平和の女神

 

数多の星々が煌めく広大無辺な宇宙を遊泳する、白き衣をまとった少女。
普通の生命など存在できない過酷な環境下で、宇宙服を着ていないのにもかかわらず、
何か不思議な力に守られているのだろうか、苦しげな様子もなく静かな微笑みをたたえている。
胸元の大きく開けた、ショートラインのベアトップドレスをひらひら舞わせて進むことで太ももをちらりと覗かせ、
その先に伸びる綺麗な素足は形の良い爪先を惜しげもなく見せていた。

しばらくして少女の進路上に現れたのは直径数キロから数十キロの小惑星帯。
だが、彼女は避けようとするどころか、あえて両手を大きく広げてまっすぐ突き進んでいく。
そして次の瞬間、無数の小惑星が身体に激突し、弾かれ、粉微塵になってしまった。
それもそのはず、少女の身長は実に十五万キロ以上もあったのだ。
小指の一本でさえ幅千数百キロ、長さ数千キロという小さな大陸並みの大きであり、
胸囲に至っては八万キロ超と、惑星サイズの二つの形よい膨らみがそこには存在していた。
そんな彼女にとってごみ屑以下な大きさの小惑星など幾ら数があろうと関係ない。
大小数百が次々と柔らかな胸に弾かれて粉々に砕け散り、
綺麗に整った顔や長くさらさらな髪、純白のドレス、すらりとした綺麗な手足でも幾多の小惑星が触れる度に塵と化していく。
こうして小惑星帯にぽっかりと大きな穴を開けた少女だったが、何事もなかったかのように振り返ることなく進んでいき、
やがて淡い緑色の惑星をすぐ正面に捉えたところでようやく止まった。
まさしく目と鼻の先にある、直径四千キロほどの小さな星。
少女はそれと同じくらいの大きさにもなる、くりくりとした瞳で惑星を観察してみるが、
ややあって溜息を一つつくと、すっと手を伸ばして惑星を摘んでいく。

その星は地球と同様に人類が繁栄し、発展した文明を持っていた。
近年には宇宙進出も果たし、産業社会から高度情報化社会を迎えつつあったが、
無秩序な開発と絶え間ない戦乱により大地は荒廃し、大気は汚染され、海洋は変色し、
綺麗なエメラルドグリーンの惑星はいつしかその輝きを失ってしまっていた。
だが、破滅的な開発と戦争は止まるところを知らず、この日も惑星上では二大国による局地的な戦闘が繰り広げられていた。
戦車が、戦闘機が、軍艦が、兵士達が、硝煙に覆われ色彩を失った戦場を駆け巡り、銃火を交える。
宇宙で起こっている異変など知る由もなく、ただ一心不乱に目前の敵を倒すだけ。

そこに現れたのは天使のように清純無垢な少女。
その姿を目にした途端、兵士達はこれまでの思いを全て吹き飛ばされた。
少女の美しさに目を奪われたのもあったが、彼女は超巨大というか、そんな言葉では到底表現ないほどで、
戦場の上空を楽々覆い尽くし、国を、大陸を、惑星さえすっぽり包んでも遥かに余りある大きさだったのだ。
宇宙空間にいるらしく、あまりの大きさ故にその全容を見ることはできなかったが、
身長はこの星の直径の十倍はゆうに有りそうで、彼女の綺麗な形をした胸の一方でさえこの星よりもずっと大きいように思われた。
全てを見通すかのような、あのぱっちりと澄んだ瞳には、さすがに収まりきらないだろうか。
しかし、薄桃色の端整な唇が開けば、こんな星など一口で含まれてしまいそうだ……。
ともかく、あまりにスケールの大きな光景に、戦闘を止めて天を仰ぎ見る両軍の兵士達。
アルカイックスマイルとでもいうか、少女は優しげに微笑んでいるようであり、
天文学的なサイズも相まって彼らは恐怖を遥かに通り越して畏敬の念さえ抱いていた。
天使……いや、まるで女神様だ。女神様そのものだ。これほどまでに美しく偉大な存在がどうして他にいるだろうか。
それに比べ、我々の、我々の争いの何とちっぽけで醜いことか。
小さな惑星の小さな大陸の小さな領土を巡って小さな戦闘を繰り広げる。
今更ながら、あまりに無益で愚かしいことだ。我ながら恥ずかしい。
しかし、女神様はそんな卑小な我々をこれからどうしようというのか。
宇宙スケールに見合った、慈愛に満ち溢れた御心で祝福してくれるのだろうか。
それとも、何かしら罰を与えるのかもしれない。あるいは……。

