斑鳩さんっぽいの

 

1.邂逅

かっちりした白色系の制服とブーツに同じく白の手袋、そして黒タイツを身につけている、腰までかかる長い黒髪の少女。
凛とした顔立ちも相まって大和撫子という言葉がぴったりな彼女は両手を膝に当て、中腰になりながら足元に目を向けていた。

その視線の先、小さな砂利がゴミゴミしたような場所に潜む数十万の矮小な存在――人間。
彼らは突如として街の近郊に現れた超巨大な少女に誰しも驚き、恐怖を感じていた。
大きい、大きすぎる。数キロ先にいるというのに、その姿は少しも小さく見えることなく、
圧倒的なスケールを保ったまま街のどこからでもはっきりと拝むことが出来る。
足元に目を転じれば、近くにそびえていたはずの1000メートル級の山々などあっさりと踏み潰され、
代わりに一足の白いブーツがその何倍もの高さをもって君臨していた。
また、首が痛くなるほど上を向けば、彼女が街を見下ろすように中腰の姿勢を取っているため、
遥か頭上、うっすら漂う白雲の彼方にも制服を大きく盛り上げている豊満な胸が存在感たっぷりに鎮座している。
まるで二つの山が天から地上に向かって突き出されているような感覚。
そしてそのさらに向こうには、端整な少女の顔がこちらをじっと覗き込んでいた。
辛うじてちょこんと残っている山の頂と、その横で偉容を誇るブーツを比較してみて、
身長およそ16000メートルはあろうという途方もない大きさが導き出される超巨大な少女。
そんな常人の10000倍サイズな彼女だが、これからどうしようというのか。
こちらを見ているということは、我々が見えているかどうかはともかく、
街の存在には気付いているのだろうが、口を一文字に結んだ表情からは思考が全く読めない。
このままただ街を観察しているだけなのか、それとも何か行動を起こすつもりなのか。
それが平和的なものであればいいが、もし彼女が侵略者であったら…いや、特に敵意や悪意が含まれていなくとも、
何気なく彼女が山をも踏み砕くブーツを、あるいは良く発育した胸を街の上に下ろすだけで
一度に数百、いや数千の建物が押し潰され、数万の人間の命が容易く奪われることになるだろう……。

そんな超巨大な少女のこれまた巨大な胸の前をゆっくりと横切るように動く小さな物体。
全長、全幅ともに50メートルを超えるジェット旅客機は数百人を乗せながら高度10000メートル付近を時速700キロ超で飛行していた。
すると、ある街の上空付近に差し掛かったところで、雲間に入ったわけでもないのに
片側の窓からの眺めが一面の青空から白を基調とした巨大な壁に取って代わってしまう。
上も下も左右も、ほとんど全てが布地のようなモノに覆われた光景。
しかし、この時点ではまだ多くの乗客が異変に気付かないでいたが、
やがてその壁の手前に滑らかな丸みを帯びた新たな白壁がぬっと現れ、立て続けに反対側の景色も白一色と化してしまった。
胸の前に飛んでいるちっぽけな旅客機の存在に気付いた超巨大少女が、白手袋をはめた指先を近づけたのだ。
たちまち機体は両翼が親指と人差し指に抑えつけられ、身動きが取れなくなってしまう。

「あはっ、捕まえた」

不意に声を出して笑う少女。上手く捕まえられたからか、どこか得意気な表情をしている。
ほとんど力も込めず翼の両端を僅かに押さえているだけなのだが、たったそれだけでも、
二基の大型ジェットエンジンを吹かしているはずの旅客機は全く動く気配を見せない。
それもそのはず、50メートル超の機体と言えど、彼女の指先ほどの大きさもないのだ。
そんなちっぽけなものが幾ら頑張ったところで何の意味もない。両者の力の差はあまりにも歴然としていた。

