破壊のしかた ‐Re‐

蒼井奈々は16歳の女子高生。可愛らしい顔に、人懐っこい笑顔が素敵な女の子だ。
身長156cm、体重45kgと平均的な体型で、勉強も運動も人並な奈々だが、彼女にはある特別な能力があった。
『巨大化』である。指を組んで強く念じるだけで、常人の何百倍にも大きくなれるのだ。
彼女はこの能力を使ってストレス発散に破壊を楽しみ、街を壊滅させていく…

 

キキーッ! ガシャン!!

ある昼下がり。見通しが良く、交差点でもない国道上で衝突事故は起きた。
衝撃音を聞き、近くにいた人々は立ち止まって事故現場を眺めてみるが、その光景は何とも奇妙なものであった。
国道には前部が完全に拉げて大破した車と、その車の何十倍も巨大な黒い塊のようなものがあったのだ。
よく見れば、それは大きさこそ違えど、どこか見覚えのある形をしていた。
まるでローファーのような物体が二つ、四車線の道路を封鎖するように置かれている。
もちろん、つい直前までこんなものはどこにもなかったはずである。
人々は訝しがりながらも黒い塊の全体像を見ようと顔を少し上に向けてみれば、
紺色の太く巨大な柱のようなものがそこから何十メートルも高く伸びており、
滑らかな丸みを帯びたそれは途中で肌色に色を変えながら、紺色のひらひらしたカーテンに包まれていた。
その上はテニスコート何面分もあるような広大な面積がまっさらな白となり、さらに首が痛くなるほど見上げると…そこには顔があった。
地上を見下ろして微笑んでいる少女のような可愛らしいそれも、しかし他のものと同様、巨大という言葉がぴったりと合う大きさ。
つまるところ、セーラー服姿の巨大女子高生。周囲の建物と比較して、身長は150m以上ありそうだ。
体重も相応にあるだろう。その証拠に、彼女の巨体を支えきれずにアスファルトの地面は深く陥没し、無数の亀裂が走っていた。

「うわぁ。み~んな小さくなっちゃった。まるでおもちゃみたい」

不意に巨大な少女――奈々が可愛らしくも雷鳴のような声でしゃべった。
周囲の人々の動揺をよそに、奈々は続ける。

「こんなに小さな街なんて私が全部壊してあげるね。それじゃ、いっくよ~。えいっ!」

ドッシャアアアアアンン!!

奈々は掛け声とともに、いきなり道路脇の雑居ビルを巨大なローファーで蹴飛ばした。
7階建ての建物はその後背の建物共々豆腐で出来ているかのように瞬時に爆散して、
瓦礫や机、棚、椅子などあらゆるものを宙に舞い散らせ、しばらくしてからそれらは雨のように地上へと降り注ぐ。
少女の可愛らしい顔からは想像もつかないほどの破壊力を目の当たりにした人々は慌てて彼女から少しでも離れようと全力で逃げ出すが、
奈々は彼らに向かって道路沿いの建物を次々と蹴りつけ、投げつけて大量の瓦礫で埋め、
また近くにいる者は無慈悲に一人ずつローファーで踏み潰し、すり潰していった。
こうして近くにいる人々を一通り殲滅したところで、奈々はちょうど真横にあった10階建てオフィスビルの前に立つと、
膝ほどしかない高さの建物の中を観察しようと屈みこみ、ぐっと顔を近づけて覗き込んでいく。
その際、肉付きの良いお尻が向かいのオフィスビルに勢いよくぶつかり、建物をいとも簡単に倒壊させてしまっていたが、
そんなことなどお構いなしに、両手を頬に当て楽しそうな表情で窓越しにビルの内部を一瞥する。
するとそこにはまだ大勢の社員が残っていた。

突然の少女の声による破壊宣言と、それに続き轟く破壊音、爆発音にただならぬ事態を察したものの、
絶え間ない震動や恐怖から逃げることも出来ずに社屋に残っていた数十人の社員は、
しばらくの後、一際大きな衝撃と轟音に堪らず、恐る恐る窓の方を向くとその視線の先にはなぜか紺色の壁があった。
巨大なカーテンのような壁は窓側一面を覆っていたが、次第に上から現れたモノに取って代わっていく。
…人の顔の形をしたそれはとても大きかった。遠くから見れば笑顔の可愛らしい少女の顔なのかもしれないが、
間近で見ると、楽しげに軽く開いた口は何十人も一飲みに出来そうな大きさがあり、
ちらりと覗く綺麗な白い歯は人間を含めあらゆるものを簡単に噛み砕くことが出来そうだ。
そして、くりくりとした大きな瞳は獲物を探すかのようにこの建物の中を覗き込んでいる。
あまりの迫力に社員はますます怯え、震え、腰を抜かしてしまい、もはや逃げることなど到底出来なかった。

彼らの恐怖心をひしひしと見てとった奈々は満足そうに微笑むと、
立ち上がって右足を建物の屋上に乗せ、ビルを左右にグラグラと揺さぶっていく。

「ほらほらぁ、地震だよ~」

たちまち大震動に見舞われる建物。棚は全て倒れ、机や椅子は揺れに翻弄されて床の上を滑り、人々も満足に立つことさえ出来なくなる。
やがて建物は至る所に亀裂が走って大きく歪み、ガラガラと音を立てて無残に倒壊してしまった。
もはやただの瓦礫の山と化したオフィスビルだが、奈々は建物の残骸を念入りに踏み固めていく。
瓦礫さえも押し固められ、圧縮されたビルの跡地にはもはや何も原形を留めていなかった。