まさに審判の時。兵士達だけでなく、惑星の全住民が固唾を飲んで女神様の一挙手一投足を見守る。
一秒が一時間にも一年にも感じられるほど緊張する瞬間。
人類の、いや、この星の命運でさえ女神様の御心一つで決まる。
ならば、せめて自分だけでも。自分達の国だけでも。
人々は己が助かりたい一心で祈りを捧げ、戦場においても多くがそうであり、
また一部の過激な兵士達は他者を排してでも自分達こそが選ばれし民になるべく再び武器を手に取り、聖戦を開始する。
だが、次第に女神様の表情は険しくなり、悲しそうな表情へと変わってしまった。
たちまち動揺する人々。一体何が悪かったのだろうか。
彼らに考える時間は残されてなかった。裁きの時が訪れたのだ。

おもむろに惑星へと伸ばされた、女神様のしなやかな手。
摘まみ取ろうというのか、超巨大な親指と人差し指が惑星の両側からゆっくりと、
しかし住民にとっては人智を遥かに超えた途方もない速さで迫りくる。
たちまち惑星全域に等しく夜が訪れ、次の瞬間、惑星はギュッと挟まれてしまった。
彼女にしてみれば、直径が小指の長さほどもない小さな玉をただ摘まんだだけにすぎないのだろうが、
それだけで星の両側に位置する数千の都市が、数百万の建物が、数千万の人間が、
指の下で粉々になる間もなくまとめて押し潰され、すり潰されて消滅する。
高峻な山脈も、雄大な大地も、深淵な海溝も、一緒くたに陥没し、
数百万平方キロに渡って破れた地殻からは灼熱のマグマが噴き出すが、
白く透き通るように綺麗で繊細な指先は火傷を負うこともなく、また、熱がる素振りさえなかった。
こうして女神様が摘んだだけで惑星は直接的にこれだけの被害が及び、
さらに指先が大地に触れた際の衝撃は惑星全体に破滅的な大災害をもたらしていく。
両指の周囲から放射状に広がった衝撃波はこの星で最も高い山脈をも遥かに超越する高さとなり、
周辺都市や山地、草原、果ては海洋さえ一瞬のうちに痕跡もなく吹き飛ばして消し去り、
色を失い大きくひび割れた地表にはまるで星が血を流すかのようにマグマが滲み出す。
もはや人類はおろか、あらゆる生命体が絶滅の危機に瀕した惑星。
だが、これで終わりではなかった。

惑星を摘まんだ女神様は申し訳なさそうに微笑むと、指先にほんの少しだけ力を加えていく。
たったそれだけで、惑星は悲鳴を上げるかのようにギリギリと歪み、ヒビ割れ、
深く食い込んだ指先が星の核を押し潰しながら合わさるのと同時に真っ二つに割れてしまった。
もはやこの時点で星の命は尽きていたが、彼女が後始末をするかのように、
半球となった二欠片をまとめて指先で挟み取り、細かくすり潰していけば、
もはや星は影も形も残らず塵以下の存在と化していた。
地表に住んでいた数億の民も共に犠牲となったが、少女は微笑んだまま。
あまりに優しく、それでいて残酷な笑顔だった。

惑星を住民ごと破壊した少女は特に感慨深そうな様子もなくその場を後にすると、続いて隣の星に向かっていく。
星間距離は数億キロあったが、それを瞬時に優雅に遊泳して苦もなくたどり着いてしまう。
しかし、そこにあったのは大気もほとんどなく、生命の存在しない灰色の星だった。
大きさだけは先程の惑星よりもあるものの、所詮、彼女にとっては手のひら大のサイズ。
ほとんど観察することもなく、興味なさそうに片手で掴み取ると、ぐっと握り締めて粉々に砕き潰した。
最後にぽつんと残った恒星にも近づくと、熱さを感じる様子もなく両手で抱えてゆっくりと圧縮していき、
両腕とお腹との間で押し潰せば、一つの恒星系が完全に宇宙から姿を消した。