当然、このとてつもない事態に機内は大混乱に陥っていた。
外の景色が白に閉ざされたのに続いて機体が大きく揺れ、それから機内につんざく少女らしき声。
どうやらこの飛行機は魔法か何か不思議な力によって捕らえられてしまったようだ。
漫画やアニメみたく別な空間に転移させられたのか、あるいは空間に固定されたのか。
実際のところは超巨大な少女の指先に挟まれているだけとは思いもよらない人々は
狼狽えながら救いを求めてどうにか声の主とコンタクトを取ろうとするも、
ちっぽけな彼らの声や思いなど到底彼女に届くはずもなかった。

やがて少女は笑顔のまま旅客機を挟んだ指をゆっくりと閉じ始めた。
まさか本当に機体を挟み潰してしまうつもりなのか。中には大勢の人々が乗っているはずなのに。
だが、街の人々は遥か上空で行われようとしているあまりにスケールの大きなショーに、
それがどんなに恐ろしく残酷なものであってもいまいち現実感が湧かず、つい目が釘付けになってしまう。
そうしているとまずは主翼が容易く歪み、根元から折れて、僅か数秒にして旅客機は胴体だけとなってしまうが、
少女は躊躇うことなくさらに指を閉じていくことで、機体は完全に指の間に埋もれて姿を消してしまう。
中にいた乗員乗客は何が起きたのか良く分からないまま、変形して圧縮された隔壁や座席に挟まれ、
苦痛を感じる間もなく次の瞬間にはぷちりと潰れて飛行機と運命を共にすることになった。
そして念入りに指がすり合わされてから離れた時、そこには飛行機の姿などどこにもなく、
代わりに街の上空で塵のように極細かな残骸が舞い散っていた。

「ふふ、今度はこの街がこうなる番ですよ」

手袋の先に付着した残骸に吐息を吹きかけて飛ばしてから再び街の方を向くと、そう言ってにっこりと笑う少女。
そして間髪いれずに、山を踏み砕いていた超巨大なブーツが大量の土砂を撒き落しながら持ち上げられて街の上空にかざされる。
口をあんぐりさせながら壮大な見世物を鑑賞していた人々は、ここに至ってようやく我に返り逃走を図ろうとしたが、もはや手遅れ。
見た目はゆっくりと、しかし実際は時速数百キロという速さでブーツが振り下ろされることで
彼らは先程までいた場所からほとんど動くことも出来ないまま街共々踏み潰された。
大地震に耐えられるほど頑丈なはずの高層ビルも、密集しながら数多く敷き詰められていた低層の住宅も、
高速道路を走っていた自動車も、もちろん生身の人間も超巨大なブーツの圧迫に一瞬たりとも耐えることなど出来ず、
厚みが完全に無くなるほど圧縮された上に地中奥深くへとめり込まされてしまう。

「……あっけないものね。人間の街も、命も」

ぐりぐりとブーツを地面にすりつけながら達観したように言う少女。
数千の建物を、数万の人間をその下に情け容赦なく踏み潰そうが、感慨もなく平然としている。

「さて、次はどれにしようかしら」

一通り街の中心部を踏み躙ったところで、まだ郊外は多くが姿形を保っていたものの、
多少なりとも厚みのあった高層建築群がほとんど全て消滅したこの街にもう用はないといった感じで
少女は視線を足元から周囲に移すと、楽しそうな表情を浮かべつつ早くも次の品定めをしていく。
人間やその街など彼女にとっては幾らでも替えが利く、ただの壊れやすい遊び道具にしか過ぎなかった。

そして惨劇、破壊劇は規模を拡大しながら繰り返されていく……。

 

2.襲撃

数歩で次の街にやってきた超巨大少女。彼女は大小数百の家屋やビルが黒タイツを履いた膝の下に押し潰れ、
その周囲千余りの建物も衝撃で倒壊したり傾いたりすることなどお構いなしに両膝を地面に突け、
片手でもオフィスビル群を百数十棟と一緒くたに叩き潰しながら四つん這いになると、
もう片手は街の中心部にそびえる超高層タワーへと近づけていく。

「っと、慎重に…」

片目を瞑り、目を凝らしながらゆっくりと指先を建物の土台に添えていく少女。
隣接していた幾つかの高層ビルをその何倍も長く太い指ですり潰しつつ、親指と人差し指でそっと建物を挟み込むと、
絶妙な力加減でほとんど原形を留めたまま摘み取って、一気に顔の高さにまで持ち上げてしまう。