「あははっ。み~んな潰れちゃった! さあて、次はどれを壊そっかな?」

邪悪な笑みを浮かべながら、低層のビルを次々に踏み潰して歩き回る奈々。
歩行の邪魔にさえならない、あまりに脆く小さすぎる建物など全く相手にしていないのだ。
脛や踝以下しかない高さの建物は彼女に僅かな感触を与えただけで、
一瞬にして踏み抜かれ、蹴散らされ、瓦礫や粉塵を撒き散らしながら次々に倒壊していく。
膝くらいの高さの建物は彼女に相手にしてもらえたが、それでも壊されることに変わりなかった。
8階建ての新築ビルは玄関に蹴りを浴びせられ、そのままローファーを一気に振り上げられることで容易く粉砕されてしまう。
10階建てのマンションは脚を中央に突き刺され、それを大きく掻き回されることで崩れ落ちてしまった。
あらゆる建物も奈々にとっては柔なおもちゃにすぎないのだ。

「ふふ、もろ~い」

笑い声を上げながらも奈々はさらに多くの建物を破壊していく。
7階建ての雑居ビルなどは隣の建物ごと薙ぎ払われてバラバラに吹き飛び、
街中にある神社も境内を踏み躙られた後、本殿を一踏みで粉々に破砕される。
進路上にあるもの全てを破壊しながら、奈々はあっという間に市役所の前まで来てしまった。
駐車場に放置された何台もの車を膝や脛ですり潰しながら、ズズンと音を立て膝立ちする奈々。
それでも10階建ての市役所よりもずっと高い。

部下たちが自分の命恋しさに職務を放棄して我先にと逃げる中、
巨大な少女が街を破壊するのを屋上で一人呆然と眺めていた市長の目の前には
いつの間にか巨大な白地のカーテンのような壁が一面に広がっていた。
その壁はゆっくりと彼に近づいていく。

「こんなところで何してるのかな。早く逃げないと、私のおっぱいで潰しちゃうよ?」

その白い壁――セーラー服の持ち主、奈々はクスクス笑いながら上半身を徐々に倒してきたのだ。
市長は彼女がこれから何をしでかそうとしているのか理解することは出来たが、
屋上に今にも覆い被さろうとする巨大なセーラー服を前にへたり込み、動けなくなってしまっていた。
もっとも、今更逃げようとしたところで助かるはずもなかったが。
その間にも奈々は両手で体重を支えながら上半身を倒していく。
そして服越しに胸が屋上へと触れた時、一気に建物の上に倒れ込んだ。

ズドオオオオオオン!!!

重々しい衝撃音が響き渡り、振動が周囲を揺るがす。
近くに停まっていた車は尽く宙に突き上げられて引っくり返ったり横転したりして、
付近の脆弱な構造物も次々に傾いたり倒れたりする始末。
当然、直撃を受けた市役所は市長とともに押し潰され、
僅かな外壁を残して跡形もなく消滅してしまった。

「んっ、気持ちいい~!」

市役所を丸々身体で押し潰したにもかかわらず、奈々は快感に満ちた声を出す。
彼女は胸やお腹などの下で建物が潰れるのを感じ取っているのだ。
その声と身体の震えで外壁も残らず倒壊してしまっていた。

こうして市役所周辺を粗方破壊した奈々だが、この程度で満足するはずもなく、
セーラー服に付いた瓦礫を払い落としながら起き上がると、何か面白そうなものがないか辺りを見渡す。
すると、数百メートル先に人々でごった返している場所が目に留まった。

「ふふっ、今度はあれを壊しちゃおっと」

奈々は不気味に微笑むと、早速『あれ』に向かって歩いて行った。


巨大な少女から運よく難を逃れていた人々は市役所から少し離れたターミナル駅へと集まっていた。
この近辺はまだ破壊を免れていたため、電車やバスといった交通機関がまだ動いていたからだ。
しかしあまりの人の多さにダイヤは大きく乱れ、道路も避難民や自動車で大渋滞になってしまう。
そんな中、早くもやって来た地響き。初めは小さく、次第に大きく大きくなっていく。
先程まで市役所の近くにいた巨大な少女が、一帯を破壊し終えたのか、まっすぐこちらに向かってきたのだ。
高層・低層問わず駅前の建物を楽しそうに踏み潰し、蹴散らしながらどんどん近づいてくる。
彼女の足元で逃げ回っている人々も、大渋滞の車列ごと次々と踏み潰されてしまう。

避難誘導にあたっていた警察は、目の前で繰り広げられる虐殺を目の当たりにして、
これを見過ごすことなど到底出来ず、果敢に彼女の前へと展開して銃撃を行うが、
乾いた音が虚しく鳴り響くだけで、攻撃はまるで効果がなかった。

「あれ? もしかして私を攻撃しているのかなぁ?」

弱々しい銃声でようやく足元の警官隊の存在に気づいた奈々は、
侮蔑するような表情で彼らを見下ろしながら挑発する。

「そんな生意気な小人さんはみんな潰しちゃうよ? こんな風に…ね!」

そして警官隊の頭上にぬうっと持ち上げられる巨大なローファー。
迫りくる巨大な靴底にもはや彼らは闘争心を失い、拳銃を放り投げて遁走しようとしたが、
次の瞬間、多くの者は硬いアスファルトの地面にめり込んでしまっていた。
また、辛うじて踏み潰されずにすんだ警官も、振り下ろされた足が巻き起こす振動と衝撃で吹き飛ばされ、
しばらく宙を舞った後、地面や建物の外壁に強く叩きつけられて動けなくなってしまう。
そんな彼らを無慈悲にも巨大な少女は爪先で一人ずつ確実に仕留めていった。

