太ももに包まれて
高級感漂う赤いブレザーに、シックな黒のミニスカート。
滑らかな丸みを帯びた太もも。黒のハイソックスに紺のローファー。
腰までかかるふんわりしたカールスタイルの、制服姿の少女は腰に手を当て見下ろす。
眼下に広がるのは小さな大都市。中心部には超高層ビルが林立し、周囲には数多の高層ビル。
低層の建物に至っては無数にあるが如く街を埋め尽くし、足元にも多数敷き詰められている。
幾らかの建物はローファーの下に消えていたが、彼女は気にかけることもなかった。
少女からすると、街のあらゆる建物は砂利のような大きさにすぎないのだ。
膝はおろか踝の高さを超えるものすら皆無だった。
「ふふ、何をして遊ぼうかしら」
口元に指を当て、楽しそうに考える素振りをする少女。
ミニスカートからチラリと、場所によってはハッキリとショーツが覗くが、
気付いていないのか、それとも足元の人々を人間扱いしてないのか、
まるで気にすることもなく悪戯っぽい笑みを浮かべている。
可愛らしさと、言い知れぬ不気味さを併せ持った笑顔。
吸い込まれそうなほど澄んだ、大きな瞳はくりくり動きながら大都市を見渡し、
やがて街の一角にある超高層ビル群のところで動きをピタリと止める。
「まずはあれからね」
少女はそう呟くと、躊躇いもなく街の上に足を踏み出した。
ズウウウウウウウウン……
巨大なローファーが住宅地や隣接する工業地の上空を覆ったかと思うと、次の瞬間には振り下ろされる。
靴の下で粉砕される何千もの家屋や自動車、爆発する間もなく地中に埋められる工場群。
川沿いに立ち並ぶ高層マンション群も屋上から一階まで瞬時に圧縮され、川と共に押し固められた。
さらに、ローファーの周囲で放射状に広がった衝撃波は近隣の住宅地に襲いかかり、
半径数キロに渡って木造住宅は木端微塵となり、鉄筋住宅も一部の鉄骨だけ残して破砕。
多くのアパート、マンションも粉々に崩れたり倒壊したりして、付近は完全に瓦礫の山と化した。
もちろん人間など一溜まりもない。直撃を受けて数万がローファーの下に消え、
衝撃波でさらに数万が吹き飛ばされたり瓦礫に押し潰されたりして命を落とした。
たった一歩でこれほどまでの大破壊。だが、これは始まりに過ぎないのだ。
ズウウウウウウウウン……ズウウウウウウウウン……
少女の歩行に合わせて、次々と容赦なく振り下ろされる巨大なローファー。
一歩目と同等の被害がその度に引き起こされ、破壊し尽くされた街並みに残るは巨大な足跡。
地表の構造物はもちろん、地下街も容易く踏み抜き、分厚い岩盤すら砕いている。
底が見えないほど深々とした大穴は一つ一つが百平方キロ以上の面積があった。
ズウウウン…
足元の超高層ビル群を衝撃で崩してしまわないようにとの配慮から、
最後だけゆっくりと慎重に足を踏み下ろし、少女は立ち止った。
それでもローファーの下では数百棟の高層ビルなど多数の建物が踏み潰され、
付近のオフィス街にも少なからず被害が及ぶが、超高層ビル群は一棟も倒れずに済む。
「どうやら無事みたいね。でも、次はどうかしら」
しゃがみ込んで、超高層ビル群が崩れていないことを確認した少女は
右手を後方に置くと、ゆっくりと体重を移動させながら腰を下ろした。
手やお尻の下敷きになる数多の建物や人間など意識もせず。
ズズズズ…ドスウウウウン……
綺麗な手形を造りながら深く沈み込む巨大な右手。
それ以上に深大な、丸みを帯びた二つの穴を穿つ巨大なお尻。
数百億トンの体重にのしかかられて大地は大きく軋み、ひび割れる。
下敷きにならずに済んだ建物も多くが地割れに飲み込まれ、砕け散った。
膝を立て、芥子粒のように小さな街並みを見下ろす少女。
お尻の周りは完全に壊滅しているが、実態はともかく超高層ビル群は無事生き残っている。
それを見て彼女はにっこりと微笑むと、何を思ったか片足を上げてビル群の上空へと伸ばした。
逃げ惑っていた人々だが、急に空が暗くなったのを怪訝に思い見上げれば、
空を埋め尽くすのは黒のハイソックスに包まれた巨大なふくらはぎ。
長さはもちろんのこと、幅も優に超高層ビル群を覆い尽くせるほどである。
恐ろしいまでの存在感に圧倒されながらも彼らは全力を尽くして逃れようとしたが、
地上に降臨せんとする脚の落下速度はあまりに速かった。
ズガアアアアアアアアンンン……
脚の背面全体をぺったりと街の上に下ろした少女。
既に瓦礫の山と化していたオフィス街を太ももで押し潰し、
超高層ビル群は黒ハイソを履いたふくらはぎで一切合財擦り潰す。
数百棟のビルと数千戸の住宅、数万人の市民が一瞬にして脚の下に消失した。
高さ数百メートルの超高層ビルも、平屋の邸宅も、瞬時に潰れるのに差異はなく、