そんな建物の展望室に数十人といた観光客や職員。
他にも数多くの高層建築物が立ち並ぶ街で、彼らは何も遮るものがない高さから見晴らしの良い景色を満喫していたが、
不意に霞みの向こうからとてつもなく巨大な白い物体が姿を現してきた。
あれは何だろうか。少々言いようもない不安を抱きつつ興味本位に観察を続けていくと、
それは急激な上下運動を繰り返しながら次第に大きさを増す――というよりこちらに近づいているようだった。
そして街の郊外にひしめく住宅街を数平方キロと下に敷いたかと思うと、
続いて光沢を放つ黒壁がその手前上空から落下していき、視界を埋め尽くしてしまう。
呆気にとられる間もなく、その数瞬後には大きく揺れる景色。
地震、いや、あの全容も分からないほど巨大な黒い物体が墜落してきた衝撃だろうか。
いずれにせよ、立っているのも困難なほどの激震に人々は柱に掴まるなどして必死にやり過ごし、
やがて揺れが収まった時、建物の周囲はぽっかりと暗い影に覆われてしまっていた。
今日は雲がほとんどない快晴のはずだったような…。そんな些細な疑問を一瞬で吹き飛ばす、眼前の光景。
街を一望できる超高層タワーよりも遥かに巨大な白い柱が建物の両側から迫り来ていたのだ。
それを見て人々は口々に悲鳴を上げ、慌てて逃げようとしたが既に手遅れ。
たちまち建物がまたしても大きく揺れ、傾いたかと思うと、強烈なGとともに遥か上空へと持ち上げられてしまった。
地上までは数千メートルもある、高山の頂のような高さ。もちろんここから落ちれば一溜まりもない。
もっとも、あまりのGに彼らはみな気絶してしまっていたが。

「ふふ、成功っ。アクセサリーにちょうど良さそうな大きさね。
まあ、脆すぎて使い物にならないけど」

指先に摘まんでいる超高層タワーをしげしげと観察する少女。
全長300メートル、重量5000トン以上ある建物を軽々と…むしろ壊さないよう丁寧に扱っていく。

「この中にはきっと人間が数十人くらいいるのかしら。
んー……、小さすぎてほとんど分からないのが少し残念ね」

彼女は向きを変えたり下から覗いてみたりしてどうにか中の様子を探ろうとするも、彼女にとって人間など10000分の1サイズの存在。
身長2メートルある大男も0.2ミリほどの塵にしか見えないわけで、すぐに嘆息をもらして諦めてしまう。
しかし何か良い事を思いついたのか、にやっと口元を緩めていく。

「……くすっ、もしこのまま指を離したらどうなっちゃうかしら」

そして次の瞬間、彼女はあろうことか指をぱっと開いてしまった。
当然、支えを失った建物は数千メートルの高さを垂直に落下していき、数十秒の滞空の後、
元々立っていた辺りのオフィス街に墜落し、数棟の高層ビルを巻き込みながら爆散する。
その様子を見届けてから落下現場に人差し指を突き刺し、さらに追い討ちをかける少女。
ぐっと指先をすりつけてからゆっくりと引けば、丸く深く抉れた跡には鉄骨の一本さえ残っていなかった。

それから、少女は膝や手のひらに付いた瓦礫などを払い落としながら立ち上がると、街の上をサクサク歩いていく。
超巨大なブーツによって一度に幾千と踏み潰され、粉砕されて消滅する建物の数々。
数万と捻り潰され、吹き飛ばされ、あるいは建物の崩壊に巻き込まれて絶命する人間たち。
足元では衝撃によって所々でガス管が爆発するなどして爆炎が広がるが、
真っ白なブーツの一部分でも黒く焦がすどころか満足に煤さえ付けられないまま、
彼女が何気なく地面に足をすりつけることで瞬く間に揉み消されてしまう。
そしてまた次の一歩で同様の被害が街にもたらされていく。
だが、人々は抵抗することはおろか満足に逃げることさえ出来なかった。
電車に乗ろうと駅に向かう間に、車やバスに乗って渋滞に巻き込まれている間に、
ふと周囲が暗くなったかと思うとその数瞬後には意識する間もなく存在が抹消されてしまう。
あまりに彼女は強大無比で、片や人々は無力だった。