こうしてあっという間に警官隊を全滅させた奈々。

「私に逆らった小人さんはこうなるんだよ。あはは!」

すでに踏み潰した亡骸のたくさん集まっている場所をさらにぐりぐりと踏み躙りながら、高らかに笑う。
あまりに凄惨な光景を目の当たりにして人々はしばし固まるほどであったが、
奈々にとっては愚かにも歯向かってきたちっぽけなアリたちを踏みつけたような感覚でしかない。
大した感慨もなく、すぐに次の獲物に狙いをつけると足を踏み下ろしていく。
プチプチと音を立てて潰れる人々。どれだけ沢山いようが関係ない。
奈々が踏みつけた場所では数万トンの体重がもたらす凄絶な圧力によって
皆一様に原形を全く留めていないほど薄く圧縮されてしまうのだ。

奈々は先程まで人で溢れていた通りを血の海に変えながら人々を駅の方へと追い詰めていき、
さらに駅を挟んで反対側の建物を何棟か蹴り倒し、駅の両端にある線路と道路も丁寧に踏み躙って寸断し、逃げ道を塞いだ。
追い詰められた人々は駅舎の入口へと殺到するが、すでに駅の中も人で一杯でほとんど進むことが出来ない。
そうこうしている間に奈々は人々で溢れている駅前ロータリーに足を踏み入れた。
たちまちローファーの下に消えていく数十人の群衆と、数台のタクシー。
さらにもう一歩。『些細な』犠牲を出しながらロータリーを占拠した奈々は慌てふためく人々を楽しそうに見下ろす。
そして悪戯っぽい笑みを浮かべると、周囲が人で埋め尽くされているのにもかかわらず、脚を左右に揺り動かした。
満足に動くことも出来ないまま、為す術なく巨大なローファーに弾き飛ばされていく数多の人々。
次々と宙に投げ出されては地面や建物、群衆にぶつかり、絶命していく。

「うーん、やっぱり直に潰した方が楽しいかな」

だが、それだけでは物足りない奈々は彼らの上に膝立ちをして脛を地面にぐりぐりとすりつける。
すると、またしても大勢の人々が両脚の動きに巻き込まれ、すり潰され、原形も残さず消えていった。

ロータリーも血の海に変えた奈々はバスターミナルにも魔の手を伸ばした。
膝立ちのままにじり寄ると、まずは手前に停まっていた一台のバスを親指と人差し指で摘まみ取ろうとする。
その車内は、外で繰り広げられる大虐殺をまざまざと見せつけられ、うずくまって震えあがる人々で満員だったが、
彼らの絶叫と悲鳴のハーモニーを楽しむ前に、つい力を入れすぎてバスはぺしゃんこになってしまった。

「てへっ。潰れちゃった」

奈々は指の間で血まみれの薄い鉄板と化したバスの残骸をポイっと投げ捨てると、
今度は慎重にもう一台のバスを掴み、顔の高さまで持ち上げて車内を覗き込む。
すると、思った通り中にはたくさんの小人たちがいた。
こんな物の中に居ないでさっさと逃げればいいのに、なんて小馬鹿にしつつ、
その恐怖でいっぱいの表情を見て微笑むと、まずはフロントガラスに親指の爪を突き刺して粉々に砕き、天井をバリッとはがす。
続いてバスをひっくり返して乗客たちを手のひらに落とすと、彼らに見せつけるようにして反対の手でバスをグシャッと握り潰した。

「今度はあなた達がこうなるんだよ」

手のひらの上に転がっている乗客達に向かってニヤニヤしながら死刑宣告する奈々。
一旦は助かったと思ったものの、たちまち彼らの間に漂う無力感、絶望感。
元気な何人かは逃げ場を求めて柔らかな肌の境界に走ったが、身を乗り出してみると地面までは相当の高さがある。
地上十数階にもなるような高度から飛び降りることなどとても出来ず、悲嘆に暮れるだけであった。
そんな彼らの様子を奈々はしばらく楽しそうに観察していたが、
あまりの動きの無さにすぐ飽きてしまい、ゆっくりと手のひらを閉じていく。
乗客に容赦なく襲い掛かる5本の指。やがてグッと握り締めると小さな絶叫が聞こえ、次いで静寂が訪れた。

「…ふふ、手のひらが真っ赤になっちゃった」

朱に染まった手のひらを見て微笑み、それをぺろっと綺麗に舐め取る奈々。
人々は奈々に弄ばれ、嬲り殺されるだけの存在でしかなかった。

その後バスターミナルを踏み均して完全に破壊した奈々はついに駅の中へと足を踏み入れた。
まずは8階建ての駅ビルを一瞬で屋上から地下街まで踏み抜き、いとも簡単に倒壊させ、
続いて線路を跨いで駅の真ん中に立つと、ゆっくりとお尻を降ろしていく。
たちまち大混乱に陥る駅の構内。オーロラのようなスカートに包まれた巨大なお尻が、まるで駅全体を覆うように降臨してくるのだ。
連絡通路やホームの屋根はむにむにと柔らかそうなお尻に抵抗することなくあっさりと折り曲げられ、架線はブチブチ切られていく。
停車中の満員電車も、乗客ごと何両と巻き込まれて拉げながらお尻の下へと潰されてしまう。
固いはずのホームもその上に溢れる人と共に陥没し、地下通路も押し潰してようやくお尻は地面に着いた。
次に奈々は脚をハの字に伸ばし、駅を取り囲むようにする。…パンツは白かった。
だが、人々はそんなことを考える余裕もなくなっていた。三方を巨大な少女の身体に囲まれているのだ。
柔らかそうな太ももやふくらはぎは駅舎を押し潰して巨大な壁のように立ちはばかり、
純白のパンツも電車やホームを容赦なく圧縮しながらそびえ、
これらをくぐり抜けたり乗り越えたりすることなど到底不可能である。