次に少女は別の星系へと遊泳すると、まずは外縁に浮かぶ飴玉サイズの蒼い星に近づいていく。
その星は地表の大半を雪や氷で覆われている極寒の惑星であった。
知的生命体は存在しえず、特に面白みもない星を彼女は一通り観察してから、
人差し指を口元に当て、どこか楽しそうな表情で考える素振りを見せた後、
何か良い事が思いついたか、悪戯っぽい笑みを浮かべると大きく口を開ける。
そして……少女は惑星をぱくっと一口で口腔内に収めてしまった。
アイスキャンディーを食べるかのように、惑星よりも大きな舌で舐め回され、
一つ一つは惑星よりは小さいものの、白く綺麗で並びのいい超巨大な歯によって粉々に砕かれる蒼星。
最後は唾液と混じってドロドロになった残骸を彼女がごくりと一飲みすれば、
それらはブラックホールのような全てを溶かす胃袋の中へと消えていった。
こうして惑星を食し、満足そうにお腹をさする少女。
それから他の星にも近づいて知的生命体がいないのを見て取ると、
腹ごなしをするかのように、赤い星は叩き割って残骸を両手でパンと挟み潰し、
やや大きな琥珀色の星は勢い良く蹴り飛ばして粉微塵にし、小さな緑星は足指の間に挟んで粉々にすり潰してしまう。
身長ほどある恒星も小さく引き千切っていけば、また一つ、銀河から恒星系が消滅した。

 * * * * *

やがてとある星系にもやって来た少女。
まずはいつものように外縁の星から観察を済ませ、どれも生命が存在していないのを感じ取ると、
片手では収まりきらない大きさの青白い星は両手で覆うようにして握り締めて粉砕し、
身長の半分くらいの黄色い星はお尻に敷いて半分くらい押し潰したところでその上に立ち、
残りも素足で何度も足踏みすることで踏み砕いて細かな星屑に変える。
幾つかの小さな衛星群も、それぞれの指の間に挟み入れてから閉じれば一度に砕け散ってしまった。
それから、少女は残った深緑色の惑星にも近づいていく。

その星は銀河有数の文明を誇る恒星間国家の植民星だった。
直径はおよそ一万キロで、資源・環境とも良好であり、また本星ともそう遠く離れていないため、
恒星間国家は文明の遅れた先住民を駆逐し、奴隷として使役しながら経済・軍事の一大拠点を築いていた。
今や人口は本星人だけでも百数十億に達し、先住民も合わせると数百億にもなっていたが、
増えすぎた人口により暴動が頻発し、また本星と対等な立場を求めて独立の機運も高まっており、
治安維持名目で数万隻の宇宙艦隊が惑星上に待機するなど緊張した状態が続いていた。

そんな最中、外周の惑星を破壊しながら接近してきた、巨大惑星に匹敵するほど超巨大な少女。
あまりに突拍子もなく、それでいて破滅的で、一惑星の地位どころか惑星自体の存続に関わる超非常事態を受け、
もはや独立の是非などという感情なしに惑星を守ろうと宇宙艦隊が全戦闘艦艇を率い迎撃に向かっていく。
しかし、いくら恒星間国家の誇る強力な艦隊とはいえ、惑星そのもののような大きさの少女を相手では
数万隻による主砲の一斉射であっても満足にダメージを与えられるはずもなく、
それどころか実際はろくに隊列を揃える間も、攻撃を加える間もなく、
迫りくる巨大な胸に艦隊の大半が粉砕され、残りもドレスに弾かれて爆ぜ、一瞬で全滅してしまった。
また、惑星上からも数千発のミサイルが発射されるが、少女に比してあまりに小さな火花が散るだけで何ら効果がなかった。
そして、少女は何事もなかったかのように植民星へと肉薄すると、
少しの間眺めてから、何か悪いものでも感じ取ったのか一瞬表情を曇らせるが、
すぐに微笑むと、笑顔のまま惑星を胸の谷間に挟み込んでいく。