「んしょっと……」

やがて壊滅した街の上にうつ伏せになる超巨大な少女。
ブーツで、黒タイツを履いた太ももで、制服に包まれたお腹や腕、ふくよかな胸で、
まだ無事な建物も崩壊した建物も、電車や車に人間、道路や田畑、草木さえも
全てを余すところなく押し潰していき、何度かごろっと寝返りを打てば街は跡形も無くなってしまう。
超高層タワーなど数多くの高層建築物が林立し、数十万と建物が密集し、数百万と市民が住んでいた大都市も、
彼女が襲撃してきてからわずか数分にして完全に消滅してしまっていた。

「すぅ……すぅ……」

数百メートルと陥没して地肌を剥き出しにしたその広大な跡地で、
陽の光をいっぱい浴び、いつしかまどろみに落ちて気持ち良さそうに眠る少女。
彼女が出現したとの報を受けてから可能な限り速やかに出撃したにもかかわらず、
全てが終わった後にようやく到来した数十機の戦闘機からなる航空部隊はその姿を見て、そしてあまりの巨大さに困惑しつつ、
街の痕跡がどこにも見当たらないほどの惨状を目の当たりにして市民の仇をとろうと必死に攻撃を加えるも、
どれだけミサイルを撃ち込もうと彼女に何ら感触を与えることも、衣服に傷一つ付けることさえ出来ない。
それどころか、有効打を与えようと接近し過ぎて彼女の身体に激突したり、寝返りに巻き込まれたりして
少なくない数の機体を失い、残りも弾が尽きて撤退を余儀なくされてしまう。

もはや人々に、軍隊に出来ることはただ彼女の動きを見守ることだけだった……。

 

3.テラ斑鳩さん

黒タイツと白のブーツを履いた脚で日本列島を文字通り踏み締めている、長い黒髪に凛とした顔が印象的な制服少女。
はじめは常人の10000倍サイズだった彼女も、今やその100倍、1000000倍サイズにまで巨大化していた。
身長にして実に1600キロ以上である。片方のブーツの大きさだけでも縦幅250キロ、横幅90キロ近くあった。

その数分前。午睡から目覚めた彼女は眠気眼を擦り、大きく身体を伸ばして立ち上がると、
髪や衣服に付いた土砂や瓦礫を払い落としながら辺りを軽く眺め後、少し考えるような仕草をしてから不敵な笑みを浮かべる。
そして豊満な胸の前で両腕を交差して何か念じたかと思うと、急激に身体が衣服ごと膨張していった。

そんな馬鹿な。まさかこれ以上大きくなるなんて……。
数十台の戦車を連ね、その上空でも数十機の戦闘機を飛ばしながら遠巻きに超巨大少女を監視していた軍隊は
彼女が目覚めたのを確認し、次はどんな悪夢が繰り広げられるのか身構えようとしていたが、
臨戦態勢を整えた彼らの目に飛び込んできたのはあまりに想像を絶する光景だった。
十数キロの距離など物ともせずあっという間に拡大して迫り来る、超々巨大なブーツ。
一瞬何が起きたのか分からず、ただでさえ超巨大な少女がさらに巨大化していると気付いた時には
軍隊は攻撃も退却もほとんど何も出来ないままブーツに押し退けられて粉砕され、撃墜されてしまっていた。
また、周辺の都市も避難中だった住民ごと次々に押し潰され、すり潰されて消滅していき、
山河や森林も地表ごと抉り取られたかと思った次の瞬間には地中奥深くへとめり込まされていく。
富士山も例外ではなかった。樹海を抉り潰しながら際限なく膨張し続けるブーツに偉容を誇る山なりも抵抗すること能わず、
一瞬耐えたかに見えたものの、たちまち石ころのように吹き飛ばされて粉砕され、跡形もなく消え失せてしまう。