「どう? 奈々の身体って大きいでしょ。たっぷり堪能しちゃっていいんだよ?」

そんな光景を見て愕然としてしまう人々の頭上から、可愛らしくも雷鳴のような奈々の声が轟く。
あまりに桁違いな存在の巨大女子高生。一見、小娘のような少女に彼らは弄ばれているのだ。
駅に追い詰められた時から感じていたが、この期に及び、もう駄目かもしれない。
それでも人々は最後の希望を託して奈々の両脚の間を通り抜けようとした。だが。

「誰も逃がさないよ~」

奈々は悪戯っぽい笑顔を浮かべながら上半身を前に倒し、両手を爪先の間の地面に突き刺すと、
地面を削りながら線路や電車や人間やホームなどあらゆるものを太ももの間へとかき寄せていった。そして。

「それじゃ、私の太ももでみんなを挟んじゃいま~す」

ちょっとした堆積物の山が築かれたところで元気よく言うと、脚をゆっくりと閉じていった。
駅舎の残骸はさらにすり潰され、堆積物も巨大な太ももに押し寄せられ、真ん中へと集められていく。
『優しく』かき寄せたので、怪我はともかく辛うじて生き残っていた多くの人々だが、
様々なモノに挟まれて身動きが取れない上に、さらに強く圧迫されていき、悲鳴や絶叫も一段と大きくなる。
だが、段々圧縮されるにつれてその声も次第に小さくなり、最後はグシャアッというプレス音とともに完全に消滅した。

「あはっ。ぺっちゃんこになっちゃった!」

薄っぺらな一枚のペーストを間に挟んでくっつけられた太ももを見て、嗜虐的な笑みを浮かべる奈々。
もはや駅の半分は停車中の電車も含めて原形を全く留めておらず、全体が真っ赤に彩られていたが、
そんな惨たらしい光景も、ますます彼女を楽しませるものでしかなかった。
そしてもう反対側も同様にして、奈々がゆっくりと立ち上がった時、
先程まで数千人がいたはずの駅の構内には一人の生存者も残っていなかった。


駅舎の僅かに破壊を免れた部分も余さず踏み躙った奈々は、
続いて駅の反対側に広がる住宅街の方を向いて腰に手を当て、仁王立ちする。

「小人のみんな~、今度はこっちを壊してあげるね~」

そして、大胆不敵な破壊宣言。だが、誰も止めることなど出来ない。逃れることさえ出来ない。
奈々はそんな人々の悲壮感をひしひしと感じ、ますます悦に入りながら、
まずは近くにあるデパートに歩み寄って一撃で蹴り壊し、瓦礫の山と化した建物の残骸を粉々に踏み躙ると、
次の瞬間には隣に建っていたホテルに向かってジャンプし、両足で勢いよく踏み潰した。
続いて奈々は飲食店や家屋を当たり前のように踏み潰しながらマンションが立ち並ぶ団地に近づいていく。
その団地は8階建てのマンションが3棟ずつ二列に立ち並んでいたが、
片側の1棟が真ん中を踏み抜かれ、衝撃によって建物全体が脆くも倒壊したのを皮切りに、
奥の2棟もまとめて蹴り抜かれ、巨大な穴を穿たれたところで1棟ずつ丁寧に踏み固められてしまう。
もう片側も、まず1棟が巨大なローファーに土台ごと薙ぎ払われて倒壊し、
残った2棟もしゃがみ込んだ奈々の拳に叩き壊され、両手で挟み潰されて崩壊してしまった。
あっという間に団地も破壊した奈々はさらに20階建ての高層マンションにも襲い掛かった。
上層階をパンツに擦りつけ、削りながら真上に移動して両脚の間にマンションを挟み込むと、
素肌が眩しい太ももで、ハイソックスに包まれたふくらはぎで、建物を徐々に締めつけていく。
その圧力に難なく外壁はボロボロと崩れ落ち、建物全体も大きく軋んでしまう。
次第に脚は建物の中へ中へと食い込み、ボフッという破裂音がした直後、
ついにマンションは粉塵を大量に撒き散らしながらガラガラと崩落してしまった。

「ふふっ、また壊しちゃった」

高層建築物を簡単に破壊してのけ、嬉々とした笑顔の奈々。

「でも、まだまだ建物がたくさんあるね。…そうだ、いいこと考えちゃった」

奈々はまだあまり被害を受けていない住宅街を見渡しながら少し考える素振りを見せるも、
すぐに何か思いついたのか、悪戯っぽい笑顔で言うと、突然大きな脚を振り下ろしながら走りだした。
一歩一歩巻き起こされる、凄まじい振動と衝撃。直撃を受けた建物など一瞬にして木端微塵になってしまう。

「のろまな小人さんはみんな潰しちゃうぞ~」

手を大きく開き、ブーンと楽しそうに住宅街を粉砕して走り回る奈々。
木造家屋も、鉄筋家屋も、アパートも、マンションも一切関係なく踏み潰され、蹴り壊されていく。
脆い建物など彼女が巻き起こす振動だけで倒壊し、人や車なども容易く宙に巻き上げられてしまう。
縦横無尽に走り回る奈々に、たちまち住宅街は靴型のクレーターだらけとなり、
建物という建物は尽く破壊され、大勢の人々も踏み潰され蹴散らされて絶命していた。

住宅街で暴れ回っていた奈々だが、ふと中学校を見つけると急停止した。
その際、3階建てのアパート2棟が地面ごと抉り取られて粉砕されたのは些事でしかない。
全く気に留めず、プールを踏み潰しながらとりあえず学校の敷地に踏み込むと、
膝立ちして顔を地面すれすれの高さまで近づけ、校舎の中を覗いてみる。
…そこには誰もいなかった。つまらなそうに校舎を拳で何度も叩き壊す奈々。
続いて体育館。屋根をバリバリとはぎ取ると、中には数十人の中学生がいた。
突然の事態にどうしていいか分からず、ひとまずここに避難していたのだろう。
だが、奈々は怯えて不安そうに見つめる彼らに人差し指を差し向けると、
無慈悲にも一人ずつプチプチとすり潰していく。

