エリカと由佳

 

 秋の日の夕暮れ。人通りの少ない、寂れた街角を由佳は一人歩いていた。
「近道になるかと思って来てみたけど、ちょっと不気味なところね……」
こんな場所に長居したくないので、なるべく早足で通りすぎようとするが、そこに二人組の男が立ちはだかった。
「よう、お嬢ちゃん。そんなに急いでどこ行くんだ?」
「ちょっと俺らと付き合っていかねーか? 悪いようにはしねえからさ」
一人は金髪ピアス、もう一人は坊主頭に無精ヒゲで、どちらもダボダボのズボンを履いている。内心、うわぁ、と思う由佳だったが、無視してその脇を通り過ぎようとする。だが、突然腕を掴まれてしまった。
「オイコラ、なに無視してんだ」
「せっかく俺らが下手に出たっていうのによ」
「や、やめてください!」
何とか彼らの手を振り解こうとする由佳だが、華奢な女の子に対し、チャラ男とはいえ男二人。ほとんど抵抗することも出来ずに、路地裏へと連れて行かれてしまう。そして、押し倒される由佳。
「ふへへ、チビのくせにいいおっぱいしてるじゃねえか。ちょっと俺にも揉ませろや」
(だ、誰か助けて……!)
その時、願いが通じたのか、彼らの背後に一人の少女が現れた。セーラー服姿の、高校生くらいの女の子。
「その手を離しなさい」
「あん? 誰だてめえは!」
「私? 通りすがりの魔導師よ」
そう言って、彼女は余裕たっぷりに、ウェーブのかかった長い金髪をふわっと広げる。
「魔導師だと。そいつぁスゲエな。ほれ、どんなマジックを使えるか見せてみろや」
「それじゃ、遠慮なく」
そして、何やら不思議な言葉を唱えていく少女。
「お、おい……なんかやべーぞ」
「まさか、こいつマジもん……うわあああ」
次の瞬間、チャラ男たちは一センチ大に縮んでしまった。呆気にとられる由佳に、少女は手を差し伸べ起き上がらせる。
「ふぅ、まったく。こんなにも可愛い女の子を襲おうなんて、いけない人たちね。大丈夫だった?」
「はい……。えっと、あなたは……」
「皇 エリカ。魔法学院に通う、魔導師よ」
「すめらぎ……って、あの有名な皇家ですか?」
「ええ、そうよ。今はちょっと凋落しかけちゃっているけど。それで、あなたは?」
「私は由佳です。宮西由佳」
「由佳さんね。素敵な名前」
そう言って、にっこりと笑うエリカ。
「それじゃ、挨拶も済んだところでこの小人たちを可愛がってあげましょうか」
「え、いいんですか」
「本当は魔法を悪用しちゃいけないんだけどね。でも、ちょっとくらいなら大丈夫。それに、あなたは襲われたんだから、やり返してあげてもいいのよ。もちろん、ほどほどにね。力の調節は出来る?」
「たぶん大丈夫です。……こんな事言うのは変かもしれませんけど、ゲームで小人たちの扱いは慣れていますから」
「あら、奇遇ね。私もゲームというわけではないけど、ちょっとね」
そして顔を見合わせ、二人は微笑む。
それから、彼女たちはこっそり逃げようとしていた小人たちに一歩で追いついて、まずは靴で小突いたり、真横に足を思いっきり振り下ろしたりして怯えさせていく。
「ひ、ひいい……」
「やめてくれえ!」
逃げられないことが分かったのか、チャラ男たちはすぐに土下座して助けを乞おうとするが――。
「だーめ♪ 絶対に許さないんだから」
すっかり立場が逆転した由佳は笑顔で言い放って、楽しそうに彼らをいじめていく。金髪ピアスの方を有無も言わせず摘み上げると、手のひらの上に落として、指先でグリグリ押さえつけたり。小人いじめにちゃっかり加わったエリカも、無精ヒゲの方を潰れない程度に甘踏みして、それから吐息で吹き飛ばしたり。
「た、助けて……」
「お願いします……」
「そうね、私に思いっきり踏まれて生きてられたらいいわよ」
最後に、由佳はすっかり気力を失った二人を路上に寝かせたところで、軽くジャンプして彼らの上に着地する。
「ぎゃあああああ……」
グチャ。……とはならなかった。由佳はエリカと申し合わせて、こっそりと小人たちの身体を潰れない程度に強化してもらっていたのだ。もっとも、そんなことなど知らない彼らは巨大な靴裏が身体に触れた瞬間に恐怖のあまり気絶してしまっていた。あとは、エリカがチャラ男たちの大きさを元に戻して、証拠隠滅のため記憶を消せば、全ては完璧だった。

「今日は本当に助かりました。それに、貴重な体験もさせて頂けて……」
「気にしなくていいのよ。私も結構楽しめたし。ふふ、また機会があればよろしくね、由佳さん。それではごきげんよう」
そして二人は別れた。似た趣味を持つ彼女たちが再び会う日があるのか。それはまだ誰にも分からない……。

 

おしまい


誰かさんの要望があったので絡ませてみました(笑)

 

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