たちまち絶叫の渦に飲み込まれる数百億の住民。
その圧倒的な火力で我々を抑えつけていたとはいえ、この星を守ろうと立ち向かった宇宙艦隊に
ただ直進しただけで数万隻を瞬く間に全滅させた超巨大少女が、
小惑星をも破壊しうる大型対宙ミサイル群も全て苦もなく受け止め、惑星のすぐ目の前にやって来たのだ。
しかし、混乱も長くは続かなかった。
少女が両手を形良い胸に添えながら星を胸の谷間に収めることで、
両側から迫り来た惑星サイズのおっぱいによって人々は数千の都市ごと一瞬にして押し潰されてしまったのだ。
また、宇宙船に乗って脱出を図ったり、あるいは地下数千メートルにあるシェルターに避難しようとした者も少なからずいたが、
ほとんどの船は大気圏を脱出する時間も与えられずに撃墜されて離陸した宇宙港ごと消滅させられ、
大山脈も桁が一つ二つ違う大渓谷にされるようなプレスの前にはシェルターも何の役にも立たなかった。
そして、少女が惑星を挟んだまま胸を揉みしだいていけば、
さらに多くの都市が、地形が、生命が揺れ動く胸にすり潰され、
惑星自体大きく抉れ、幾つにも砕け、ついには粉々に潰れて消滅してしまう。
植民星の抱えていた複雑な問題など彼女には関係なく、また、人類は、惑星はあまりに無力だった。

こうして、この恒星系からも生命体は完全に消失した。

その後、少女は自身の数倍ある恒星に飛び込んで、
一千万度以上の温度で熱せられているにもかかわらずぴんぴんしながら、
その中心核でくるりと回って一気に掻き散らしてから別な恒星系にも到来する。
そしてまずは数億人が住んでいた二連星の植民星に近づき、困ったような笑顔を浮かべると、
両手でそれぞれを掴み取ってぶつけ合わせ、一つにまとめてしまう。
これだけで、住民が何が起きたか分からないうちに二つの星のほぼ全ての都市、住民が死滅していたが、
さらに彼女は優しくゆっくりと、しかし人々にとっては恐ろしく速く、
合体した二連星を締めつけて粉々に粉砕していった。

続いて少女は隣の藍色の植民星にも向かうと、素足を伸ばして爪先をぐりぐり押しつけ、
迎撃しようと出撃しつつあった宇宙艦隊や、都市という都市、平原、山脈や海洋も大きく抉り取って
またしてもあっという間に数十億人をすり潰してしまう。
さらに、追い討ちをかけるかのように両足で惑星を挟み込むと、
撫で回すようにして地表のほぼ全てを剥ぎ取り、削り取り、
締めにすっかり赤黒くなった星を一気に力を込めて挟み潰せばこの惑星も消滅した。

やがて恒星間国家の本土にも侵入した少女。
もはや一つ一つ見るまでもないのか、外縁の星々を資源採掘基地や軍事基地ごと体当たりで粉砕し、
進路上の全てを瞬時に塵へと変えながら本星に向かっていく。
その直前には直径数百キロにもなる超巨大要塞が立ち塞がっていたが、
身長十五万キロ以上の彼女からしてみれば、人間感覚で数ミリしかない砂粒のようなもの。
惑星を破壊できるほどの威力を持った要塞砲も、数万隻の駐留艦隊の一斉射撃も、
少女にとってはほんの少しくすぐったいものでしかなく、
一応自身が攻撃されているのが分かったのか、初めは様子を見ていたものの、
すぐに悪戯っぽい笑顔を浮かべると、指先でちょいちょい弄ってから、ピンと跳ねる。
それだけで超巨大要塞も数万隻の艦隊も粉々に弾け飛んでしまった。