「早く逃げないと、おっきなお姉さんが潰しちゃうよ?」

仲間が一瞬にして潰されたのを見て、中学生たちは恐怖に震え上がり、
生き延びたいという一心で懸命に逃げ回ったが、かえって奈々を楽しませるだけであった。
わずか一本の指に、一人また一人と潰され、一分も経たずして全滅させられてしまう。
仕上げに体育館も踏み固められ、中学校も奈々によって完全に破壊されてしまった。


住宅街も破壊した奈々は、続いて最初とは別方向にあるビル街に侵攻した。

「あはは。おっきなおもちゃがたくさん!」

数多のビルを見下ろしながら、雷鳴のような声で笑う奈々。
低層のビルをグシャグシャと踏み潰し、たまにある高層ビルを弄びつつ、楽しそうに歩いていく。
12階建てのオフィスビルは膝蹴りをされ、上層階を抉り取られて背が低くなったところを踏み潰され、
15階建ての複合ビルは手でグイッと押されることで形を保ったままゆっくりと倒れていき、
やがて何棟かのビルを巻き込みながら横倒しになり、それらのビル共々木端微塵になってしまった。

しばらくビル街を思うがままに突き進んでいた奈々だが、何を思ったのか急に膝立ちをする。
その際、何棟かの建物が膝に押し潰されたが、そんなことなどお構いなしに、
奈々はそのままの姿勢で地面を削って2本の深々とした広い溝を造りながら進んでいく。
そして真新しいオフィスビルを両脚の間に収めたのを確認すると、一気に太ももで挟んだ。

グワッシャアアアアン!!

むっちりとした太ももに圧迫され、瓦礫が、ガラスが、粉塵が空を舞う。
完成したばかりのビルであったが、耐震性に優れた最新の工法など巨大な少女の前には何の役にも立たず、
瞬時に粉砕されて大部分は太ももの間にすり潰され、残りも辺りに散り散りとなってしまった。

「んっ! 気持ちいいー!」

うっとりとした表情の奈々。余韻を楽しむかのように、もじもじと太ももを擦り合わせている。
ビルを太ももで挟み潰すこと快感を覚えてしまった奈々は、太ももで低層の建物を跳ね飛ばし、
その残骸や人、車、街路樹などを脛ですり潰しながら次々に高層ビルを股の間に挟み込んでは勢いよく粉砕していく。
恐ろしいほどの破壊力。太ももに挟み潰された建物の多くは土台さえ残らず消滅してしまう。そしてこの建物も。

9階建ての地方銀行。すでに多くの行員は逃げ出していたが、数人が屋上に出て、街で暴れ回る巨大な少女を見物していた。
何とも物好きであるが、それがどれほど危険な行為だか理解していないのだろうか。
もっとも、逃げたところでどうにかなるものでないのも事実ではあった。
しかし、そんな彼らも巨大な脚が両脇の建物を粉砕し、屋上がスカートにすっぽりと包まれると、
頭上に仰ぎ見れるパンツなど目もくれず、慌てて建物の中に入り階段を転げ落ちるように駆け下りていく。
だが、程なくして轟音とともに巨大な肌色の壁が外壁を突き破り、彼らを弾き飛ばしてしまう。
そして次の瞬間、彼らは太ももの間でぺちゃんこになり、建物も木端微塵となった。

こうして次々に高層ビルを太ももで挟み潰した奈々は満足気に一伸びする。

「あはは、楽しい~! さ~て、次はどんな方法で遊ぼうかなぁ?」

それから、埃を払いつつ立ち上がると、辺りを一瞥して面白そうなことを考える。
するとすぐに何か思いついたのか、ニヤリと笑うと片足を後ろに大きく反らし、
勢いをつけて、密集しているビル群を土台から思いっきり蹴り上げた。

「え~い!」

ドッシャアアアアアアアンン!!

爆撃のような轟音。巨大なローファーは大小数棟の建物を一撃で蹴り壊しただけに留まらず、
地面も大きく削って土砂を大量に巻き上げ、瓦礫や粉塵、土砂の塊をその先の地区へと撒き散らす。
降り注ぐ土の雨によって逃げ惑っていた人々はもちろん、車や建物までが押し潰されてしまう。
それが何度か繰り返されることで奈々の周りにあった建物は尽く飛散し、
足の届かない範囲のビル街も多くが瓦礫や土砂で覆われていた。

「ふふっ、埋没しちゃった」

そんな光景を見て、楽しそうに微笑む奈々。
すでに付近はほとんど破壊し尽くされ、目ぼしいものは何も残っていない。
だが、ふと顔を上げてみると、何やら背の高い建物が目に留まった。

「なーんだ、まだあんなものがあったなんて。今度はあれで遊んじゃおっと」

そう言うと、奈々は地響きを起こしながら歩み寄っていった。


エルムビル。高さ164mという市内随一の高さを誇るこの建物は街のシンボルであり、
破壊の限りを尽くす巨大女子高生よりも少しだけ高かった。

「むぅ、私より大きいなんて。小人の造った建物のくせに生意気だよ」

自分より背丈の高い建物を不機嫌そうに見上げる奈々。
だが、すぐに邪悪な笑みを浮かべると、エルムビルをがばっと抱きしめた。

「いつまで耐えられるかなぁ?」

奈々は意地悪そうに言いながら、少しずつ力を加えていく。
やがて腕は外壁を貫いて内部に食い込み、小ぶりな胸も幾つもの部屋を抉り取る。
至る所に無数の亀裂が走り、大きく軋んでしまうエルムビル。
次第に胸に押しつけられる形となった建物はくの字に折れ曲がっていき、
巨大な腕が中層の2フロアを消滅させることで上層階は支えを失い、
胸に押し退けられて真っ逆さまに崩落し、地面に激突して粉々になってしまった。