共に粉砕され、地面にめり込まされて地中深くへと押し固められた。
「あはっ、たわいないわね」
これほどまでの大破壊、大殺戮をやってのけながら、少女はますます悦に入る。
もう片足も伸ばして同様の被害をもたらしながら地面に下ろすと、
地表の構成物ごと大地を抉りながら、両足を閉じたり開いたりしていく。
街の被害は両脚に押し潰されただけでも非常に大きいものであったが、
さらに数倍の面積が少女の太ももやふくらはぎ、踵で抉り取られ、擦り潰され、
巨大な脚に飲み込まれたり、脇へと掻き寄せられた建物、車両、人間は数知れず。
彼女が両足を数度擦り動かしただけで、数万の建物が存在した広大な土地は赤茶けた窪地と様変わりし、
周囲は押し退けられた土砂や瓦礫などが数百メートルもの高さになって堆積していた。
「跡形もないって、こういうことかしら」
全てが消滅した窪地を見下ろしながら、くすっと笑う少女。
続いて少女は四つん這いの姿勢を取ると、両手両足で建物を粉砕しながら進んでいく。
視線の先には新たなオフィス街。数多の高層ビルに囲まれて随所に超高層ビルが点在している。
少し外れた場所には一際大きな鉄塔も立っており、文明の象徴ともいうべき街並みだが、
どんなに立派な建物も少女に比べると悲しいくらい小さく、貧相だった。
低層の建物など論外。進路上のそれらなどまるで意識することもなく、少女は直進する。
小指だけで学校を丸々擦り潰し、手のひら全体では一つの校区を丸々押し潰そうとも、
膝で数百棟のビルを薙ぎ払い、黒ハイソを履いた脛で地上に立ち並ぶ建物ごと大地を抉ろうとも、
どれもこれも少女にとっては些細なことにすぎなかった。
四つん這いでわずか数歩進んだだけで少々離れたオフィス街の真上にまで移動した少女は
ひとまず鉄塔に手を伸ばすと、親指と人差し指で挟むようにして摘まみ上げようとする。
しかし構造が脆すぎたのか、力を加えすぎたのか、指の間で鉄塔はクシャリと潰れてしまった。
「あーあ、せっかく遊ぼうと思ったのに。脆すぎよ」
思わぬ貧弱さに、口を尖らせて不満を漏らす少女。
腹立ち紛れに平たくなった鉄塔を指の間で擦り潰し、残骸を地上にばら撒く。
だが、所詮は些事。小さな建築物の一つや二つ、どうってことはない。
すぐに気持ちを切り替えると、今度は超高層ビルを地面ごと慎重に引っこ抜き、顔の前に持ってくる。
「ふふ、どれだけ沢山の人がいるかしら」
じっくりと舐めまわすように建物を眺める少女。さすがに内部は小さすぎて窺い知れなかったが、
中からは多くの人々の恐怖心がひしひしと感じとれ、冷たい笑みを浮かべる。
「さっきは簡単に潰れちゃったけど、今度はどうかしら」
笑顔のまま、少女はビルの腹を摘まむと締めつけていく。
ほとんど力を加えるまでもなく、建物は指の間で砕け散り粉塵と化した。
技術の粋を集めた超高層建築も、少女の圧倒的な力の前に恐ろしいほど無力であった。
「くすっ。まるでゴミくずね」
嘲笑う少女。一方、彼女の身体の真下にいた人々は超高層ビルが瞬時に粉砕される様を見て震え上がり、
ますます必死に身体の下から逃れようと走り回ったが、早くも少女は次の行動に移っていた。
さっと片手を元の位置に戻すと、ぐっと胸を突き出すようにして身体を倒していく。
ブレザーに覆われた巨大な胸の一方はターミナル駅に迫り寄り、
もう一方は超高層ビルの立ち並ぶオフィス街の一角に接近する。
お腹や太ももは数万に及ぶビルやマンション、住宅の上に降臨し、
ややあってから巨大な身体はゆっくりどっしりと大地の上に被さった。
ズドドドドドオオオオオオオオオオオオオンンン……
うつ伏せになり、あらゆるものを身体の下敷きにする少女。
片胸だけでターミナル駅を何十本もの電車ごと擦り潰し、駅周辺もまとめて破砕し、
もう片胸では十数棟の超高層ビルと数百棟の高層ビルを木端微塵に粉砕する。
ブレザーやミニスカートに包まれたお腹は幾つもの住宅地を余さず均し、
両太ももはそれぞれ数千もの建築物、数万もの車両を押し潰した。
さらに少女は身体を擦りつけることで大地を深く抉っていき、
胸の谷間にあって辛うじて消滅を免れていたビル群を両胸で擦り潰し、
身体の周囲に立っていた建物も尽く捻り潰した。
「あはは、最高の気分だわ」
巨大な身体の下で何十万人も押し潰しながら少女は高笑いし、
破壊の余韻を楽しみながら、輪をかけて街を壊していく。
まだ崩れずにいた建物を次々に指先で突き崩し、擦り潰し、
手のひらでは幾つかの区画をまとめて握り潰し、叩き潰す。
また、少女は手で街を弄んでいる際に何気なく足をバタつかせていたので、
その度に振り下ろされる足とその衝撃波で後方は爆撃さながらの様相を呈していた。
しかも威力は一回一回が戦術核並みであり、広範囲にわたって街は完全な廃墟と化した。
