女。日本列島と同じくらいの大きさの少女。
彼女は余裕たっぷりの表情で今の大きさを楽しんでいた。

 その少し前。いくつかの都市を破壊した巨大女子高生に対し、
これまでの被害を鑑み、またこれ以上の被害も食い止めるため、
政府は自衛隊と米軍との共同作戦を行うことを決定、
核兵器での攻撃もやむを得ずという結論に達していた。
そして出撃していった、百機近くにも上る大編隊。
彼らは長野上空で少女と対峙、まずは通常弾で攻撃し、
効果が全くないことが確認されると核弾頭による攻撃に転じる。
自衛隊機の援護を受けつつ、米軍機から次々に発射されていく核ミサイル。
先程までとは打って変わってミサイルは少女の身体に命中しては大爆発を起こした。
少女の身体は爆炎に包まれ、いくつものキノコ雲が上空に現れる。
あまりの威力にパイロットたちは歓声を上げ、勝利を疑わないほどの猛攻撃。
当然、地上の諸都市にも被害は及ぶが、それに構っている場合ではない。
ただ、少女の肉体を消滅させるという一点において総攻撃は敢行された。
しかし、すべては無駄だった。煙が晴れた時、少女は全くの無傷だったのだ。
彼女の美しい素肌は傷一つなく、軽い火傷さえ負ってなかった。
それどころか、核攻撃は全くの逆影響を及ぼすこととなった。
攻撃に少し怒った彼女はさらなる巨大化を始めたのだった。
すでに世界で一番の大きさを誇っていた彼女だが、
富士山を跨げる大きさから丸々踏み潰せる大きさに、
四国を超える大きさに、北海道、続いて本州を超える大きさに、
最終的には日本列島に匹敵する大きさにまで巨大化したのだ。
その過程で大編隊は回避する間もなく膨張する彼女の身体に弾かれて全滅し、
長野市を始め長野県の諸都市もほぼすべてが足の下に消えていった。

 こうして日本サイズとなった少女は、まずは日本を見下ろしてみる。
所々雲で覆われているものの、外気圏から見る列島は地図とそっくりだった。
「ふふ、一番大きな日本地図だね」
まるで地図の上に乗っかっているような感覚。
だが、ほんのわずかながらもこの地図には山や谷などの起伏があり、
一億人を超す矮小な人間が矮小な住処を作って隅々まで生息しているのだ。
もっとも、もはや彼女にとっては人間などダニ以下の存在でしかなかったが。
「さあて、どうやって遊ぼっかな」
先程攻撃された怒りなどすっかり忘れて、笑みを浮かべながら日本を吟味する少女。
ただ踏み潰すだけなのは、すぐに終わってしまってもったいない気がする。
一歩で一つの都道府県を踏み潰してしまえる大きさがあるのだから。
それよりも、じっくりと破壊をやったほうが楽しめそうだ。
座りながら破壊、というのもいいかもしれない。
足だけでなく、手やお尻でもどんどん壊していこう。
そうと決まると、少女は早速しゃがみ込んで手のひらを後ろの地面に着き、
両手でぐっと体重を支えながらゆっくりとお尻を下していく。
たったこれだけの動作で埼玉県や群馬県のほとんどがサクッと手のひらに押し潰され、
すでに足の下で消滅していた長野県をはじめ、岐阜県や山梨県も一部がお尻にえぐり取られる。
さらに、巨大なオーロラの如きスカートが富山県や石川県に覆い被さり、
両県の建物は当然のこと、山も含めあらゆる起伏が均されてしまった。
こうして座り込んだ彼女は、続いて両足を太平洋に投げ出すと、
まずは足のすぐそばにあった島、四国に目を向けた。
大きさは片足でほとんどを踏み潰してしまえるほどしかない。
そこに、ローファーの爪先を立てて海をかき分け、海底を削りながら左足をすり動かし、
上陸一歩手前まで足を近づけたところでいったん動きを止めてあげる。
逃げる時間を与えようという、彼女のちょっとした気配り。
当然ながら、わずかな時間では徒歩や車はおろか飛行機でさえも
四国に匹敵するほど巨大なローファーから逃れることなど不可能であったが、
数瞬の後、少女は無情にも爪先をほんの少し宙に浮かしてから一気に押しつけた。
狙いは四国南部の、豊かな緑の中に切り開かれている白っぽい場所。
地面を突いたのはわずかに靴の爪先部分だけたったが、
それだけで高知市は建物はおろか川や山もまとめて完全に消滅し、
周辺都市でも、離陸しようとしていた旅客機ごと龍馬空港が押し潰されたり、
そうでなくても衝撃で建物のほとんどが倒壊したりと甚大な被害を受けた。
さらに、追い打ちをかけるように少女が爪先を左右にぐりぐりと動かせば、
崩壊していた周辺都市はもちろん、広大な山地も瞬時に失われ、
高知県自体もほとんどの陸地が押し潰されて消滅させられてしまった。
あまりに強大すぎる巨大女子高生の力。
愛媛も香川も徳島も、滅ぼされるまでそう時間はかからず、
九州もまた、少女の足に弄ばれることに変わりなかった。
左足で四国を跡形もなく削り取った少女は、続いて右足を九州の上空にかざす。
「これから私の足をゆっくりと下ろしてあげるから、頑張って抵抗してね」
そう言いながら、じわじわと足裏を地面に近づけていく少女。
山脈を押し潰し、高層ビルも押し潰し、無数の住宅も押し潰し、
少し力を込めることで土踏まずも地面にくっつけて全てを平たくする。
あとは靴を左右に動かせば、潰されずに残っていた場所も
一秒もせずに地盤ごと靴にえぐり取られて崩壊したのだった。