「これで私より小さくなったね。それじゃ、残りも壊してあげる」

腰の高さほどになったエルムビルだが、奈々は容赦なく追い討ちをかけるようにして
建物をげしげしと二、三度蹴りつけて瓦礫を撒き散らせながら倒壊させる。
最後に堆積した瓦礫の山を踏み均せば、建物は跡形もなく消滅した。

もはや街は壊滅状態だった。市役所が、ターミナル駅が、住宅街が破壊され、
ビル街もエルムビルを始めとしてかなりの建物が崩壊してしまっている。
当然、街の住人も多くが直接踏み潰されるか建物の破壊に巻き込まれるかして犠牲となっていた。
これだけの惨状は、たった一人の女子高生がやったとは思えないほどだ。
だが、当の本人はこれを平然と、むしろ楽しそうにやってのけ、
今もまた笑顔を浮かべながら生き残った建物を破壊し続けていた。
踏み潰し、蹴飛ばし、すり潰し…。留まるところを知らず、破壊を繰り広げる奈々。
そんな彼女の耳に、ふと何かが近づいてくる音が聞こえた。

「…何かな?」

奈々はとりあえず破壊の手を止め、くるっと振り返ってみる。
すると、その瞬間、彼女の身体で爆発が起きた。

「きゃっ!」

思わず目を閉じ、怯んでしまう奈々。爆発は立て続けに数回起きる。
…だが、巨大化して身体が丈夫になったのか、痛みも熱さも全く感じられなかった。
一旦爆発が止んだところで奈々はゆっくりと目を開けると、攻撃してきたであろう相手を探る。
すると、少し離れた市街地の上空に戦闘機が5機、飛んでいた。

「もう、よくもやったね! 絶対許さないんだから!」

顔をぷくっと膨らませ、怒った表情の奈々。
童顔なのもあって、それ自体はあまり怖く見えなかったが、
100倍サイズの迫力とその声量にパイロットたちはやや気後れてしまう。
その間に奈々は地面を思いっきり蹴りつけ、まずは近くを飛んでいた1機に向かって走っていく。
マッハ2はあろうかという、凄まじいスピード。足元の建物など瞬時に踏み抜かれ、その周りの建物も振動と衝撃で尽く粉砕される。
その様を見てパイロットは慌てて回避しようとしたが、僅かに間に合わず戦闘機ごと握り潰されてしまった。
彼女の力をまざまざと見せつけられた他のパイロットたちだが、それでも果敢に攻撃を加える。
4機一斉のミサイル攻撃。だが、渾身の攻撃も手の一振りにして払い除けられ、間もなく1機が追いつかれて叩き落される。
仲間が次々にやられていくのを見て血気にはやった1機は、巨大女子高生の正面から激しい銃撃を加えたが、
全てセーラー服に弾かれてしまい、さらに機体も攻撃途中に体当たりを受けてあえなく爆散した。
残った2機はもはや戦意を失い、反転して退却しようとしたが、奈々はそれを認めなかった。
駆け寄りながら、足元にあったビルを適当に引き抜くと、ブンッと勢いよく投げつけていく。
1棟、2棟、そして3棟目が投擲されたたところでまず1機が直撃を受けて爆散し、
4棟目でもう1機も翼をもぎ取られ、くるくる回りながら墜落してしまう。
こうして戦闘機の編隊はあっという間に全滅してしまった。

「ふんっ。 私に逆らった罰だよ!」

黒煙を上げて墜落していく機体をキッと睨みつける奈々。
だが、すでに怒りは消え、代わりに無力な軍隊を嬲ることに快感を覚えていた。
そして奈々は程なくして見つけてしまった。
ゆっくりとこちらに向かって進撃してくる機甲部隊を。

「あはっ。おもちゃの軍隊がいっぱい! たっぷりと可愛がってあげるね」

奈々はそれを見て不気味な笑みを浮かべると、地響きを立てながら歩み寄っていく。
その振動は機甲部隊にまでビリビリと伝わってきた。

戦車8輌と自走砲12輌、装甲車24輌、攻撃ヘリ4機で急遽編成された彼らは、
『街で暴れまわる巨大な少女を撃滅せよ』という命令に半信半疑のまま出撃していたが、
目の前に迫りくる超高層ビル並みの大きさの少女を目の当たりにし、
また彼女が足を踏み下ろすたびに発生する強い揺れに、もはやその存在は疑いようがなかった。
それにしても凄い迫力である。立派な建造物が一瞬にして、次々と巨大な少女に破壊されていくのだ。
果たして撃滅など出来るのだろうか。いつの間にか上空で援護するはずの戦闘機部隊は姿を消してしまっているし…。
目標が近づくにつれ、兵士たちの間にじわりと広がる不安、恐れ。
だが、やるしかない。今ここで我々がやらねば、誰がこの街を、この国を守ろうというのか。
強い使命感の元、射程圏内に入った機甲部隊はすぐさま展開し、ヘリも目標を包囲するように広がった。

「ふふ、そうこなくっちゃね」

その様子を楽しそうに悠然と見下ろす奈々。完全に彼らを舐めきっている。
一方の兵士たちはそんな巨大少女の態度に、馬鹿にしやがって、という思いが込み上げてきた。
たちまち不安や恐れなど消えてしまう。あるのは闘志だけだ。そして。