やがて巨大化が止まった頃には日本列島と同じくらいの大きさとなった、超々巨大な少女。
東京湾周辺と北陸をそれぞれ両足のブーツで踏み潰し、膝より上は完全に大気圏外に出てしまっているが、
生身で宇宙空間に出ても平気なのか苦しそうな様子は全然なく、むしろ楽しそうに足元を眺めていく。

「ふふ、ここも踏み潰してあげましょうか」

そして彼女は人々の心の中に語りかけるように呟くと、東北地方の上空数百kmの高さに足をかざし、ゆっくりと下ろしていく。
訳も分からないまま辺りが真っ暗になってざわつく住民の真上に振り下ろされる、恐竜を絶滅させた小惑星よりも数百倍巨大なブーツ。
幾ら彼女にとってゆっくりとはいえ、それほどまでに巨大で数京トンという質量を有する物体が着地する瞬間は地球全体が震えるほどで、
直接踏み潰された者だけでも数百万人が死滅、宮城県の辺りは完全にブーツ型のクレーターと化してしまっていた。
その破滅的な痕跡を見て、罪悪感を抱くどころかにっこりと微笑む超々巨大少女。
さらに彼女は中部地方を踏み躙りながら振り返って軽くしゃがむと、
四国の両端に指を突き刺してがっしりと掴みとり、楽々持ち上げていく。
ぽっかりと地表に10000平方キロ以上の大穴を穿ちながら、浮遊大陸のように大気圏外へと浮かべられた四国。
持ち上げられた際の苛烈なGにより四百万近くの島民は全滅し、建物も木端微塵に押し潰されるほどであったが、
少女は微生物にも劣る大きさとなった人間とその街がどうなろうともはや関係なく、
数百キロの高さにまで島を持ってきたところで力を誇示するかのように一気に挟み潰す。

「んー……、えいっ」

たちまち圧縮され、粉砕されて隕石のように地表へと降り注いでいく数多の残骸。
立ち上がってそれらを中国地方ごと踏み潰したところで、彼女は再び巨大化を始めた。

先程から特大サイズの大玉に玉乗りしているような感じであった少女だが、
日本列島を拡大する両足のブーツの下で完全に捻り潰した辺りでさすがに窮屈になったのか、
宇宙空間に飛び出して相対的に地球が縮んでいくのをその横からゆっくりと眺めていく。
大玉からサッカーボール、ゴルフボール大へと、そして最終的には飴玉サイズにまで小さくなってしまう地球。
直径12000キロほどの惑星に対し、今や彼女の身長は1600000キロ超という天文学的な数値に達していた。
太陽よりも少し大きくなった少女は黒タイツに包まれた太ももの辺りで地球が浮遊するのを微笑ましげに眺めていたが、
やがて宇宙空間をほんの少し遊泳して地球の位置を足元にずらすと、ブーツをその上にかざし、軽く踏みつけてやる。
たったそれだけでも北半球はほとんどが押し潰され、壊滅的な打撃を受けてしまう。
続いて彼女は地球が顔の辺りにくるよう少し身体を回転させると、
憫笑を浮かべながら白手袋をはめた手を近づけ、親指と人差し指で挟み込む。
すでに消滅していた北極周辺と、南極大陸が両指でがっちりと掴まれ、完全に動きを止めてしまう地球。

「もう少し遊んであげてもよかったけど、こんな惨めな姿になってしまって。
これまでね。せめて最後は一思いに楽にしてあげます。……さようなら」

そして少女が指先にぐっと力を込めていくと、地球は簡単に歪み、潰れ、爆散してしまった。
四十億年以上生き、さらに数十億年は存在するはずの惑星に突如与えられた、あまりにあっけない終焉。
それが少女の二本の指によるものだとは、誰が予想出来たであろうか。
だが、当の本人は地球を消滅させようが相変わらず微笑んだままであった。
彼女にとっては星一つ、数十億人の命など取るに足らないものでしかない。

やがて少女が消え失せていった時、かつて地球があった場所には細かな星屑だけが残されていた……。

 

おしまい

 

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