うつ伏せの姿勢のまま、手の届く範囲の建物をあらかた破壊した少女は
制服についた瓦礫などを払いながら立ち上がり、辺りを見回す。
「ふ~ん。いっぱい壊したつもりだけど、建物はまだまだ沢山あるのね」
街の中心部はほとんど破壊し尽くされていたが、周辺部には建物が無数に続いている。
とはいえ多くは低層の住宅であり、超高層ビルは散見される程度。
全部破壊しようと思ったら、地味な作業になってしまいそうだ。
「そろそろ頃合いね。一気に終わらせてあげる」
少女はそう言うや否や、ぐんぐんと大きくなっていった。
足元では巨大化するローファーに数多の建物が押し退けられ、
ますます重くなる体重に大地は一段と深く沈みこんでいく。
ただでさえ世界最高峰より大きいのに、さらに巨大化する少女。
膝ほどの高さであった富士山も楽々踏み潰せる大きさになった頃には
もはや超高層ビルでさえ小さすぎて識別不能になっていた。
巨大ならぬ超巨大になった少女。
足の間のちっぽけな大都市を遥かなる高みから悠々と見下ろす。
「あはっ、だいぶちっちゃくなったわね。私の足といい勝負じゃない」
そう言って少女は街の上にローファーをかざすと、縦数十キロ、横数キロの範囲が真っ暗になる。
あまりのスケールの大きさ。彼女の言うとおり、片足だけで街の大半が覆われてしまう。
人々にとってみれば、どれだけ遠くに逃げても頭上にはずっと靴底が続くかのようだった。
「このまま踏み潰してあげてもいいけど、せっかくだから太ももで挟んであげようかしら」
しばらく足を街の上にかざしていた少女だが、足を戻すと街を囲むように腰を下ろしていく。
ドゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン…………
少女が女の子座りをしただけで引き起こされる、地球を揺さぶるほどの振動。
あまりの衝撃に、街のほとんど全ての建物が粉砕され、崩れ去る。
人々は瓦礫に押し潰され、地割れに飲み込まれ、衝撃波に吹き飛ばされ、
満身創痍の中、最後の力を振り絞って辺りを見れば、
ベッドタウンが広がっていたはずの大都市の両側には
数十キロの長さに十キロ程の高さにもなる肌色の壁がそびえていた。
太ももという名の処刑台がセットされたのだ。逃げ場など何処にもない。
脚の付け根には、超高層ビルですら芥子粒サイズに見えるほど巨大なピンクのショーツが待ち構え、
膝の方は遮るものはないとはいえ、先程少女がうつ伏せになったことで大地の一部が陥没してしまっている。
これでは満足に通り抜けすることなどできない。もっとも、窪地にたどり着くだけの時間もないだろうが。
もはや絶対に逃げられないことを悟り、絶望に打ちひしがれる人々。
一方、大都市が股の間にすっぽりと収まったのを確認し、満足げな少女。
にっこり微笑むと、死刑宣告をしてゆっくりと股を閉じていく。
「それじゃあ、いくわよー」
ズガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンン……………
掛け声とともに街の両脇から迫り寄る超巨大な太もも。
何十万もの建物を岩盤ごと押し退け、粉砕し、擦り潰しながら街を挟み込んでいく。
少女はゆっくりと動かしているつもりだったが、それでも速度は音速を軽く超えている。
絶叫する間もなく、人々は片っ端から太ももの餌食となっていった。
ぴったりと太ももがくっついた時、街の全ての建物と人間は消滅した。
いや、またの付け根のほんのわずかな空間にまだ生き残っている人々がいた。
ショーツと太もも、そしてスカートに覆われた、暗く閉ざされた空間で奇跡的に潰されずにいたのだ。
だが、すぐに彼らも儚い命を散らすことになった。少女が身体を擦り動かしたのだ。
「ん……」
破壊の余韻を味わうため、少女はほんの少しだけ身体を大地に擦りつけた。
ただそれだけで、僅かに残っていた建物、人間がショーツに擦り潰される。
全く意識されることもなく、彼女の何気ない動きで最後の命の灯が掻き消された。
この瞬間、たった一人の少女によって、大都市が完全に滅ぼされたのだ。
少女が股を開いた時、街の痕跡は塵ほども残っていなかった。
「今日はこれくらいにしてあげる。生き残った人は感謝しなさいね」
ゆっくり立ち上がると、不敵な笑みを浮かべながら世界中の人々に語りかける少女。
満足そうに一つ伸びをすると、何処へともなく消えていった。
かつて一千万人もの人口を有していた大都市が存在していた場所に、
お尻と太ももによって造成された巨大なクレーターを残して。
おしまい
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