「…攻撃開始!」

指揮官の命令と同時に機甲部隊は一斉に攻撃を開始する。
徹甲弾が、榴弾が、機関砲弾が空を斬り、目標に寸分の狂いもなく命中、爆発していく。
空からも攻撃ヘリがミサイルを発射し、さらにはガトリング砲を唸らせる。
これだけ集中砲火を浴びれば、いくら巨大な少女といえでもただでは済まないだろう…。

だが、その目論見は完全に外れた。仁王立ちしたままの彼女は全くの無傷なのだ。
どれだけ激しく攻撃しようとも、彼女には傷一つおろか、アザさえつけることが出来なかった。

「どうしたの? 痛くも痒くもないよ」

巨大な少女は嘲り笑っている。だが、どうすることも出来ない。
出来るのは、せいぜい無意味な攻撃を続けることだけ。
たちまち兵士たちの間に漂う無力感、絶望感。
やがて弾も底を尽き、攻撃音も小さくなっていき、ついには聞こえなくなってしまった。

「はい、残念でした~」

彼らが沈黙したのを確認して、意地悪そうに言う奈々。

「それじゃ、今度は私の番だよ。身の程知らずの小人さんはお仕置きしてあげる」

すでに戦意を喪失した機甲部隊は後退しつつあったが、
100倍サイズの巨大な少女からは誰も逃れることなど出来なかった。
彼女は信じられないほどの速さで歩み寄ってまずは攻撃ヘリに追いつくと、
その巨大な手でヘリを握り潰し、叩き壊し、上昇して逃げようとする機体には瓦礫を投げつけて撃墜する。
こうしてあっという間に機動性に優れたはずのヘリがやられていく様を見せつけられた陸上部隊だが、
巨大女子高生が起こす振動で逃げることはおろか動くこともままならないでいると、
そんな彼らの目の前には巨大な黒い壁が現れた。…これは恐らく彼女のローファーなのだろう。
だが、ただの靴であっても戦車よりはるかに大きく、圧倒的な重量でアスファルトの地面を陥没させている。
そして見上げれば、迫りくる、スカートに包まれた巨大なお尻…?
そんな馬鹿な…。ま、待ってくれ……

ズウウウウウゥゥン!!!

凄まじい振動、轟音。近くの建物などその衝撃で崩れ、倒壊してしまう。
もちろん、直撃を受けた車輌などはどれだけ頑丈であろうがひとたまりもない。
それを裏付けるかのように、震源地はまあるいお尻によって深く沈みこんでいた。

「ん~、気持ちいい…」

お尻の下で戦車などがグシャッと潰れていくのを感じ、恍惚とした表情の奈々。
小人の街が、小人の軍隊がどうなろうと奈々には関係ないのだ。ただ、自分を楽しませてくれればいい。
そんな風に思っている奈々は体育座りのような姿勢で機甲部隊の残存兵力を見下ろし、
手を伸ばしてひょいっと捕まえては一輌、また一輌と握り潰したり、指の間で挟み潰したりしていく。
薄紙で出来ているかのように、クシャリ、クシャリと潰れていく戦車や自走砲、装甲車。
奈々が軽く力を込めるだけでそれらは瞬時に鉄の塊と化し、次の瞬間にはポイッと捨てられる。
機甲部隊は何ら活躍することもなく、次々とおもちゃとして弄ばれてしまう。
そして彼らはたった一輌だけ残して全て鉄塊となったのだった。

最後まで生き残った一輌の戦車。次々と仲間が潰されていくのを尻目に、
何とか自分たちだけは助かろうと、亀裂が所々に走り瓦礫が散在している道路を全速力で走行していた。
これだけ進めば、とりあえずは巨大な少女から遠ざかったはずに違いない――。
しかし、戦闘機にすら追いつくことの出来る彼女から少し離れるなど全く無意味なことでしかない。
気がつけば背後に足音が聞こえ、それが揺れを伴いながら強く大きくなっていき、
次の瞬間には巨大なローファーが頭上に迫ってきたのか、辺り一帯に影が落ち、光が遮られる。
もう駄目だ。踏み潰される。砲塔から鈍い音が聞こえてきたのと同時に戦車は急停止して乗員は前のめりになってしまう。
…そこで事態の進行は一旦止まった。ひとまず助かったのか? 否、助かってなどいなかった。

「ふふっ、小人の兵士さんたち、聞こえるかな?
最後まで生き残ったこの戦車はご褒美としてゆっくりと潰しちゃいま~す。
その間に懺悔でもしちゃってね。どう、私って優しいでしょ?」

戦車をビリビリと震わす、巨大な女子高生のしゃべり声。
はるか上空から話しているはずなのに、その可愛らしい声は車内にまで響いてくる。
どうやら、彼女の話からして潰されることに変わりはないようだ。
しかし、ゆっくり潰すことのどこが優しいのか。
どうせなら苦しんで死ぬよりも一瞬で死んだ方がましだ…。
悲嘆に暮れる搭乗員。その間に車体は再び軋みだし、砲塔が変形していく。
残った空間も次第に圧縮され、やがて彼らは身動きが取れなくなってしまう。そして。

「え~い!」

幸か不幸か、お望み通り最後は一瞬だった。
微妙な力加減が面倒になったのか、奈々は足に力を込めて一気に戦車を踏みつけたのだ。
すでに半分サイズに大きく圧縮されていた車体は搭乗員ごと瞬時に平べったくなり、地面にめり込んでしまった。

「これで小人さんの軍隊は全滅しちゃった。あはっ、私って強すぎだね!」

戦車の残骸をグリグリ踏み躙りながら、大声で笑う奈々。
周囲を見渡しても、目に映るのは瓦礫の山と化した建物の残骸だけ。
道路なども穴ぼこだらけとなり、街は人の気配も消えて完全な廃墟と化した。
たった一つの施設を除いては。