そして、いよいよ丸裸の本星と対面した少女。
一千億近い人々の絶望をよそに、美しくも恐ろしい微笑みを浮かべながら近づくと、
身長の十分の一ほどもない惑星を滑らかな丸みを帯びた太ももの間に収め、挟み込んでいく。
惑星そのものが一つの巨大都市であるかのようにほぼ全面を摩天楼に覆われた本星も、
少女にとっては柔らかな粘土のようなものでしかない。
惑星上に待機していた残存艦隊や地上からの最後の抵抗も虚しく、
無数の建物を押し潰しながら、初めは優しく、次第にゆっくりと締めつけていけば、
惑星は歪み、縮み、ぴったりと閉じられた太ももの間に消えていった。
そして、脚が開かれた時、そこには何も残されていなかった。

こうして銀河有数の恒星間国家はたった一人の少女によって呆気なく滅ぼされたのであった……。

 * * * * *

それから幾つもの星々を星系ごと消滅させ、銀河の辺境へとやってきた少女。
もはや一々相手にするのも飽きたのか、外縁の星々など無視して一直線に蒼い星へと近づいていく。

その星――地球は大混乱に陥っていた。
突如、地球はおろか太陽系最大の惑星である木星よりも巨大な少女が
どこからともなく出現し、こちらに向かってきたのだ。

何かメッセージを送るべきなのか。
だが、光信号を送ろうとも、その意味を理解してくれる保証はなく、
そもそも惑星サイズの彼女に見てもらうには都市一つ分くらいの超巨大な光源が必要と推測され、
実現可能性はともかく現実的にあまりにも時間がなかった。
また、万が一の場合に備えて迎撃しようにも、相手が宇宙にいるのでは手も足も出ない。
それに、地球上のいかなる兵器を用いたところで惑星サイズの少女を相手にしては
何ら傷つけることもできないのは疑いようがなかった。

果たして人類は、地球はこのまま滅ぼされてしまうのだろうか。
たとえ少女が敵意を持っていなくても、そのあまりに巨大な存在自体が脅威なのだ。
ただ握るだけで、摘むだけで、挟むだけで、全てが終わる。
もはや気力を失い、目を閉じ指を組んで神に祈りを捧げる人々。
彼女はとても偉大で、美しい。そう、女神様のように。
そもそも、女神様に卑小な我々が何かしようというのが間違いなのだ。
ただ無心に祈るのみ……。

人類のほとんどがそうしていると、
いつの間にか地球に手を出せる距離まで到来していた女神様は
首をかしげながら不思議な表情をしていたが、すぐに優しく微笑みかけてきた。
そして、お近づきの印なのか、ちょっと指先を伸ばして触れてくる。
直径千キロ超のそれが日本列島に下ろされ、全てを押し潰していく。
だが、もはや人々は泣き叫んだりせず、成すがままに消滅していった。
もっとも、あまりに一瞬の出来事であったため何かをする時間がなかったともいえるが。

とはいえ、人々を傷つけるのは女神様の本意ではなかったようで、
慌てて指先をに引っ込めると、指先型の痛々しい傷跡に優しく吐息を吹きかけていく。
すると、大地が、緑が、生命が蘇り、たちまち地球は元通りになった。
まさしく女神様の御業。

さらに、申し訳なさそうな表情をしていた女神様は、
お詫びにということか、地球を摘むとチュッとキスをする。
ただし今度は不思議な力で守ってくれているのか、地球が傷つくこともなかった。

やがて地球を離れていく女神様。
たちまちその姿は見えなくなり、太陽系に静寂が訪れた。
この星が無事なのは気まぐれだったのか、それとも……。
後に分かった話であるが、同時期に銀河からかなりの星が消滅していたようだった。
恒星も、惑星も、数千数万の単位で永遠に輝きを失ってしまっている。
それが、あの女神様の所業だったのか、あるいは……。
だが、何にせよ、地には平和が訪れた。
もはや人々は争いを忘れ、女神様に全てを捧げようと生きていく。
いつの日にかまた来るかもしれない、女神様に悲しい思いをさせないように。
いつの日にかまた会えるかもしれない、女神様に成長した我々の姿を見てもらうために。

たとえ平和が束の間で、再会が永遠の先だとしても……。

 

おしまい

 

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