その頃、中部地方のとある都市も少女の無意識のうちに消えようとしていた。
三方を少女の身体に囲まれ、空はスカートに覆われてしまっている都市。
少女が座り込んだ際に発生した恐ろしいほどの衝撃でほぼ全ての建物は倒壊しており、
周囲の山脈もお尻によって潰されたり、削られたりしていた。
そんな状況下で、都市には辛うじて生き残っていた人々も僅かにいたが、
彼らはもはや逃げる気力などなく、目の前にそびえる巨大な壁をただ茫然と眺めていた。
上下に数十キロ間隔で水色と白色のラインが交互に入っている壁。
全体像を窺うことはできないが、おそらくこれは少女の縞パンツなのだろう。
しかし、普段なら薄い布切れにすぎないそれも、圧倒的な存在感をもっており、
まるでこの都市に覆い被さろうとしているかのようにさえ感じられる…。
そしてそれはすぐに事実となってしまった。
少女が九州を完全に消滅させる際、僅かに前へと動いただけで
縞パンは都市に覆い被さり、そのまま街をすり潰してしまったのだ。
コンクリート製の建物だろうが関係なく、全ては縞パンに蹂躙される。
たった一枚の布切れによって、この都市もあまりにあっけなく消滅した。

 四国と九州を消滅させた彼女は続いて近畿や中国地方にも襲いかかった。
手に力を込め、押し出すように身体を前に滑らせていくと、
お尻やパンツで地盤をえぐりながら進路上の全てをすり潰していく。
都市はもちろん、山林も何もかもが一瞬にして脆くも崩れ去り、
すでに忘れ去られた存在の自衛隊も何ら抵抗できずに各地で粉砕される。
琵琶湖も、押し出された土砂に全てが埋め立てられた次の瞬間にはお尻にのしかかられ、
圧倒的な体重によって周囲の土地ごと地面深くに押し固められ、跡形もなくなってしまった。
京都や大阪も少女の縞パンにすり潰され、奈良や和歌山は振り落とされた太ももの餌食となり、
兵庫も同じく太ももにすり潰され、広島などはふくらはぎに押し潰され、
こうして近畿や中国地方も瞬殺されてしまった。
その後、反転した少女は東京を人差し指一本ですり潰し、
関東も握り潰し、押し潰し、東北も蹴り飛ばし、
北海道もヒップアタックで超巨大なクレーターと変え、
こうして日本はたった一人の少女によって滅ぼされたのだった。

 

 ますます笑みを浮かべながら、アフリカに降り立った少女。
アジアを文字通り地獄に変え、途中さらに巨大化した彼女は自由気ままに破壊を楽しんでいく。
踏み潰していた国々をさらに深く、深くへと押しやりながらしゃがみ込むと、
興味あるものに次々と指を伸ばしていっては、都市はおろか小国さえも潰していき、
手のひらを置けば広大な面積をもつ国も丸々消滅させ、大地に手形を残していく。
地表を撫でれば山脈も都市も関係なくまとめて滑らかにされ、
その巨大さゆえ一度にいくつもの国が滅びてしまうほどであった。
マダガスカル島も掴み取られ、少女が力を入れるまでもなく潰され
すぐにアフリカも誰も住んでいない死の土地と化した。

 しかしこれさえもまだ余興にすぎなかったのだ。


 アフリカを滅ぼした少女は立ち上がると、地面を蹴りつけて宇宙空間へと飛び出す。
そして、地球からやや距離をとると、再び巨大化を始めたのだ。
すでに地球の直径ほどの大きさがあった彼女だが、
驚異的な速度でぐんぐんと大きくなっていき、
相対的に地球は大玉からサッカーボールほどの大きさに、
野球ボールから卓球玉ほどの大きさへとどんどん縮んでいき、
最終的に地球は飴玉程度の大きさしかなくなってしまった。
「ふふ、おいしそ~」
青く美しいも可愛らしい大きさの地球を見て、少女は微笑む。
それから、ぺろりと地球の表面を舐めてみた。
大陸が地殻ごと舐めとられ、丸見えとなるマントル。
「ん~、おいし~~」
幸せそう満面の笑みを浮かべる巨大女子高生。
と、その時彼女の額にコツンとぶつかるものがあった。
「あれ、月…?」
地球よりもさらに小さく、白い天体。
少女はとりあえず摘まんでよく観察してみようとする。
しかし、以前ヘリがそうだったように月もまた、
力を入れるまでもなくただ挟んだだけで粉々になってしまった。
「……むー」
バラバラとなった月の残骸を見て、少し不満そうに頬を膨らます少女。
とはいえ、どうせ壊すつもりだったので特に気にもせず、
再び飴玉サイズの地球と向き合っていく。
「それじゃ、気を取り直して…いただきまーす」
ぱくっ。少女は口を大きく開くと、一口で地球を口に含む。
そして舌の上で器用に地球を回転させながらぺろぺろと舐めとっていき、
最後はごくりと飲み込んだのであった…。

 こうして地球は46億年もの歴史に幕を閉じた。

 

おしまい

 

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