「残りはあれだけだね。さあて、どうやって壊してあげようかな」

奈々はクスクス笑いながら楽しそうに言うと、仕上げをしに向かっていった。


街外れにある空港。破壊を繰り広げる巨大な少女から逃れようと多くの人々が集まった最後の施設だ。
だが、そこも決して安全ではなかった。むしろ、郊外の田畑に逃れるよりはるかに危険だった。
今しがた軍隊をも全滅させた彼女は、空港の存在を確認すると驚異的な速さで歩み寄ってきたのだ。
その歩行によって空港へ続く道路上にひしめき合う人々が次々と蹴散らされていき、
まずは多くの避難車両で満車状態の駐車場が最初の犠牲となる。

「てやー! えいっ!」

かけ声とともに何台もまとめて踏み潰され、蹴飛ばされる駐車場の車列。
軽や普通、果ては中型トラックや大型バスであっても関係なくサクッと破壊されてしまう。
それから奈々は駐車場の真ん中に進むと、ドスン、と勢いよく座り込む。
たちまち、女の子らしい柔らかなはずのお尻の下に消滅する数十台の車。
被害はそれだけに収まらず、女の子座りした奈々の太ももやふくらはぎの下でも色とりどりの車がぺしゃんこになり、
周囲の車列もほとんどが衝撃で突き上げられて、引っくり返ったり横転したりしていた。
だが、これはただの前準備。座り込んだ奈々は駅の時と同様にして車を股の間にかき集めていくと、
車両の山が高く築かれたところで一気に太ももで挟みこんだ。

グワッシャアアアン!!

何十台、いや何百台もの車がむっちりした太ももの圧力によって
何の抵抗も出来ずに一瞬にしてスクラップとなり、一固まりの薄い鉄板となってしまう。

「んっ、気持ちいいー!」

こうして多くの自動車が破壊された駐車場で、一人快感に浸る奈々。
それからふと顔を上げると、滑走路には今にも飛び立とうとしている飛行機がいた。

「あれぇ? 私から逃げられるとでも思っているのかなぁ?」

それを見て奈々は邪悪そうな笑みを浮かべると、ズシン、ズシンと大きな足音を立てながら近づいていく。
そんな光景を目の当たりにし、また足音に伴う揺れも飛行機に伝わってくることで、
もはや一刻の猶予もないとみた機長は急ぎ離陸しようと最大限の努力をする。
その甲斐あって、機体は予定よりも早く滑走路を加速しながら徐々に上昇していく。
あと少しで助かる…。だが、ふと横を見れば巨大な少女はもうすぐ側に立っていた。

「逃がさないよ~」

楽しそうに言いながら、機体に巨大な手をぬっと伸ばす彼女。
そして次の瞬間、飛行機は大きく揺れた直後に空中で急停止したのであった。

「つかま~えた」

悪戯っぽい笑顔で飛行機を掴み取った奈々。エンジン全開のはずの機体をやすやすと片手で持っている。
大パニックに陥る機内の様子を窓越しに楽しみながら、回転中のエンジンを平然と、ギュッと握り潰していく。
おまけでコクピットに軽くキスをした奈々は、操縦席で怯えるパイロットたちに優しく微笑み、語りかける。

「私が飛ぶの、手伝ってあげるね」

エンジンを失った機体を一体どう飛ばそうというのか。
ガチガチと震えながらも、機長らが訝しげにそう考えていると、
奈々は右手で胴体を持ちながら腕を少し後方に引き、一気に上空に向かって投げつけた。
まるで紙飛行機の要領である。だが、確かに飛んだ。空高く飛んだ。
…そこまでだった。エンジンがない機体はある程度まで飛んでから急速に失速すると、
そのまま勢いよく墜落していき、地面に激突したのだった。

「あはっ、落っこちちゃった!せっかく飛ばしてあげたのにね」

爆発して大炎上する飛行機の残骸を見つめながら、無茶なことを言う奈々。
しばらく楽しそうに墜落現場を観察していたが、踵を返すと今度は他の機体に襲い掛かった。
ターミナルに歩み寄った奈々はまず一機を掴み上げ、胸の高さにまで持ってくると、両腕を機体に回して抱きかかえる。
そしてゆっくりと力を加えながら抱きしめていく。ギシギシと軋む機体。
すでに主翼は折れ、胸と腕に挟まれた部分も圧力に耐えられずに変形してしまう。
それから飛行機が圧し折れるのにそう時間はかからなかった。
真っ二つになった機体は支えを失い、前後共に落下して地面に衝突したが、
奈々はそれらを無慈悲に踏み躙り、隣の機体は勢いよく蹴り飛ばす。
空中分解しながら数十メートル舞い、それから滑走路に叩きつけられる機体。
燃料に引火したのか、ややあって大爆発を起こし、灼熱の炎に包まれる。
それを見届けた奈々は少し離れたところに駐機していた機体にも歩み寄ると、
コクピットを踏み潰し、胴体を前から丁寧に踏みつけていき、ぺしゃんこにしてしまった。

飛行機を全滅させた奈々はさらにターミナルビルをひしめきあう群衆ごと踏み潰し、蹴り壊して瓦礫の山と変え、
最後まで残った管制塔は両手で挟み込むと、一気に握り潰して粉々に粉砕した。

「んふふ。これでみ~んな壊れちゃった。ん~、楽しかったぁ」

一連の大破壊をやってのけて満足顔の奈々。
見回しても、もはや街は瓦礫で埋め尽くされた無人の荒野と化している。
それを確認して奈々はうんうんと頷くと、足音を立てながらゆっくりと帰っていった。

こうしてまた一つ、地図から街が消えた。


おしまい

 

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